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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
88/107

88いきなり大ピンチ

「おーし、儲け儲け」


「いやー、向こうから鴨が来てくれて助かったわー」


分厚い収容所みたいなゴツい鋼鉄の扉の向こうから見張りの会話が聞こえる。俺達3人はぎっちぎちに後ろ手に縛られ、みのむしみたいにぐるぐる巻きにされて転がされている。


「んじゃ、売り飛ばされるまで大人しくしとけよ!」


ガシャン……。乱暴に見張りが此方に叫んだ後、重厚な扉が閉まる。その音は俺を絶望の海へと叩き込んだ。

どうしてこうなった?

どうして捕まった?いや、こんな初っ鼻からピンチって!取り敢えずどうしてこうなったのか最初っから思い出してみよう。先ずはアジトを見つけた辺りからだ。


――――正也視点――――――――


俺達は咲良のばら蒔いたMrs.Bを回収しつつ現場へと急いだ。Mrs.Bが大きくなるにつれて俺の怒りも増大していく。ンのやろォ〜。Mrs.Bをバラバラにしやがって!絶対に許さん!咲良め!

10分ほどそうして走っていただろうか。唐突に二人が足を止めるので、俺は勢い余って衝突する。後ろを走って居たからだ。これは別に俺がMrs.Bを拾いながらだったから遅くなっただけで他意は全くない。俺だけ足が遅いからナチュラルに先行かれててちょっと凹んでるとかそんなことは全然ない。


「どうした?」


俺が聞けば優人は振り返って答えてくれた。


「どうやらここで終点らしい」


優人が指差す先には古墳みたいな盛り上がっている岩石を横からくり貫いた様な洞窟。ただその穴を囲うように明らかな人工の石壁があり、その中に2人の見張りが居た。Mrs.Bの破片もこの近くには落ちていない。どうやらアレが咲良を拐った奴らのアジトの様だ。


「うおおっ!バレるっ!」


俺は2人を引っ張って慌てて茂みに隠れる。暫く見張りの様子を確認する。彼らは特に変わった様子もなく、ダレながら仕事をしていた。ホッ、良かった。何とか見付からずに済んだようだ。


「あいつらか。何なんだ?一体」


きっと俺は苦虫を噛み潰した様な顔をしていたのだろう。優人が気遣わし気にしながらも俺に言った。


「多分盗賊団だろうね。ホラ、ギルド長さんが話していただろう?」


ああ、あの優人に勝った奴の話か。えーと、何だっけ?確か、最近この辺りで盗賊が隆盛している、だっけか。唐突に話の展開を変えてこの話を出して来たから辛うじて記憶の隅に留まっていた。にしても伏線の回収が早すぎんだよ。アホめ。1秒も待った無しか畜生。何も主人公の熊と一緒に現れる必要なくない?どうしてこうも俺だけ不運に見舞われるのか……。咲良じゃあるまいし。


「成る程なぁ。んじゃ盗賊達から姫さん方を盗み出すとするか。問題は俺が戦えないってことだな」


今貧血の酷い版みたいな感じだ。頭じゃガンガンと誰かが鐘を打ち鳴らしてるし、視界じゃ周りの景色が引っくり返ったり歪んだりと忙しない。


「戦力的には不安は無いと思うよ」


優人はチラッと隣のイテナさんを見やる。まぁ、ラスボス相手じゃそこら辺の奴は戦力足りんわな。


「んじゃ、後は作戦だな。コッチは3人しか居ない。どうやって潜入してどうやって脱出するか。ありゃ洞窟をそのまま利用してる感じだな。多分穴はあれ1つだぞ」


もしかしたら抜け穴用の穴なんて物があるかも知れないが、大抵そういう者は敵(現状で言う所の俺達のことだ)には分からない様に作るだろう。今の俺達が簡単に見付けられたら意味がない。探すだけ無意味だ。


「入るのは問題じゃない」


「問題は出る方だな」


2人が揃って言う。入るのが簡単?俺が頭にハテナマークを浮かべていると2人はおもむろに立ち上がった。


「バッ、バカ!」


俺は何とか止めようとするが時既に遅く、茂みから出てしまった。見張りの位置からも丸見えである。それでも逃げようと2人の服を引っ張るが、2人とも意に介した様子はない。そのままスタスタと石壁の真ん前まで行くと2人して大声を上げた。


「すみませーん!旅の者なんですけどー!道に迷ってしまってー!誰か居ませんかー」


「誰かー!」


「このアホ〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!」


ご丁寧にノックまでしやがって!地雷原でタップダンスするのが趣味なのかお前らは!


「ん?何だ?」


「おっ、こりゃ良い。苦労せず奴隷が手に入ったな」


案の定気付かれたのか見張りから何までぞろぞろと表にまで出てくる。


「うわぁー、出てくる出てくる。1、2、3、4……」


ゴキブリみたいに這い出てくる盗賊達を数えてみる。現実逃避、ヤケクソ。何とでも言え。俺はこの時ほど自分が目眩であって欲しいと願ったことはない。


「どうすんだよこれっ!」


俺が優人の胸ぐらを掴んで責任追及をするが肝心の優人の奴は涼しい顔だ。


「捕まる」


「ふざけんなぁ〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!」


俺の心の底からの絶叫はノルドス林へと強く響いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


こうして今に至る。今はぐるぐる巻きにされて転がされ、独房に付いてるみたいなクソ重たい扉を閉められた所だ。


「な?入るのは簡単だっただろ?」


「ブッ飛ばすぞ!テメェ!!」


何澄ました顔してんだ。帰りの難易度滅茶苦茶上げてんじゃねぇかこのドS野郎。


「さて、見張りも見えなくなったことだし丁度良い」


そうイテナさんは言った。何が、と俺が思った時とその音が聞こえて来たのは全くの同時だった。

ボキッ、ボキッ。まるで固い何かが擦れる様な音だ。そんな音が聞こえたかと思うとイテナさんは“立ち上がった”。縄の縛りなど無かったかの様に立ち上がり、縄はスルスルっとイテナさんの回りをほどけながら洞窟の地面へと落ちたのだ。


「嘘だろ!?どうやって!?」


「ん?別に肩を外しただけだ。手首の縄は手首を手の周りと同程度まで鍛えておけば技術すら必要なく簡単に抜ける」


ゴキリ、ゴキリと再び肩を入れながら答えるイテナさん。んなアホな。忍者かよ。最早何でもアリかこの人。俺がそんな風に思っている間、イテナさんは手の感触を確かめているのか閉じたり開いたりを繰り返しながら言った。


「しかし捕らえ方が雑だな。もし捕虜が魔法でも使えたらどうするつもりだったんだ?連合会であればこの様なミス絶対しないだろうに」


そんな1人ごちるイテナさんに、優人は“立ち上がりながら”余計にも答えた。此方も先程のリフレインの様に、縄がほどけながら地面に落ちていった。


「旅人って名乗りましたからね。魔法は使えないという判断じゃないんですか?魔法使いという存在はかなり珍しいようですし」


「ブルータス!!お前もか!!どうやって抜けたテメェ!!」


コイツも大抵何でもアリだな。ラスボスは別に万能性アピールしても強いアピールになるから良いけど、お前は主人公なんだから苦戦しなきゃダメだろ!!やり直せ!


「捕まる時に簡単に解ける様に細工しておいたからに決まってるでしょ。ほら、何してんの。さっさとほどいて」


出来るか!縄抜けなんてやってみろ、はい、出来ました。で出来る物じゃないだろ!!縄抜けのバーゲンセールか畜生が!

イカン、コイツらと話してたら血圧上がる。今貧血で良かった。もし今健康だったら確実に頭の血管吹き飛んでるわ。


「うっせっ!!今から靴底に仕込んだヤスリでやするから30秒黙って待ってろ!」


俺は左靴のゴム底と靴本体を繋ぎ止める留め金を外すと、靴底を爪先支点に回転させ、中に仕込んである小型金ヤスリを取り出す。因みに右足は超小型ワイヤーカッターだ。え?何で持ってるかって?んなもん良く捕まるからに決まってんだろ。主に咲良のせいでな!

カリカリカリカリカリ……。麻縄をヤスリで削る音が扉の向こうまで聞こえるんじゃないかと思うと冷や汗ものだ。


「大体何が縄抜けだ!!お前らトミーか!ハリーフーディーニじゃあるまいし、今時縄抜けなんざ流行らねぇんだよ、っと!」


ぶちっ、という快音が響き、麻縄が切れる。俺は再び小型金ヤスリを靴底に仕舞うと留め金を留め、元の靴に戻した。


『ふぅー、キツかったぁー』


俺の襟の所からヒョッコリとMrs.Bが顔を出す。コイツは盗賊達に見付かるのが分かった途端、俺の服に入り込んだのだ。機転が効くと褒めれば良いのか、情けないと哀しめば良いのか。色々と判断に迷う奴である。


『んー、何か変な匂いするー!やー!』


Mrs.Bは両目の下の本来鼻が有るべき部分を軽く抑える。先ず匂いとか分かるのか……。とか疑問に思う前にドキッとした。確かに最近異世界に来た影響で全然風呂に入ってないからな。ちょっと臭いかも知れない。今日は帰ったらどんなに汚い川でも水浴びしよう。


『この部屋早く出るー!』


何だ部屋か。ビックリさせるな全く。改めてこの部屋が気になった俺は怖い物見たさの思いで部屋の匂いを嗅いでみる。

……。成る程、そうですか……。確かにこれは臭いな。アレの匂いがする。察してくれ。アレの匂いだ。きっと此処は盗賊達の性処理の為の部屋だったんだろう。察してくれ。アレの匂いだ。

俺も早くこの部屋から出たい。何せMrs.Bの情操教育にも悪いし、何より俺がこれ以上嗅いでいたくない。

性処理用の部屋だったことに気付いてしまえば、この陰気な雰囲気も納得が行く。地面を見てみれば、至る所に爪で引っ掻いた様な筋、爪が取れた為だろう。その近くに血が少々見て取れた。その重厚な扉の方を見てみれば更にその痕跡は強くなり、鋼鉄にすら爪跡が残る程引っ掻いたことを示す跡があった。此処に囚われた女の人は何を思ったんだろう。どれだけこの扉の先を熱望したことだろう。そしてこの鈍重な扉にどれだけ絶望したことだろう。それを思うと胸が締め付けられる思いだ。


「この程度の枷で全てを閉じ込められると思っているのなら、精々がこの程度だということだ。底が知れる」


その言葉に後ろを向くと、イテナさんが片足を挙げていた。蹴りの前段階だろう。精一杯縮めて、最大限のエネルギーを捻り出そうとしている。


「退け」


その短い言葉に俺は死に物狂いで横に転がり込んで回避する。それは瞬時に意図を察したと言うよりかは命の危機を感じて回避したという方が適当だ。そしてその行動は全くもって正しかった。


ドゴォォオン!!!!!!!!


凄まじい音がしたかと思うと扉が吹き飛び、見張りの1人を巻き込んだかと思うと、そのまま部屋の先のT字路になっていた所の前方の壁にぶつかり、凄まじい轟音と衝撃に地面が揺れた。巻き込まれた不運な見張りは最早生き残って居ないだろう。ジワリジワリと扉の下から染み出る赤がそれを示していた。


「えー……、鋼鉄なんですけど……」


見れば扉には足跡が刻まれている。それは刻まれた爪跡を塗り潰す様でいて、また、壊す様だった。何にせよ、此処に囚われた女の人達の絶望は破壊されたのだ。

それにしても力えげつないなこの人。蹴りで物を飛ばすというのは至難だ。通常の物体を手で投げる動作とは異なり、一瞬で物に飛ばせるだけの力を加えなければならない。それに必要な力は投げる動作に比べて膨大だ。しかも蹴り飛ばすのは鋼鉄製の扉だ。変形した姿からメッキではなく、純粋な物だと判断できる。見たところ厚さは十センチ以上だ。こんな物、良く蹴り飛ばせるものだ。そんな足でタイキックなんかされた日には月まで飛びそうだな。

結論、化け物。

見ろ、もう1人の見張りなんて絶句してるじゃないか。


コキッ。


イテナさんが近寄ると、瞬時に頭が90度以上回り、静かに崩れ落ちる。とんでもない早業で仕留めたのだろう。見張りは悲鳴を上げる暇も無かった。


「何だ何だ?」


「どうしたどうした」


轟音と地面が揺れたことで気付かれたのだろう。新手の盗賊達の声が少し先から聞こえてくる。そりゃこれだけやらかして気付かれない方が可笑しいしな。


「フム、」


イテナさんはT字路を少し眺めると言った。


「俺は右に行く。洞窟の造り的に頭の部屋は奥だろう。武器を取り戻したい」


「じゃあ俺も右」


イテナさんの言葉に追従する。うぇー、と思いつつも俺も空気に倣った。


「造り的に奥は先細りになりそうだから咲良は前方に居そうだ。俺は左に行く。くっそ1人かよ。非戦闘員を1人にするんじゃねぇよ畜生」


「気を付けてね」


優人が心配してくれるが、本当に心配してくれてるなら付いてきて欲しい。


「まぁ、声は右からしか聞こえて来ねぇし盗賊に会いさえしなきゃ大丈夫だろ。ちょっくらスニーキングミッション行ってくるわ」


「それじゃそっちは頼む」


頼む、か。結構嬉しいな。信頼されてる気分だ。


「おう、咲良の奴をしっかり殴って来るぜ」


俺の真剣な口調にすっかり心配になったのだろう。優人は笑いながらもしっかり釘を差してきた。


「アハハ、その後しっかり助けてよ?」


「忘れなかったらな!」


それだけ言うと俺は2人に別れを告げて一時別行動を取る。2人を相手取ることになる盗賊達に同情しながら……。

お気に入りのシーンは有るけれど、そこに辿り着くまでに凄い話数が掛かっちゃうし書く時間がない!

ということで状況説明だけして書いてしまおうという最高の自己満足な空間です。その1ガルシア編


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(バハァシンを滅ぼすことを決意したアナステシアスをベアートと共に小馬鹿にしていた時の数日後、突然アナステシアスが訪ねてくる。アナステシアスは妻のナディーンの様子が芳しくないことを聞き付けたのだ)


「ガルシア。お前は学院へ行け」


その突然の、そして大変愚かな提案はガルシアを大いに苛立たせた。


「父さん、落ち着いて下さい。学院からは先日帰って来たばかりではありませんか。今また学院に戻れば人質にされるでしょう。元々貴族院とはその為に設立された物なのですから」


バカにでも分かるように懇切丁寧に話す。ガルシアとて実の父親をバカ扱いするのは気が引けるが、それでもあんな所に押し込められるのは2度と御免だと思い、全力で説得する。


「いや、お前が行くのは貴族院ではない。周辺国家最優の学院ズメイ学院へ学びに行け」


ああ、そうか。この男は僕よりも母を選んだのだ。ガルシアは気付いた。気付いてしまった。きっとこの男は母の容態を知ったのだろう。僕を遠ざけるか母を衰弱させるかを天秤に掛け、そして母を選んだ。侯爵に上げる息子ではなくただの妻を。実に、実に愚かだ。


「分かりました。ベアートは連れていって良いですよね?アレを雇っているのは僕です」


言い訳はしなかった。どうせ意思は変わらないだろうことは分かっていたから。現実的に言えば捨てられたということになるだろう。だがこんな愚かな父親、ガルシアの方から願い下げであった。


「良いだろう。ズメイのある街に、昔私の弟が住んでいた別荘がある。そこを使え」


分かりました。とガルシアは素直に答えた。この出来事は後のガルシアの正確に深い禍根を残すことになる。人より有能でなければ捨てられる。人の力を借りることを極端に忌避することになった要因の1つだ。ガルシア、まだ6才の夏である。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(父親の名で学術院がある街ウルフェルに到着したガルシア。しかし、叔父の家というのは伯爵家のガルシアにとっては信じられない程に小さい一般家庭程の家であった。更に悪いことには年月の流れでボロボロ、更にスラム育ちの青年パルタが叔父からの許可証を持って住み着いていたのだ。以下の会話は初めてパルタとの邂逅の後、初めてお腹が空いた時のガルシアとパルタの会話)


ギュルルル……。


ガルシアのお腹が鳴った。何とか抑えようとするが、抑えきれない。初めての経験にガルシアは混乱した。


「へっ、腹の虫が鳴いてら。ちったぁ子供らしい所もあるんだな」


「黙れ不法侵入者」


思わず噛み付くも、情けなくまたギュルルル……と腹が鳴った。


「おーおー。可愛気のねぇことだな。だが体は正直だぜ?これでも食えや」


パルタは汚れた服の中から林檎に似た果物を取り出すと服で何回か拭き、ガルシアの前に差し出す。


「いらない」


「別に変なモンは入ってねぇよ」


ほれ、と再び差し出すパルタをガルシアは睨み付ける。そうして小声で2言か3言呟くと、輝く光の粉の様な物と共にガルシアの掌にパルタの持っていた物と同じ物が現れた。


「自分の身くらい自分で面倒見れる。他人の手なんか借りて堪るか」


シャクリ。そう言うとガルシアはお上品に少しだけ果物にかじりついた。


「お前ほんとマジで可愛気のねぇガキだな」


パルタは思いっきり渋面を晒した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(ズメイ学院に入学試験が有ることが判明。丁度良いとばかりにガルシアは入学試験を受けず、退屈な学院に入るのを止めることにする。しかし、その試験の前日。市内を見て廻っていたガルシアとベアートは少女が向こうから男を大声で追い掛けて来る。丁度ガルシアの前程で転んでおでこをぶつけてしまう。華麗にスルーしたガルシアを少女は「どうして助け起こしてくれないのよ!!」と激怒。ガルシアが「何で僕が見ず知らずの奴を助けなきゃいけないんだ。手が汚れるだろ」と返せば、少女は火に油を注いだ様に更に起こり散らかした。「見たことない顔ね!何処の誰よアンタ!!」貴族であることをガルシアが伝えたが少女は引かなかった。むしろ「あー、はいはい貴族様。じゃあ私と一緒でズメイ学院に入る訳ね。それにしちゃ小さいけど、もしかして背が伸びなかったの?」などと無意識で挑発して来た。ガルシアが「父から入れとは言われたが、受けるのは止めた」と返した所、少女の口から衝撃的な一言が飛び出した)


「アンタバカでしょ?」


……。その瞬間世界は停止した。ガルシアは一瞬絶句した後直ぐに我に返りその絶大な怒りと共に、生まれて初めて大声を出した。


「バカだと!?誰に向かって物を言っている!!僕の名はヨシュア・フォン・ガルシア=パーラだ!!言うに事欠いてこの神に祝福されたこの僕をバカだと?ふざけるな貴様!!」


神に天才であると認められた少年、ガルシア。生まれた時から常に周囲には讚美が溢れていた。それはガルシアを通した神に対する称賛で、ガルシアを歪ませる物ではあったが、それは同時にガルシアを形容する物でもあった。皆に言われた誉め言葉、顔の美醜のこと、各方面に見せる才能、だが、その中で一番多かった称賛は何と賢い子、だ。当然だ。頭脳に於いて4才で付けられた家庭教師を一瞬で追い抜き、6才で通った学院には追随出来る者すら居なかった。それは大人を含めても、である。それをバカと呼ばれた。それはガルシアが生まれて初めて受ける侮辱の言葉だ。


「だってバカじゃない。どうせ自分じゃ受からないから諦めたんでしょ?入るだけの学力も実力も無いんじゃあねぇ……。格好付けて自分には退屈過ぎるとか笑っちゃうわ。ま、私みたいに『リチェって頭良いね!』って言われるくらいになれば1発合格間違い無しだけどね!」


1度ならず2度までもバカと呼ばれた。ガルシアは怒りでどうにかなってしまいそうだった。


「坊っちゃま。お気になされぬ様。路傍からの謂われない卑語で御座います。取り合う必要は御座いません」


ベアートの必死の取り成しも最早遅い。既にガルシアの心の中ではリチェに対してその程度の消火では間に合わない程の怒りの大火が渦巻いていた。


「黙れベアート!!良いだろう!!試験で捻り潰してやる!!」


「畏まりました」


「フンッ、返り討ちよ」


主人からの烈火の如く思える圧に、矛先が此方に向いては一大事だと素早く了承するベアート。尊大に勝負を受けたリチェ。こうしてガルシアは試験に参加することとなった……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(試験日当日、試験会場にて。試験は学科ごとに別れており、座学、そして剣技か魔法の内どちらかを選択して受験することになっていた。両方100点満点の減点式で120点以上で合格だ。ガルシアは当然の如く座学と魔法を選択した)


(座学試験だが……。程度が知れるな。こんな程度の問題で良いのか?)


ガルシアは解きながらそんなことを思ったが、そんなことはない。太古の歴史や数学、音楽の問題など問われる知識は多岐に渡り、全部で200問近くある。そこから間違えた問題の点数分減点していくのだ。更に最終問題辺りは例えばククルの召喚陣を全て書き写せなど無理難題になり、更にミスした部分毎に1点ずつ引いていくという鬼畜仕様となる。この座学をパス出来るのは自然と高等教育を受けた者となり、合格平均年齢も14歳と高い。

しかし、それは貴族院ですら満足することが出来なかったガルシアにとっては簡単すぎる問題でしかなかった。まるで答えを書き写しているかの如くスピードで解答欄を埋めていく。更に間違いは無い。試験官が止めの合図をする30分前には全て書き終えてしまっていた。ガルシアの感覚的には名門の入試で文字は読めますか?書けますか?と問われた様な物だ。最初こそ何かの冗談かと思った位だ。

問題を試験官に渡すと次の魔法試験会場へと向かう。そこはコロッセウムの様な決闘場だった。客席もあるかなりしっかりとした物。どうやら試験会場として急遽利用されているだけで本来の用途は違うらしい。

ガルシアは試験会場を見渡すが、リチェの姿は認められない。剣技の方を選んだのだろう。ガルシアは折角差を見せ付けるいい機会だったのにと思ったが、居なければ仕方ない。普通にクリアするだけだ。

魔法の試験は簡単。演舞、的撃ち、制御があり、それぞれ多種類の魔法を連続的に用いた演舞。ゆっくりと動く的を正確に射抜く的撃ち。それと同威力の違う魔法を同時に作り出す制御だ。

これも減点方式で演舞は予め種類の数と時間が決められており、ミスした回数分点を引かれていく。的撃ちも同じだ。少し異質なのは制御で2回チャンスが与えられ、出来なかったら10点引かれる。平均点は80点なので座学に比べればそう難しくない。逆に言えば座学は40点以上は取らないと合格は難しくなるのだ。座学の減点分を全部足せば300点なのでこれはかなり厳しいと言える。因みに剣技の方も魔法と平均点が同じになる様に組まれ、問われるのは筋力、演舞、技術だ。脳筋の集まりなので女の試験突破は少し厳しいだろう。

差を見せ付けてやれないのは少しばかり残念だが合否の差で愚かさを思い知るだろう、とガルシアが試験とは全く関係ないことを考えている間に試験を受ける順番が回ってきた。


「始め!」


試験官の合図と共に演舞を始める。演舞と言っても実際に踊る必要は無く、規定と時間通りに魔法を放つだけで良い。

ガルシアはパチンと指を鳴らして1つ魔法を放つ。


「≪アックスストーム≫」


風魔法、上級魔法の1つを。


「は!?」


ギュオオォォオ!!

試験官が間抜けな顔を浮かべ、疑問の声を上げるのと同時に巨大な竜巻がガルシアと試験官の間に発生する。

ガルシアはその試験官の間抜け面に満足するが同時に少しグラッとする。急激な魔力の低下に体が付いていかなかったのだ。


「チッ、流石に上級は少し難しいか。≪フレイムジャベリン≫≪フレイムジャベリン≫≪フレイムジャベリン≫」


炎の槍を作り出すという中級の炎魔法を3回巨大な竜巻の中に投下する。即座にその炎の槍は竜巻に“切り刻まれ”竜巻が燃えるかの様に竜巻の中を炎が舞い踊る。


「まさか!ダブル持ち!?」


試験官が更に驚くが、ガルシアは最早その様な些事は気にしない。ガルシアは次の魔法を準備する。3回も同じ魔法を使ってしまったので次からは同じ魔法を使うことは出来ない。


「≪マジックブースト≫≪マジックマキシマイズ≫」


次に使う魔法を巨大化、強化し、続けて魔法を放つ。


「≪アイスピラー≫!!」


本来はフレイムジャベリンに似たタイプの、氷柱を射出するだけの中級魔法。応用で地面から生やし敵の足を貫くことも出来るが、ガルシアが出現させた氷柱はその様な陳腐な物ではなかった。竜巻の中心の地面から生えたのは正しく柱。天を衝かんばかりの巨大な氷の柱が出現した。


ギャリリリリリリ!!


そんなフードプロセッサーに石でもぶち込んだ様な音がして氷柱が削れていく。竜巻によって削れ、炎の影響により少し溶けた氷が噴水の様に竜巻の頂点から飛び出し、辺りに降り注ぐ。


「≪フラッシュ≫」


ガルシアが最後の魔法を唱えるとガルシアから白い光が放たれる。本来は目潰しの為の強烈な光だが、今回はガルシアが調整したので大分柔らかい光になっている。その柔らかな光を受け、輝く氷の決勝。キラキラと光りながら降ってくる氷に見る者全てが心を惹き付けられた。

サラリとやってのけているが、威力を落とすには魔力を注ぐ量を減らしても魔法が不発にならない様に魔法の構成自体を少々弄る必要がある。割りととんでもないことである。


「バカな……。4つの属性をこれだけ自由自在に……」


呆然とする試験官を他所にガルシアの演舞は終了した。この後、ガルシアは的撃ちも制御も当然の如くノーミスで終わらせ、更に試験官を驚愕させることとなった。


ガルシアが叩き出した合格点は200点満点。1つの減点もなく、試験を終えた。それはズメイ学院創設以来初めてのことであった。


――――後書き――――――――――


ああ、やってみたかったテンプレが出来た……。

壮大な自己満足なので雰囲気だけ味わえて貰えれば儲けもの位の考えで書いてます。

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