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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
76/107

76過去の日々に無駄はなく……

よし間に合った。

――――虚無視点――――――――


私が店から出ると向かいから幾人かの男が私に向かって来た。勿論、私の色香に惑った訳では無く、単純に私の“兵隊”だ。


「あら、坊や。どうしたの?護衛は要らないと言っておいた筈だけど」


坊や、と呼ばれた男は貴公子の様に目鼻立ちがハッキリしており、其処らの女ならば靡かずには居られない風貌をしている。


「組織のトップがこんな所に護衛無しとは困る。奴等がどれだけ手勢を率いて居るか分からない。危ないだろう」


別に組織のトップではなく“実質上の”トップなのだけど、その件については置いておきましょう。私がより気にするべきは他の部分ね。


「危ない?危ないですって?ハハッ、暗殺ギルド(ウチ)の誰かがその台詞を聞いたら笑い転げるでしょうね。貴方コメディアンでもして道行く人から日銭を稼いだらどう?才能があるかも知れないわよ?

私があいつらの使う兵隊位で危険を感じる訳が無いでしょ?バカバカしい。お化けの格好をした子供に怖じ気付く大人なんて居ないわ。考えるのすら億劫ね。賭けても良いわ。彼らの兵隊を全て集めても私の半分のチカラにも及ばない。全財産巻き上げられる覚悟、しといてね?」


虚無は坊やと呼ばれる青年にウィンクすると高級店が建ち並ぶ路地を軽やかに歩く。余程坊やが言った“ジョーク”がお気に召した様だ。しかし、坊やにしっかりと釘を差しておくことも忘れない。


「全く、そんなだから何時までも他から『超人』(坊や)なんてバカにされるのよ。大体、貴方に一体どんな取り柄があるのか教えて欲しいわ。戦闘力は『双龍』に圧倒的に劣る。『夢魔』のような情報収集も出来ない。『狂人』程の執着心もない。貴方が得意としてる全能力特化による対応力さえ『未来人』に及ばない。こんな無能が良くも今まで生きてこれた物ね」


超人とは、特筆すべき能力がないことへの蔑称。ただ弱点が無いだけで大した得意分野もない。何もかもが中途半端なのだ。例えるなら帯に短し襷に長し。使い辛いことこの上無い。

しかし、彼を弁護するなら超人は酷く優秀だ。剣、弓、槍など武器全てに適性を持ち、属性魔法も聖霊に気に入られやすい体質を持つことで擬似的に3属性を使うことが出来る。超人とは正しくその意味を持った超人であり、産まれた場所が違えば勇者等と持ち上げられていただろう。それほどの才能を持つ紛れもない天才だ。ただ、暗殺ギルドに於いては精々がそのレベルだというだけのこと。

『黒雨』(当時)であれば容易に刀のみで切り伏せたであろうし、『双龍』や『虚無』においては手も触れずに倒すだろう。実に哀れな存在だ。


「まぁ、それでも折角幹部になれたのだから頑張りなさい」


今の坊やと呼ばれる青年の地位は見習い幹部である。超人の二つ名を名乗れることから間違いなく幹部だ。正確には少し前に抜けた黒雨の突然の引退により繰り上げで幹部となったのだ。お陰で実力は他の幹部には少々足りないがしかたなく組織の上部に組み込んだのだ。


「ああ」


内心忸怩たる思いを抱きつつ頷く『超人』に虚無は1つの質問をした。


「それで、此方の方はどなたかしら?見覚えが無いのだけれど……」


坊やに目線で彼の隣に立つ幾人かの男を示す。坊やとは違って彼らに面識はない。兵隊とは思えない程若く、ほとんど子供と言っても良い年齢だ。そして何よりみずぼらしい。それこそまるで何処かの浮浪児のような……。


「ああ、忘れていた。この者達は傘下に入りたいと訪ねて来た者だ。ボスは忙しいと言ったのだが聞かなくてな。無理矢理ついてきたのだ」


「ウスッ、ご説明の通り『捨て鎌り』の代表エリオットだ。はえぇ話が俺達はあんたらの傘下に入りてぇ。勿論、今後あんたらに従うし上納も納めるつもりだ。他にも言いてぇことが有ったら言ってくれ。ある程度までは呑むつもりだ」


随分と此方に都合の良い条件ね。まぁ、そうしたくなる事情も分かるけど。


「オイ、無礼だぞ」


超人がエリオットの無礼を嗜める。それに対してエリオットは申し訳無さそうな顔をしつつも口調を直すことはしない。より正確には出来ないのだ。


「すまねぇな。マトモな教育受けてねぇもんでよ。ドブに済む家畜の戯れ言とでも思って流してくれ」


エリオットは教育という物を受けたことがない。仕事を拾う為に看板を必死で覚えたり、帳簿を掻っ払って死に物狂いで簡単な読み書き位は覚えたが、とうとう荒い言葉遣いは直ることはなかった。


「私に会いたかったのなら彼処の店に入れば良かったでしょう?」


虚無が分からなかったのはそこだ。別に店の前で待てば確実に会えたことだろう。態々見逃す可能性のある路地で待つ必要はない。その後どうなるかは別にして会うという目的だけは達成出来た筈だ。


「餓鬼がでしゃばること程目障りな物もねぇでしょう」


「オイ!」


あまりにも無礼な物言いだ。それこそ餓鬼がでしゃばるとは生意気な!、と首をはねられかねない。


「ハハハハハハ!」


しかし、それを聞いた虚無は綺麗な口を大きく開けて笑い出した。暫く哄笑すると漸く収まったのかニヤリと口を歪めて言った。


「良い度胸ね。気に入ったわ。私の直轄にしてあげる。『捨て鎌り』ね。聞いたことはあるわ。まだ歯も生え揃ってない内から“国に”喧嘩を売ったんですってね。その名前は裏まで響いて来たわ」


「なッ!」「ありがてぇ」


超人は幾つかの驚きに包まれた。

先ず1つは虚無直轄の傘下にしたこと。これはあまりに前例が少ないことだ。超人が覚えている限り直轄の傘下にしたのは『黒雨』ただ一人。しかもこういう外から入り外で活動する輩は外傘として幹部の傘下として活用するのが通例だ。いきなり(実質上の)トップの直轄傘下として組織する程信用していい者ではない。

そして2つ目が『捨て鎌り』が国に喧嘩を売った事実だ。流石にその様なバカなことをした奴らが存在したことは知っていたが、まさかそれがこの様なみずぼらしい子供達だとは思わなかった。年端も行かない子供が反乱軍を気取った所で叩き潰されるのは目に見えている。態々そんなする必要のないことをするのが信じられなかったのだ。

そして最後に――。


「そんな奴らを入れればこのヴァインズという国を敵に回すぞ!」


そう、『捨て鎌り』を助けるのならば逆賊となるのは暗殺ギルドだ。今ならアレだけの無条件服従とも言える条件を出したのも分かる。今ヴァインズに対抗できるのは冒険者ギルドか暗殺ギルドのどちらかだろう。そこには何としてでも縋り付きたい筈だ。それこそ組織を解体しても。その代わり割を食うのは縋られた方だ。無条件で国を相手に大立回りを演ずる必要が出て来る。冗談抜きで疫病神だ。


「それが?」


しかし、虚無は恐れない。それどころか全くの無関心と言って良い。超人の心配を鼻で笑うとこう言った。


「国が何?私達は暗殺ギルド。私達の前の障害は必ず排除する。どんな手を使おうと地の果てまで追ってこの手で手折る。それが個人だろうが国だろうが関係ない。私達が追求するのは利益よ?それ以外の物は問題外。眼中にないわ。それに彼らは金の成る木よ?独占しない手は無いわ」


金儲けに必要ならば親を売り、面子を犬に食わせる。厚い面子を持つのはその面子とやらが“高く売れる”からだ。全ての物は金で買える。暗殺とはそういう仕事だ。

命を扱う仕事なのだ。そこに妥協は許されない。


「坊やはもう少し目鼻を聞かせるようにしなさい。人を見る時は眼を見るようにするのよ。人の意志が宿るのはそこだから。そこを見れば一矢報いてやろうと思ってるのか、生きながらにして死んでいるのか、目の前の女に手前の粗末な物をぶち込みたいのか分かる。人の評判より自分を信じるの。それがこの世界で生き残るコツよ?」


今超人の眼を見れば先程虚無が例に挙げた一矢報いてやろうといった眼であるのが分かるだろう。上手く自分の意見が通らず、あまつさえ説教までされることに納得行かず、何とかならないかと少し意地の悪い質問をした。


「その眼とやらでキースも信用した訳か?」


女は役者という言葉は真理だろう。超人のその言葉を聞いた瞬間、虚無は顔を変化させた。

悪の総領から純情な乙女のソレへ。これ程恐ろしいこともない。直接的に、或いは間接的に。多くの不幸を作り出して来た女がそれこそ何も知らないとばかりに幸せ一杯とでも言うような顔をするのだから。


「アレは素敵な眼だったわ……。ただ強さだけを求める飢えた獣の眼。どこまでも純粋で、強く、優しい、それでいて直ぐにでも壊れてしまいそうな眼。あの眼に頼まれたら何でも嫌とは言えないわ。何だって聞いちゃう」


“顔だけ”は綺麗な虚無。その陶然とした乙女が懸想しているかのような顔からは先程の手前の粗末な云々と言ったことなど信じられない。


「それでいて逃げられていれば世話無いな」


かつて虎だったキース=バレンタインは死に、新たに飼い猫バレインが産まれた。飼い犬に手を噛まれるとは聞くが、手ずから育て上げた飼い猫は結局懐かなかった訳だ。


「逃げられた……ね」


未練がましく呟く虚無に超人はニヤリと笑う。


「違うのか?」


「ええ、逃げられたんじゃない。逃がしたのよ。言ったでしょ?キースの頼みは断れないの。あんな眼で見つめられたら……。今思い出しても中々クる物があるわ」


思わず苛めたくなっちゃった、などと頬を染めてほざく虚無に正直超人はドン引きしていた。更にこの後の虚無の言い様に超人の顔は引き釣る。


「それに、むざむざ他の女の所へやるつもりはないわ。別に妾が何人居ようがグチグチ言う私じゃないけどキースの一番はいずれ私が貰うわ」


「な、何か根拠でもあるのか?」


逃げられた癖に?とは聞かなかった。というより聞けなかった。聞いた瞬間に消し飛ばされそうな気がしたからだ。恐らくその勘は正しい。それを口にした場合、実力的に考えて生き残ることは出来なかっただろう。死線を幾つか越え、そういう勘が働く様になったことを超人は感謝するべきだ。さもなくば自分の惨殺パーティが富裕層の歩く高級店が建ち並ぶ路地の真ん中で開催されていた。控えめに何か根拠があるのか聞かれた虚無はニコリと笑うとこう言った。


「私が過去1度でも暗殺標的ターゲットを逃したことがあった?」


……等と犯人は意味不明な供述をしており……。


「……成る程」


根拠無しか。そう気付きはしても超人は口を噤む。実に賢い選択だ。


「良かったな。傘下に入れて」


ボスの見ていていて居たたまれない痛々しい言動から目を反らす為に話題を変える悲しい努力。超人はもう国を敵に回すとかボスのご乱心振りを思えばもうどうでも良くなってきた。


「ああ、忘れてた。坊やが連れてきたんだから『捨て鎌り』は坊やが面倒見て上げてね?」


直轄の傘下と言っておきながらの丸投げ。超人は溜め息が出そうだった。


「貴方、確かエリオットって言ったわね。1つ仕事を手伝いなさい」


「俺達の力を見てぇって話か……」


入団試験のような物だろうと考えていたエリオットを虚無は裏切った。


「逆よ。逆。貴方が言ったでしゃばる目障りな餓鬼の末路を見せてあげるわ。私達の力を見ておけば増長しないでしょうからね」


「?」


「坊や、『双龍』に連絡を取りなさい。リュウジ1人で十分でしょう」


面子は重要だ。それが金儲けに繋がるのだから。あの組織同士の連絡会を持っているのは利益が勝ち合わない様にするため。WIN-WINの関係で居る限り互いに味方だと確認できる。逆に利権が勝ち合うならばそれは利敵だ。大事な金儲けの道具である面子を傷付けるのは利敵となる。

そして、2度目となるが暗殺ギルドは敵は必ず排除する。地の果てまで追ってその手で手折る。それが個人だろうが、国だろうが、組織だろうが……。


「盗賊ギルドを潰すわ。跡形も残らないようにして頂戴」


先程愛を語った口と同じ口で、人を想う顔と同じ顔で。平然と多大な死を強いる要求を口に出す。そのあまりの普段の口調との変わりなさに、そのあまりにあっさりとした声音に。超人は心底身震いしたのだった。


そして次の代表連絡会から1つの席が消えた。忽然と。


――――エリオット視点――――――――


俺は独りになって漸くじわじわとした成功に浸った。思わずやったー、と叫びたくなるような感覚に一時浸る。俺達の街マルバの自治を任されたのだ。漸く、そう漸く子供の頃からの夢が叶った。

だと言うのに……。


俺は懐から大切に仕舞われた1つのリボンを取り出す。相当年季が入っており、端が擦り切れたボロい文字の刺繍されたリボンだ。


「夢は叶ったぞ。俺はマルバで一番になった。なのに……。なのにお前は何処行っちまったんだよッ!“トルダ”ッ!!


…………嘘、吐くんじゃねぇよ」


『オレ、絶対一番になるから!この街で一番偉くなって!お前を迎えに来てやる!そしたら金も心配要らねぇし、お前に嫌な思いだってさせねぇ!だからトルダ。お前にこれを預かっていて欲しい。このリボンのAの文字は1等賞の証だ。俺は誰でもなく、お前に誉めて欲しい!だから1等賞になったらそのリボンを俺にくれ。お前がくれるそのリボンの為に俺は頑張るよ。俺が1等賞を取って、そしたら一緒になろう』


そう言った時は逃げられたが、数日立ってこのリボンをくれたのだ。


『嬉しい。エリオのリボン、私が預かっとくね。なるべく早く迎えに来て……ううん。隣に立って、エリオが一番になるのをずっと応援するの。これはその証。私はエリオのこと。ずっと見てるからね?』


トルダから貰ったリボンに刺繍された文字はZ。Aの最終目的地にして、Aの隣の文字だった……。


そしてトルダはこのリボンを俺に渡した1ヶ月後、俺に何の説明もなく姿を消した。忽然と。

最近仲間が魔法使いになりました。

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