66軟体生物〜この世界は俺に厳し過ぎる〜2
良かった。間に合った。
――――正也 視点――――――――
最初の魔物戦闘でノーダメクリア前提とかおかしくね!?
こういうのって普通へー、こんなもんかぁ位の立ち位置の筈でしょ!
何でガッツリ戦闘しなきゃなんないの!
そうして俺が理不尽に憤っている間、優人と咲良はあっさりスライムACをそれぞれ倒していた。
ただ咲良はHPが5になっていたので一撃食らってしまったのだろう。
一撃食らっても死なないって良いなぁ……。
「へー、こんなもんかぁ……」
「アタシは死ぬかと思ったんだけど……」
二人は剣を下ろして一仕事終えたように一息ついている。
咲良は言葉に反して余裕そうである。
お前ら俺への当て付けかぁあ!!
二人だけ余裕こきやがってコノヤロー!!
言っとくけど俺はまだ終わってねぇんだからな!!
こっから死ぬか生きるかの瀬戸際なんだよ!!何寛いでんだてめぇら!!ぶっ飛ばすぞ!!
完全にブッチーンと来た俺は二人に文句を言おうとずんずん二人に向かって進んで行ったが、それを許してくれるスライムBではなかった
ビュッ!
「あぶねぇ!!」
スライムBの口から緑色の液体が発射され、俺は慌てて全力で前にジャンプした。
慌てて飛んだので背中が反った変な格好で避けてしまい、着地を考えて居なかった俺は顔から地面に突っ込んでしまい、真の意味でのヘッドスライディングを決めた。
ズザザザ……。
「いでぇ……」
頭に血がのぼって完全にスライムBのこと忘れてた……。
命の危機だっちゅうのに。
顔に付いた泥を頭を振って払いながら立ち上がると丁度そこにスライムが跳び跳ねて来た。
所謂頭突きというやつだ。
「ギャヒ!」
避ける際、びっくりし過ぎて変な声が出た。
何か優人と咲良の視線が冷たい気がする……。
だってしょうがないでしょ!?
これ一発でも食らったら即死なんだから!
命が真面目に危険だったことを思い出すと顔をバシバシ叩いて気合いを入れる。
「いよーぉし、さっきまでのは無しだ!掛かってこいB!受けて立つ!」
俺がバッチコーイの姿勢をしながらスライムBの攻撃を待つ。
スライムBは首を傾げるように動かすと全身を水風船のように震わせた。
ブシャア!!
「うおぉぉお!?」
大慌てで後ろに飛び退くと素早く体を叩いて緑色の液体が体に掛かって無いことを確認する。
避け方は尻餅をついて後ずさるという方法であり、かなりカッコ悪いことこの上ない。
先程の台詞と相まって諸行無常感がハンパなかった。
「受けて立つ?」
うっすらと笑みを浮かべて聞く優人。
ニヤニヤという擬音さえ聞こえて来そうだ。
「うっせ!!今のはノーカンだノーカン!あの野郎!男同士のタイマン勝負に飛び道具使いやがった!あのアシッド的なサムシングは反則だろ!」
コッチはこんな剣しか無いのにBだけ緑色の胃液的なサムシングによる即死広範囲攻撃とか理不尽すぎる。
大体向こうが全攻撃即死とか止めろっつうんだよなぁ。
最初の雑魚の癖にでしゃばり過ぎるんだよ!
今主人公の親友が死んでも一ミリも盛り上がらんだろうが!
バランスってもんを考えろコラ!
序盤からインフレし過ぎじゃね?どうなっても知らないからな!
とか脳内で愚痴ってこの世界に対する鬱憤を晴らしつつ、もう一度気合いを入れ直す。
「仕切り直しだ!」
狙うはあの頭突き。
正直あの胃液(仮称)はどうしようもない。避けるしかない。
だがアレを至近距離で吐かれたら避けられる気がしない。
一発ゲームオーバーで人体がドロッドロのジュースになるスプラッタ映像をお送りすることになる。
だから今んとこ攻略出来そうなのは一度だけスライムBが使って来たあの頭突きしかない。
あの時は顔面スライディングした直ぐ後で反応が遅れたが今考えれば避けられない速度ではない。
勝機があるとすればそこ。
だからやることを列挙すれば一撃即死の魔物から付かず離れずの位置をキープしつつ広範囲液状攻撃を一滴残らず避け、頭突きをかわしつつ避け様にケツに一撃食らわせる、だ。
無理ゲー臭ぇ〜。
言うは易し行うは難しの典型だな。
しかも一撃で6ダメージだからコレを計4回もとか初回から難易度高すぎねぇ!?
先が思いやられるどころの話じゃねぇぞ!?
……だが俺が勝つ手は今んとこコレしか思い浮かばねぇ……。
出来なきゃ死ぬ訳だしやるしかねぇか……。
「へぇ……。良い顔するじゃん。さっきまでとまるで顔付きが違う。何か思い付いた?」
そんなことを思っていたら優人が満足そうな顔でそう言った。
「うっせ!バーカ!一人だけ余裕こきやがって!大体無理を通さなきゃ死ぬなんて最初の雑魚と戦う覚悟じゃねぇんだよ!もっと楽なの寄越せ!楽なの!」
もう、自棄だヤケ。
地獄の底までやってやるよ!
覚悟を決めるとそれを見計らったかのようにスライムBが跳び跳ねて頭突きをかまして来た。
来た!ラッキー!
と思いつつもこれが思う程巧く出来ない。
避けることは出来るのだが体勢が崩れてしまってどうしても剣が振り遅れてしまう。
剣の方向も見誤り、剣で切り付けたと言うより峰でケツバットしたという方が正しい。
それでも、と思い≪審眼≫を使うと……。
――――――――――――
種族 ノーマルスライム
レベル 2
HP 25/26
MP 0/0
スキル
???
――――――――――――
「ダメージ1かよッ!!待って!?俺のだけ何か強くない!?優人のスライムAはHP22だったじゃん!!」
「喜べ。一番強い奴を残しといた」
優人がとても良い笑顔でそう言い切った。
言い切りやがった。
「全ッ然嬉しくねぇ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
理不尽過ぎる!!
何だあの黒い笑みは!
確信犯かよ!!
後何気にイケメンだから意外と様になってるのも腹立つ!!
嵌めやがったな!?
どうして世界はこう俺に優しくないんだ!
もう少し優しくしてもバチは当たらんだろう!
もう嫌だこんな世界!
ああもうこうなったら八つ当たりしてやるよ!
生きて帰れると思うなよスライムB!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ……はぁ……」
スライムBとの戦闘中俺は肩で息をしていた。
激闘だった。
壮絶な泥仕合だったとも言うが。
あれからケツバットを10回近くやってやった。
運良くしっかり当たったのも有ってもうスライムBのHPはもう3しか残ってない。
いや、違うか。
未だ3だ。
10回近く同じ攻撃をして流石に狙いに気付いたのか頭突きをして来なくなった。
胃液攻撃を繰り返すだけになったのだ。
まぁそりゃ当然だがもっとバカでも良かったのにと思わずには居られない。
正直さっきからは俺の体力とスライムBの胃液、どちらが先に尽きるかの耐久戦である。
先に尽きた方が死ぬ。
そんな極限状態の中、不思議とスライムBと分かり合えたような気がした。
男同士のタイマン勝負で目覚めるような熱い友情だ。
片方スライムだけど。
思えばスライムBという名前。
いかにも主人公の親友Bみたいな感じで親近感が湧く。
いやまぁ、自分で付けた仮称だが。
細かいことは気にするな、大枠合っていればそれでいい。
「二ッ」
笑い掛ければスライムBの口らしき部分も笑ったように歪んで見えた。
錯覚かも知れないが確かに通じ合ったのだ。
だがその友情も所詮仮初めの物。
魔物と人は殺し合う運命……。
しっかりした制度でも無ければ壊れてしまう。
事実スライムBもボールのような体の横からにゅにゅと少し長い突起のような物を出した。
恐らくその突起がスライムBの選択だろう。
仕方がないのだ……。
正也ははぁ、と溜め息を吐くと無防備にスライムBの方へ歩き出した。
「正也ぁ!アンタ死ぬ気!?さっさと正気に戻って!?」
正也を心配してか咲良からそんな声が掛かる。
だけど俺は止まりたくない。
いずれ壊れただろうこの友情だとて大切にしたい……。
まぁ、優人の物語としては盛り下がるだろうけど今まで親友だったんだしそれ位許してくれるよな?
そうしてスライムBに無防備に近付いて行き……
「お前、今日から俺のペットな!」
スライムBとガッチリ握手したのだった……。
「えーーーー……」
この後外野からはめちゃくちゃブーイング食らった。
何故だ!?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よぉーし、よしよしいい子だなぁ〜」
俺がスライムBを撫でるとBはくすぐったそうに身を捩る。
我ながらよく先程まで殺し合っていたのになつく物だと思う。
そんなシリアスをぶっ壊した雰囲気を見て優人は珍しく頭を抱えた。
「待って待って待って待って……。ごめん、思いっきり想定外……。俺の計画が滅茶苦茶だ。ツッコんで良い?スライムとかペットに成れる物なの?」
ここまで狼狽える優人も珍しいな。
小1の時に会った以来か。
何か勝った気分。
「そんな出鱈目なこと言ってウチの子を奪う気でしょう!?そうは行きませんからね!?」
スライムBを庇うように抱くとスライムBも怯えたようにキュイーと鳴く。
「もう……良いよ。話してるとやる気がどんどん消えていく……」
「まぁまぁ、そう腐るな。俺のステータス見てみな」
それに反応した優人が見たステータスにのっていたのは。
「ビーストテイマー……?」
新しいスキルだった。
スキルの欄に追加されたビーストテイマー1(遣う魔物の全能力を5%上昇させる)の文字。
「おう!戦闘中に覚えた。これが有るってことはジョブとして魔物使いも居るだろ」
これに気付いてから何とかこれが出来ないかと実験していたのだ。
胃液しか吐かなくなった時点で勝ち目はほぼ無くなったからな。
発動条件は屈服させることだった。
胃液を吐くしか無くなった時点でスライムも勝ち目を無くしたからな。
「勝つ為のスキルが戦闘中に覚えるなんてあるの?」
え?それ本気で言ってる?
一瞬疑ったがどうやら本気で言ってるようだ。
「うっわ、ムッカー!それ良く真顔で言えるな!大体勝ててねぇだろ!引き分けだ!」
ってかハッシュさんと戦った時剣術32まで上げたお前が言うな!
ブーメランって言葉知ってる?
今のお前のことだお前の。
「分かった分かった。ガルシアさん、魔物って飼えるんですか?」
優人がそう聞くと再起動を果たしたのかひきつりながら質問に答えた。
「あ、ああ……。そうだな難しい。魔物使いってのは居るには居るが基本は興業用だ。ほら、貴族の見世物とかな。街に入れば自分の魔物が粗相をしたり人を襲えば使用者として魔物の罪を問われることになる。だから総数自体も少ないしなろうとする奴も少ない。戦闘にも使えないぞ」
「うげっ!何その不遇スキル!何で毎回俺に優しくないんだこの世界!」
何なの?俺に優しく無いのがデフォなの?
「ほら、聞いただろ?諦めろ」
優人はまるで聞き分けのない子供に言い聞かせるように俺に言った。
「断る!優人、この粒羅な瞳を見てお前はこの子を捨てられるのか?」
そう言ってスライムを突き出すと優人は微妙な顔をした。
「目が無いんだけど……」
え、何、差別?うわー、そんな目で見るとかないわー。
スライムだって生きてるんだよ?
「心の目で見ろ。心の目で!」
「んな無茶な……。……はぁ、分かったよ……。何とかする」
優人がガクリと項垂れる。
「よっしゃぁああああ!!」
俺が喜んでいると横から咲良が近付いてきて祝福をくれる。
「良かったじゃん。で、名前どうすんの?大体コイツって男の子かなぁ、それとも女の子?」
スライムBを撫でながらそう聞く。
その顔には猫を撫でる時のような少しだらけた笑みが浮かんでいる。
ただ俺にはその質問の意味が良く分からなかった……。
「はぁ?ナメクジみたいな雌雄同体に決まってんだろ」
「えーーーー……」
咲良は期待を裏切られた顔で長い長い不満のえー、を言った。
「あのな、生物的に考えればそっちのが正しいに決まってんだろ。カタツムリやナメクジやプラナリアみたいにベタベタしてる訳だし、無性生殖の線も有るけど、そうだとしたら“ノーマル”スライムっておかしいだろ。形質変化が推測できるってことは分裂とかそういう増え方はしてないだろうしな」
折角教えたのに咲く良の表情は堅いままだ。
「途中男同士のタイマンだとか何とか言ってたじゃん」
「はぁ?そんなの言葉のあやだろ」
揚げ足取るのは良くないぞ。
だからそんな冷たい目で見んな。
「正也って、たまに冷たいよね」
氷の如く冷たさである。
「じゃあ名前はどうすんの?」
「んー、手間取る不意討ちスキーとかどうよ?」
お、即興にしては中々上手く出来たんじゃないか?
『やぁー、そんなのかわいくない』
膝の方からそう声が聞こえる。
「根に持ってたんだ……。確かに可愛くない……って!」
二人で声が聞こえて来た方向を見て目を見張る。
「「不意討ちスキーが喋った!?」」
しかしまさか最初の雑魚にここまで苦労するとは……。
正也め……。




