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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
9/107

09 舞踏会

――――正也 視点――――――――



空高い天井とシャンデリアが見下ろし、吹き抜けになるような広い空間。さらには靴で踏むのがもったいない位のフカフカなじゅうたん。現在も高そうな服を着た人がまばらにおり、それに従うように従者か連れがいる。もっと時間がたてば更に増えてくるだろう。

そんな中、タキシードに着られているような俺、正也は一つの事を思っていた。



こんな異世界来るんじゃなかった。



大体からして俺主役のはずだよね?俺知らないのおかしくない!?


何で優人は知ってて俺だけ蚊帳の外なんだよ!なにこれいじめ!?


連れてこられた時からおかしいと思ってたんだよ!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「正也ぁ〜いる?」


俺の部屋に響くのほほんとした声。

部屋を冒険者さん達に譲ったために十分豪華ではあるもののやはり先程までいた部屋とは比べるまでもない。


それでも腐っても勇者の部屋だけあって入れる者は少ない。


貴族か執事(メイドさんではなかった。残念)か二人位のものだ。


当然、こんな言葉遣いをするのは二人だけである。


「いるよー」


ノックがわりの呼びかけに答えると入出許可もなしに(まぁ、いいんだけど)ズカズカ入ってくる。


こんな入り方をするのは咲良ぐらいだろうと思ったが予想が外れ、入って来たのは優人だった。


珍しい。優人はいつもは礼儀正しい方なのに。

「今日の夜、今から2、3時間後か舞踏会だから。主役だし、絶対参加ね」


「んー、分かっ……はぁぁぁああああ!?」


ぇぇえええええ!!


何をそんなに今日飲み会だから、絶対参加ね。みたいな軽いノリ!?


「舞踏会って!!じゅ、準備とかはぁ!?」


「服はある。後は着るだけ。大丈夫、間に合う」


間に合うとか間に合わないとかの話じゃないよ!!


「そういうのって何日も前に教えてくれるもんじゃないの!?」


「俺は知ってたぞ?」


今お前の話は心底どうでもいいよ!!


「じゃなくて!!俺に!!知らないよ、そんな大事なこと!!」


「だって言ってねぇもん」


「なんでさっ!!」


「だって正也、前から言ったらその日に合わせて体調崩すだろ?」


ぐっ、ぐうの音もでない。


「じゃあ行くぞー」


いぃやぁだぁぁああああ!!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



二時間って短くね!?

服着て準備して終わりだよ!?

心の準備ゼロだよ!


今思い出しても理不尽さに腹が立つ。


というかそもそも、舞踏会ってだけで嫌なのにイテナさんとも一緒ってどゆこと!?


なに、殺す気!?


隣にいるこの美少年の存在を意識するだけで心臓が握り潰されそうだ。

最初に会った時に気配に気づかなかったのが信じられない。


もし、スピーチとかで重圧に潰れそうな人がいたらイテナさんの前に連れてくるといい。


そしたらスピーチの方が百倍マシだと小鳥のようにピーチクパーチク喋り出すだろう。


イテナさんの存在感は重圧なんて生易しいもんじゃない。


重力だ!


賭けてもいい!!


金銭交渉してた時の俺は絶対100キロ越えてた!


こんな化け物に関わるなんざ死んでもごめんだ。


いや、自爆の方が自分で死ぬタイミングを選べる分だけマシだという可能性もある。


ここにいるのは分身だがほぼ関係がない。


そりゃそうだ。10メートルから落ちただけで死ぬ人間が1000メートルから落とされようが10000メートルから落とされようが死ぬことにはかわりないのと同じだ。


何気に顔がカッコいいのが怖い。一瞬先には恐ろしい怪物になりそうだ。


だが、二人を守るためには怖がってばかりもいられない!


全精神力を持って戦いを……。


「なぁ、マサヤつったか?なんで貴族ってのはこんな無駄な物が好きなんだ?」


嘘です!!ごめんなさい!!殺さないで!!


眼ぇ怖っ!!


俺の闘志が一瞬でぶち折れ、更に澄んだ青色の目に見つめられ恐怖に満たされた。


ただ無言も不味い。早く答えなければ。


何か……。


と考えて、そもそも貴族を知らないんだから答えようのないことだと俺の死の間際で活性化している俺の脳が導き出す。

これ、もし答えられなかったら……。


その瞬間。ぶわぁっと脂汗が浮き出てくるのが分かった。


恐らくそれが脳の火事場の馬鹿力的な何かを引き出したのか何とか答えを絞り出す。


「いっ、イテナさんもダンス苦手なんですか?」


ナイス回答!

さりげなく話題を変える作戦だ。


つーか優人!助けろよ!

親友だろ!?


「こんなもんやったことがないな。時間のムダだ」


えっ、これどうやって答える!?

追従する!?よく知らないのに!?

あー、胃が痛い。始まって一分もたってないの?嘘だろ……既に胃は限界近いぞ……。


「俺もやったことないです。難しそうですよねぇ」


早くこの時間が終われ……!

俺の髪が恐怖で真っ白になる前に……!


「ん?こんな物パターンを解析して応用すれば簡単にできるだろう。だからこんなことをするのは時間のムダだと言ってるんだ」


「はっ……ハハハ……凄いですね……」


愛想笑いしか出来ない自分……情けない。


絶対に簡単ではないと思います。とか自分を基準に考えないで下さい。とか言えたらさぞや気持ちいいだろう。


やっぱ、天才すげーなー。


つーか現代人は教養高いって言うけどダンスまでは求めすぎだと思う。


なぁ、優人。初めてで出来るとか意味わかんないよなぁ?

後で二人で愚痴ろうぜ?


「あっ、それは思います。直ぐに出来る物を披露しようって、ちょっと笑っちゃいますよね?」


裏切り者!!


お前だけは味方だと思ってたのに!!


何でお前までダンス出来るんだよ!!

おかしいだろ!!


現代日本人なら普通踊れないだろ!!なぁ!?


「踊れないのは咲良と俺だけか……」


小声で言ったつもりだったのに聞こえたらしい。


「あっ、咲良は俺がフォローするから、踊れないということはないと思うよ」


ズルいぞ咲良!


俺だけかよぉ。


咲良がいないうちに決めんな。咲良!断れ!


てか、日本人なのに2/3が踊れるってどゆこと!?


ダンス舐めんなよ、こら。


よし、決めた。俺は舞踏会中絶対に壁から離れないぞ。


もー、決めた。絶対動かない。


「あっ、一人一回は必ず踊る事になってるからヨロシク!」


エスパーか!!


何で俺の心の声が読めんだよ!!


俺の行動は予測済みってか!?ふざけんな!!


てか、優人いつもギリギリでゆ〜う。


なんなの、新手のイジメ!?


マジでズルいぞ咲良!俺だけ置いてくなよ……。


「俺も助けてくれよ、優人ぉ」


「男同士で踊れと?」


そうだなスマン。ちょっと錯乱してた……。


「お前、踊れないのか?」


はいはい、そうです。不良品ですよーだ。


「だったら俺が女装して踊ってやろうか?」


…………おえぇっ!


ちょっと想像しちゃったじゃないか……。


ああ、気持ち悪い。


口の前に手を当ててえずいてる俺を見てイテナさんが苦笑しながら。

「そんな、ゲテモノじゃない。結構美人だぞ?武器を持ち込み易いからメイドで潜入した時にはそこの貴族に強引に閨に呼ばれる位には美人だぞ?」


えっ?そっ、それ凄い続きが気になるんですが……。


「それ、その後どうなったんですか?……」


……ゴクリ。


「秘密だ。夜の男は服じゃなくて、秘密を着飾る物だろ?」


パチリ。と音が聞こえるくらいキレイなウインクだ。


イケメンがすると非常にさまになるもんなんだなウインクって。


……。このまま踊ると違う扉開いちゃいそうだから辞めとこう。


はぁ、いい恥かきに行くか……。


「あっ、ヘタな人を選ぶと妨害してくるかも知れないから気をつけてね」


また後付けでゆ〜う。

なに、俺妨害されんの!?


そもそも踊れないのに!?


「どいつならいいんだよ」


俺がヤケクソで言うと優人が少しニヤリとしながら。


「やっと、スイッチ入って来たね。オススメはあの人だよ」


そう言いながら指したのは玉座、つまり王族の方だ。


そして指の先にいるのは20代前半の女性だ。

「彼女の名前はヴァネッサ・パルマ=ヴァインズ。22歳、独身。年齢が高いのに独身なのは婚約者が死んだからだな。王族だから貴族の思惑がからんで面と向かって断りづらいし、妨害すればそれが王の意思だと思われるから無理だ」


……。


とりあえず、おまわりさん、こっちです!


お前ストーカーは犯罪だからな!


「親友として自首をすすめる」


「何を言ってるんだ。確かストーカーは親告罪だろ?ステータスとメイドに聞いただけだ。問題ない」


その態度は問題だらけだろ。おい。


「じゃあ、頑張っていい恥かいて来い。骨は拾ってやる」


嫌な送り出し方だなぁ〜。


はぁ。


行ってくるか……。

――――イテナ 視点――――――――


目の前の思わず現実逃避したくなるような光景を見ながら俺は当初の予定を考える。こんなはずではなかった。


俺は基本的に壁の花になるつもりだったのだ。



俺から言わせれば舞踏会なんて時間のムダだ。せいぜいがどんな奴がいるか観察するぐらいしかすることがない。


ダンス等という生産性のまるでない行為にいそしむよりは部屋に戻って金勘定でもしている方が遥かに有意義な時間のはずだ。


本来なら丁重にお断りしたかったこの誘いだが、主役ということで欠席は残念ながらできなかった。


そこで俺は壁と一体化しておこうと考えた訳である。


普通は主役として呼ばれておきながら、そんなことは許されない。


しかし、俺なら誘いに来た奴は睨んでやれば退散するだろうと考えていたのだ。


そしてその思惑は的中していた。


話すやつらは勇者のみだったし、軽く視線を向けてやれば貴族は10メートル以内には近づいてこなかった。



……この時までは。



アルメリ=ヴァインズ。


この女は一体何を考えているんだろうか……。もしかして何も考えて無いんじゃなかろうな……。



ダンスに誘われるという目の前の状況に毒づき、思考が最初にループしそうになるが慌てて止める。


既に思考のループは三回目でありこれ以上は時間のムダであると判断したからだ。



この女の頭が羽のように軽くとも非常に残念ながら断ることは出来ない。


実に残念なことであるが……。



何故なら、このような社交場では令嬢というのは道具というか景品的な扱いを受ける。


つまり誘いを断るという事はこの女の価値を下げることになる。


正直この女が結婚しそこねようが行き遅れようが知ったこっちゃないが、今は困る。


腹に据えかねるが、現状コイツしかこの国に繋がりがない。


つまりコイツの価値を下げる事は俺に不利益をもたらすのだ。



まことに遺憾だが、この誘いはうけざるを得ないのだ。



だから……なんだ、あー、その……左手よ。



とりあえず、クナイから手を放そうか……。



ほら、報酬を貰えないと困るだろ?


確かにここで皆殺しにするのは簡単だ。


だけどちょっと考えただけでもまずいってわかるだろ?


な?

いい子だ。


すると目の前のアルメリが、得意気に。

「ほら、どうしたんですか?行きますよ?」

と言ってきた。



ガチャリ。



お願いだから、煽らないでくれ……っ…。


俺の堪忍袋はネズミも入らない程小さいんだ…!


……くっ!


何とか欲望に打ち勝った俺は手を取りエスコートする。


「王女様自ら誘って下さるとは誠に光栄の極みです。今日、この日はたとえ世界が終わろうとも決して忘れることはないでしょう!」


この女!嘘だと分かってドヤ顔しやがった!


覚えてろよ!にゃろ!


呪いの念を量産しつつダンスの場所を選定しつつ背筋を伸ばして移動する。


いい場所があった。


楽団の近くで、さらにシャンデリアの下。要するにこれ以上ないくらいド派手な特等席だ。


貴族共が勇者の性格を見たがってるなら見せてやればいい。


横を見れば自信がないのだろう。


アルメリはさっきとはうって変わって顔が青くなっている。


ざまぁみろだ。


「何もこんな目立つ所でなくても……。あ、あちらの階段の所などいかがですか!?

すっ、涼しそうですし!」



空調なら魔法具で適温に保たれている。


なんなら、氷点下位までなら魔力使って下げられるけど?


「なに、遠慮するな」


一言ですがるような目をしているアルメリを一蹴する。


どうせ近くに人もいない(本来はいるのだがそこは俺の眼力だ)し小声で話す分なら口調を崩してもかまわないだろう。



ふん、一勝一敗だな……。


どうせなら、派手な動きをしたいがこの女はダンスは苦手そうだ。


止めておいた方がいいだろうな。


恐らく曲の変わり目に誘って来たのだろう。

曲目が変わる。

この世界の音楽なんぞ知らんのでゆったりとした曲からゆったりとした曲へとしか言い様がない。なんとか曲が変わったのが分かるくらいだ。


その曲に合わせて取った手をあわせ、もう片方の手を腰にあてる。


そして、音楽に身を委ねる。


やたらとターンが多くてバターが作れそうだったが正解だったらしい。


「お上手なんですね。どれだけ練習を重ねられたのでしょうか?」


足取りが覚束ないアルメリだがそれでも会話する余裕くらいはあるらしい。

俺に聞いてきた。


「これが初めてだ」


「そっ!そんな!あり得ないです!私がどれだけ苦労して……!嘘……ではないようですね……。でも少し信じられないです……」


顔色を変えるのに忙しい奴だな。


「この程度が出来ないようなら暗殺者失格だ」


恐らく他の暗殺者が聞いたらおそろしく抗議するだろう言葉を口にしながらダンスと会話を続ける。


アルメリは数瞬迷ったがやがて意を決したようにこちらを見た。


「本日、お誘いしましたのは先日の非礼の謝罪がしたかったのです」


非礼?ああ、バルサムの事か。


「気にする事はない。正式に依頼を達成しただけの話だ」


「嘘ですね?」


……一呼吸の間もなく即答されると暗殺者としての資質を疑われてるような気すらするな。


「……。お前は正直だな。正直者は損するぞ」


「あら、やっぱり優しいんですね。心配してくれるんですか?」


「なわけないだろ」


誰がするか。


「嘘ですね?」


「……。謝罪したかったんじゃないのか?」


「あら、これは申し訳ありません。かなり嫌そうに誘いを受けてらしたので、つい意地悪をしてしまいました」


雄弁に語ってくる表情に無性にイラッとする。


「仕方がないだろう。俺は女は嫌いなんだ」


事実だ。たった一人を除いてはという条件付きではあるが。

因みにその一人は一生変わらないし増える予定もない。


「あら、それはまたどうしてですか?」


「金貨十三枚だ」


「後払いでお願いします」


即答しやがった。何気に腹の立つ奴である。さっき謝罪したのにもう忘れたのだろうか。


……畜生。言わなきゃならんのか……。


くそっ!若い頃の俺めぇ!


今の俺がいらん恥をかくじゃないか!


言いたくないが言葉を濁すわけにもいかないので、時間を遡れたら真っ先に殺す事を決意しながら、正直に話す事にする。


どのみちこの女に嘘は通用しない。


「あー、若気の至りってやつなんだが。

依頼を成功させてな、なんでもできるって思っちまってよ、あー、まー、その、なんだ、娼館に行っちまったんだよ。

で、当時の俺はちょっと無用心だったわけだ。大量に金を持ってた訳だな。そんで、まぁ、持ってた金を娼婦に狙われた訳だ。

で、飲み物を飲んだらそこに、毒薬があってよ、そこで下手すりゃ死んでた訳なんだが、あー、その、そいつに金を盗られた訳だな」


因みにそれから女は時間と金と労力の無駄遣いだと思ってるし、娼館は全て即刻取り潰すべきだと思っている。


俺が言ってから程なくしてアルメリは何とも筆舌に尽くしがたい顔をした。


それでも何とか頑張って尽くしてみるなら引きつってる顔、というのが一番近いだろうか。


これは非常に珍しい事なのだが、意を決してアルメリに言ってやった。


「笑いたいなら笑っていいぞ……」


それを聞くやいなやアルメリは吹き出した。


吹き出しやがった。


どうやら我慢していたらしい。


本当に腹立たしい奴である。


それなのに何故か……前に笑った奴と同じ目にあわせる気にはどうしてもなれなかった……。



――――優人 視点――――――――



今回の舞踏会は貴族が俺達がどういう人間かをはかるものだ。


俺は正直どうでもいいけど正也と咲良が低い評価を受けるのはまっぴらごめんだ。


というわけで二人の評価をあげたいのだが。


正也の方はオッケーだ。正也の追い込みの方は完了してる。


あいつ天才のクセに怠け者なんだよなぁ。


追い詰めてやらないと本気を出しゃしないんだから。


ただ、問題はこっちか……。


咲良は生粋のトラブルメーカーだ。


よくも悪くも常にトラブルの渦中にいる。


実際、この世界に来たのも咲良のせいじゃないかと疑ってるくらいだ。


それがなければ普通なんだが……。


恐らく一人でダンスをやらせたらまたトラブルになるに違いない。


それ以前に評価も上がらなそうだしな。


となると、俺が誘うしかないだろう。


ちょっと恥ずかしいが誘わなかった事を考えると誘わない訳にはいかない。


ただじっとしてるだけでもトラブルを呼び込むかもしんないしな。


「咲良。僕と踊ってくれませんか?」


緊張というかこの景色に圧倒されたような顔の咲良に誘ってみる。


「アッ、アタシ!?むり、ムリ、無理!」


光速並みのスピードで頭と右手を降った咲良は続ける。


「だっ、ダンスとか授業でやっただけだし、こんなダンスなんかぜんぜん知らないし!」


ああ、そんなこともあったな。確か教室で練習してた時にクラスの花瓶を壊したはずだ。何故かあの時は俺が謝っていた。今思い出しても納得がいかん。


「フフフ、僕もおんなじようなもんだよ。ちょっとそこの階段の端で踊るだけ。誰も見てないし、誰も気にしないよ」


ガッツリ嘘である。


俺達をはかるための会なのだからどんな見えにくい場所でもこっそり見るに決まってる。


「で、でも。やっぱり恥ずかしいかな」


緊張しながらこちらをチラチラ伺っている、もう一押しだ。


「大丈夫。僕も恥ずかしいし」


そして続ける。


「それにさ、こんなキレイな場所にこんなキレイな服着ているんだよ?楽しまない方が損じゃない?」


「んー、なんか今日の優人くん、いつもとちがうね、びっくりしちゃった」


少し驚く。俺もおんなじこと思ってたからだ。


「そりゃあ……猫を被っていますから、当然ですよ。お姫様」


「お、おひめっ、わっ、わかったざます、行きましてよ」


無理してんなー。ざますか……。いや、なんでもない。何も考えてない。


「はい、ではお手を。よろしいですか?咲良姫。行きますよ?」


「ええ」


肩で風をきって歩く咲良をエスコートする。


向かう場所はちょっと寂しいが咲良にしては頑張った方だろう。


途中で咲良が令嬢にぶつかって睨まれたが俺が対応して事なきを得た。


「ここら辺でいいか、ではまず咲良姫、私の腰に手をおあてください。」


エスコートしてきた左手を外そうとしてきたので、右手です。とこっそり教えてあげる。


「手はもう少し上です。はい。いいです」


とりあえず咲良にどうすればいいか指示する。

と言っても回りを見てした見よう見まねだが。


「では、踊りますよ?よろしいですか?」


もはや喋る気力も無いほど緊張してるのか、コクリと頷くだけだ。


まわりの動きに合わせて回る。


やることと言えば回りの動きを見て次の動きを予測し、それに合わせて咲良をリードする。ついでに、何をしたらいいか分からない咲良の動きを考えて小声で伝えてやる。


とんでもなくやることが多いが、話しながらさっきまでずっと動きを見ていたのだ。動きの大体の予測はつく。


それよりも問題は咲良だ。俺の靴に何か恨みでもあるのか、なんども踏みつけようとする。


その度にちょくちょくアレンジに見えるよう気をつけながら回避する。


恐らく上から見ていたらここだけ違う動きをしているように見えただろう。


「ご、ごめん。足がもつれて、もう止めた方がいいよ」


「大丈夫。僕がフォローするから。ほら、もっと顔上げて」


一瞬だけ上げてバッと俯く。


緊張のせいだろうか、顔が赤い。


「む、ムリ!近い!」


何に対して近いのか聞こうと思ったのだが、その前に隣で踊ってた貴族の靴が咲良のハイヒールの餌食になりそうになった事に対処するのに忙しく聞きそびれてしまった。


とりあえず、咲良の精神が限界に近そうだったのでこれぐらいにしておく事にした。


このまま行くと確実にまわりの貴族に被害を与えそうだ。

そうなれば評価を上げるどころの話ではない。


この国の国家体制次第では手打ちにさせられることすらあり得る。


無論、そんなのは願い下げだ。


優人に騙されたと喚く咲良の機嫌を取りながら、咲良に具合の悪い振りをしてもらい、その場を後にするのだった。


遅れてすいません!!

増量したので許してください。

正也のダンスは誰も見たくないかな?と思ったのでカットしました。

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