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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
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56 メルト外伝紅の墓標37 罪

「メルトと言ったな。俺はお前を悪と断じ、断罪する。悪党退治は正義の味方の仕事の一つだろ?」


ラタの言ったその一言はその後の空気を一変させた。

一瞬で辺りに充満する濃密な殺気。

出所はイグマ、ガルシア、キースの3人だ。

3人は今にも飛び掛からんばかりの格好になっている。

しかしメルトがそれを手を上げて制する。


「俺が悪?何言ってんだお前……」


突然の批判に少し睨むような目でメルトはラタを見た。

それを受けるラタは呆れた表情をつくると頭を掻いた。


「何だ?自覚無しかよ……。こりゃ、悪意がある分盗賊とかの方がまだマシだな」


嫌そうな顔をしながらラタはそう言い、それを聞いたメルトは眉間にシワを寄せた。


「どういう意味だ……!人を助けようとすることの何処が悪だ!」


怒りを多分に含んだメルトの言葉にラタは無表情で答える。

説教をしてる訳ではなく自分を嘲っているのだ。

あれだけ準備をしておきながらトルダを助けられなかった自分を。


「そのまんまの意味だ。勝者こそが正義だなんて言うつもりもないが、所詮正義か悪かなんてのは結果から判断するしかない。過程なんて物に意味なんてないんだよ。頑張ったけど助けられませんでした、じゃ良いことしてるような気になってるだけで傍観してたのと何も変わらない。俺もお前もな」


メルトに制されていたガルシアはラタのあまりの言い分に眉をしかめる。


「ほう、君は両方が悪だと言う癖に、罰せられるのはメルトだけだと?正義の味方って良い身分だね。なら僕が今から正義の味方になるからそこに平伏してくれるかい?君の罪を首ごと断ち切ってあげるよ」


ガルシアは余程不愉快だったようで半ば本気でそんなことを言った。

それに対しラタはフンッ、と鼻で笑った。


「笑わせんな。お前が正義の味方?ハッ、それが社交界で何人も貴族を凋落させた奴(悪党)の言う台詞か。まぁいい、別に傍観が悪だとは言っちゃいねぇよ。んなこと言うなら善人なんかこの世に居なくなるぜ。早合点すんな。メルト、お前の犯した罪は別にある」


罪、という現実的な言葉にメルトは頭を悩ませ小首を傾げる。


「罪……?」


その姿を見てラタははぁ、と一つ溜め息を吐くと酷く呆れた顔をした。


「罪悪感すらねぇのかよ……。頭がイカれてやがるな。まぁいい、事のついでだ。お前の罪を数えてやるよ」


そう言うとラタは両手を目一杯広げて空を仰ぐと叫んだ。


「まずひとぉつ!冒険者ギルドで俺をブン殴った罪ぃ!!」


メルトの罪として最初に示したのはメルトがラタを殴って壁に埋め込んだ件だ。

つまりは思いっきり個人的な恨みだった。

しかしそれも仕方あるまい。

ラタはB級冒険者だが、ある一つの能力を除けばC級相当でしかない。

そんなラタが出会い頭にぶん殴られて壁に埋め込まれ生死の境をさまよったのだ。

それは恨みに思って当然だろう。


「俺は死ぬとこだったんだぞ……!死ぬとこだったんだぞ!!」


静かに怒るラタに対しメルトは何処か拍子抜けしたような呆れたような顔をした。


「そりゃ、お前がニティをたぶらかそうとしてたからだろ」


ニティは少々幼すぎるが、愛の形は人それぞれ。

事実そういう趣味の貴族も幾人か居る。

しかし、そのメルトの言葉はラタにとって激しくお気に召さなかったようで本気で嫌そうな顔をしながら言った。


「ざけたこと抜かしてんじゃねぇ。恩売って姉に対して交渉を有利に出来ねぇかって思っただけだよ。それを人の話も聞かずぶん殴りやがって……」


事実ラタがメルトに対して弁明らしきことをしたのは唯一「やっぱてめぇも俺と同ぽぺパガッ!!」までだった。

ラタはてめぇも俺と同じ様にトルダを狙ってんのか!と言いたかったのだが半分も言えていない。

その直前まで人権がどうとかほざいてたわりにはラタに対するそういう配慮はゼロである。


「交渉?」


メルトはなじりには答えずラタの口から出た不可解な単語に首を捻らせる。

メルトにとってトルダとは単なる孤児であり、交渉する程の何かを持っているようには見えなかったからだ。


「ああそうだ、交渉だ。院長がスラムの少女が大金持ってきたから調べるべきだっつってな。才能を持ってたら仲間に引き入れるってことでトルダが捕まってから処刑までの2週間程密かに調べてたんだよ。内偵調査って奴だ」


ラタはそう言うとシワの寄った眉間を揉むように手を動かした。

まるで自らの怒りを抑えるかのように。


「その結果出てきた事実は酷いもんだったよ……。強姦、搾取、八つ当たり。皆が寄って集って彼女を虐めてるかのようだった。フゥー、いっそのこと王都に居る奴全員ブッ殺してやろうかと思ったぞ。処刑に向けて準備してた俺達は後少しで助けられてた。不幸が重なった。そこに魔人が現れ、俺はニティがギルドで暴れてるって話でそっちに駆け付けてて、ボスが行方不明だったせいで院長も居なかった。んで俺が意識不明とかモタモタしてる間に死刑台前に張り込んでた配下がダルクのせいで全滅してトルダの消息が完全に途絶えた。俺はお前らが消えたせいでギルドから王都に拘束命令が出てたせいで動けず、んで援軍コイツらに時間食ってこの様だ。分かるか?俺達はお前らに2週間の時間に配下の命、それに新しい仲間の命を奪われたんだ」


そうしてラタは人差し指と中指を立てた。


「これがお前の二つ目の罪だ。お前らのワンマンプレーがトルダを殺したんだ。俺を殴ったことは例え百億歩譲って赦したとしても、コレだけは……助けられた命をドブに捨てるような行為だけは絶対に許しはしない」


ラタはそう断言したが、ガルシアは鼻で笑って反論した。


「随分な言い掛かりだね。何一つ根拠がない。救えていない君達に言われても説得力がないな」


ガルシアは頭の働きが良くないメルトに代わり、しっかりとその役割を果たしている。

人の腹を探るような一種独特な社交界の空気。

そんな中彼は一人戦っているのだ。


「そしてお前の罪の三つ目。お前らどうしてあんな危険な場所にニティを置いていった?そっちも殺すつもりだったのか?」


ラタの辛辣な物言いにリタが反論する。


「危険?宿屋のおばさんに預けて来たよ?」


本気で解らないと言った具合のその姿にラタの怒りは更に募る。


「パニックで逃げてたよ。でなきゃスラム街まで来るか。俺が連れてこなきゃ死んでたかもな。これもお前らが起こしたパニックだろう。魔物に王都を襲わせて。あの魔物達の自らを顧みないような攻め方はサモンじゃ有り得ない。召喚してるのは魔人側だから魔人がそうする必要も皆無だしな。つまり、魔物の下へ向かったお前らが王都を襲わせたことになる。一体何の真似だ?」


もしそのラタの質問に正直に答えるならその場のノリです、という答えになるが、流石にそう答える訳にもいかず、ガルシアは苦心惨憺した挙げ句一つの言い訳を捻り出した。


「人聞きの悪いことを言わないでくれるかな。この程度の残りであれば王都の戦力で充分に掃討可能と判断しただけだよ」


ガルシアとて王都の騎士団が王城を護る為に出動しなかったことは知っている。

会議の際イグマより聞いていたのだ。

2週間前より騎士団の大将の一人が行方不明だということも。

しかし、まだその程度であれば冒険者が衛兵と連携し、何とか掃討できた筈だと抗弁できる。

幾ら苦しいとしても完全に否定されない限りはA級の肩書きでごり押しが効く。


「ふざけんな。そんな話で死んだ46名の衛兵が納得できるか。俺が来なきゃこの数字は際限なく増えてったんだぞ!」


ラタの激情をガルシアはハエでも払うかのように一蹴した。


「それは仮定の話だろう。それがさも真実かのように言われてもね。事実君は間に合った。これは純然たる過去だ。動かしようがない」


「それを言うならお前らが王都を魔物に襲わせたのも立派な事実だ」


「話にならないな……!」


「それはこっちの台詞だ……」


場に険悪なムードが満ち、一触即発の緊張感溢れる状況の中、この戦いに移行するような現状を打開すべくハッシュが恐る恐る片手を挙げた。


「えーと、折角両方トルダを助けに来たんだしさ、ここはお互いに握手でもして仲良くしない?幾ら彼女が性格悪くたって自分のことで殺しあったら嫌だと思うんだけどなぁー」


瞬間ラタから睨むような視線が返ってきて、ハッシュはその視線に気圧される。


「な、なんちゃって……」


ラタの反応を見て慌てて前言を撤回するが時既に遅く、ハッシュは戦いに移行するアクセルをフルスロットルで踏み込むことになった。


「性格が悪いだって?そんな判断したんなら仲間に引き入れる決断なんてしねぇよ」


まるでトルダの性格が良いとでも言うかのようなラタの口振りにメルトは反論する。

そうでは無いことの証拠が傷として彼の体に刻まれていたからだ。


「妹を殺そうとする奴が良い奴だと?身を呈して守らなきゃ今頃あの子死んでるぞ」


メルトは泣き崩れているニティの方をくいっ、と顎で示すと自らの包帯の巻かれた胴をみせる。

ニティを庇って穴のあいた所だ。


「俺に言わせればあんなに優しい子は居ないよ。あの子みたいに自分が苦しい時に人に優しくできるような奴は他に知らない。まぁ、たった2週間の内偵捜査だ。ただ俺が信じたいだけかもな」


「優しい?アレだけ妹を憎んでたんだぞ」


あの苛烈な性格からは最も遠い所にある言葉だ。

メルトをして正直に言って別人かと疑ったくらいだ。

メルト達も別にトルダを助けようとしていた訳ではなくニティの姉を助けようとしていただけだ。

依頼でもなければあまり助けたくなるような気性ではない。


「ああ、そうだな。だが少なくとも調査期間中はそんな様子は欠片もなかった。殴られても渡さなかったパンを妹に持って行くような子だったよ」


ある種の幻想を抱き、まるで綺麗な絵か何かを話すような顔で人間を語るラタにガルシアは不快感を抱く。

彼女が一生変わらないとでも思っているのだろうか。

人間ほど変わる物はない。

変わりようによっては天使から悪魔にも。

その手本(父親)を見て生きてきたガルシアはそう思う。


「そんなもの力が無かったからだろう。妹は復讐の道具だと言っていたよ。酷い姉だよねぇ。自分勝手に妹の将来を歪めるなんてねぇ。それで力が手に入ればポイ。本当に道具扱いだよ」


敢えてラタの神経を逆撫でするように話すガルシア。

怒り故攻撃モード全開である。


「力が手に入ったから捨てたんじゃない。魔人に与したから妹を自分から離したんだろう。自分との付き合いを知られたら狭いスラムじゃ生きていけないからな。それに復讐するために妹を生かしてた訳じゃなく、妹を生かす為に復讐という理由を作り上げたんだろう。スラムなんて理由もなく役立たずを育てられる場所じゃない。もしかしたら存在する理由とか居場所ってのが必要だと思い込んでるのかもな。まぁ、別に心のことなんて何も知らない俺個人の見解だ。これが正解だとは言わねぇよ。否定したければ否定してくれて結構。もう正解は既に闇の中だしな。ただお前らよりは彼女を見てるっていう自信はある。2週間だけだがな」


ガルシアはラタの言葉を鼻で笑う。


「実に男に有りがちな都合の良い妄想だね。そんな女なんて現実には居やしないよ。事実今まで僕が見てきた人間は醜い奴ばかりだったよ。メルト以外はね?」


耳障りな言葉を紡ぐガルシアを睨むとラタは過去に立てた誓いを高らかに宣言する。


「それでも俺は信じる。人の優しさを。じゃなきゃ正義の味方をやってる意味がねぇ!」


そしてラタは隣にいる盗賊風の男に対して手を差し出す。


「さっさと剣を寄越せ!」


その言葉を聞いた男は背負ったバカでかいバスターソードを取り出す。

王都でラタがゴブリンを一掃する時に振るった巨大な剣だ。


「ほいっ!」


その男はそのまま剣を投げ渡すとラタは慌ててその場から飛び退く。

その直後。


ズズゥン……!!


投げられたバスターソードが地面に深く根元まで突き刺さり、その自重と圧倒的な存在感を示す。


「バカ野郎!!そのまま渡す奴があるか!!持ち上げるどころか俺の方が潰れるわ!!」


そう、C級相当しかないラタの筋力ではこの重量の武器は振るうどころか持ち上げることすらままならない。

ではなぜそんな武器を持つのか聞けばラタはこう答えるだろう。

カッコいいからだ、と。

そしてこう続ける。

この武器なら悪以外の人を傷付けずに済む、と。

ラタは立ち上がり、転がった際についた土を払うと地面に突き刺さったバスターソードの柄に手を掛ける。


「さて、メルト。以上の罪よりお前を“悪と見なす”。よっこいしょっと」


ズズズ……。


その瞬間今まで持てなかったのが嘘のようにバスターソードが持ち上がり、肩に担ぐ。


ガクン。


その反転メルトが調子を崩したように地面に方膝を付く。


「何をした!」


ガルシアが鬼の形相でラタを睨む。


「重てぇ……。弱いな」


しかし、ラタは質問には答えず顔をしかめて独白する。


「答えろ!」


ガルシアが更に詰め寄るとラタはバスターソードを振り下ろし答えた。


「俺の能力は『勧善懲悪』俺が主観で定めた悪の能力値を俺と同一し、その下げた分の能力値を俺にプラスする。正義の味方に相応しい能力だろ?」


そしてラタのその言葉に盗賊風の男がしみじみと呟いた。


「やっぱリーダー、ズリぃな〜。勝つ可能性ゼロだろ」


「さぁ、お前の刑を執行する」


こうして天使は悪を討伐するために動き出す。

やべぇ、しょっぱなから予定狂ったな。

間に合うかなコレ。

どうしようお喋りがここまで長くなるとは……。

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