78魔法の代償
――――イテナ視点――――――――
冒険者ギルドに登録してから宿屋に戻り、一日置いた後のことだ。
ぽーかーとやらでマサヤを追い出したユウトが俺を用事があると宿屋の外に呼び出した。
「何か用か?」
俺が先んじてそう言うとユウトは安心したのか一つ質問が、と聞いて来た。
「足はどうかなされたのですか?」
それを聞いた俺はホゥ、と感心した。完全に隠し切れて居る者とばかり思っていたからだ。
「ホゥ、どうして分かった?」
「宿屋の者が私にあの人は足が悪いのかと聞いて来ましたので」
カマを掛けられたか。これはしまった。宿屋の者が気付く訳がない。その程度には隠蔽の技術は修めている自負がある。恐らくは何処かで疑問に思ったのだろう。それを今ここでハッキリさせる為にカマを掛けたのだろう。しかし何でバレたか。覚えがないな。
「なにでバレたのだろうな。後学の為に知りたいのだが」
ユウトがその体を保つつもりならば此方としては乗るのも又一興だ。恐らくは俺にユウトに対する警戒心を抱かせない様にするのが目的なのだろうがそれを俺が分かったのは分かっている筈。彼なりの高度な遊びだということか。頭の良い奴の考えることは良く分からん。
「庇うことをしなかったからでは?」
成る程、意識し過ぎていたということか。次からはそれも考慮に入れるとしよう。
「水が掛かった時か。失策だったな」
「ええ、貴方でなくとも避けられたでしょう」
庇うことから足が悪いという発想に至るのを阻止しようと思ったのだが、考え過ぎ、それどころか逆にそれがユウトに不信感を抱かせた訳か。ままならん物だ。
「ギルドで魔法を使っただろう?これはその代償だ」
俺はユウトに足の部分の着衣を捲り、中を見せた。その中に足は無く、ただの空洞だった。実は今俺の左足は太ももの中程辺りから存在しない。そこにはただ空洞があるだけだ。
「これは……」
流石のユウトもここまで物理法則に反することは想定外だったのか軽く絶句する。この足を隠す服と靴は魔法で動かしている。体を支えるのも同様だ。サーチが隈無く張り巡らされている重要地では別の方法を考えなければならないが、街中程度ではこれで十分だろう。
「ポーションでも掛けたらどうです?」
「水薬?」
初めて聞く単語だ。疑問に思って聞いてみるとユウトは軽く笑った。
「ああ、ただの冗談です。気にしないで下さい。正也に借りたゲームの中の物ですが、どんな傷でも癒す物が有りまして、世界が良く似ていたので、あり得ない物の代名詞として使いました。単語くらいは有ると思ったのですが」
「成る程、ポーションか。探してみても良いがあまり効果はなさそうだな」
「というと?」
「何度も言うが俺は分身体だ。この体は全てが魔力で形造られている。人体の魔力や個人の設計図を魔力構成と言うがそれとは別に魔力で構成されている訳だな。そう考えると体組織を治す薬は効かない筈だ。
必要な魔力は本体の全快時の魔力と同等だ。分身が持つ技術、思考形態は本体のの命令に従うという一点を除いて本体と全く同じ。分身が消えた後は意味記憶のみが本体に送られ分身が経験したこと、体験した記憶については破棄される。俺はこの与えられた魔力が尽きるまで動き続ける損壊前提の消耗品だ。
具体的な期間は、そうだな。ただじっと動かずに過ごすなら150年。通常の動作を行うならば100年足らず。魔法を使う戦闘行為を行うならば5年と持つまい。
中でもギルドで使った魔法は費用対効果が非常に悪い。しかも代換品が無いというおまけ付きだ」
ここまで言っただけでユウトはピンと来たのか正解を口にする。
「時間回帰魔法、ですね?」
「良く見ていたな。その通りだ」
ギルドに有ったあの水晶を復元する時に使用した魔法だ。あの高が半径数十センチを数秒戻す為に莫大な魔力を必要とした。魔力で構成された体を分解して使わねばならない程に。寿命で言えば後1年も持つまい。俺の本体から与えられた命令(魔王暗殺に関した本体との橋渡し役)の期限は1ヶ月だからそれに支障は無いだろう。
「俺の他に使用者が居なくてな。質を上げる為の術式創りに関しては最近殆んど進歩がない。頭打ちも良い所だ」
開発、推敲、使用の3過程を一人でやっているのだ。研究に割く時間も無いし、空間魔法と同じく少々手詰まりを感じている。この世界に誰か他に使用者が居れば研究が捗るかも知れないな。
「で、どうだ?俺に勝つのに使えそうか?」
俺はユウトを信頼している。確実に裏切るだろう、とな。頭の良い男だ。勝算の無い賭けはするまい。俺に反旗を翻す時は勝てると確信した時だ。それは逆に言えばまだ勝てないとユウトに思わせている限りは利益に忠実で、頭の良い、上質な手駒を所持し続けることが出来る。
「いえ、その話が本当だとしたらまだ差は大きいですね。ブラフでも今の私たちではこのハンデ状態の貴方にすら勝てません。恐らく、どんな手を使っても、です。
ですが必ず見付けますよ。貴方を殺す1手を。このままでは平和は生まれますが、その平和は貴方の意思1つで簡単に覆されますからね。その様な不確かな物に縋る気はありません」
「疑り深い物だな。利用価値の有る物を放り出す馬鹿が何処に居る。使い減ってゴミとなるまで大切にするさ。君達は自らの利用価値を示し続ければ良い。勇者という俺の隠れ蓑としてな。簡単だろう?」
「貴方は何処まで行っても分身です。貴方の情報を客観的に判断した本体が同じ判断に至ると確信出来ないですし、仮にそうなったとして、私達の利用価値が永遠に続く等という妄言を吐くつもりですか?」
この話し合いはどこまで行っても平行線だ。ユウトが最も尊ぶのは合理性。目的の為ならどのようなことでも呑み込む代わりに目的に対して一切の妥協をしない。故に不確定性のある物は許し難いのだろう。利益の為ならどんな危ない橋でも渡り、勘にでも頼る“我々”の様な者とは違うのだ。実に残念なことだ。ともすればイテナの名も継げただろうに。
そこまで考え、俺は不愉快になった。これではまるでバルサムと俺の関係の様だと一瞬思ったからだ。俺はこんな愚かな餓鬼に自分を重ねたのだ。
ユウトは賢い。だが、根は愚かだ。例えるなら知恵を持った子供か。危険を全て排除すれば安全になると思い込んでいる。なまじっか頭が良いからそんな無茶が出来てしまう。なんとか今まで無事で済んでいるがその幸運が長く続くとは限らない。
そんなことだから“お前”は守るべき物を失ったのだ。
リンを殺したのは俺のそんな愚かな考えだ。
「ああ、失礼、用事が出来たので失礼します」
「ん?どうした?」
考えに夢中になっているとユウトが唐突にこの場の退出を求めて来た。
「正也との思考リンクですがこっそり0、1%を保っているんです。これなら危険が有った時に直ぐ分かりますから」
「それに引っ掛かった訳か。良いだろう。好きにしろ」
俺が許可を出すと目覚ましい速さでマサヤの元へ走っていった。
「ユウト、お前は守るべき物を守れるのだろうか……。さて、ポーションでも探すとするかな」
1度書いた奴が吹き飛んだので遅れた+短いです。
ご容赦下さい。




