74副ギルド長の憂鬱
あー、ギリギリ間に合わなかったすみません!!!!!!!!!!m(__)m
――――ルシエ視点――――――――
バタン。
ギュンター様が扉を閉め、ある程度離れるのを私は息を殺して待つ。
行きましたよね……。
そして足音が聞こえなくなったのを確認すると一気に気を抜かす。
ギュンター様が行った振りをして扉の前で盗み聞きしている可能性も極微少存在するが、私にとって関係ない。正確には、全ての可能性を潰すまで我慢出来ない。
「はふぅ……」
私は限界まで張りつめた緊張の糸が途切れ、そのまま崩れ落ちた。
全身に力が入らない。
このまま何もかも漏らしてしまいそうだがそれだけは私の尊厳と羞恥心に掛けて阻止した。
多大な衝撃を受け、自力で立つ戦意を放棄した私は近くに立つコート掛けに掴まり、何とかほうほうの体で立つ。
その姿を端から見ればまるで病人かのように見えたことだろうと私は思う。
まぁ、“病人”であることには代わりは無いが。
私はついでに使われることなく再び掛けられたコートも失敬して、執務室の奥の方にあるギュンター様の椅子の所まで何とか辿り着く。
ガスン。
そんな私の肉体が叩き付けられるのを支える椅子の音が響く。
少々重くなっただろうか。大丈夫だろうか。
私はその音に少し心配になりお腹の周りの肉を掴む。
本当は摘まむ程度しか無いのだがそこは気分だ。
しかし、掴んだ感触として心なしか昨日より多くの肉を掴んだ気がする。
「くっ、やはり昨日のご飯が祟ったか」
昨日食べた肉が今日に響いたのだろう。
この後は草しか食べないようにしよう。そうしよう。
そうすれば恥ずかしがり屋のギュンター様も自分の気持ちに素直になる筈。
そうして私は思い出す。ギュンター様が私に向かって抱き付く光景を。
「ふふふふ……。ギュンター様、今日は積極的だったなぁ」
まぁ、それは当然だろう。ルシエがそう“させた”のだから。
人間、睡眠時間が低下すれば注意力、判断力も低下する。
これは超人的な処理能力を持つギュンターにも当てはまる。先程ギュンターはルシエに抱き付くなどしたが、これは3徹目で判断力が鈍っていたからだ。もしギュンターがいつもの状態ならそんなことは絶対にしない。抱き付くどころか女性の体に触れるのも避けるだろう。
一度ルシエは何故触らないのか聞いてみたことがあるのだが、その時の返答が性的な嫌がらせによる女性側の働く意識の低下、それによる仕事の能率の低下を許容できる程現状は甘くない。仕事は待ってくれない。とかルシエが意味の分からない言葉を並べ立てられ煙に巻かれたのだ。
そうしてギュンターと仕事をしている内にルシエは気付いた。
ギュンターが寝不足になればなる程接触頻度が上がることを。
その後ルシエは実験して観測した。寝不足と接触頻度の関係を。
そして3徹目が最も接触頻度が高いことを発見した。もっとも、3徹目以降は寝落ちしてしまう為に調査が出来なかっただけではあるが。
それからルシエはギュンターに仕事を集めるようになった。勿論、散々に徹夜して貰う為だ。
ギルド支部長達はこの事は知らない。単に名誉職として暇を満喫していると思っている。
実際は馬車馬の如く働かされ、任命をしたギルド支部長達に恨みを募らせているのだが。
その甲斐あって二人の仲は進展中?である。
触れてさえくれなかったのがハグしてくれるようになったのは進展と強弁出来なくもない。
自作自演で作った演目に積極的も何も無いだろうにルシエはそうほざいた。
私は抱き付くギュンター様を思い出しながら持って来たギュンター様のコートに鼻をつける。
「すぅ〜、はぁ〜、良い匂い」
勿論、私はこの匂いに浸る為にコートを持ってきた。
大体好きな人のコートなんて物匂いを嗅ぐ以外に使用法が有るだろうか。いや、ない。
因みに着てみて抱かれてるよう、だなんて思うのは匂いを嗅ぐ系統に含まれるので今回は除外する。
そして私は抱き付いて来るギュンター様を思い出すことで連動的にその後の会話も思い出す。
「また娼館か……」
実はギュンター様は冗談めかして性欲を満たしになどと言っているけどそれは事実とは異なる。
ただ単に個室で寝ているだけ。
ギュンター様によると短い時間が空くと仕事疲れで普通の固めのベッドでは眠れないとか。
故にギュンター様は娼館で娼婦を指名し個室の柔らかいベッドで就寝しているそう。
私だけにとコソッ、と教えて貰ったのだ。
ふふっ。やっぱりギュンター様は私のことが好きですね、じゃなきゃそんなことしない。これが両想い……幸せ。
一度そんな臭くて汚ないベッドで眠れるのかと聞いたら少し怒った顔になって『ダニとシラミにまみれて毎日眠るようなお前らが何言っている。それにあの娼館は感染症を防ぐ為に清潔にしている。客が変わる度にシーツは変わるし、マットレスを洗う頻度はどこの家より多いだろう』と綺麗に返された。
娼館はただ寝るだけではなく、ちゃんと指名してお金を払うことで何も言わない。寝るだけなら回転率を下げるだけで邪魔にしかならない。
だから長い時間になると流石にお金が勿体ないので普通のベッドに寝るんだそう。
しかし私は娼館に行くのは賛成出来ない。
勿論それは指名された女は無防備なギュンター様を好き放題出来るからだ!
私はバサバサと強く握り締めたコートを振る。
ズルい〜!ギュンター様の寝室は鍵掛かってるのにぃ!(当然だ)
私だってあのギュンター様の可愛い寝顔をちょっとつついたりしてイタズラしたり、それから×××したり△△△したりしたいのに!(自主規制)
これがルシエという女の本性だった。猫を被って周りに良い顔をしておきながら裏では合理的にギュンターという男を物にしようと動く。
その為にギュンターがどんな気持ちだろうが、どれだけ苦労させられようが知ったことではないのだ。相手への愛ではなく、ただ単純に己が性欲と所有欲を満たす為だけに動く。
そんな怪物だった。見た目が良いだけの怪物。
乙女心と誤魔化した自分の欲望だけに忠実な化け物は恋と名を変えた並外れた独占欲を燃やす。
「はぁ、こんなことなら娼婦になろうかなぁ」
ルシエは重篤な恋の病に冒されていた……。
――――バレイン視点――――――――
俺はピラミッド型に積み上げられた丸太の山を睨んでいた。
俺は負けた。
初めてのことだ。いや、あの時のことも併せて二度目か。
ジェーン。俺はどれだけ立とうが忘れられない。忘れるなど出来る物か。あの時何も出来なかった無力が、その敗北の記憶が、今の俺を形作っている。本の虫だった少年が、最強を目指す獣へと身をやつしたのだ。
だからキースは負けちゃいけない筈だった。2度と無力を味あわない為に。
勝って勝って勝ち続けなきゃいけない筈だった。
キースならな。今の俺はバレイン。主を持つ冒険者だ。
負けても何ともない筈。なのに、頭の中にアラヤの言葉がチラつく。
『通常人は過去には戻れぬ物だが主は特にそうだ。その道を選んだからにはもう後戻りは出来ない。それは選んだ時には分かっていた筈だ。もう主は前に進むしかないのだ。前が分からなかろうが死の道だろうがな』
死ぬ覚悟はとっくに出来てる。だがその覚悟した事実はいっこうにやってこない。
ジェーンと共に人である俺は死に、メルトと出会った時に俺の中の獣は眠りについた。
そして盗賊に負け、信念を取り零した今、俺は一体何なのだろうか。
いや、ただのバレイン。それで十分だ。
『駆け巡れ、吹き飛ばせ、浸透せよ!振動せよ!アースショック!』
ドン!
突発的な衝撃に丸太のピラミッドが高く打ち上げられ、空中にバラける。
それを一瞬見たかと思うと両刃の細長い剣の束に手を掛け、――そして消える。
カカカカカカカカカカカカカカカカカ!
幾つも有った筈の丸太が一瞬で解体され、細長い薪が量産される。
そして自重により落ちてくる薪に修正を加え、一ヶ所に落ちるように調整する。
「ふぅ……」
再びバレインが地面に戻った時にはバラバラと再び薪のピラミッドが形成されていた。
「あ、バレインさんここに居たんだ!」
少女の声がして振りかえるとそこにはフミカが居た。
年は12かそこらになるだろうか。
彼女は『猫の日向ぼっこ』の一人娘である。来たときは丁度外に出ていたらしい。
「薪割り終わった?」
マーガレットさんに竈用の薪が足りないと頼まれたのだ。
「ああ、今丁度」
「もし、良かったらで良いんだけど……、か、買い出しに行くから一緒に来て欲くれないかなぁ?」
これからこの宿にお世話になるのだ。それ位の手伝いをしてもバチは当たらないだろう。
因みにバレインは知る由も無いことだが、メルト達が来たときにフミカが居なかったのは買い出しに行っていた為で彼女の買い出しは本日2度目である。
「勿論、喜んで行かせて貰うよ」
俺がそう言うとフミカの顔にぱぁっ、と花が咲いた。
「やった!あ、あの所でこの服って、へ、変かなっ?」
ほ、ほら変だったら買い出し行くのに恥ずかしいじゃないですか、と慌てて付け足すフミカ。
俺は上から下に良く見てみると、フミカが来ているのは白いワンピースに頭には麦わら帽子、更に髪にはリボンまで付いていた。白いワンピースと麦わら帽子が少し焼けた肌に非常に似合っており、全く変どころか零細宿屋の買い出しに行く格好には見えない。
「全然変じゃないよ。そういうのは良く分からないが、似合ってると思う」
「そ、そう♪今からだけど行ける?」
心持ち声のトーンが上がった声でフミカが俺に聞くが、特に着替える必要もないので行けると答えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2人で市場を歩きながら色々日用品などを買っていく内に(不思議なことに生鮮食品は買わなかった)段々とバレインが持つ荷物は重くなり、ついには肩に担ぐようになった。
「重いでしょ、少し持つよ」
女の子に心配されてこう言われることに屈辱心が沸いてきた。
速さに特化している俺はそういう筋力とかそういう物が致命的なまでに足りないのだ。流石にフミカと腕相撲で負けることはないが、マーガレットさんには負けるかも知れない。
しかし心で強がってみても既に腕がプルプルし始めている。流石に誤魔化すのも限界だろう。
「ありがとう」
素直にそう言って小さい荷物を渡そうと余所見をした瞬間、前を歩いてきた人に肩がぶつかった。
「ああ、すみません……」
ぶつかったことに謝りかけ、ぶつかった相手を見た瞬間に気付いた。
ぶつかったのは身長が180近くある背の高い、黒いトレンチコートを着た肉感のある女性だった。
そして俺はこの女性を知っている。
「あら、久し振りね。調子はどう?」
『虚無』の二つ名を持つ暗殺ギルドNo.2。ボスがこの女を通してしか組織に介入しないことを考えれば実質No.1でも可笑しくない裏の世界の超大物である。
「なッ!何でアンタがこんなところに!」
勿論、こんな大通りを堂々と通るような素性はしていない。
「会議よ会議。最近ウチも大忙しなのよね。何かリュート君がやられちゃってレミちゃんが止めてったわ。これで使える情報屋が居なくなっちゃったわよ」
会議とは密約会議のことか。それに自らお越しとは随分豪勢な話だ。
しかし話の中に引っ掛かることがあったため、驚きは一旦脇に起き、聞いてみることにした。
「確か双龍の片割れが情報屋をやっていた筈だが……」
「腕が徐々に癒えてきたからそろそろ引退だって。殺し屋に戻るそうよ」
「そうか……」
俺の少し沈んだ声を受けて彼女は笑った。
「ふふっ、安心して。仇は必ず取るから。私らのような仕事は面子が全てだからね」
「ああ」
「何なら貴方が戻って仇を討ってくれても良いわよ?何時でも歓迎する。あの子も寂しがってるわ」
胸がズキリと痛んだ。そうだ。あの子のことは何も解決していない。
今もまだあの歪んだ考えで愛を振り撒いていることだろう。あの無垢な笑顔を浮かべながら。
「ねぇ、この人って誰?」
横でフミカが俺の袖を引っ張る。そのことで虚無は少女の存在に気付いた様だ。
「あら、お楽しみ中だったかしら。ご免なさい気が利かなくて。では楽しんで」
虚無はそう言うと去りながら後ろ手に手を振り、人混みの中に紛れていった。
「ねぇ、あの人って誰?」
フミカがもう一度聞く。
俺は少し悲しみを含んだ笑みを浮かべた。
「いや、知らない人だ」
俺は冒険者バレイン。主に仕える者。主を導く者。
そこに過去はない。
今回は女子回。
次回は女子会。




