61メルト外伝紅の墓標42遺志と意志
すいません!!m(__)m
遅れました!!
そして終わった!
魔王城へと帰還したフォルダ一行は慌ただしく動いていた。
「その者どもを回復させよ」
フォルダはツェーレ、エドガル、クロスバを指しながら命令を下すと自らの部屋に向かい歩いた。
その姿にロレックとその従者が付き従う。
「これ、何が有ったんですか?魔王様?」
どこか抜けたような言葉で一行を止めたのはテセトだ。
騒がしくなって来た城内に呼応して部屋から出てきたのだろう。
知らぬ間に親衛隊が瀕死であったことに傷付いてさえいた。
「魔王様と呼ぶな!陛下と呼べ!」
テセトのフォルダの呼び方が気になったロレックはいつも通り訂正する。
魔王とは初代が自らをそう称した名であり、フォルダに対して使うには正しくない。
人間と魔族とではその名について認識が異なっている。
魔族にとっては全てを率いるまさに大陸の覇王の名である。
しかし既にその名は人間達にとってただの蔑称と成り果てている。
ロレックはその蔑称を人間であるテセトが言うのが我慢出来ないのだ。
ついでに対等の関係のように気安い言葉を使うのも気に食わなかった。
「ごめんロレックさん。それで何が会ったの?」
テセトはこうして謝りはするが直しはしない。
既に彼の中でフォルダこそが魔王だと認識しているからだ。
「どうしたもこうしたもない。悪魔の王にやられてしまった」
悪魔の王。
テセトはその名に聞き覚えがあった。
それどころか待ち望んだ名前ですらあった。
「メルトくん……そっか……来たんだんだね」
悪魔の王とはオメガのこと。
それをメルトという少年が宿していることは既に報告を受けている。
一日に二度も懐かしい名前を耳にしたテセトは一瞬子供の頃の懐かしい思い出に浸った。
そんなテセトの脇を何事も無かったかのようにフォルダは通り過ぎ、ロレックと従者もそれに続く。
それをテセトは気遣わしげに見送った。
一行がフォルダの自室の少し前まで来るとフォルダは何の前触れもなく止まった。
「ここまでで良い……少し疲れた。部屋で休む。暫く誰も入れるな。……………………すまんな」
フォルダは下を向きながらボソボソと言うとそれに対してロレックと従者は無言で頭を下げた。
それはフォルダの姿が見えなくなるまで続き、バタン、というフォルダが扉を閉める音が聞こえて漸く二人は頭を上げた。
「すまんな、とは一体どういうことで御座いましょうか?」
従者がフォルダの意をロレックに問う。
ロレックはそんなことも分からないのか、とは思いつつも意識の共有の為に答えてやった。
「陛下はお優しい、そして洞察力に長けた御方だ。陛下は此度の件で私たちが気を利かせて裏で行っていた実験に気付かれた。しかしお優しい陛下はそのことに対して申し訳なさを覚えられたのだろう。不甲斐なさかも知れぬ。御心を推測することは不敬であるが恐らくそうに違いない」
ロレックの言葉に従者は大きく目を見開く。
元々内密に行っていた非人道的な実験の数々、それは幾ら副官だからと言って自由に出来る権限を逸脱している。
クーデター未遂として手打ちにされてもおかしくはない。
「まさか!では今後は実験は中止ですか?」
従者は心から残念そうに言った。
現在既に戦力上昇著しい。
近衛にも入れない落ちこぼれを集めて強化しただけであれだけの力を叩き出したのだ。
ヨキだけは別ルートとは言えヨキからドミネーター経由の映像を見れば分かるように親衛隊の質は大いに上がった。
親衛隊が文民上がりと揶揄されたのも今としては遠い昔の出来事である。
しかもこれでまだ試作段階だ。
現在研究中の技術が完成に近付けば更なる戦力向上が期待できる。
まぁ、それも全てそれなりの犠牲の上に、という話だが。
「いや、続ける」
しかし従者に対するロレックの答えは意外な物であった。
「し、しかしそれではロレック様の身が!」
気付かれたにも関わらずこのようなことを続ければいつか必ずフォルダに鉄槌を下されるだろう。
フォルダは優しさはそのような物は許さない。
「それは全て覚悟の上だ。全ての責任は私が取る。お前達にまで責が及ばないよう今後実験は人間だけに止めておけ」
モルモットとは彼らが第二次侵攻の際に捕らえた者達や、それらを繁殖させて増やした者達のことだ。
それらの身はロレックに一任されており、どうしようとロレックの自由である。
「ハッ!」
従者は一瞬物言いたげな顔をしたが頷いた。
「陛下は魔王であることを魔王様より受け継がれた。故に陛下は我ら(魔王軍)を庇護するべき者として見ている。嘗ての魔王様と同じように。それは今回のことでハッキリとした。ただの部下であればあのような行動は起こさない」
そうしてロレックはギリッ、と歯を食い縛った。
「使い捨ての道具であればどれだけ良かったことか!我らにただ後ろで陛下が我らの為に傷付くのを黙って見ていろと言うのか。
そんなことは許されない。我らは同じ轍を踏まない。我らに力が無かったのが魔王様の時の過ちなら我らは15年前以上の軍拡をしなければならない。
盾、矛、薬の開発を急がせろ。我らが陛下の前に出て陛下に気付かせるのだ。我らはただ守られる存在ではないことを。我らこそが陛下を守るのだということを。
陛下を守る力を我らに。それが400万の魔人の意志だ」
そうロレックは言い切った後、誰にも聞こえない程小さな声で言った。
「それと……全てのニンゲンを滅ぼす力を私に……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
バタン。
フォルダは自らの自室の扉を閉めると手に持った1本の刀に目を落とした。
美しい刃紋を覗かせる刀身がフォルダの顔を映し、その翠の目がフォルダを見返していた。
その刀の名は氷吏。
初代魔王が造り上げ振るった刀をフォルダに下賜し、それをフォルダが魔王を継ぐにあたってヨキに与えた物だ。
そして今、その刀の所有者は死んでしまった。
フォルダはヨキに目を掛けていた。
より正確に言うなら同情していただろうか。
初めてヨキに会ったのは城の廊下だった。
フォルダはヨキが洗脳を受けていたのは予め知っていた。
そうでも無ければ過保護な部下達が先日まで敵だったような者を会わせることはないということも分かっていた。
しかし堪えた。
憎しむべき筈の自分を何の裏もなく慕ってくれるような純真な目が。
フォルダはどうにもその目を裏切る気分にはならなかった。
術を解き、ヨキに憎しみの目を向けられた時、どこかホッとしていた自分が堪らなく情けなくなった。
フォルダはその情けなさから逃れる為にヨキに氷吏を与えた。
フォルダは最初精神体に近いヨキには使いこなせないだろうと思っていたがそれは違った。
彼は努力し、私の信頼に応えるなどと言った。
憎しみを一身に背負うつもりだったのだが、フォルダは憎まれるどころか信頼さえされていた。
だがもうその彼も居ない。
そしてフォルダはダルクのことも思い出した。
酷い体の状態の中、必死に尽くしてくれた魔人だった。
自らの寿命が定まることを知りながら新しい治療法が見つかることを諦め、戦う為に手術を受けた。
少しでも動けば激痛に苛まれるような体でありながら任務に赴き現場で血と汗を流した。
フォルダに与えられた命を返す、とそう何度も繰り返したダルクは本当に命を喪うことになった。
笑い話にもならない。
今回失った命は二つ。
だがそれはフォルダが守るらねばならない二つだった。
フォルダは胸を抉られるような思いを抱いた。
それはフォルダが部下を失う度に感じてきた物であり、初代魔王を失った時と同類の物である。
フォルダはとっくに魔王の遺志を継いでいた。
『全ての種族を皆仲良くさせる』というハチャメチャな遺志を。
勿論、そんな遺志を叶える為に努力は惜しまなかった。
だが……フォルダは部下が死ぬ度にそれが頭をよぎった。
ポタリ、ポタリと澄んだ刀身に雫が落ちる。
どうしても心が揺れたフォルダはここに居ない初代魔王へと呼び掛けた。
「後幾つ……後どれだけ部下の死体を跨げば貴方の夢に辿り着くのですか?教えて下さい――」
彼の名前を呼びながら……。
「――イサハヤ・ヨウスケ様――」
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「あー、終わった!漸く終わった!つっかれたー!!」
あの鬼のように忙しかった魔人討伐から三日後。
怒られたりとか怒られたりとか怒られたりとか色々な後処理を方々駆けずり回って終らせたハッシュ。
メルトや寝込んだままのキースをお見舞いに行ったりと八面六臂の仕事を強要されたハッシュは目のつく仕事がなくなったことに感涙する。
全てが終わった。
道のど真ん中でそんな調子で伸びをする。
もう何もせずダラダラしたい……。
そんなイグマのようなことを思ったりするが、まずそれよりもすることがある。
「良かったね、ハッシュくん」
一緒に居たリタがそんな風にハッシュを慰める。
「ああ!これで心置き無くシュヴァインスヴィニヤーコションマーレに行けるな!」
(そのまま忘れてしまえば良かったのにね、ハッシュくん……)
働いてはみたものの流石に三日で二人で白金貨1枚もの大金を稼げる筈もなくリタの所持金は現在金貨2枚である。
逆立ちしたって行けるような金額ではない。
当然、ディナーの奢りは中止である。
「あ、あの……」
「たっのしみっだなぁ♪どれ着てこう?」
なんとかハッシュに接触を試みようとしたが、リタは途中で止めた。
(何てキラキラした目をしてるんだろう……。言えない……。今更中止だなんて絶対言えない……)
ハッシュが目を輝かせてアイテムボックスからタキシードを取り出したりしまったりする様をリタは死んだ魚のような濁った目で眺めていた……。
そして気付く。
更なる出費の恐怖に。
「そ、それってタキシード?もしかして……」
それ以上は怖くて聞けなかった。
どうか違っていてくれ……。
そんなリタの俗物めいた願いは神に届くことはなかった。
「うん、ドレスコード。当然でしょ?門前払いされちゃうよ。まさか持ってないの?」
リタは知らなかった。
言葉にこれだけの殺傷能力があるとは……。
メガトン級の核爆弾に匹敵する言葉に1RKOを喫したリタは素直にタオルをリングに投げた。
「持って、ない、です……」
あ、これもしかして自然な流れで中止になるかな?現実逃避にそんなことを思うリタだが、それとて稼ぐ金額が増えるだけだ。
(いっそのこと質屋に防具とか杖を……。いや、ダメだ。私回復系だから防具持ってないし、ローブとか杖も結界使えば要らなかったから最低の値段の物しか持ってない……。それに長く使ってて即決だなんて買い叩かれるに決まってる……)
ガッツリ落ち込むリタにポン、と手を叩いて名案を思い付いたとハッシュ。
「そうだ!、母さんから貰ったのあるからそれ着……冗談ですッ!!冗談だからそんな目で見ないで!!」
言ってる途中で偶然悪寒に震えたハッシュは光速で掌を返す。
空気が戻った時ハッシュはじゃあ、着てた俺の立場はどうなるんだよ……、と小声で愚痴っていたがリタには又々偶然聞こえなかった。
一応立場が弱いということでハッシュにアレを出して貰ったが、どのみちウェスト辺りがキツくて入りそうも無かった。
(嬉しいような……。やっぱりメチャクチャ腹立たしいような……)
リタが複雑な気持ちを抱えながら中止の方向に話を逸らそうとする直前、ハッシュが閃いた。
「あ、そう言えばあれが有ったか……」
ハッシュはそう言うとアイテムボックスをゴソゴソと引っ掻き回し、一着のドレスを引っ張り出した。
「あ、変装に使った時の!まだ持ってたんだ……」
ハッシュ達が以前赤毛の少女に変装して男爵家に潜入した時に使ったドレスだ。
そこまで豪華では無い上に所々汚れているためにドレスコードには適さないだろう。
ハッシュもそれを認めるとちょっと待ってて、と言い残し何かを買いに行った。
戻ったハッシュが持ってたのはレースで、それを針でドレスに縫い付けていく。
小一時間格闘して完成したのは一瞬高級品と見紛うようなドレスだった。
「これで門前払いはない筈……多分。じゃ、これ着て」
(これ私よりかなり上手いような……)
本日二度目の複雑な気持ちを味わいながらリタは宿屋に戻って服を着替えていると、完全に逃げ道を絶たれたことに気付く。
「ああ……、ほんとにどうしよう……何日の皿洗いで許してくれるかな……?」
因みに至極どうでも良い話だが、この日のディナーは男前のハッシュ君が泣きながら全額払いましたとさ。
めでたしめでたし。
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リタとハッシュが揉めていた一方、穴の開いた腹に包帯を巻きながら孤児院に来ていた。
そこにトルダの墓が建てられていたからだ。
何でも孤児院に入ることになったニティが一緒じゃないと嫌だとごねたそうだ。
メルトは丸太を十字に組んだだけの簡素な墓に黙祷する。
「ここに居たんだ」
トルダにすまなかったと詫びていると後ろから声が掛かる。
後ろに居たのはニティ。
それもそうだ。
彼女は院長の厚意で孤児院に移り住むことが決まり、今引っ越しをしている所だ。
とは言ってもニティはスラム育ちのため持っている荷物は少ないが。
姉の荷物の整理も多いため、どうしても時間がかかる。
頻繁に出入りしている所に来れば会うのも当然だろう。
「アンタを探してたんだ」
「ん?」
返事をした瞬間、投げられた袋に驚き受け取って思わぬ重さに更に驚く。
小口を開いてみると金貨がぎっしりと詰まっていた。
「それ、依頼料。一応そういう約束だったから」
サラリと言って帰ろうとすまし顔で踵を返すニティの頭にメルトは金貨の沢山入った袋を投げ返す。
「痛いッ!!」
ガツンと大きな音がなり涙目のニティは頭を押さえて振り返る。
「何すんのよ!!」
痛いのも当然だ。
言うなれば布に包まれた金属の塊であり、当たり所が悪ければ致命傷になりうる。
「餓鬼が。カッコつけるなんて10年早い」
フンッ、と大きく鼻を鳴らしてふんぞり返るメルトに霧消に腹立たしくなったニティは言い返そうとするがメルトの方が速かった。
「金は持っとけ。依頼は達成出来なかったしな。お前のねぇちゃんは助けられなかった。餓鬼に金恵んで貰うなんて恥ずかしくて出来るか。やりたいことあるだろ?」
盗んだ金だということは分かっていた。
それでも子供が好きに使った方が大人が汚いことに使うよりは幾らかマシだろうとメルトは思う。
「いいの?」
「餓鬼が遠慮すんな。大人しく貰っときゃあ良いんだよ」
大人が子供にタカるなんて間違っている。
メルトを今動かしているのはたったそれだけの正論だった。
「……ありがと」
ボソりと消え入るように言ったお礼は間違いなくメルトに届いた。
「元々お前の金だろ?で、どうすんだ?それ……」
袋を指差すが、ニティは一切迷わなかった。
「学術院に行きたい……」
「ん?自分から学びたいだなんて変わってんな」
メルトの基準は自分だったが自分は勉強なんて寝ていた記憶しか無かった。
「うん、おねぇちゃんが言ってたんだ。私には光の中を生きて欲しいって。おねぇちゃんから言われただけじゃなく私もそう生きたい。笑いたい時に笑って、泣きたいときに泣く。そんな普通になりたい。その為にはそれが一番かなって」
無学なメルトには全く意味が分からなかったので肩を竦める。
「ま、気楽にいけよ」
「アンタは?何か決めたの?」
自分の夢を語った照れ隠しにメルトに話を向けるニティ。
「俺か?まぁ、俺も見付けた」
瞬間少しメルトの顔が暗くなる。
ニティはその顔を見て姉もよくそんな顔をしていたなと思い出す。
「へぇ、どんなのか聞いてあげる」
「俺は自分の正義を貫くよ。少数を切り捨てるなんて間違ってる。その前に救う命を探せば良いだけだ。ましてやそいつらに何の興味も持たないなんて許せない。もし命を奪うならその人のことを知るべきだ。ただ無感情で駒として殺すなんて間違ってる」
どこか強迫観念に駆られているような話し方だったのがニティには少し気に掛かった。
まるで自ら死にたがっているかのように。
「そっか、そっちも気楽にね」
そしてニティは思い出したかのように続けた。
「後……コレ。お礼」
ニティはゴソゴソと服を漁るとメルトに一つの赤いリボンを差し出した。
「んだコレ?汚っ」
そのリボンを見れば随分年季が入っており、全体的に色が褪せ、所々解れていた。
端に刺繍があり、Aの文字が浮き出ている。
「私の一番大事な物。多分、命よりも」
「んな大事な物貰えねぇよ」
メルトがそう言うとニティは怒った。
「誰があげるって言ったのよ!貸すだけ。絶対返して。どっかで無くしたりなんかしたら殺すから。どっかで死んじゃって借りパクしたりしたらもう一回殺しに行くからね。それじゃ、それだけだから……」
そう一方的に言うとニティはクルリと回って未練無くスタスタと歩いて行った。
メルトはニティの言葉を死ぬな、生きて返せという激励だと受け取った。
子供に励まされるなんて、とも思ったが素直に受け取ることにした。
誰も居なくなった墓の前でメルトはさっき貰ったリボンを握り天を仰いだ。
「テセト……俺は自分を慕う部下を道具扱いするなんざ一番許しちゃダメだと思う。
だから俺は魔王を倒す。もし、お前が生きてたら俺と同じことを言うと思うから……。
それがお前の“遺志”だと思うから」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
テセトは自室の豪華な椅子に腰をおろした。
そしてため息を一つ吐く。
それは先程目覚めたツェーレに体に悪魔の王を宿した少年、つまりはメルトのことを聞いたからだ。
そんな中、テセトは誰もいない部屋で独白した。
いや、もしかしたらここには居ないメルトに語りかけて居たのかも知れない。
「そっか、君も来たんだね。メルトくん。そしてやっぱりそちら(人間)側かぁ……。ねぇ、メルトくん。もし君が魔王様の邪魔をするなら……。僕は君を殺さなきゃならない。
ごめんね?メルトくん。これは僕の“意志”だ」




