77砕けた牙を
すみません!!!!!!!!!!
遅れましたm(__)m
――――正也視点――――――――
「あー、やってらんねぇよ畜生」
あの優人が交渉ゲーム負け事件の後一日置いて俺が何をしているかと言うと冒険者ギルドに初クエストを受けに行ってる訳だ。
いや、訂正しようパシリだ。
「全く優人の奴自分で行けっつうんだよなぁ……。なぁーにが悲しくてこの年でお使いに行かなきゃなんねぇんだよ」
俺がこうしてぱしられて居るのも昨日優人も異世界来て勝負勘が鈍ってるかも!とポーカーの勝負挑んで三回連続ロイヤルストレートフラッシュ食らって呆気なく死んだせいである。
いや、三回連続ロイヤルストレートフラッシュとか普通に考えると明らかに可笑しいんだが、俺と優人の勝負は常にローカルルールとしてバレなきゃイカサマOKってのがある。
まぁ、ルール無用と言い換えても良い。
以前俺が喧嘩しようと持ち掛けてワンダウン勝負な?と決めた後「勝負しようとは言ったがタイマン勝負とは言ってない」として俺が小金持ちの私兵10人連れて来てフルボッコにしようとしたことがある。
その後優人に口八丁丸め込まれてそれから優人と勝負する時はイカサマOKのバーリトゥドゥバトルとなった訳だ。
ご免、言いたかっただけ。バーリトゥドゥバトルって自由なの一方だけだった訳だし。気にしないで。
因みにその後で優人、俺をワンダウンして勝ったのでオカシイ。アンニャロ隙見て俺の顔に催涙弾投げやがった。あん時ゃ目を開けられるまで2時間掛かったぞ。何入れた。
昨日のカードバトルも何らかのイカサマ仕込んだ筈だ。シャッフルは二人でしたからカード並び把握してのパーフェクトシャッフルは無いと思うんだけどなぁ……。案外カードのシャッフルを目で追ったとか?不可能の筈だけど優人だからの一言で片付けられそうな気がする。
因みにカードは放課後何時やっても良いようにでやるセカバンに入れてあった。寝る以外時間の潰し様がない異世界ではとても重宝している。オセロとかも持って来りゃ良かったな。
次はどうやって撃ち破ろうかと考えて始めて気付く。あれ?優人に挑んだのって久し振りだな、と。
俺と優人の個人戦績は32戦全敗。今回の三回勝負を合わせると35戦全敗だ。だからこそギルド長との交渉ゲームに負けたのは驚いたし、勘が鈍ったのか、神様に頭弄られたのかと疑った。それを疑う位には俺と優人の間には既に格付けが済んでいるのだ。
負けると分かってる試合に好んで挑むなんて只のドMである。
では何故挑んだ?まるで“勝機があると思った”かの様じゃないか。
その思考に陥った瞬間俺は顔から火が出る程恥ずかしかった。
優人は主人公だ。ダーク系主人公。地元の進学校だった中学で勉強せず1位を取り続け、日夜GAL主催のげーむ大会に出場する誰がどう見ても主人公。
対して俺はどうだ?ただのモブ。ただの主人公親友ポジ。
能力の差は痛い程分かってるつもりだった。戦績が主人公と親友ポジの差を叩き付けてくれたと思っていた。それが、ただのつもりだった。まだ甘かった。もしかしたら能力貰って(奪われて?)少し浮かれていたのかも知れない。もっと自分の立場を弁えないと……。
その様な怠け者の天才の考えに沈んでいた正也は気付かなかった。かつて砕けた牙を研ぐ機会が目の前まで迫っていることに……。
ドンッ。
「おっと、ワリィ……って、あちゃ〜」
「痛ェな!ドコに目ェ付けてやがンだ……って、あ?」
俺が考えに集中してたせいで前方不注意に陥り道行く人にぶつかってしまった。慌てて謝ろうと顔を上げると、そこに居たのは優人とイテナさんにボコられたモブ山さんとモブ川さんだった。
覚えていらっしゃらない方の為に説明するとローレンさんの親衛隊だ。思い出した?それとももっと混乱させた?
コイツらてっきり死んだと思ってたのに!使い回しが荒いんだよ!死者復活祭りか!死んでた奴はそのまま死んどけくそったれ!
「いつぞやの勇者じゃねぇか〜。良いところで会ったな?なぁ?」
やべーやべー。確かギルドの規約じゃ私闘には関与してない。死ぬのは戦力低下になるからペナルティがあるだろうが逆を言えば死にさえしなければやられたい放題じゃねぇか。
「勇者?頭でも打ちました?お伽噺を信じるのも良い加減にしてください。全く、付き合って損しましたよ」
ガシッ。
「オイ、誰が逃がすか。覚えてるぜェ。お前勇者と一緒に居ただろう」
モブ川さんが俺の肩を掴み止める。
ちっ、別人になって自分が間違ってるのかな?と思い込ませる作戦失敗。
いや、これマジでヤバい。こいつらは実力は多分同じ位だろう。口調から対等な関係であることが分かる。
つまり二人とも“こめかみを接射されても死なない”レベルで強い訳だ。しかも俺は元居た世界の時の2分の1の力で戦わなくてならない。優人が撃ったモブ川さんが偶々防御に極振りでない限り俺に勝ち目はない。壮絶な無理ゲーである。
というか俺が勝ち目のある奴なんか居るのか?初めての魔物がノーダメクリア前提の俺だぞ?
後、ステータスと言えば新たに判明したことがある。
これを見てくれ。
――――――――――――
装飾過多のロングソード
高名な細工師が丹精込めて作り上げた物。切れ味を捨て、どうすれば見る者にとって美しくなるか考え尽くされている。美術品的価値が高く、相当の高値が付くことが予想出来る最早装飾品。
効果 攻撃+1
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そう俺の鑑定レベルが5に上がって物を見ることが出来るようになったのだ!ババーン!(SE)
まぁ、ツッコミたい箇所は多々ある。
例えば先ず、作ったの鍛冶師じゃねぇのかよ!とか、実戦に使う勇者に実戦的じゃない物渡すなよ!とかだ。
どうやら俺達はこの剣の使い方を間違えていたらしい。これは敵を切る道具じゃなくて売って資金を稼ぐ為の道具である。
ただ俺はこの鑑定結果から大変なことに気付いてしまった……。
現在俺の防御と攻撃にはかなり開きがある。剣の補正と剣術の補正を合わせると比率的には1:4である。正確にはスロースターターのせいで1/2:2だ。
何が言いたいか分かったか?
俺はこの剣を持ったまま転べばダメージ換算システムが俺の俺への攻撃として判断し大ダメージを食らい兼ねない。
てか下手すると死ぬ可能性すらある。
可能性があるというだけだがそうなる可能性が万に一つでもある限り自分で試したいとは露程も思わない。当然だ。
俺はかつてMrs.Bのアシッド的なサムシングを避ける為に顔面ヘッドスライディングを噛ましたが、今考えるとアレ、相当危険な行為である。
もしあの時剣を抜いていたら1発ゲームオーバーだった可能性がある。
全くそんなトラップがあったとは全然気付かなかった。
範囲即死攻撃に避けたら死亡とは無理ゲー越えて噴飯物である。
ふざけるな。
ていうか俺もう転んでも死ぬとかそこら辺飛んでる蚊より弱いんじゃないかな……。
泣きたい……。
さて、以上の事柄を持って現在俺の状況を整理しよう。
俺の前には明らかにリンチしようとしてるモブ川さんとモブ山さん。
先ず逃げたら敏捷の値の開きで確実に捕まってアウト(その時転んでもアウト)。次に戦いを挑んでも即殺でアウト。そのままリンチに身をまかせても防御紙以下だから一撃で即死しかねないアウト。スリーアウトでゲームセットだチクショウめ!
……詰んだ。
もうこれ状況から見て確実に詰んでる……。あぁ、最初のチンピラに殺されるなんて……。短い異世界生活だったなぁ……。
俺がこの世の諸行無常を嘆いて居るとモブ山が俺に向かって言った。
「じゃあ、来てもらおうか?」
Hahaha。遂に来たか。
「それじゃ、サヨナラ!」
ビュン。
風のように二人の冒険者の横を抜け、走る。我ながらいっそ清々しい程の逃げっぷりだ。
こちとら(主に咲良のせいで)ヤンキーに絡まれ慣れてるだよ!冒険者がナンボのもんじゃい!
咲良は度を越えた不幸体質であるので色々厄介事を引き寄せるのである。いわば主人公である優人を目立たせるピンチを作り出す訳だ。だがそこは優人クオリティだ。そんじょ其処らのピンチじゃ揺るがない。ヤンキーに絡まれようが鼻唄混じりに撃退出来るだろう。必然咲良のピンチを引き寄せる力は強くなる。
で、その力に一番割を食うのは俺だ。何せ保育園から一緒の幼馴染みである。優人より一緒に居るのだ。何度ヤンキーに絡まれたことか。絶滅危惧種であるのが信じられん。
それどころか優人と出会う前の保育園の時すら誘拐されてたしな。あん時ゃ骨折ったぞ。どれっだけ探し回ったことか。
まぁ、それはさておき絡まれ慣れてたお陰でこういう時の対処法はバッチリだ。逃げる→優人を呼ぶ!、これで万事解決!
まさか咲良無しで遭遇するとは思わなかった。少しショックだ。ただ咲良(守るべき存在)が居ない今、逃げ放題という考え方も出来る。大手を振って逃げるのは今だけの特権だ。
「待てやコラァ!」
一瞬呆けていたモブ二人組も我に返って俺を追い掛けるも既に20メートルは差が出来ている。
ちっ、遅いな。いつもならもっと速く走れてもう逃げ切ってる筈なんだが。これも敏捷が1/2になってるせいか……。
そしてモブ二人が走るといきなり風切り音が響いた。
ブオン!
「臆病者がぁ!」
はえぇ!
人間の初速じゃねぇよ!こりゃ直線だと直ぐ追い付かれる。角利用しねぇと。俺は街の路地を細かく縫って移動する。とにかく角を曲がり続け、小手先の勝負に持ち込む。これならモブ二人はスピードを出し切ることが出来ない。
だが、これは諸刃の剣だ。
「うおっ!行き止まり!」
角を曲がった先に唐突に柵が現れ行く手を阻む。
「止まれねぇ!」
後ろにはもう迫っている。退路は無い。俺は走る勢いそのままに右側の煉瓦壁を蹴り、ギリギリで柵を乗り越える。
ゴロゴロ……。
「ぶねっ!死ぬかと思った」
これが取り越し苦労にならないのがツラい所だ。
でもこれなら……。
また走り出しながら後ろを向くと。
「待て、この腰抜けがぁ!」
「逃がすかぁ!」
モブ二人が叫び、がしゃっ。と音がしたかと思うと鉄製の錆びた柵がひしゃげて彼らの為に道が開く。
「ダメか……」
恐らく立ち止まれば次は俺があの鉄柵になるだろう。待てと言われて待つバカが何処に居る。
かと言ってこの調子じゃ宿まで持ちそうも……。
そうして考え事をしたのがいけなかった。
そのせいで角を一つ曲がり損ね、そして、それは二人が追い付くには十分な時間だった。
「ウラァ!」
その声に驚き後ろを向くとそこにはジャンプをしたのかモブ川が宙に浮いた状態で此方にナイフを向けていた。
確実に的中コース。咄嗟に顔の前に腕を交差させて防ぐが、そんな物は役には立たない。そのナイフが突き立てられれば腕などはまるで紙のように何の抵抗もなく頭に刺さるだろう。それ程の力の差が俺達にはある。
そして、そのナイフは、主人公にあるようなご都合主義もなく、普通に、俺に突き刺さった。
……。
「ギャー、死んだ死んだ!痛い痛い痛い……って痛くない?」
いや、痛い。確かに痛いが、死ぬほど痛いということもない。何ならさっき柵を避けて転がった時の方が痛かった位だ。
スライムであれだったのだ。それを狩る専門業者である冒険者。彼我にこれだけの戦力差があれば一撃で死ぬのは当然だと思ったのだが。
それでも腕に痺れを感じてこわごわ目を開けると腕に確かにナイフが刺さった痕が有る。
「?」
そんな場合でないにも関わらず頭にクエスチョンマークを浮かべていると答えが上から降ってきた。
「このナイフは拷問用のナイフでな。どんな相手でも肌に刺されば必ずHPを1削ることが出来る。1なんて微々たる物だから直ぐHPは回復されちまう。つまりは痛みだけを永遠に与え続けることが出来る。“死刑”にペナルティが付く冒険者ギルドじゃ重宝するぞ?」
成る程、俺のHPは今20だから後あのナイフを20回食らえば死ぬ訳か。
「へ、へぇー♪な、何て恐ろしい武器だー(棒)」
良し、完璧な演技だ。これで騙せただろう。
「何喜んでんだお前?変態か?」
あれっ?
何で俺の完璧な演技が?
「まぁ、良いや」
ふぅ……。アブねぇ。折角あの手加減ナイフ使ってくれるってのにフイにしたら意味無い所だった。因みに誤解の無いように言っておくが俺はドMではない。優人に勝負を挑んだのも結果全敗になっただけで全部勝機があったからだ。負けたかった訳じゃない。
今回のもそうだ。別に望んで痛みに合いたい訳じゃない。一回で死ぬ武器と20回で死ぬ武器のどちらを食らうのか選べるなら誰だって20回を選ぶだろう。
「まぁ、変態の仲間ってことはアイツらの人柄も知れるがな」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全身の血が逆流した。
「てめぇ今なんつった」
俺が優人の親友だっていうのはもしかしたら天に与えられた筋書きの上なのかも知れない。
「あぁ?変態の仲間は変態だって言ったんだよ」
でも俺はその役割を選んだ。例えそれが逃れようのない運命だとしても俺はその運命に従うことを選んだんだ。
だからこそ。俺は優人のちゃんとした親友でありたい。主人公親友ポジじゃなく、優人個人の親友として。
「俺のことは何言おうが良い。糞味噌に言えよ。所詮はモブだ」
もし、親友の悪口を言われたのなら怒るのが親友だと思うから。
「ただなぁ……。俺の親友の悪口は聞き逃せねぇ」
村山正也は傷だらけの体を持ち、折れた牙を携え、掛けた爪を備えたいかにもボロボロな獣。
その大きさや強さは隣に在る一頭の猛獣には敵わない。
だが、それでも。ただ一頭の獣であることは紛れもない事実なのである。
「待ってろよ優人。お前の代わりに必ずぶん殴っといてやるからよ」
元獣(主人公)は静かに砕けた牙を研ぐ。




