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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
59/107

59メルト外伝紅の墓標40四天王

「提案がある」


そう言ってガルシアは思いっきり顔をしかめ、続けた。


「力を貸してくれ」


その時のガルシアの屈辱感と言ったら凄まじい物があった。

彼にとってこの世で一番嫌なことだと言えばその筆舌の尽くし難さも一片は分かって貰えるだろうか。

彼にとってこの世で一番嫌いな人物キースに、この世で一番嫌いな(助けを求める)ことをするのだ。

貴族社会を生きてきたガルシアには考えられない程の巨大な屈辱だった。

まさに死んだ方がマシな気分であった。

こんなことをするくらいならメルトの作った料理とも言えない産業廃棄物を処理しても良いかも知れない。

だが、この目の前の自称天才を地獄の底に突き落とす為なら自らの栄えある真っ白な人生に汚点を残すことすら甘受せねばならない。

そう、今はこのジーンとかいう男だ。

人生に付いた汚点を雪ぐのは“後でいい”。

後でキースを殺して無かったことにすれば良いだけの話だ。

そうした壮絶な葛藤の末にガルシアの口から出た提案にキースは少し驚いたような顔をした。


「へー、お前が俺にお願いとか初めてじゃないか?」


全身血だらけで今にも死にそうな癖してやけに生き生きとした声を出すキース。

まるで鬼の首でも取ったかのようだ。


「先程といい一々癇に障る言い方をする男だな。提案は取り引きだ。お願いじゃない」


ここがガルシアの自分が納得できるギリギリのラインだ。

まだ相手を利用する為のビジネスライクな関係だと自分自身を騙すことが出来る。


「へぇ、取り引きねぇ……。俺がソイツと“も”戦う代わりに何をしてくれるんだ?

お前がソイツのケツに頭突っ込んでくれるってんなら大歓迎だが?」


キースは“も”という言葉を強調して返す。

キースはその取り引きに興味を持った。

価値観が違いすぎる奴が自分に対してどの様な利益を提示するのか興味が沸いたからだ。

ついでにキースは場を円滑にするためのジョークも返したのだがガルシアは相当お気に召さなかったようだ。

その証拠にガルシアの額には早くもぶちギレそうな青筋が浮かんでいる。

ガルシアはキースの先程の提案に乗って喧嘩を売って殴り込もうかとも思ったがそれではいつものように話がループする為に殴り込みをなくなく諦める。


「お前より強い奴を教えよう」


その言葉を聞いたキースは一瞬キョトンとすると直ぐに大声で笑いだした。


「ハハハハハハハハ!!それがソイツってか!おもしれぇ」


キースはその正気とは思えない行動からよく頭が悪いと思われがちだが実は案外そうでもない。

頭がその方向にぶっ飛んでるだけでキース自身の頭は自体はそれ程悪くないのだ。

まぁ、それを余計に質が悪いとも言うが。


「勿論、それ以外の情報も惜しみ無く提供するが?」


幸い戦闘欲を生理的欲求に置く狂人が気に入るような強者の情報は幾つか保有している。

魔王に目を付けられ変な組織に喧嘩を売られる。ついでに思い出せば処刑を台無しにしたことで何とかとか言う男爵も敵に回しただろうし今キースが戦っている奴も伯爵ということはそういうことだ。

正直四面楚歌の現状に更に敵を足すマゾヒズムの思考等分かりたくもないがそれが利用できるなら利用するべきだ。

そう思いガルシアは葛藤の末そう言ったのだがキースの返答はガルシアの思いもよらない答えだった。


「断る!!」


「なっ……!」


キースの反応を見る限り途中までかなり乗り気だった筈だ。

それをいきなり覆すキースの目的もメリットも分からない。

やはり頭で考えるガルシアでは本能に任せるキースのことは理解のしようもなかった。


「俺が目指すのは運命、因果、理の全てを無視し、あの世もこの世も引っくるめた全ての勢力を個人で覆す最強だ。それに比べりゃあ魔王やコイツらなんてのは芥子粒に過ぎない。ついでに払う埃が一つだろうが二つになろうが興味ねぇさ。強い奴の情報ってのは後ろ髪引かれるがそいつらが力を求めるならいずれぶつかる。力を求めねぇでそこで停滞するような奴ならアウトオブ眼中だ」


そんな大胆な発言にガルシアが絶句していると耐性がないのか隣のジーンから感心するような声が聞こえてきた。


「ほえー、随分ファンキーなお友達だな。大天才にして高貴なる俺様とは大違いだ」


ガルシアはその言葉に言いたいことが有りすぎて整理の為に口を閉じると氷のごとく吐き捨てた。


「その不愉快な口を閉じろ。言うに事欠いて友だと?虫酸が走る。それにあの男とは違うだと?似たようなことを口にする男の言葉とは思えないな」


同じく最強を目指す二人。

ガルシアからすればどちらも同じ頭のイカれた奴にしか見えないがどうやらジーンとしては受け取り方が違うらしい。


「バカ言えあんな頭のぶっ飛んでる奴と一緒にするな俺の言ってる最強なんてのは目的達成の為の手段だ。代換の利く単なる通過点だ」


「目的?」


ガルシアが聞いたのは興味本位だ。

キースが望む最強を踏み台にするジーンの目的が少し気になったのだ。

しかしジーンから返って来たのは全く別のことだった。


「エーデルフォイレという名の魔法使いを知っているか?今頃17歳か其処らになっている筈だが」


(エーデルフォイレ……。確か昔に読んだ魔術書の作者がそんなような名だった気がするが、100年以上昔に書かれた本だった筈だ。エルフか?いや、その本になぞらえた偽名の線が強いか……)


「知らないな。それがどうかしたのか?」


突然の質問に訳が分からないながらも答えるガルシア。


「やはりな……俺様はそれが我慢ならない。俺様を遥かに越える才能が洞窟に籠って誰にも知られないまま一生を終えるなんて間違ってる。何より俺様を天才と呼ぶのならなぜ俺様を越える才能を見付けられない。それは社会の怠惰だ。だから俺様はその間違いを正す。

俺様の目的はエーデルフォイレの名を不変の伝説とすること。籠ったまま出てこないのであれば俺様がこの世の全ての名声を一身に集めそれを全てそっくりそのまま譲り渡せばいい。

単に大天才の俺様が一番手っ取り早く出来そうだったのが最強だったってだけの話だ。別に名声が得られるのであれば最強に対しては執着しない。お前のぶっ飛んでる友達と一緒にすんな」


つまりジーンは最強なんて軽〜くなれると思っているということだ。

心配しなくても十二分にぶっ飛んでいる。


「何度も言わせるな。ヘドが出る。バレインは排斥すべき“敵”だ。それ以上でもそれ以下でもない」


「ざけんな!!常に殺そうと隙を窺う奴の何処が友達だ!」


相当腹に据えかねたのかキースとガルシアの二人でジーンの友達発言に抗議する?

しかし当のジーンは全く分かってないのか小首を傾げると……。


「ん?だってお前ら好敵手(心の友)って奴だろう?ラタが言ってたぞ」


と、あまりに偏った知識を披露した。

どうやら主犯はラタのようである。


「違う!!」 「誰がだ!!」


二人で同時に叫ぶとキースは相当頭に来たのか早々に前言を翻した。


「オイ、ガルシア!てめぇと共闘すんのは願い下げだが停戦協定位は結んでやる。だからさっさとそいつをぶちのめせ。何なら引っ込んでても良いぞ。むかっ腹が立ったからコイツのついでにそっちの埃も払ってやる!」


「誰が貴様の世話になどなるか。考えただけでも吐き気がする。停戦協定だけで事足りる。丁度僕も腹が立った所だ。此方を見るなよ。貴様を殺すための隠し事が沢山あるんだ」


キースという男はガルシアに取って常に“敵”だった。

常にキースに対して隙を見せないように戦い、逆に隙あらば殺そう企んでいた。

恐らくそれはお互いにだ。

そんな状態で目の前の敵に集中できる訳がない。

そしてそんな枷を今、提携した停戦協定が吹き飛ばした。

互いに互いの敵を不可侵としたのである。

勿論、停戦協定を破ることは禁止の上でだ。

これで後顧の憂いもなく100%の力で目の前の敵に向かうことが出来る。

そしてガルシアが対キース用に割いていた魔力リソースを全部つぎ込み巨大魔法を連発しようとしていたその時だった。

ジーンはメッセージを関知し、耳に手を当てて報告を聞く。


『……』

「あ?退却?今からパーティが盛り上がる所なんだぞ!ガイーンと凹ましてよ!」

『……』

「へーへー分かったよ。都合の良い時だけボス面しやがって……」


ガルシアは構わず魔法をぶっ放すがジーンはそれを会話の片手間でガードする。

メッセージを切るとジーンは残りのメンバーに大声で号令した。


「おおい!撤退だってさ」


その号令に一番反抗したのはラタだ。


「何!?ふざけんな!!悪を前に引く正義の味方が何処に居る!大体ニティをあいつらの所に置いてくのか!?」


ラタが盛大に抵抗するがジーンとユージンに引きずられていく。


「オイお前ら!次会った時には必ず断罪してやる!」


まるで悪役の三下のような捨て台詞を言いながら遠ざかるラタだがそうは問屋が卸さない。


「「逃がすと思うか?」」「殺す!!」


三人が追撃に動き、狙いを定める。

しかしそれをメルトが止めた。


「これ以上は無理だ!戦い詰めでスタミナが持たない!」


戦いではほんの僅かな不備が死を招く。

そんな不確定な所にやるにはメルト達は傷つき過ぎていたのである。


「「メルト(主)がそう言うのなら……」」

「ク……ッ!!」


三人は不服そうにしながらもそれに従う。

特にイグマは初めて強い悪意を持った相手とメルトと天秤に掛けなんとか沸き上がる殺意を抑える。


ラタ達が見えなくなる程遠くに行ってからパチリとキースは納刀する。

ハッシュがフラフラするキースの肩を大丈夫かと叩こうと手を伸ばすがその手は空を切る。


フゥ……。


体が傾き纏っていた黒い魔力がほどけるように体から離れていき髪の毛と服が元に戻る。


ドサ……。


キースは敵が居なくなったことで緊張が切れたのか地に伏し、気合いで閉じていた傷が開き、ドクドクと血が体外に溢れ出す。


「オイ大丈夫か!?リタ早く!!」


慌てたハッシュが抱き起こしてリタを呼ぶ。

その姿をガルシアは見下ろしながらぶつぶつと呟いた。


「停戦協定停戦協定……」


震える腕を抑え、苦虫を噛み潰したような顔でなんとか殺意と戦っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


少し時間を遡る。

時はレウリから空間を繋げる穴が開き幹部が出払った頃。

場所は魔王城。

テセトは周囲が急に辺りが水をうったような静寂に包まれたことを訝しみ、ロイを使いにやることにした。

本来ならテセトにも魔王が不在になったことやその経緯が伝えられていてもおかしくないのだが、ロレックが何をするか分からないということで無理と伝えられて居なかったのだ。


「ロイ、少し悪いけど何があったか聞いてきてくれない?」


「ハッ!」


ロイは小気味良い返事をしながら扉の近くに控える黒子のように外套で全身を隠している者を押し退け出ていく。


「ねぇ、君。そこの果物取ってくれる?」


テセトは銀の器に盛られた幾つかのフルーツの内、林檎に似た安価な果物を差す。

それは元々テセトの住んでいた村で流通していた物であり子供の頃幾度も口にしたものだ。

普段は高級品ばかりが並ぶお菓子――いつもはレウリにお裾分けしている――だがそんな中に見付けた故郷の味に珍しく食指が動いたのだ。

しかしこの時テセトはこれよりももっと懐かしい物に会うことになろうとは思いもよらなかった。


「断る」


外套を着た者から男の声で短く拒否の答えが返ってくる。

勿論彼とテセトの階級は天と地ほどに隔たっておりその様な無礼な受け答えなど許されよう筈もない。

温厚なテセトだったからこそ怒らなかったが普通なら手打ちも有り得る。 二人だけの空間にその言葉が十分に染み渡った頃外套を着た男は更に砕けた口調で続けた。


「あー、警備かったいなーここ。まさか会うだけで2週間も掛かるとは思わなかったよ……」


不審人物かと思いロレックにフォルダのドミネーター経由で報告しようとするが繋がらない。


「ああ、通信妨害と部屋の断絶はしといたから通じないと思うよ。しかし結界符って色々出来て便利だなぁ」


見れば部屋の扉にお札のような物が貼ってあり結界符とはどうやらそれのことを指すらしい。


「誰?」


正直頭が混乱したテセトはその不審人物に直接問い質すが返ってきたのは全く別のものであった。


「久し振りだな、テセト」


そう言うと男は外套に付いたフードを取り、顔を晒す。

そこに有ったのは顔つきはかなり精悍になっていたものの見紛い様もない……。


「バナー……」


幼馴染みの顔だった……。


「いや、今は魔王軍四天王テセトって言った方が良いかな?」


突然現れた旧友にテセトは懐かしさで一杯になる。

バナーの次の言葉までの短い間は。


「取り合えず一発殴らせろ。積もる話はそれからだ」


バナーの目に幽かに映る怒りに今度はどうやって言い訳しようかということで頭を一杯にしたテセトだった……。

沖縄では帰りにホテルの部屋を出る際カードキーを部屋の中に置いたまま出てしまい、その後自分がホテルのスリッパを履いていることに気が付いた……。

どうやら靴は沖縄に定住したかったようだ……。

都会こえー。

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