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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
73/107

73ギルド長の憂鬱

ちょっと編集に時間掛かりましたすみません!

――――ギュンター視点――――――――


扉がバタンと閉まり、足音が遠ざかっていく。副ギルド長のルシエと二人になった所で執務室はシン、と静まり返っていた。ルシエはあまり喋る質ではない。静寂が訪れるのは当然だった。


行ったか!?

行ったよな?


「あー、疲れた〜」


私は足音が完全に聞こえなくなったことを確認すると机に突っ伏した。

勿論、行った振りして扉の前で立ち聞きしている可能性はあるが、そんなものミリ単位の可能性で気にする程の物でもないし、仮にバレたとしても気にすることはない。

と言うより今の私には出来ない。そんな元気などない。

もうどうにでもなれ、とでもいうようなヤケクソの気持ちが大半だった。


「流石にこの年になって3徹はキツい……」


この年とは言っても38だが、気分はもう60過ぎの老人である。

全く、人を馬車馬の如く働かせるのも限度があるぞ。

近代の価値観に喧嘩を売る気満々だな。良いだろう。人に給料以上の成果を望むことの愚かさを思い知らせてやろう。

法的措置を取ろうか?何なら搾取を繰り返すことによる経済的損失額について100時間位の講義をしてやっても良いぞ。

そっちがその気なら地獄の底まで付き合ってやろう。


「しかし、あの子供達が重要人物か……」


思考が恨み節に入っていたのを無理矢理現状に思考をシフトする。

恨みは吐き出していても生産性がまるでないし、嘆いている間に誰かが問題を解決してくれる訳でもない。泣こうが喚こうが誰一人助けてはくれないのだ。

悲しいことにな。誰も彼もが優しい顔をしながら私の所に仕事を一山二山置いていくのだ。人間不信に磨きが掛かるぞ全く。

そして今回私の所に山盛りの厄介事を置きに来たのはあの子供達だ。

いや、恐らく背丈からして成人はしているのだろうがどうにも子供に見えてしまう。私が若さが眩しくなる程年を取ったと言うことか。

それともただ単に徹夜明けで私の目が開いてなかっただけか。

ともかく彼らが私の仕事を増やし、ストレスで私の毛根を根絶せしめんとする仮想敵なのは分かった。

はぁ、私の周りには敵しか居ないのか全く。

さて、あの子供達にも警戒が必要だな。

ユウトとやらは下手に頭が回る。切れ者だ。しかも根がしっかりと定まっていたな。何か信念を元にして戦略を立てているのだろう。軽く揺さぶりに掛けても考える時間が一切無かった。より合理的に目的に向かって邁進するタイプだ。ああゆう輩は敵に回すとどういう手で来るか読めん。厄介なことに道具(力)もある。適当に向こうにも利益を渡して利害関係で繋がっておくのが適切か。必要なのは相手にとっての利益の見極めだ。そこで下手を打てば一瞬で敵に回るだろう。その為にはその早急な信念の見極めが必要だな。

マサヤとやらも要注意だな。関係無い振りをしつつも話の流れをしっかりと掴んでいた。あのユウトという少年に全て任せていると見るのは間違いだろう。

更に上手く隠れては居たがアレは獣の目だ。考えてから動くより現場に飛び込んだ方が周りを上手く転がせるタイプだ。そういう手合いが一番厄介なんだ。此方で練りに練った策を一瞬で破壊する。そういうことをされると一気に精神的にクる。事前に計画を立てる者の天敵と言って良い。

メルトと同じ様な感じだが明確に違うのは使える、という点だ。

あのバカは話を聞かずに現場に飛び込んで場を好き放題荒らすだけ荒らして帰っていきやがる。

言うなれば互いに盤上に駒を並べて戦略を立て、中盤戦を越えて勝ち筋を模索して盤と睨めっこしている時に急に横から現れて盤ごと引っくり返す訳だ。

余程の聖人でもない限りぶちギレるに決まっている。

明らかに此方が負けていると分かっている時しか使いたくない手札だ。下手をすれば勝てるはずの戦いに大負けしかねない。しかも好き放題した後の尻拭いは全部此方に丸投げだ。

何時か必ず暗殺してやろうと誓ったのは何年前だったか……。

その点マサヤという少年は有用な駒だ。

不利な盤の局所で使えばルール無用で戦況を引っくり返すだろう。此方の有利な様に、である。決して盤ごと、ではない。

ただそういうのは似たタイプのメルトからも分かるように総じて非常に扱い辛い。

下手をすれば最大の敵として目の前に立ち塞がるだろう。焦りは禁物、無茶な取り込みは自重しつつ、しっかりとした利害関係と信頼関係を築き上げ、ゆっくりと取り込んで行くのが今出来る限界だろう。

後のあの少女の方は問題ない。

どうとでもなる。

問題は……。


「イテナ、か……」


アレはダメだ。

為す術がない。

盗賊(裏切り者)が奴なのは分かった。

理由としてはまず私が提供した盗賊の話題に反応“しなかった”のがユウトとイテナの二人だ。

後の二人は何故今盗賊の話を出したのか疑問を抱いていた。

いや、疑問を抱いていたのはマサヤ一人か。

直情型の彼は嘘を上手く隠すことは出来ないだろう。事実、一回何かに驚いたのか紅茶を噴き出しそうになっていた。

重大な事実であればある程隠しにくい。それを何の反応も示さずに聞くのは単に彼に取って知らない事実なのだろう。

少女は論外だ。早く終われとでも思っていたのかボーッとしていた。アレでは表面的な話ですら聞いていたのか怪しい物だ。

そして残りはユウトとイテナのどちらか。

これは迷ったがイテナだ。ユウトが用意したブラフが幾つか有ったが、それを判断材料には入れず、行動から推測出来ることから結論付けた。

それはユウトがローレン親衛隊相手に起こした傷害事件だ。いや、状況からユウトは殺す気だったと考えて良いだろう。しかしこれは明らかに悪手であると断言出来る。

交渉相手の目と鼻の先で騒動を起こしたのだから責められるのは当然。

百害あって一利無しとはこのことか。

この事件がなければユウトも弁明する必要がない。故にこの行為が彼の中では余程重大なことだったのだろう。

いや、正確には彼の信念に取って重大なことだったのだろう。だから損得を考えず、まずそれが必要だった。

そして状況、さらにユウトが安全保障を強く求めて来たことを考えれば彼の信念の答えは一つだ。

それはマサヤ、或いは少女を守ること。

そしてユウトが盗賊が誰かを隠すような言動をしたことを考えれば彼の考えは読める。

盗賊が勇者パーティに居ることまでは此方に突き止めさせその巨大な武力により此方に手を出すなと脅すこと。

虎の威を借る狐と言った所か。

そして逆説的にユウトがその行動を取れるのはパーティ内に盗賊が居るときのみ。少なくともユウトはそう確信している。

そこは彼の頭の回転の良さに敬意を表して確信に足る確証があったと信頼しよう。

ユウトが外部に盗賊が居て身内に盗賊が居るという可能性も有るが、それはハッシュが腹芸をしなければならない範囲には入らない。

だからそれは現実的に不可能だろう。

そしてこれらの全ての推測が指し示すのが、イテナが盗賊であるという事実だ。

しかし……。


「私は何も出来ない」


当然だ。一人でS級を蹂躙するような奴に何が出来るというのか。

監視を付ける?下手に刺激して怒りが此方に向いたらどうする。S級だけでこのギルドの戦力を上回るんだぞ。それを蹂躙するような奴に立ち向かう力などない。

S級に渡りを付けて倒すよう画策する?ダメだ。力の上限が不明だ。差し向けた貸しのあるS級が全滅しかねない。手駒の夕碧と貸しのある最大兵力、そして金で雇える傭兵。これらS級の伝を失ってしまえば私は終わりだ。みすみす死地に送ることは出来ない。


「全くどいつもこいつも使えない……!皆してこのまま私に破滅の時まで座して待てと言うのか!どうすれば良いんだ!誰か教えてくれ!」


目の前に大きな脅威が存在しているのに、それに対策することすら許されない。その事実にギュンターは苛立ちが込み上げる。


そしてそのプレッシャーにギュンターの胃はキリキリと痛み始めた。


「いつつ……。胃まで私を苦しめるのか」


左手で鳩尾辺りをさすりながら右手で机の収納の取っ手を探る。取っ掛かりを見付けると引き出し、中にある大量の瓶の中から一つを取り出した。

非常に慣れた様子であり、習慣的にしているのが見て取れる。

ギュンターはその瓶を愛しげに撫でる。


「マイブレンドオブザハート、心の友よ!私の苦労を癒してくれるのは君だけだ……」


ギュンターはその瓶を開けると中に入っていた粒を二粒程取り出し、水無しでゴクンと飲み下す。


「あー、痛い。全く、こんな仕事何時か絶対止めるぞ。A級引退者でもギルド長に据えれば良い。その方が人望が高いだろう。大体給料が労働の対価と全く釣り合ってない。給料を上げろとは言わないからせめて労働量を下げてくれない物か。それで双方幸せになれる」


私はギュンター=スーティルという名が示す通り貴族だ。

貴族と言ってもそこらの木っ端貴族の次男坊だ。権力どころか子供に名を継がせる権利すらない。

32歳の時に当主だった父が死に、兄に家督が譲られ晴れて私はスペアの身分からお役御免となった。

32歳の無職の誕生である。

正直当時は焦ったものだ。

だから当時兄の領土で冒険者の営業許可と兄からの支援金を得るために私に一期だけギルド長のポストをギルドが用意してくれたのだ。

私にとっても箔付けとして丁度良い物であり、あわよくばその後も経理として雇って貰えるかも知れないと利用されるのを承知でその話を受けた。

それが間違いだった……。

憎い……。

話を受けたあの頃の私が憎い!


肺腑が千切れるようなドス黒い怒りが込み上げ、その怒りを消すようにまた一粒胃薬を飲み下した。


『お飾りのギルド長は邪魔ですので引っ込んで居て下さい』


赴任当初副ギルド長のルシエに言われた言葉だ。

最初に出会ったのは彼女の言った通り天下り後の何の仕事もない楽な仕事場、では無かった。


『すまない、少し聞きたいんだが、何故帳簿の最後の桁が銀貨なんだ?嘘だよな?悪質な嫌がらせだろう?そうだよな?』


実に残念なことにその帳簿は本物だった。

どんぶり勘定にも限度という物がある。

それが私の地獄の始まりだった。

馬車馬の如く働いた。天下り先として明らかに失格だろう。

次々に見付かる欠陥。

仕事の効率化を図る為に徹夜するのはまだ序の口で、果ては過去の書類を整理する為に周りの聞き込みを何日間もする始末だ。

6ヶ月と2日を過ぎた辺りから止めてやるしか言わなくなり、10ヶ月を過ぎた頃から眠いしか言えなくなった。

そして漸く任期が終わり懲役から解放された私は2度と冒険者ギルドに近付く物かと決意した。

そしてギルド支部長の決議会に招待されそこで私の二期目が満場一致で決定された。

理由としては功績が大きく、ほぼ全員の事務方から続投を望む声が上がったのだとか。それもかなり切実な声が。

私としては当然断ろうとした。

しかし、そこで明かされる衝撃の事実。

実はギルド長は拒否権が存在しないのだ。

実に狂っている。基本的人権も何もない。真面目に仕事をストライキしようかと思ったが、仕事を放って置くと勝手に肥大化するのは分かりきっていた為に泣く泣く断念した。

お飾りの筈の私が二期目を続投したことで冒険者の側から反感を呼び長期に渡るストライキ。

莫大に増える仕事に本当にストライキしたかったのは私の方だ。

主力産業がストライキしてる際に冒険者から目に見える成果を要求されるという無理難題に思わず匙を投げたくなったが、何とか成し遂げた。

そして漸くストライキが終了し、一心地ついた所で第二次侵攻での2つのA級パーティ壊滅である。

真面目に雲隠れしたいと思ったのは後にも先にもこの時だけだ。

この戦力の大幅ダウンを穴埋めする為に最大兵力を何とかギルドに入れることが出来たのは不幸中の幸いだろう。

この武力を背景に各国の下部組織に過ぎなかった各支部を一本の組織化し、一国以上の軍事力を持って各国と距離を置いた。

そして3期目はメルトだ。

貴族に喧嘩売っただの、キースを討伐にそのまま賞金首を仲間にするだの、まぁ、好き放題やってくれた。

4期目もメルトだ。

魔王に喧嘩を売ったと言われた時には後処理を思って死にたくなった物だ。大体その時は確実にメルトが悪いのだが本人は全く気付いていないのが余計に腹立たしい。

5期目は去年だが今度は兄から領地経営が不振だから助けてほしいと手紙が届いた。即座に家名を捨てたかったが、王家に止められた。

ギルドの方だけでも大変なのに手助けなど出来る物か。そう言ってつき返したがメルトがクライシュテスといさかいを起こしたせいで手助けせざるを得なくなり軽く死に掛けた。

そして6期目の今年がこの盗賊騒ぎだ。

本気でやってられない。


私はまた痛む胃を治めるために一粒胃薬を飲む。


ああ、グレン王子ならこんな状況でも何とかしてしまうだろうな、と不意に思った。

グレン王子、ヴァインズの影の王と呼ばれる方だ。

内政に関して類い希なる才能を持ち、彼が居るからこそヴァインズ現王があれだけの暗愚であろうと国が持っているとまで言われている。

その王子の才能に私は憧れを越えた崇拝の念を抱いている。その智謀の一滴でもおこぼれに預かろうと毎朝王子の居る方向に向かってお祈りをしているのだがその効果は今の所現れていない。


「どうにか一度お会いしたいのだが……」


残念ながら今まで一度も会えていない。


「さて、ルシエ、これからの仕事は何だ?」


打つ手無し、ということでサッパリと諦めると手に掛かった胃薬の粉を払い立ち上がる。


「はい、今から1時間後に都市長と会談となっております」


「ほう、ならば少し時間が有るな」


私は執務室の端にあるコート掛けからコートを取る。


「どちらへ?」


私はバサリとコートを羽織ると言った。


「娼館に行ってくる」


言ってることは下半身直結の最低な発言だが何故かそのコート越し背中はあまりにも格好よかった。

恐らく気のせいだろう。


「ダメです」


しかし、執務室の扉を開けようとするギュンターの前にルシエが立ちはだかる。


「いや、君が決めることでは……」


「ダメです」


「あー、私が命令する側。君じゃない。分かる?」


「ダメです」


にべも無かった。


「私は疲れてるんだ。1時間じゃ寝られない程にな。だから代替え出来る生理的欲求が必要なんだよ。分かるか?」


「ダメです」


「はぁ、分からないかな……」


「ならば会談はキャンセルするので3時間の休息を取って下さい」


その声は私にとって天使の福音だった。

私があまりにも待ち望んだ物だった。

餓死寸前の私の前に出された無数のご馳走。

飛び付かない訳が無かった。


「本当か!ありがとう!愛してる!」


嬉しさのあまりルシエに抱き付くと娼館に行く予定を取り止め即座に睡眠に予定を変更する。

やはり休みは休むに限る。

休んでこそ職業でのパフォーマンスを発揮出来るのだ。

ウキウキ気分で執務室を出ようとすると後ろからルシエが話し掛けて来た。


「あっ、此方先程冒険者から貰った嘆願書です」


ルシエが差し出したのは1枚の紙。

そこには勇者の横暴を伝える内容が書かれていた。恐らく追放して欲しいとでもいうような内容だろう。


「はい」


キャッチアンドリリースでそのまま扉横のゴミ箱に直行させる。

仕方がない。私は今疲れているのだ。見なかったことにしよう。私闘にギルドは関しない。


「ではお休み」


バタン。


こうして私は3日振りのベットに会いに行った……。

11話でグレン王子の気持ちも書かれていると思います

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