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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
72/107

72交渉

短くてご免なさい!

――――正也視点――――――――


「どうぞ座ってくれ」


ギュンターさんが目の前のソファーを指して言った。俺達が座ったのを確認するとギュンターさんも座り、手を組んだ。


「紅茶とコーヒーが有るがどちらが良いかな?」


あっ、紅茶もコーヒーも有るんだ。てっきり無いと思ってたのに。4人で紅茶を頼むと先程この場所まで連れてきた副ギルド長ルシエさんが紅茶を入れてくれた。5人で一口飲むと、カチャカチャと受け皿に置く音が響く。


「さて、話合う事柄は多々有るが……。先ず先程は随分はしゃいでいた様だが、君達が何をしていたのか嘘偽りなく教えてくれるね?」


途端、座り心地が悪くなった俺は小さいティーカップを口につけることで僅かでもギルド長の視線から逃れようと試みる。無論、顔より小さい紅茶カップでは顔全体を隠すことなど覚束ない。だがそれでも多少効果は有ったと見えて、隣で咲良が真似をして紅茶を飲む。


「別に、騒ぎと言っても先輩冒険者が迫って来て命の危険を感じたので、正当防衛をしただけです」


ん?優人にしちゃ不味い言い訳だな……。正当防衛は確か命を脅かされた時に命を守る為にやむを得ず行った行為に対しては罰しないとかそういう奴だったと思う。正当防衛を主張するにはその脅威が本当に脅威足り得たか、と対処した方法は必要最小限だったかの証明が必要だった筈だ。確かな、曖昧だけど高校生じゃこのレベルが限界、許して。んで今回のことで優人は正当防衛とは言えんだろうな。素人の俺でも分かる。モブA、Bが迫って来た程度じゃ死の危険が有ったかっつうとそうでもないし(単なるかわいがりだろう)、それだけでこめかみに鉛玉ぶちこむのは正当防衛とは言えないだろう。オモクソ過剰防衛である。優人の使う言い訳にしては粗ばかりだ。


「ほう、正当防衛とは初めて聞くな」


「ええ、元住んでいた世界では正当防衛法という法律が在りまして、その法律に基づき自らの危険を排除しただけです。その法に照らせば無罪ですね」


アブねっ!

危うく口に含んだ紅茶を噴き出す所だった!

コノヤロッ、サラッと嘘つきやがって!

嘘つくならつくと先に言え。ギリギリだったぞ全く。

正当防衛法、またの名をスタンドユアグラウンド法。それを要約すると俺の土地は俺の物、俺の立ってる土地も俺の物。だから俺の土地に入り込んで危害を加えようとする奴を撃ち殺しても文句ないよな?というジャイアニズムも真っ青な“アメリカの”法律である。

もう一度言う。“アメリカの”法律である。

勿論、日本で施行されてる訳がないし、優人はそれに基づいて無罪になることはない。ってかそもそも日本じゃ銃は銃刀法違反だし!

あれ、いや待てよ……。言葉から考えれば嘘では無いのか……。確かに元の世界には正当防衛法は“ある”し“その法律に照らせば”無罪である。嘘は言ってない。綺麗に詐欺ってる。それにこの嘘は嘘だということを証明出来ない。間違いではあるが真実も含んでる。それに嘘だという証拠は自分しか知らない。もしギルド長が日本人だとして「お前日本人じゃないか」と言われても、あ、俺アメリカ国籍なんで、と言えばそれまでだ。俺でも優人がアメリカ国籍か日本国籍かパスポート見たことないから確信は持てないし、優人の嘘を看破するには親レベルでなきゃ無理だ。良く考えられている。

更に驚くべきは嘘を言っていないような言い回しをしていることにある。これは騙すのに必要のないことだ。どうせバレることのない嘘だ。「元住んでいた日本ではスタンドユアグラウンド法という法律があって元の住んでいた日本なら無罪です」で良い筈だ。これが示すのが俺の思う通りなら優人は魔法まで警戒している。言うだけなら簡単だがそれは莫大な労力だ。何故なら俺達が来た世界では魔法など存在しない科学が発展した世界。魔法に関する(実用的な)予備知識などない。要するに被害妄想をするしかないレベルの話で対策している訳だ。地が裂けるとか天地が引っくり返るとか想像出来る全てに対処しなければならない。つまり優人はそれを恐らく出来る限りでは有るだろうがやってる訳だ。やっぱすげぇな優人。これだけデカイ不確定要素があって勝負出来るんだからな。俺だったらゼッテー無理だわ。


「君達のルールで言われてもね」


「単なる文化の違いですよ。それに受付からは死なない限り私闘には関与しないと言われましたが、ルールを統一してくれますか?そんなコロコロ変わるようなルールで止めろと言われても。ルール違反と言われるより気に食わないからお前は犯罪者だって言ってくれた方がまだ分かりやすくて良いですね」


文化の違いでゴリ押しする気か……。強引な。これで非が1対1のイーブンって所か。


「私個人が変えているかのような物言いは止めてくれないか。誇張的な話だ。ルールを変えるのは実利であって私ではないよ」


「そうですか、ではその利益とやらに釣られてこの部屋に着くまでの間にルールが変わってしまったようですね」


これがジャブが……。頭がついていかんなオイ。


「そうだな、ではこれで手打ちと行こう。話が進まない」


「先に話を持ってきたのはそちらですからこちらとしては何も言うことは有りません」


多分ギュンターさんが先に責めたのはあわよくばと言った軽いジョークのような物だろう。ハマって貸しが出来れば良し、流されても損害なし、それが綺麗に返されて非を1対1にされた訳だ。此処から油断なしで此方にも利益を出すWin―Winの関係に持ち込もうとする筈だ。


「いやいや、君達が無事に着いて何よりだよ。この辺りで最近は盗賊の噂を良く聞く。実は君達を迎えに行く途中の夕碧も襲われてね。何時来るかと心配していた所だ。連絡も寄越さないとは驚いたが」


盗賊?何でこんな脈絡の無い話をしたんだ?ここは普通互いの目的の提示して擦り合わせて妥協点を探すだろ。今世間話をしても意味が無いと思うが。後ろで物音がしたので見ればハッシュさんがドアに足をぶつけたのか足をおさえていた。何してんだか。


「ええ、確かS級が手も無くやられたとか」


「ああ、この物騒な昨今に君達勇者を迎え入れることが出来て行幸だよ。2年前だったか……。盗賊もそうだが、どっかのバカが魔王に喧嘩を売ってね。今戦力は幾ら有っても足りないんだ」


うわー、ヤバイときに来たんだな俺ら。誰だその喧嘩売ったバカは。


「先輩勇者みたいに死ぬつもりはないので、戦いへの出撃の有無は此方で決めさせてくれます?」


「ああ、勿論だよ」


まてまてまてコラ。重要な単語をサラッと出すんじゃねぇよ。こっちは混乱するだろうがコラ。ってか何でお前が知ってんだよ優人てめぇ!


「待って!勇者ってアタシ達だけじゃないの!?」


咲良、俺の気持ちの代弁してくれてありがとう。俺、そういう重要な単語はSEでも付けてババーンと言うべきだと思うんだ。全部サラッと言っちまいやがって、このドS野郎がッ!


「ああ、図書館で読んだ文献に出てきたんだけど……」


ああ、あの“立ち入り禁止の”図書館ね。優人が言葉覚えた奴。それ人の前で言うのマズイんじゃないの?ゼッテー時効過ぎてないと思うんだけど。


「400年を越えると極端に書かれた本が少なくなるのが気になったんだけどそこには良く勇者って単語が出てきたね。文法が結構違ってて詳しくは分からなかったけど」


まぁ、そこまでは予想がついてた。さもなきゃ勇者何て言葉が無いだろうしな。


「400年を境に勇者はパッタリと出てこなくなるんだけど最近オウルフって人からまた勇者って単語が出てくるようになる。魔王も全く同じだね。こっちは個人名は出てこなかったけど」


へー。


「後は私が説明しよう。魔王と自らを呼んだ魔人を倒したことで昔の勇者という名前を使ったのだ。今は便宜上オウルフを1代目勇者と読んでいる。2代目勇者から召喚し始めたのだったな。400年以上前の骨董技術だったから当時は出来るか疑問だったがな。それが今から6、7年前か……。それで先程召喚された3代目が君達だよ」


6、7年前か……案外近いな。


「それで……、その2代目勇者の人は何処に居るんですか?色々話したいこと有るんですけど」


元の世界に戻る方法とか気になるから聞いてみたのだが、返ってきたのは意外な言葉だった。


「死んだよ。5年前の第二次侵攻戦に参加して戦死した」


「うっ……」


やっぱこの世界危険だわ……。Mrs.Bと戦う時とか死に掛けたしな。……100回以上も。


この後ギルド長と優人の二人は交渉を続けたがさっきの情報でちょっと気分が重くなっていた俺はそれを聞いている気分ではなかった。後で優人にどうなったのか聞いてみよ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ギルド長から解放された俺達は最初の会館の多目的スペースに戻ってきた。


「で、交渉の方はどうだったの優人?」


俺が聞くと優人は口の端を歪め、ピクピクと表情筋が動かした。あ、コレはらわた煮えくり返ってる顔だわ……。


「……負けたッ」


優人は苦虫を噛み潰したような顔をしながら言った。多分この顔俺でも初めて見るかも。いつも余裕綽々な顔してたし。あ、初めて会った時には見たか。


「嘘ッ!優人って交渉げーむ無敗じゃなかったっけ!?」


GALでの戦績で言ったら交渉げーむは優人の得意分野だった筈だ。だから聞かなくても圧勝だろう位に思ってたんだが幾らリアル交渉とはいえ負かせるものなのだろうか。


「一応最終目標は達成出来たんだけどそれを達成するための小目標が全部持ってかれた……。だから最終的にお願いした借り1が残っちゃったよ。向こうは完全に目標達成してる。ごめん」


「うーん良く分からんのだけど最終的な目標ってどんなのだったの?」


というか未だに優人が負けた衝撃の事実に頭が追い付いてない。


「アッチの思惑は多分戦力の個人的な取り込みと強者(盗賊)が誰かの絞り込みだと思う。コッチは最終的に安全保障を目標として誰が強者かを隠しながら全員を強者の可能性がある奴として保護させようと思ったんだけど全部バレた。最終的な安全保障だけはギリもぎ取ったけど大きな借りを作ったね。それで個人的な取り込みを約束させられた。一応両方の主目的は達成してる訳だから引き分けっちゃ引き分けだけど内容的に見たら完全に負けだね」


ははぁ、要するに化かし合いしてたけど完全に見破られたと。大変そうだな。いやー、俺主人公じゃなくて良かったぁ。こんなんゼッテー出来んわ俺。


こんなことを話していると先程話してた受け付けの地雷女……じゃなかったローレンさんが話し掛けてきた。


「あ、此方先程話したギルド員であることの証明カードになります。此方無くすと登録からやり直しになるので無くさないように気を付けて下さい」


そう言って俺達4人に緑色のカードを渡す。カードと言ってもクレジットカードのようなプラスチックではなく金属のカードだ。

それはマサヤF級とだけ書かれた簡素な物だ。

こうして俺達は正式に冒険者となった。


風邪引きました。

咳し過ぎて今筋肉痛だし、鼻噛みすぎてかさぶたが出来ました。

風邪キツい……。

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