89返り咲きの悪
短いです
――――イテナ視点――――――――
「な、何だ!?どうやって脱出した!?鋼鉄だぞ!?どう考えたって不可能だろっ!!」
地面が揺れる様な衝撃に慌てて駆け付け、一番初めにこの惨状を見た盗賊は悲鳴を上げる。その内容に俺は首を傾げた。ただ目の前に広がっている光景というのはかなり厚みのある鋼鉄製の扉が衝突の勢いで人を殺す程に蹴り飛ばされた……というだけのことに過ぎない。
別に騒ぐ程の物でもないだろう。油断を誘っているのか?と思いかけ即座に否定する。いや、そんな様子は見られない。本気で動揺している様だ。お粗末な練度だな。俺の組織した盗賊連合会でこのレベルだったなら殺されるぞ。俺に。
当然だ。こんなレベルでチンタラやっていて連合会と俺との繋がりがバレでもしたら困る。不必要な駒は排除すべきだ。というか一々この程度で狼狽えられたら目障りだ。側にそんな奴が居ればそれだけで殺しかねない。
「この程度で俺を完全に閉じ込めたつもりか。ならばそれがお前の底ということだ。それ以上の成長はない」
しかし、まぁ、乗り掛かった船ということもある。ついでだ。この不出来な連中に教育を施してやろう。滅多に受けられないぞ?光栄に思え。毒を食らわば皿までだ。
「何だと!?お前らやるぞ!!俺達を侮ったことを後悔させてやれ!」
「「「「おうっ!!」」」」
段々と増えてくる仲間に気を大きくしたのか、そんなことを宣うバカ共。早速改善点が見付かったな。彼我の戦力差の見極めは正確に。戦略、戦術以前の問題だ。そんな基礎中の基礎が出来ていないとは。良くぞ今まで生きて来られた物だ。感心する。
「不可能、か。人が用いる策に於いてこの世に完全や逆に不可能など存在しない。粗を探せば隙など幾らでも見付かる物だ。完全や不可能なんて言葉は単なる思考停止に過ぎない。覚えておくと良い」
「クソッ!!何で当たらねぇ!」
打ち掛かってくる攻撃を上手く捌きながら講釈を垂れていると痺れを切らした1人の盗賊が苛立たし気に叫ぶ。そのまま怒りに任せ、防御を捨てて切り掛かって来た。
「格上相手にヤケを起こすな。それは何の意味もない単なる思考停止だ。格上に相対した時こそ冷静に、そして素早く頭を回転させろ」
ゴキッ。そんな鈍い音と共にその盗賊は崩れ落ちる。首が有り得ない方向へと回っており、最早それを見ただけで彼の生存は絶望的だ。
「う、うわぁ……!」
死体に寄り掛かられて驚いたのか1人の盗賊が動きを一瞬硬直させる。
「動きを止めるな。動きを止めれば相手に先手を譲ることになる。自然、戦闘の流れと主導権は相手に移る。言うまでもないが攻撃を数打てば打つ程致命傷を与えられる確率は上がる。何もしないよりはまだ攻める方がマシだ」
ズボッ!
そんな音がして怯えた盗賊と寄り掛かる盗賊。2人の間を繋ぐようにイテナの腕が貫く。
貫手と呼ばれる物だ。致命傷であるのを一瞬で確認するとその腕を引き抜くと、その血で染められた赤い腕を振って血を飛ばす。全体から見れば何でもない量だが、それでもやってしまうのは気分だ。
「クッ!囲んで掛かれ!!大丈夫、俺らなら殺れる!!」
「勝てない相手に勝負を挑むな。ただの自殺だ。ああ、それと自分に実力以上の期待はしない方が良い。最後のだけは先人からの教えだ」
ダダダダとイテナに向かって走る地鳴りの様な音の中で、イテナがコツンと地面を叩く音がした。
次の瞬間、盗賊達は洞窟内に於いて感じる筈のない風を感じた……。
ドサドサドサ……。
立っていた筈の盗賊達は一斉に首と胴体が死別すると倒れた。無詠唱にてイテナより放たれた個別型の鎌鼬である。
「折角教えてやったんだ。しっかり魂に刻んで地獄でも来世でも活かすと良い」
濃密な血の匂いが辺りに広がり、あれだけ騒がしかった洞窟内に静寂が訪れ、イテナの腕から血が垂れるピチャン、ピチャンという音がやけに耳に響いた。
「無詠唱ですか。発動には必ず魔法名が必要な筈ですが……。やっぱりイテナさんとは使う魔法の体系が違うみたいですね」
その静寂を破ったのは優人だった。名字らしからぬ行動である。イテナが優人の方を見れば優人は優人で3人程戦闘不能にさせていた。
「それは俺も感じていた。俺からすればお前らの使う魔法やステータスの方が異常に見えるがな」
魔法名を唱えて魔力を捧げるだけで使うことが出来る魔法、何らかの法則によって可視化される肉体能力、普通は死んでいる筈の傷でもHPさえ残っていれば動ける身体、技術を修めていないにも関わらず発動させるだけで達人と同程度の技術を行使できるスキル。不自然な事はざっと上げるだけで此れだけ出てくる。
「それは確かに思います。元居た世界には魔法が有りませんでしたがそれでも分かりますよ。この世界の魔法は異常です。例えるなら……そう、まるでゲームみたいです」
「げーむ?」
聞き覚えの無い単語に首を傾げるとその発音に優人は驚き、一瞬構えを取った。自分で言ったことだろうに可笑しな奴だ。
「ビックリした。脅かさないで下さいよ。GALの方かと思ったじゃないですか。そうですね。ゲームというのは操作されるキャラクターと操作するプログラマーに別れます。プログラマーは好きにゲーム内に武器や何やらを作り出しますが、画面内のキャラクターはどうやって目の前の武器が作り出された物かは一切分かりませんが、大抵はプログラマーの意図通りにその武器を使うことが出来ます」
その説明に加えて、ゲームに関する概要的な知識を教えて貰い、納得する。
「成る程、言い得て妙だな。確かにこの事態から“次元の異なる者”の存在を嗅ぎ取ることが出来る」
これらは個々人の技量では決して有り得ない。再現性と利便性が高過ぎる。それでいてそうなった過程を誰も説明出来ない。謂わばこの世界の魔法とは未だ解明出来ていない自然現象に過ぎない。それでいてこの高過ぎる利便性。それこそまるで“何者かが俺達の為に作った”かの様だ。
「まぁ、今考えることでも無いだろう。例え考えて結論が出た所で“それ”はどうしようもない。行動指針が変わる訳でもないしな」
俺の言葉に理があると思ったのか、優人は苦虫を噛み潰した様な顔になる。
「忌々しいことですが……ね。酷い目に遭わされた身としては忸怩たる思いが有りますよ」
「そうか。先を急ぐぞ?」
特にそのことに対して知っている訳でもないし、関心がある訳でもない。優人もわざわざ俺と2人になってまで話したかったことは話しただろう。適当に会話を切り終えると優人もそれに同意した。
「ええ」
俺達は奥へと進む。
辺りを見回してみると鍾乳石の様な物が見当たらない。どうやらこの場所は自然に出来た洞窟、というよりかは人工的に出来た坑道に近いらしい。奥へ奥へと進むごとに少々空気が淀んで行くのをイテナの感覚が捉えた。どうもこのバカでかい空間をあの盗賊達が築き上げたとは考え辛い。入り口で見た、少し古びたバリケードの様な見張り台から類推するに元々あったこの洞窟に盗賊達が住み着いたのだろう。当時はうじゃうじゃと魔物が居ただろうに良く住処にしようとした物だ。まぁ、今は住処ではなく棺桶となってしまったが。
「ん?行き止まりか……?」
更に奥へ行くと壁に突き当たった。いや、壁ではない。それはまた先程と同じ様な鋼鉄の扉だ。ただし、此方の扉の方が幾分重厚で、幾分大きく、幾分頑丈そうだった。このまま蹴破ろうとしたが、取っ手の部分に鍵が掛かっているのを見つけて止める。流石に鍵まで掛けている善良なお宅に押し込み強盗など余りに品がない。折角だ。ドレスコードにでも従って表門からノックして入ってやろう。毒を食らわば皿まで。礼儀正しくしていればきっとおやつ位は出してくれるかも知れないしな。
「ん?これは……」
しかし、その鍵を弄くり回し始めて直ぐにそんな声を漏らした。鍵自体はそこまで珍しい訳でもない。単なるダイヤルロック型の良くある錠前だ。
「一体どうしたんですか?」
優人がその不自然な挙動を聞けば、イテナは見ろ、とばかりに鍵の前を譲ってからその鍵を指差す。
「?分かりません」
イテナが何を言いたいのか分からず首を傾げている優人。何だ?見るのも初めてか?しょうがない。分かりやすい説明をしてやろう。
「その鍵は事前に登録された魔力構成を持つ者だけが開閉することが出来る。原理的には冒険者ギルドに似た物があっただろう。魔力測定する為の珠。アレと同じだ。本来あの珠共々かなりの高等技術なんだがな。これを開けるにはボスか、ボスと全く同じ魔力構成をした者を見付け出さなければならない。元々高い物なのだが良く盗賊が手に入れることが出来た物だ。コレを開けるのは不可能に限りなく近い」
あまり上手く説明できたとは思えないが優人はしっかりと頷いた。興味を失ったのか、鍵の前をイテナに譲ると
「成る程、生体確認みたいな物ですか。つまり今後魔力構成とDNAはほぼ同じ物として捉えて良さそうですね。その錠前は生体認識の機械という訳ですか。開けるのは確かに不可能でしょうね」
「開いたぞ」
ガチャ……。
そんな情けない音と共にあっさり鍵は解放され、そのあんまりな光景に優人は目を丸くする。
「不可能に限りなく近いと言った迄だ。不可能とは言ってない」
とんでもないことだが、イテナからすれば割りと簡単なことだ。別に魔力構成をこの鍵が登録している者と同じ様に偽装しただけだ。別にそんなことが出来ないとは言ってない。というか魔力測定の珠をやり過ごした時も全く同じことをしていた訳だ。分身(魔力の塊)から見れば雑作もない。
「さて、この盗賊団のお頭でも見に行こうか?」
俺は優人に向かってニヤリと笑った。




