44 メルト外伝紅の墓標45 破壊神降臨
魔物の死体が散乱する城の外。
そこでハッシュは静かに決意を固めた。
「(いつもいつも俺って奴は巻き込まれてズルズルと流されて……。あぁあ、嫌になるぜ。ここで何も出来なきゃ男じゃねぇ!ここは男らしく1発キメて流れ止めてやる!)」
そして眼前のエドガルに対し決死の思いでその決意を伝える。
「あの、俺今から降参するんで……こっから捕虜ってことでどーすか」
「良い訳がなかろう」
こじんまりと小さく手を上げて顔だけやけにキリッとしたムカつく程良い顔で情けないことを宣ったハッシュにエドガルは冷静に対処する。
リベンジしに来ているエドガルからしてみれば勘違い甚だしい。
普通に考えて不可避の戦闘なのだがハッシュはどうしても戦いたくないらしい。
ハッシュはどこまでもヘタレだった……。
「勝ち逃げなど許すものか!!今一度我と戦え!!」
負けを認め、それでも好戦的に瞳をギラつかせるエドガルに何とか許して貰おうとハッシュは涙ぐましい努力を続ける。
「敗けで良い!!敗けで良いから!!マジでアンタ強いから助けて!!俺死んじゃうよ!!降参!!降参!!へるぷみー!!」
全力で説得するハッシュの背中には何故か哀愁漂う物がある。
しかしそれでもエドガルの戦闘欲は収まることなく加速する。
「我は最強を目指す者也!!死なばそこまでだが、生ける内は目指さぬ訳には行かん!!故に!私を倒した貴様に勝たねばならぬのだ!!」
何か吹っ切れたのかやけにスッキリとした顔で宣言するエドガル。
ハッシュがイラッとしたことは言うまでもない。
「話聞いてんのかテメェ!!俺の敗けで良いっつってんだろ!!」
まるっきり話が通じないエドガル相手につい何時も(メルトの時)の癖で声を荒げたハッシュ。
最早完全に相手のペースに呑まれていることに気付いてない。
「いざ尋常に勝負!!」
「嫌だぁぁあ!!」
いつの間にか論点をすり替えられ勝負をさせられることになったハッシュ。
ごっちゃになった頭の中をお片付けしている隙にエドガルが飛び掛かる。
「きったねぇ!!ずるっ子だ!!」
その台詞は決して不意打ち、即逃走が基本スタイルの男が言って良い台詞ではない。
「何とでも言えば良い!我は既に邪道へと堕ちた!!一度も二度も同じこと。我が唯一許せぬは最強への妥協のみ!!」
エドガルはブオンブオンと幾度も拳を振るうがハッシュはその拳の悉くを避けてしまう。
後には虚しく空を切る拳の音が残るのみだ。
「ええい!!ヒラヒラと忌々しい!!まともに戦わんか!!」
エドガルが大喝するも変わらずハッシュは避け続けるだけだ。
「誰が真面目に戦うか!!俺は絶対に勝てる戦いしかしねぇの!!」
やはりきったねぇ!!ずるっ子だ!!、という言葉は彼にこそ相応しい。
「そうか……そうだったな。貴様は油断した所を食い殺す人食い虎であった。もう油断はすまい」
そう言ったエドガルは殴るのを止めると一度バックステップで離れハッシュと距離を取る。
「いや、盛大に油断しててくれ!!さもないと俺が死ぬ!!」
ハッシュのまるで命乞いのような悲痛な叫びはしかしエドガルには届かなかった。
完全に無視されたのである。
「先ずは攻撃を当てさせてもらう。話はそれからであろう」
そう言うとエドガルはハッシュに向けて両手を突きだし腕に着けた機械に魔力を充填させる。
ハッシュは自分に向けられた両手に着けられた武骨な幾つも穴の空いた機械にイヤーな予感を覚えた。
「食らうが良い!!」
「おぉぉぉお!?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ハッシュの前に空間を埋め尽くすような濃密な弾幕が張られる。
一つ一つの魔力の礫は小指の先より小さいが回転が加えられ貫通力を増し膨大な数でハッシュに迫り来る。
即座に射線方向から逃れようとするも魔力弾の方が遥かに速く、ハッシュは直撃を幾度も食らう。
「ぐわぁ!!」
ゴロゴロゴロ……。
横を向いた所に肩や足に食らったのでそのままの勢いで地面を転がる。
天と地が何度も反転し、ハッシュの服に泥が付着した。
「≪イズヴェルジーニェフレイム≫!!」
その隙を逃すようなエドガルではない。
即座に自身の最高の遠距離技をもって追撃する。
ゴウゥ!!
マグマのような流動系の炎が噴出し、敵を骨まで燃やし尽くす。
それが本来のエドガルの技である。
ジュワァァ……。
「アチチチ!!」
しかしハッシュは直撃を食らっておきながら熱いと言って転げ回るだけで済んでいる。
「アッチーな畜生!火傷したらどうすんだ!!損害賠償請求するぞコラ!!今時俺に触れるとヤケドするぜ、とか古いんだよ!!」
エドガルを散々に扱き下ろしているがそうしている間にどんどんハッシュの傷は治っていく。
「貴様……」
その光景に呆気に取られたエドガルは暫し呆然とする。
そう、よく彼の予知能力とも呼ぶべき解析能力に関心を持っていかれるがハッシュが真に怖いのはその肉体の頑強さと回復能力である。
もともと元A+級の冒険者である母親に修行しろとしつこく10年近く追い回される程見出だされたのは此方の方の能力だ。
解析能力はその元A+級の冒険者である母親から逃げ延びる為に磨かれた能力である。
「(ああ……あの頃は酷かった。今の方がマシに見えるから不思議……)」
〜〜〜〜少年ハッシュある朝の出来事〜〜〜〜〜〜〜〜
僕は今ベッドですやすや寝ている。
実に普通のことだ。
今寝ているのは食堂の二階。
木造だからあんまり大きな物は置けないし、下からの声も煩いし、少し小さいけど贅沢にも一人部屋がある。
僕はこの部屋が大好きだ。
この部屋が無ければ死んでたかも知れない(物理的に)。
それ位好きだ。
この日は少し寝過ぎたらしい。
お母さんがそれに気付いて起こしに来る。
うん、凄い普通。
お母さんは皆から綺麗だって言われてる。
赤い髪が魅力的だ、とかお人形さんみたいだ、って。
僕は違うと思う。
もしお母さんがお人形になったら全力で逃げると思うから。
だって怖すぎる。
お母さんはとてとてと階段を上がり僕の部屋のドアを開ける。
「ん、朝」
お母さんは喋らない。
単語で喋ることがしょっちゅうで意味が通じないこともある。
そういう時はお父さんに聞く。
お父さんは凄い。
お母さん専用の翻訳機だ。
お母さんは「ん、愛の力」って言うけどお父さんは慣れてるからね、と悲しそうに笑った。
何でか少し涙が出た。
「ん、起きる」
お母さんは手に持った両刃のバトルアックスを振り上げ僕の頭目掛けて降り下ろす。
全然普通じゃない。
「危ない!!」
僕は慌てて飛び起きてベッドの縁を掴んで頭を足の方に引き寄せる。
元々僕の頭があった所にはバトルアックスの刃が朝の光を反射してキラキラ光っていた。
女の子はキラキラした物が好きって言ってたけど信じられない。
僕だったらこんな怖いもの(バトルアックス)より美味しい物の方がずっと好きだ。
頭がどうかしてると思う。
「ん、ごはん」
お母さんはお、起きたかごはんだぞ、みたいなノリだけど僕はそんな軽いノリじゃ済まされないと思うんだ。
「危ないよお母さん!!僕死ぬところだったじゃん!!」
今ちょっと僕の体がベタベタするのは寝汗じゃなくて冷や汗だ。
そのままだったら死んでたかも。
お母さんにそう言ってもお母さんの無表情は変わらない。
「ん、問題ない、寸止め」
「寸止めなのはベッドにね!!ここに頭があったら切れてるよ!!」
バトルアックスの刃があった所を指差す。
よく見たらシーツが少し切れてた。
「ん、細かい、そーゆー男は嫌われる」
「細かくないよ!!一大事だよ!!」
この人は息子の命を何だと思ってるのかな。
全く。
「ん、鍛え直す?」
「いえ、ご飯食べてきます!!」
お母さんは本当にズルい。
死ぬかご飯食べるかのどっちか選べって言われたらご飯食べるしか答えなんてないのに。
僕はお母さんに向かって敬礼して下で朝ご飯を作っているお父さんの所へ突撃して行った。
「お父さーーん!!助けてぇーー!!お母さんに殺されるぅーー!!」
と叫びながら……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「(ああ……今思い出しても灰色の思い出しか甦って来ねぇ。良く生きてたなぁー俺。)」
自らの灰色の少年時代を思い返し身震いするハッシュ。
二度と思い出したくない記憶の数々だ。
「成る程……次は貴様の番ということか……良かろう来るが良い!!」
エドガルが何かほざいてるが無視で良いだろう。
文句を言われる謂れはない。
そう思ったハッシュは肩を竦める。
「番も何もずっとアンタが攻撃で良いよ。俺はもう勝つこと諦めたから」
「何!?」
エドガルは驚いているがハッシュとしては当然の帰結だ。
勝てないと分かっているのだから勝とうとするなど無駄でしかない。
「幸い俺の仲間は強くてね。仲間が殲滅させてからこっちに戻ってくるまで時間稼ぎしときゃあ仲間が勝手に倒してくれる」
肩を竦めエドガルを挑発する。
貴様の仲間はその程度だと。
しかしエドガルは違う部分に反応する。
「貴様……我と本気で戦う気はないと言うことか……」
ハッシュは反射でそれ最初から言ってるよね!?とツッコミそうになったがギリギリで自制する。
よもやここまで話を聞いていなかったとはハッシュとしても思いもよらなかった。
「そうだけど?」
軽く返すがハッシュとしては今までの行動を全て否定されたようで腸が煮えくり返っていた。
「そうか……ならどんな手を使ってでも貴様の本気を出させてやろう!!」
そう叫ぶとエドガルは飛び掛かった。
「え?」
ハッシュではなくリタの方へ。
「ハハハハハハハハハハハ!!我の望みに貴様の本気と戦うのは必須。その為ならどんな手段でも使ってやろう!!
その女の死で考え方を変えるが良い!!≪ボルケニックボム≫!!」
高笑いしながら拳に炎の力を纏いリタの方へと迫る。
「きゃぁあああああああああああ!!」
リタが悲鳴を上げ、恐怖で硬直する。
「わっ!!バカ!!止めろォォオオオオ!!」
エドガルの突然の暴挙に反応が遅れたハッシュは慌てて追い縋るが致命的な初期位置の違いによりエドガルを止めることは出来ない。
「ワハハハハハ!!もう遅い!!絶望に暮れろ!!」
そこから起きたことは悲惨であった。
ここから先の描写は酷く面倒臭い……もとい分かりにくい為、人類の資産とも言える擬音、オノマトペで綴ろうと思う。
ガガーン!!ガシャーン!!バリバリ!!ドゴーン!!グチャグチャ!!ドドドドドドドドド!!ガリーン!!ズタズタ!!ドガガガガガガガ!!ズドーン!!ドーン!!
説明としては分かりやすく順序立てて最初から行こう。
良く勘違いされやすいがリタの本業はヒーラーではない。
回復出来る役が他に居ないから優先的に回って来るだけで本業は他にある。
思い返してみよう。
二回目の開戦時、結界が張られて居り中が見えない中、何故メルト達が先に見つけ奇襲を掛けることが出来たのか。
答えはこのリタの本業にある。
結界魔法使い。
これがリタの本業だ。
では、結界とは何か。
それは結界の内側を自分の世界とすることだ。
例えば、ヨキが死刑台にてトルダに張った黒い球状結界魔法。
あれは中の世界を自分の物とし中の音を外へ通じることを禁じた。
そういう風に世界を弄ったのだ。
事前説明を経て今のオノマトペの真相に戻ろう。
何故オノマトペを多用するような事態へと至ったか。
それはリタが恐怖により無意識に結界魔法を発動させたからだ。
恐怖により無意識に掛けていた自分へのロックを外した状態で、だ。
その結果効果範囲内で蹂躙が起こった。
つまり、エドガルはリタの隔絶した結果魔法により雷に撃たれ、炎に焼かれ、刃に貫かれ……(以下略)されてしまったのだ。
最終的に残ったのは所々不自然に繋がれたエドガルの人型だけだ。
エドガルに施された皮膚硬化手術のお陰かギリギリ息の根が止まることはなかった。
もし、誰かがこの場所に居ればこう言ったかも知れない。
ではこれを最初から戦闘に利用すれば良いじゃないか、と。
冗談じゃない。俺達にだって人権がある、と聞かれればこのようにメルト達は答えるだろう。
それは何故か。
この効果範囲という奴が曲者なのである。
実際、リタのこの攻撃は強力だ。
5000のゴブリン達の前で使用すれば半数くらいは殲滅出来る。
ただ、このゴブリンの死体と同じく仲間の死体も積み上がるだけだ。
そう、このリタの恐怖によりリミットの無くなった行きすぎた護身術はフレンドリーファイヤ前提の物なのだ。
要するに効果範囲内に居る者は誰であろうが公平に、容赦なく、徹底的に破壊される。
仲間内から破壊神と二つ名で呼ばれているだけのことはある。
つまり、リタの周りに残ったのは……何故か草の禿げた地面とエドガルの瀕死体、そしてついでにハッシュの瀕死体である。
「だから……止めてって……言ったの……に……グギギ……ガク」
これ、高級料理食べ放題じゃ割に合わない。
そんなことを思いながら意識を手放すハッシュであった……。
「わっ!!大丈夫ハッシュくん!?」
リタが即座に駆け寄りハッシュの治療を始める。
ハッシュ自身の回復能力もあり、ぐんぐんと回復するがその苦し気な顔はそのままであった……。
蛇足としてハッシュとリタが主にツーマンセルで行動してるのはこの破壊活動に耐えられそうなのがハッシュだけだということですね。
……ムゴイ。
折角ギャグ補正を持っているので力強く生きることを祈るばかりです……。




