62愛
「うわあぁぁん!うわああぁぁあああん」
王都孤児院の裏にある一つの墓の前で一人の女の子が大泣きした。
メルトはそこまで悲しく話しただろうかとは思いつつどうやったら泣き止むだろうかと四苦八苦する。
頭を撫でたり背中を擦ったりするが女の子が一向に泣き止む気配は無く、更に泣き声は大きくなるばかりだ。
メルトが女の子に何か変なことをして泣かせた訳ではない。
ただ誰の墓であるか少女が知りたがった為に2年前のことを話しただけである。
しかも恐いだろうと思うことはなるべく話さずにだ。
それだけで少女がここまで大泣きするとはメルト自身思いもよらなかったのだ。
集中力がない子供のことだ。
この類いの話をしても恐らく話が終わる前に遊びに行くかふーん、と返されるか、せいぜいが悲しいね、と言う位の物だろうと思っていた。
それでもメルトが話を聞かせたのは自分がかつての決意を思い出したかったのと過去のことだとけじめをつけたかったからだ。
それがどうしてここまでになってしまったのか。
メルトは必死に慰めて落ち着くのを待った。
そして少女は大分落ち着くとどうして泣いたのかを泣きじゃくりながら説明した。
いや、少女がしたのは質問だったが、それが全てを物語っていた。
「ひぐっ……えぐっ……どうして“二人とも”死んじゃったの?せっかく助けようとしてたのに……」
二人とも。
その言葉がメルトの心を深く抉った。
しかしそれはメルトが一切話していないことだった。
メルトは震える声を抑えながら少女に聞いた。
「どうして……そう思ったんだ……?」
果たして平常時の口調で返せただろうか。
しかしそんなメルトの無駄な努力を嘲笑うかのように少女は木を十字に組んだだけの簡素な墓を指差した。
「書いてある……」
そこには2年前には無かった安く手に入る赤銅のプレートが貼り付けてあり、そこに文字が彫られていた。
『トルダ、そしてニティ。二人は仲良く、そして安らかにここに眠る』
そこにあったのはただの墓だった。
真っ赤に血に濡れたどこにでもあるただの墓。
そうニティは死んだ。
他のスラムの子と同じように死んだ。
勉学など一切関係が無かった。
いやむしろ勉学をしたことが死を早めたのだ。
ニティの死因を一言で表すなら優秀過ぎた。
学術院に入ったニティはそれこそ死に物狂いで努力した。
元々ニティを学術院に入れたのは大好きな姉が文字通り命を賭して手に入れた物。
努力しない訳が無かった。
そしてその努力は実を結び最初こそ完全に出遅れていたにも関わらずクラスの半ばまで食い込むようになっていった。
不味かったとすればそれだろうか。
この世は出る杭は打たれるように出来ている。
その努力の結果ニティが得たのは癪に障った貴族の怒りだけだ。
その学校には子爵の子供のハイドという少年が通っていた。
その少年は平民、それもとりわけスラムの者が嫌いだった。
そうなったのはつい最近馬車を買おうと懐に入れていた金貨50枚もの大金をスラムの者に盗られたからだ。
しかもその者の処刑は叶わなかったし、盗られた金貨もハイドの元に戻ることはなかった。
そんな中スラム出の少女が自らより上の成績を修めたのだ。
それに怒り狂ったハイドは適当な理由をでっち上げニティを処刑した。
奇しくもトルダと同じ処刑台であった。
彼女はどんな拷問を受けようと最後まで自らの罪を認めることは無かったという。
そしてその処刑に冒険をしていたメルトが間に合うことは無かった……。
問題解決というのは有り得ない。
問題というのは幾ら片付けたと思った所で後から追いかけて来る物に違いないのだ。
「まさか、読めるのか?」
書いてあるとは自分で読んだということだろう。
事実そんなことメルトは一切自分で言わなかったのだから。
「うん……、お兄ちゃんから教えて貰った」
こんな時ではあったがメルトは少しだけ嬉しくなった。
恐らくそのお兄ちゃんとやらはニティから文字を教わったのではないだろうか。
もしかしたらそのお兄ちゃんのお兄ちゃんかも知れない。
そしてまたこの子も下の子、更にその下の子へと教え受け継いでいく。
ニティが居たことは、確実に此処に証として残っている。
あの気の強い少女は消えて無くなった訳ではないのだ。
不意に思った。
今度こそ守りたいと。
この明るい子供達の声を、笑顔を。
そしてこの王都にすむ人達を。
その為にメルトは誓いをまた深く胸に刻んだ。
魔王を倒すと。
ギルドからの依頼は勇者の育成だが、別に自分らが倒してはダメだということもないだろう。
少女の頭にポンと手を置いて撫でると立ち上がった。
今頃メルトの仲間も力を蓄えているだろう。
それに乗り遅れるなんてリーダーとして有り得ない。
まさかS級にもなって盗賊一人に負けるとは思わなかったが慢心するなということだろう。
「メルトく〜〜ん!」
遠くからリタの声がメルトの元に届いた。
ここへ来る時は一緒だったが、気を遣って一人にしたのだ。
リタはメルトの元に駆け寄ると気遣わしげにメルトを見た。
「大丈夫?」
「ああ」
メルトの短い返答を聞くとリタはゴソゴソとバックの中を漁り始めた。
「あんなことになっちゃったから渡すに渡せなかったんだけど……」
そうしてリタは一つのリボンを取り出した。
「はい、これ」
「ん?コレは……」
渡されたのは端にIの文字が刺繍されている青色のリボン。
赤色のニティのリボンとは色違いだが、同じ物だろう。
「これと同じのずっと探してたんだけど見付からなくて……。ようやく王都に来る途中の町で着けてる人を見掛けたからハッシュくんに頼んで一緒に探してたんだけど……。その間にメルトくん達が大変な目に遭ってて……。ごめんね、一緒に居られてたら……」
観光とはそう言うことだったのか、と今更ながらメルトはそう思った。
今思えば王都には幾度も来ているにも関わらず観光とはおかしなことであった。
そしてリタ達がリボンを探している間に運悪く盗賊に襲われたという訳だ。
「いや、気にすることねぇよ」
そのことを申し訳なく思っている様だがメルトからすれば気にする必要は全く無かった。
盗賊に負けたのは力不足だし、仮にリタとハッシュが居ても結果は変わらなかっただろう。
そのまま死んでいた可能性だってある。
「うん……。それ、あの子の物と一緒に持っててくれる?あの子が居ないんじゃあお守りの効果を果たせないだろうし……」
考えて見ればニティが言ったリボンを持ったまま死んだりすれば殺しに行くと言っていた。
ともすればそれは彼女なりにお守りのつもりだったのだろう。
しかし現在彼女はその言葉を実行することは出来ない。
今は持っているだけのただの古びたリボンだ。
よってお守りとしてリタがリボンを渡すということなのだろう。
「分かった」
メルトは今貰ったリボンをニティのリボンと同じ所にしまう。
「そろそろ城に戻るか。大分開けちまったしな」
勇者の教育係が長く勇者から離れるのも体裁が悪いだろう。
「うん、そうだ……?。……!。……………ごめん用事が出来たから先に行ってて貰っていいかな?」
リタは頷きかけ、そしてハッとしたように動きを止めて辺りを見回した。
そして血の気の失せたような顔でメルトにそう問うた。
「おう、待ってるぞ」
「うん、直ぐに行くから」
メルトは気付かなかったがリタの顔は普通とはかけ離れた顔であり、そしてどうしようもなく今後の波乱を感じさせる物だった……。
読み返してテセトの能力どっかで書いたなぁと思ったらハッシュの能力で似たような文章書いてた。orz
未来予知の方が上位互換な感じです。
ハッシュの分析は突然空から隕石が降ってきたりしたら対応できませんがテセトは予期出来ます。
多対1の場合も同じくハッシュは一人づつ事前に戦う必要がありますがテセトはオーラのドーム内に居れば予知出来ます。
別にチョイチョイっと決めた設定じゃないですほんとです。
ぜんっぜん動揺とかしてないですよ〜。
けっ、計画通りだ。




