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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
46/107

46 メルト外伝 紅の墓標27 この名で剣を握って不敗の金看板、興味は無いがお前ごときにやるには惜しいな

「遊んでやる。来い」


キースが不敵に笑ったことにクロスバは怒りと微かな喜びとを抱きつつ力を解放する。

ブチュルブチュルと不気味な音を立てながら黒い魔力がクロスバの鎧と剣を覆っていく。


「『墨染めの盾』『墨染めの矛』」


その姿はまるで悪の化身のようだ。

真っ黒に染め上げられた鎧と剣を身に纏い、所々黒い魔力が生物のように蠢いていた。


「何故アンタはあんな奴の下につく?アンタはあんなギリギリA級のような弱い男の下で燻ってるような人じゃないだろう……」


クロスバは素振りをして加減を確かめると唐突にそう言った。


「何だ急に……まぁ、確かにな。俺も元殺し屋だ。何時でも地獄の果てまで斬り合う覚悟はあるし、大抵の奴には勝てる自信もある」


大言壮語を口にしている割りにはキースの口調はどこか悲しげだった。


「だったら……」


クロスバが言いすがろうとするがキースはそれを遮ると続けた。


「だがそんな俺よりもメルトの方がずっと強い」


キースの口調は嘘ではなく確実にそうだと確信している口調だった。


「何だと?そんな筈はない。あんなA級に居るのもアンタのお陰のような奴がアンタより強い?バカバカしい。それとも何か?強力な力でも隠し持ってるとでも?嘘ならもっとマシな嘘を吐け」


怒り混じりにそう言うクロスバ。

しかしキースは肩を竦めただけで寂しそうに乾いた笑いを上げて続けた。


「ハハ……。昔の俺ならそう蔑んでただろうな。お前はもうジェーンのことを忘れたのか!ってな。

確かにメルトはA級としてはちょっと力不足だろう。能力に頼りすぎて戦闘技術がおざなりだし体も出来上がってないし反射神経も瞬発力もない」


「話にもならんな」


キースは冷静にメルトの問題点を列挙し、クロスバもそれに同意する。

しかしそんなキースの顔は心なしか少し嬉しそうだった。


「ただな……。アイツは真っ直ぐだ。どこまでもな。何処にも寄り道しない。誰かの為だと言いながら最後の最後にはそれを通しちまう。自分勝手で自己満足に過ぎない理由で最強を目指すような俺とは雲泥の差だ。

確かに戦えば1000回戦っても一度たりとも負ける気はしない。それはオメガ込みの数字だな。

……だがそんな数字に意味はない。幾ら積み上げたって無価値だ。メルトの強さはその分野じゃない。内にある。きっとアイツは折れることはないだろう。折れず曲がらず周り全てを巻き込んで進む。そんな男が必死になって戦ってんだ。手を抜いて苦戦してるだとか、失礼だとは思わないか?」


だから遊んでやろうと思ったんだ、最後にそう続けるとキースはニヤッと笑う。

昔を少し思い出したのだ。

あのオウルフさえ倒すことを計画し眈々と準備を進めていた自分が。

あの自意識の塊だった自分が、相手に、しかも同年代に勝てないと思わせられた。

そんなことは後にも先にもその時の一度きりであった。

最高だ。

最高に笑える。

相手は立てない程に俺にボロボロに転がされ、もうほぼ死に体であり、生きているのは目だけのような状態。

そんな死に際とも言える瞬間に放たれた言葉が俺を強く揺さぶったのだ。


『そんだけ力があったら幾らでも人が救えるだろ!?何でそうしねぇんだよ!!そんな人も助けられないような力なんて持ってても意味ねぇだろ!?俺にくれよ!!もっと上手く使ってやるから!!俺にくれ!!もっと力があれば救えた奴も!!俺が無力だったせいで救えなかった奴も!!沢山居たんだよ!!そいつらに謝れ!!』


振り返ってみれば……俺は恐らくその時にはもうキースをやめることは決めていたと思う。

意味もなくただ己の無力への自責の念だけで最強という頂を目指していた俺に取って……。

メルトのその言葉は眩しすぎた。

それから俺の目指す目標は一つ増えた。

元々最強の座は二人を守れなかった後悔から目指した物、その座自体には興味はない。

俺が手に入れた暁にはその座はメルトに譲ってやることにしたのだ。


「何時からそんなに腑抜けになった……!!アンタは全てを食らい尽くした巨大な虎から……従順で矮小な猫へと成り下がった!!」


キースの腑抜けた言葉を聞いたクロスバは憤怒に駆られた。

本人は悲惨な記憶に埋没して忘れてしまっているが、クロスバに取ってキースという男は憧れだったのだ。

研究員の言いなりとなって悲惨な実験を繰り返す自分とは違い、キースという男は全てのしがらみを断ち切って爽快なまでに強者を討ち取って来たのだ。

チラリと舞い込むそんなキースの情報にクロスバは強い憧れを抱いた。

そんな折にふとした切っ掛けでキースと相対し、腑抜けた話を聞いた時、クロスバが心の奥底で抱いていた強い憧れは強い失望へと代わった。


「猫も中々良いもんだ。その方がメルトが良く見える」


そんなキースののらりくらりとした解答にクロスバはその強い失望を怒りへと駆り立てたのだ。


「恥を知れ!!この昔のアンタの力でアンタを元の虎に戻してやる!!筋力強化3、4!!」


クロスバはその言葉と共に一気に足の筋力を増大させその爆発的な速力をもってキースに迫る。

その速度はバレインの最高速度を越える。

しかし、それはあくまでバレインの最高速度だ。

どうしてもパルトネ宮廷剣術のような守り主体の型を維持したまま走ると速度が落ちてしまう。

しかし、現在その軛から解放されたキースは違った。

キースの速度を活かした最大限に走行に特化した型で瞬間的にトップスピードに乗ったキースは残像が出来る程のスピードで横に大きく避ける。


「くっ!!外しちまったか!!」


不定形のバスターソードが反応していないことに気付くと即座にキースが避けた方へ向く。

しかし、その時にはもう速度による破壊力で少し砕けた壁が残るのみ。

キースが居るのはクロスバの後ろ。

クロスバが横を向く間に既に壁と天井を蹴りクロスバの後ろに移動していたのだ。呆れる程の速さである。

キースは壁を蹴った反作用で勢い付いたまま、刀で首筋に向かって全体重+速度の力で斬り付ける。


グニョニョ!!


ガキン!!


しかし、前を向いていた筈の不定形のバスターソードが瞬く間に形を変え柄は前を向いたまま首筋を防御する。

今ので勢いが死んだキースはクロスバの体を蹴ると一端縦方向へと逃れた。


「はえぇよ畜生」


クロスバは毒づくが毒づきたいのはキースも一緒だ。

鎧だけでも堅いのにそれの強化版。

鎧の覆ってない所まで守る鎧にあそこまで自由度の高い自動迎撃の武器までプラスされては攻撃が通らない。

しかし、元殺し屋は慌てない。

今の手札で足りないのなら増やすだけだ。


「キース流暗殺術其の八、使える物は病気の親でも使え」


キースはそう言うと腰にさしたもう一本の剣を引き抜く。

幅の極端に狭いパルトネ宮廷剣術で広く使用される剣。

冒険者バレインとして使う剣だ。


「オイ、二刀流か?」


クロスバはキースに訝しげに聞く。

キースが二刀流を使う等噂でも一度も聞いたことがなかったからだ。


「ああ、初めて使う。その黒い剣の範囲を抜けるには手数が必要かと思ってな。気にすんな、所詮ただの遊びだ」


お前程度本気を出すまでもない。

暗にそう言われたクロスバは怒りが増大しキースを挑発し返す。


「バカが!!そんなおままごとが通用するか!!」


一言下クロスバが飛び出すがキースは避けようとしない。

どうやらキースは一番の武器である速力を捨て真っ向勝負で打ち合う積もりのようだ。

クロスバはそれを一笑に付す。

大体からして二つの剣は両刃と片刃、そこまで形状が異なる二つの剣で二刀流など出来よう筈もない。

熟練の達人でも難しいと言うのに戦闘で初めて使うと言う。

自殺行為以外の何物でもない。


「らぁ!!」


予想通り上手く扱えず持ち前の反射神経のみで避けているような状況だ。

しかもクロスバの剣は不定形ゆえに剣の軌道は通常の何倍も読みにくい。

何度も斬り付ける内に掠り傷が増えキースの服に血の色が増えていく。

そのまま押し潰そうとクロスバは怒濤のラッシュを仕掛ける。


「オラオラオラオラオラァ!!」


そしてそのままの状態が1分を越えた辺りの頃クロスバは気付いた。


「(妙だ……先程から掠り傷さえつけられねぇ……どうなってる……)」


現状は押してる。問題ない筈……。

しかし先程より付けられる傷の数が徐々に減少していきキースが剣で払う頻度が目に見えて上がっている。


「(もしやコイツが……戦ってる間に成長してんのか!?)」


いや、有り得ない。

技術などそんな簡単に上昇する訳がない。

まだキースが二刀流のスキルを隠し持ってる可能性の方がまだ信じられる。

どちらにしろ一端下がった方が……。

嫌な予感を抱いたクロスバは即座にそこまで思考を巡らし下がろうとする。

しかしそこにキースから憎たらしい待ったの声が掛かった。


「オイ、どうした。急に弛んだな。もう疲れたか?いや、もうくたばる寸前か」


「誰が!!」


その言葉につられ下がるのが数瞬遅れる。

そしてその数瞬の遅れがクロスバの致命的な失敗となった。


「成る程、大体分かった」


キースはそう呟くと怒濤の反撃に転じた。

先程まで払うのみだった二振りの剣で果敢に攻め立てる。

しかもただの攻めではない。

常に必殺の間合いを保ち一切守りを考えない捨て身の攻撃。


カカカカカカカ!!


押し込むように連撃を決めるとその圧力でクロスバが尻餅をつくように倒れる。


「くっ!!」


バレインが喉を突き刺すように剣を立てるも鎧の黒い魔力が移動することにより防がれる。


ガキン!!


ギリギリ……。


ボキン!!


刀のように扱われ、疲労がピークに達したのかキースの幅の極端に狭い両刃の剣が綺麗に折れ、そのまま滑って床に刺さる。

キースがバッと飛び退くとクロスバはニヤリと笑い立ち上がった。


「折れた……」


別に特別な付与はされていない普通の剣だ。愛着はあったが、折れるのは仕方ない。


「ハッ……勝負あったな……その折れた剣じゃ二刀流は使えねぇだろ」


唯一自分を追い詰めたのが先程の二刀流だ。

確かに同時に二つの方向から攻撃されればいかに不定形とはいえどちらかの剣を優先させなければならない。

しかしもうキースは刀一本のみ。

何処から攻撃されようと二段構えの守りを突破することは出来ない。


「問題ねぇな。後一撃で終わる」


そう言うとキースは刀をを一端鞘に納めある構えを取る。


「おちょくるのもいい加減にしろ!挑発に乗って欲しかったかも知れないが残念だったな!!俺はその構えを知ってる。イアイ、だろ?序でにその構えはカウンターだってことも知ってる。間合いに踏み込んだ瞬間ズドンだ」


そう言ったクロスバの周りに更に黒い魔力が満ち始める。

変身した時と同じような感じだ。少なくとも変身と似たようなことが起こるのは間違いない。


「俺はそこに近付くことは無い!そのまま朽ち果てろ!!『墨染めの兵』!!」


クロスバがそう叫ぶとクロスバの周りに黒い人形が幾体も誕生する。

その人形は姿形はクロスバにそっくりだが色は全て真っ黒であるためかなり不気味だ。


パチパチ……


一方キースの周りには静電気が弾け出し、蒼白い電気を纏っていた。


「かかれ!!」


クロスバの命令通り数十体の黒い人形がキース目掛けて襲い掛かる。


ジジジジ……。


更にキースの静電気が激しさを増し、広範囲にに渡って電流を流し始める。

そして黒い人形がキースを覆い尽くすように犇めき合うと中の様子が見えなくなる。


そして突然その瞬間が来た。


ドン!!


バリバリバリ!!


キースの周りの空気が瞬間的に膨張し辺りに雷鳴が轟く。

そしてキースはクロスバの所まで妨害無しの直線通路が出来上がるとニヤリと笑う。


「≪居合朧斬り≫!!」


トップスピードに更に雷魔法の速度補正を受けた速度でクロスバの所まで一気に駆け抜けクロスバとのすれ違い様に居合抜きにて切り捨てた。


ゴバン!!


全ては一瞬。

途中など影も形も見えなかった。

クロスバの鎧が砕かれ崩れ落ちる。

その速度は圧倒的だ。最終到達速度は音速を越え、刃先の速度はマッハ30に迫る。


「安心しろ。峰打ちだ。俺はもう殺し屋キースじゃねぇ。ただの冒険者バレインだ」


いや、もはやマッハ30とかになれば刃があろうが無かろうが関係なく人体などパッカーンといかれてしまう。

クロスバが辛うじて鎧が砕かれるだけで済んだのは単に魔力で覆われ防御力の極端に上昇した鎧と魔人由来の頑強な体のお陰に他ならない。


「はぁ……此で終わりか。このまま喉を刺せば死ぬ。人の命なんて呆気ない物だな」


……。


そう言うとキースは暫く待ち、返事がこないことに気付くと徐に刀を取り出すと壁に叩き付ける。


「てめぇ!!さっさと返事しろ!!独り言言ってるみたいになってるだろうが!!」


更に刀の柄を強く握り絞める。


『痛いぞ。やめろ主よ』


唐突に空間に声が響く発生源はキースの持つ刀である。


「お前寝過ぎだ。前に喋ったの何時だ」


キースの質問に剣の声は面倒臭そうに答えた。


『んー?三日か?』


「三ヶ月だ!!」


著しく時間感覚のズレた答えにキースはイラつきながら教えた。


『そうか……長く生きてるせいか時間が早過ぎるな……で、剣に話し掛けるなど何の用だ主よ』


キースを主と呼ぶ剣、この口調はキースがバレインとしてメルトの側に居て真似する口調そのものである。


「高々80年だろう。まだ人間の範疇だ。まぁ、聞きたいことがあってな。なぁ、アラヤユウ……今の俺は間違ってるか」


クロスバに言われメルトに付いていくことが合ってるかどうか分からなくなって来たのだ。

メルトを導くとしても何処を目指せば良いのか分からない。


『その名は捨てたと言った筈だ主よ。今の私は名も無き剣だ。そうさな……主の疑問は常に一つに集約される。……まだ忘れられぬのか主よ。その者はもう死んだ。それは感傷だぞ』


ズキリとキースの胸が痛む。

その痛みを誤魔化すように外に向かって歩き始めた。


「ああ、そうだな……分かってる」


『人は通常過去には戻れぬ物だが主は特にそうだ。その道を選んだからにはもう後戻りは出来ない。それは選んだ時に分かっていた筈だ。もう主は前に進むしかないのだ。前が分からなかろうが、死の道だろうがな』


「分かってる……」


キースは手元が寂しくなり首元の襟で鼻まで隠そうとするが、首元のだぶついた襟が無いことに気付く。


「おっと……ったく抜けねぇなぁ……いっそのことマフラーでも買うか……」


キースは急に殺し屋時代の服が懐かしくなったが、マフラーは夏は嵩張るだけなので止めておくことにした。

キースと刀は共に無言のまま静かに城の中を歩いていった。





遅れましたすいませんm(__)m

今週スゲー忙しかったんです。泣きたい。

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