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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
86/107

86一難去ってまた一難、つってもこれはあんまりじゃないですかねぇ……2

――――正也視点――――――――


「2!3!4!5!6!……」


掛け声と共に小さく素早く何度も自分の胸にナイフを差す俺。緊張しながら間違えないようにしっかりと数えながらだ。この数は間違えられない。間違えたら冗談抜きで死ぬからな。

今俺がしているのは新手の宗教の儀式……ではなく生きるために必要な手段だ。

目の前の熊は俺の奇行に怯んだか、一瞬戸惑ったものの直ぐに咆哮を上げて飛び掛かる。


「グオオオォォ!!」


時速60キロを越えるという羆の突進。速度は体格に比例するから羆の2回り以上もデカいコイツの速度はきっとそれ以上だ。俺では避けれたことが奇跡のレベルの速度。

しかし、俺はそれを“軽々と”避ける。

ヨシッ!ぶっつけ本番だったけど上手く行った!予測通り!

俺はその成果を感じるべくステータスを開く。ああ、俺の場合称号とかで色々と面倒だから現状が映る様に仕様を変更カスタムしておいた。だからステータスは現状がしっかりと反映されている筈だ。


――――――――――――


名前 ムラヤマ・マサヤ

年齢 17

種族 ヒューマン

職業 学生・勇者

レベル 1

HP 1/21

MP 22/22

攻撃8

防御2

俊敏2


スキル

覚悟1、審眼2、剣術6、テイム1、痛覚遮断1


称号

斬滅の勇者、怠け者の天才、ビーストテイマー


――――――――――――


お、おう……。我ながら極振ったなぁ……。攻撃が他の4倍あるやんけ。エセ関西弁出るくらい驚いたわ。

まぁ、この大きく変わったステータスを見て混乱している人の為に説明しようと思う。先ず、俺の全能力が偉い勢いで上昇してる件について。

これについてはあの怠け者の天才スロースターターが関係している。スロースターター、能力は全能力50%ダウン。俺の敏捷、防御を2分の1という前代未聞の数値にしやがった憎むべき称号だが、同時に疑問が1つ浮かび上がる。それは本調子に戻る――つまり能力的な全快のことだが――、エンジンが掛かるのはどういう条件を揃えれば良いのか?ということである。

それは時間ではない。もし時間であるならば平常時も併せて召喚された時からかなりの時間経っているのだ。とっくのとうにステータスが戻っていても不思議じゃない。その派生として戦闘開始からの時間というのも有り得ない。

思い返せばあの能力半分のノーダメクリアというガチ勢ですら尻込みするレベルの強制縛りプレイを要求されたMrs.Bとの対戦。アレは攻撃を開始してから小一時間は戦っていた筈だ。何せ攻撃力が無かったんでな!それをノーダメって頭沸いてんのかブッ飛ばすぞ!あぁ!?

イカン。要らん怒りまで思い返してしまった。一旦冷静になろう。

結果それはモブ二人との対戦で判明した。

能力が戻る切っ掛けは体力現象。思い返せばあの時、通常なら避けられなかった攻撃を避けれたこと、優人を押し返した時の力が上がっていたこと、死にかけたせいだと勘違いしていた全能感、きっと全てがこのせいだったのだろう。

俺のこのスロースターター(呪い)は体力の減少で解ける。

まぁ、偉そうに長く説明を聞いてくれた所悪いが全部優人からの受け売りである。アイツマジパネェ。

そしてその能力の戻り方、それはステータスを見て貰えばご理解頂けるだろう。元の値超えてるじゃないですかー、やだー。

スロースターターなどと言うもんだからてっきり元の値に戻るものだと思っていたらどうやら違うらしい。数値にして初期値の4倍。元の能力から考えれば2倍である。それで攻撃の辻褄が合わないのは覚悟や斬滅の勇者、剣術、そして剣の+効果があるからですね!

この力のお陰であのモブ山さんの蹴りを避けて死を避けることが出来た。まぁ、ただのスライムに死にかけたのもこの称号のせいなので感謝なんざ一切しないが。そもそも敏捷がいつもと同じだけあったらモブ二人から逃げ切れてたし。

これで呪縛を解く方法は分かった訳だ。次に考えるべきは呪縛を解く手段。

この呪縛を解く為には自らの体力を正確に削る必要がある。しかも徐々に能力が上昇するタイプだから余計に計算が面倒臭い。剣で切りつけて、うっかりダメージ上限越えちゃいましたぁ、じゃ困るのだ。しかも毎度微妙に変わる防御を攻略しなければならない。更にHPを1だけ残すということはつまり半死半生ということ、そのままじゃ戦闘だなんてとてもじゃないが出来ない。

つまりこの呪縛を解くのに必要な性能を要約すると……。

1、“ダメージを完全にコントロール出来る”こと。

2、“戦闘時でも使える程簡単である”こと。

3、“防御によって威力が変動しない”こと。

4、“行動が可能な様に体にダメージが少ない”こと。

こんな都合の良い武器が在る訳……って、ぁぁああああーー!!

そう、在る。

テッテレテッテッテーー♪

拷問用ナイフー。

そう、あのモブ二人からぶっ刺されまくったアレである。

相手に刺されば必ず1ダメージという優れもの!ご使用方法は簡単、ただ対象の肌に刺すだけ!この時鎧とかで肌に直接刺さらないとダメージ入らないから気を付けてくれよな!相手が信じられない位弱くても、逆に防御が信じられない位高くてもご安心。ばっちりの再現性で必ず1ダメージに!更に刺し方1つで体にどれだけ負担を掛けるか自分で選べちゃう!しかも幻痛仕様でアフターサービスも万全!

でもお高いのでしょう?(裏声)

本日限りの大特価!お値段金貨3枚!(定価)

もうおかしくなりそう(裏声)

申し込みはお電話で!

……。一人で通販ごっこやってたら何か空しくなってきたな……。そもそも単一目的で付与までしてるから高いし『その筋』の人しか買わないからめっちゃ余ってるしな。ああ、俺のは優人からもう使わないからって貰った物だ。拷問用ナイフを何に使ったんだよ……。恐ぇよ……。まぁ、自分で自分を拷問する俺よりはマシか。

つまりさっき俺はこの拷問用ナイフで自分を突き刺して一番ベストな状況に持ってきた訳だ。幻痛付きだから痛覚遮断越しにも来るくらいクッソ痛いけどな。まぁ、このナイフは優しく刺せば体のダメージは殆んどないし、幻痛だけなんだから安いもんだけど。とは言うものの最初の1回目は盛大に失敗したな。思いっきり胸に突き刺しちまった……。出血多量でアドレナリンがドバドバ出てるぞ。あー、いってぇな!あの熊が急かすからだ畜生。

え?それが出来るなら最初からやれって?冗談じゃない。別に俺は見せ場を作ろうと溜めてた訳じゃない。単純に考えてみろ。このドーピングを付ければ俺のHPはたったの1だ。一撃で殺されかねない。敵だけでなく“自分にも”だ。何かの手違いで剣がサクッと行ってみろ。それだけで「あっ……」という間にあの世に直行だ。そんな恐いことサクサク出来るか。


「グオオオォォ……」


おっと……。熊の野郎が痺れ切らしたな……。まぁ、俺が長らく放っぽったせいだが。

逃げて時間稼ぎでもしたいがそこら辺の蔦が肌を引っ掻いただけで死にかねない。敏感肌なんでな。正直戦うしか道はない。勝つか、死ぬかだ。


「先手必勝ッ!」


腹を括ったら突撃するに限る。身体を支配してるアドレナリンがいつ切れるか分からないし、切れた途端に動けなくなる。敵前でそんなことすりゃ自殺志願してるのと代わりない。死んだ振りの筈がそのまま振りが取れちまう。これは“経験則”だ。前の時は何とか助かったが2度とやりたいとは思わない。


「グオオオォォ!!」


振り下ろされる腕を掻い潜り熊の野郎を切り払う。刺すのはダメだ。俺に横に切り裂く様な腕力はないし、もし一瞬でも抜くのに時間が掛かればそれで殺られる。

切り払った直後に熊がのし掛からんと身体を此方に倒す。不味い。これに捕まったら一瞬で死ぬ!慌てて熊を浅く切り付けながら熊の横に前転で逃れる。


「アブねッ!!死んだぞ今!!」


ドクンッ、ドクンッ五月蝿い位に高なる心臓の鼓動を手で抑える。今必要なのは本能じゃなく冷徹な思考だ。1度でも視界が狭まれば一瞬でお陀仏だからな。それにポンプが強ければそれだけ血が多く流れる。戦闘時間もそれだけ短くなる筈だ。


「良いぜぇ……。上等だッ!!トコトンまでヤり合おうぜ熊公!地獄の底まで付き合ってやる!剣振り回して戦争だぁー!!」


俺は再び熊に突進して行った……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


林の中に1つの哄笑が響き渡る。天を抱えでもするかの様に手を掲げ、狂った笑い声が上がる。


「俺の勝ちだッ!!」


そう叫ぶ正也の直ぐ横には傷だらけとなり、倒れ伏した一頭の熊が在った。まだ、息は在る。とは言えそれも数分と持たないだろう。既に虫の息だ。

それはまさに激闘であった……。

全てを押し込むかの様な烈迫の気合いで畳み掛ける正也。体重差で押し込む様に戦うレッド・ベアー。互いに互いを死力尽くして食い破らんとする、それは正しく獣の喰らい合いであった。


「ああ、ヤバい……。立ってられない……」


全能感や多幸感に酔いしれていた勝者は、アドレナリンが切れ、更には攻撃を全てかわさなければと気を張っていた物が崩れると、糸が切れた様に地面に倒れる。


「どーだ、ハァ、ハァ…ハァ…ハァ、見たか畜生!やってやったぞ!」


ただ心音が天上の音楽の様に心地よく、このまま目を閉じればそのまま眠れそうな勢いだった。だがそんなことをすれば2度と目覚めることが出来ない位の量の血を流していたし、正也もそれを理解していた。寝入らない様にと疲れた体に鞭を打ち、無理矢理体勢を回復体位に変える。

正也が横を向いたその先で、茂みがガサリと少し揺れた。気になった正也が注視すると、その茂みからにゅうっと1つ顔が覗いた。正也はその光景に1つ既視感と頭痛を感じた。

にゅうっと覗いた熊の顔、奇しくもその茂みは正也と共に倒れ伏す熊が出てきた物と全くの同一の物であった……。


「う、嘘……だろ……?」


「グオオオォォ!!」


仲間の死体を見付け、反応したのか“2体目のレッド・ベアー”は咆哮を上げ、その巨体を正也へと晒した。

ざっと目算でも十メートルは在るだろうその巨体を……。


「嘘だろ?アレで子供ってことかよ……」


もしかしたら子供ではなく番であったかも知れない。だがそれは、正也には一切の関係が無かった。正也が興味関心が在ったのは生と死のことだけである。どうであろうと今目の前に死が存在しているということに一切の変わりは無いのだから……。


ドシン!ドシン!


一歩、一歩。確かな実感を持って正也へと近付く。その重量が地面に伏している正也には細かく伝えられた。それだけで、恐怖を与えるには十分であった。


「グオオオォォ!!」


死ぬ!マジで死ぬ!逃げないと!

そんな気持ちとは裏腹に正也の体は腕が力なく辺りを何か助けになるものを求めてさ迷うだけであった。ドシンドシンとサーカスで飼われた熊の様に二足歩行で近付いてくる恐怖の赤い熊。正也には縮まって行く距離が死との距離の様に思えて仕方が無かった……。

動け!動け!動けぇぇええええ!!

必死で体に動く様命令するが体は一向に言うことを聞かず地に立てた腕がプルプルと震え、あえなく潰れてしまう。

レッド・ベアーはそんな正也へ自分の間合いまで近付くと正也を無慈悲に見下ろす。その目の意味はこの獲物は自分の腹に入るかどうかを見定める物である。そしてレッド・ベアーは前足を下ろし、死の一歩手前に居る正也を嗅ぎ回る。

その感覚に正也は冷や汗が止まらない。死神の吐息が背筋に掛かるのを感じた。

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。俺はまだ一杯やりたいことがあるんだ。向こうの世界に戻って母さんにありがとうって言いたい。秀人とだって仲直りしたい。片付けなきゃいけない人間関係だってある!

俺はまだ生きたい!!


「死んで!たまる……かァ!!」


死力を振り絞って近くにあった熊の顔を殴り付ける。ポコリともポカリとも言えない様な情けない音が鳴った。……だがそれが正也の限界だった。


「グオオオォォ!!」


敵を倒すという生きるための最善の努力。それは逆に正也の寿命を早めることになった。中途半端な攻撃とも言えない様な攻撃に熊は苛立ち、咆哮するとその大きな口を開け、正也に迫る。


「死ねない!まだ死ねないんだよ!俺は!!」


ガシュリ。


しかし、正也のそんな思いも天に届くことはなく、熊の顎は無慈悲に閉じられた。


「グアアァァァアアアアアアアアアアッ!!」


先ず痛覚が強烈な痛みを正也に伝え、次にミシリ、ボキッと自らが噛み砕かれる音が骨伝導を通して聞こえてくる。そのあまりのおぞましさに正也は思わず悲鳴を上げた。

死にたくないと本能が軋みを上げた直後、何処かの冷静な部分がどうして死んでないんだ?と疑問の声を上げる。事実、HPが1だった正也はこの熊の1撃で死んでいる筈である。


「≪身代わり≫。正也からその汚い足を退けろ。早くしろ。僕は今極めて不愉快だ」


その声に頭ごと動かし後ろを向けば額に青筋を立てた優人が此方を睨み付けていた。

ああ、やっぱり優人か……。それにしても僕、か……。懐かしい口調だな。

正也がそんなどうでも良いことを考えている間にも優人は目にも止まらぬ素早さで十メートル程の距離を詰めると正也の上を切り払うとレッド・ベアーを無理矢理退かした。


「大丈夫か?」


「大丈夫そうに見えるか?」


死にそうだよ、と目で訴え掛ければ少し安心したのかその憤怒の表情にほんの少しの笑みが垣間見えた。


「神頼みってのは……届かないモンだな。不運ったらねぇぜ」


この世に神なんて者は存在しないに違いない。もしそんな奴が居るなら今が助けるべきチャンスだった。きっと俺が出会ったクソ神は悪魔か何かの変装だったに違いないのだ。


「心配するな。正也の思いは僕に届いてる。僕が必ず助けるさ」


優人はそう言って俺をそっと下ろして熊に向き合った。

最後に助けるのは神でなく人、だなんて言うがそりゃ嘘だ。神なんて1度たりとも助けやしない。結局頼れるのは自分と人と少しの運くらいの物だ。頼れない物より頼れる物の方が圧倒的に少ない。そんな中、優人に出会えた俺は余程の幸運だろう。正也は心底そう思った。


「コロス」


正也は氷の目でそんな言葉を熊に吐き捨てると熊に向かって飛び掛かった。


「マジかよオイ」


それは蹂躙だった。確かに力や体格、レベルはレッド・ベアーの方が圧倒的に上だ。だがそんなレッド・ベアーの攻撃を鼻で笑うかの様に悠々と避ける優人。この短時間で行動すら見切ってしまったのだろう。攻撃が出る前から避けている節すらあった。代わりに熊の体には既に多くの傷が刻まれている。どれも浅く、毛のみを切り付けたなんて物もある程節操のない物だが正也には分かった。アレは甚振っている。どうやら熊はよっぽど優人の怒りを買ったらしい。これは簡単には許して貰えなさそうだ。甚振るなんてことが出来るのは熊と優人の力関係に隔たりが在るのだろう。

片やあの半分のサイズの熊と同格、片や巨大熊を圧倒。その事実を認識した正也からは思わずボソッと言葉が溢れた。


「主人公かよ」


自分の力で状況が変えられないと気付いたのは何時の頃だろう。日々に自分が埋没していく感覚を覚えたのは何時の頃だろう。教師から理不尽を教えられた時?一生友と思った親友といつの間にか疎遠になった時?それが何時だったかは分からないがきっと優人と出会った時から後のことだ。俺と優人の戦績は35戦全敗。アイツは何時だって俺に無力を教えてくれる。

今の俺を見てみろ。惨めだ。日々に埋もれ切ってそれに疑問を持ちながら仕方がないと諦める。かと思えば魔物に呆気なくやられて虫の息だ。そんな俺を颯爽と現れてそれが当然だとばかりに救って行きやがる。

見れば優人は熊の右腕を切り飛ばし、逃げようとする熊に回り込んで逃がさない様にまでしていた。


「ふざッ……けるなよ」


主人公かよ。その呟きが全てだった。

分かっていたことの筈だった。ダーク系主人公だって。知っている筈だった。世界なんて変えられないと。

だが、何故だ。何故突き付けられる現実がこんなにも胸を抉る?何で今の現状が、俺の誇りを傷付ける?プライドなんてもうとっくのとうに捨てたと思ってた。でも、本当に思っていただけだったらしい。

今、その捨てた筈のプライドが、本能が、世界なんて変えられる、お前はもっとやれる、だなんてほざきやがる。そんなことはもうとっくに試した。そして砕けた。35回も試して、そして無様に負けた。何度やろうが結果なんて分かりきってる。


「ぐぅあぁ!」


立ち上がろうと肘を立てて力を込める。少しだけ浮き上がった体からびちゃびちゃと血液が滴り落ちた。

バカだと思うなら笑え。今俺は、変えられると思ってる。


「退け!優人!!」


近くにあった剣を拾い、倒れそうになりながら走ると優人に大声で警告する。それだけで俺が何をするのか察した優人は即座に熊の左足を切り飛ばすと戦場から離脱した。

体がバラバラになりそうな痛みを無視しながら、スロースターターで強化された筋力で高くジャンプする。熊の身長程まで上昇した正也は、そのままの勢いで逆手持ちの剣を熊の胸にに突き立てた。


「グオオオォォ!!」


熊は悲鳴を上げ、血しぶきが舞う。


「死ねぇぇぇええええええっ!!」


顔に血しぶきが飛ぶが気にしている場合ではない。グリグリと剣を捩じ込み、より深くへ押し込んで行く。熊の抵抗が無くなっても油断せず態勢は崩さない。


≪経験値を獲得しました≫


久し振りの天の声が聞こえてきて、漸く手に込めた力を抜く。へにょへにょと情けなく倒れ込んだ俺は今度こそ大の字に寝っ転がって安堵する。ついでとばかりにどれだけ経験値が入ったのか確認してみる。するとたったの1だった。どうやら経験値は貢献度によって自動的に振り分けられるらしい。経験値1じゃ流石にレベルも上がらない。まぁ、俺は結果的に言えば最後の止めを差しただけの寄生プレイだし仕方ない。俺の初めての経験値か……。


≪経験値を獲得しました≫

≪レベルが上がりました≫

≪レベルが上がりました≫

≪レベルが上がりました≫

≪レベルが上がりました≫


どうやら漸く一体目の熊もくたばったらしい。天の声が聞こえてきたと思ったら猛烈な勢いでレベルが上がって行った。レッド・ベアーという種は例え子供(?)でも格上らしい。猛烈にレベルが上がったせいで俺の初めての経験値どっかに紛れちゃったよ。いや、まぁ、そりゃ嬉しいんだけどさ……。んー、でもやっぱ俺的には1の経験値の方が嬉しいかな。

痛みもレベルが上がってHPが増えたのか少し収まってきた。もしかしたら死の直前で何も感じなくなって来ているだけかも知れないが。


「あー、これでやっとこさ休めるぜ……。服が汗と血でベトベトだ」


「ポーションは一応一瓶だけ持って来てるけど傷はイテナさんに治して貰った方が確実だと思うよ?」


あの人そんなことまで出来んのかよ。最早魔王じゃなくてラスボスの可能性すらあるな。


「しっかし良く俺が危ないなんて分かったな?そんなに悲鳴がデカかったか?」


俺が尋ねると先程の光景を思い出したのか優人は顔を顰めながら答えた。


「ああ、元々呼びに来ようとはしてたんだよ。そしたら急に正也の居る方向から熊の咆哮が聞こえてきて……。それでさ」


「呼びに?ああ、もう直ぐお昼か?」


確か集合時間がそうだった筈だが……。いや、それにしても早過ぎるか。確かまだ1時間以上は在った筈だ。それくらいの時に熊と遭遇した訳だしそれ程長い時間戦っていた訳でもない。


「いや、違う」


だよな。


「じゃあ何でだ?」


俺にはもう答えの候補が残って居なかったのでこれはもう聞いてしまった方が早いと思い素直に聞いた。

そうして優人が見せたのは、登場して来た時と同じ青筋を額に浮かべた表情。つまりはブチ切れた時の顔だった……。


「咲良が何者かに拐われた。一旦話し合うべきだと思って」


「は!?」


どうやら休めるのはまだ先の様である……。

追記しました。


正也の思いは僕に届いてる(物理)。

来週は忙しいので更新を休みます。


ブックマークとか感想とか凄い励みになってます。一件増えたとか減ったとかで一喜一憂してるのでもっと強いメンタルが欲しいです。ねぇ、サンタさん?

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