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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
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43 メルト外伝紅の墓標24 天使の誘惑、悪魔の偽証1

ガチャ!


メルトはまた一つ扉を開ける。

先程までの癖で違うと言いつつ閉じそうになるが慌てて踏み止まる。


居た。


そこに居たのは少女トルダだった。

スラムに居た浮浪児ではなく、不潔感は無くなり身だしなみも整えられており、少々痩せているものの血色も良い。

あの痩けたようになっていた頬も元気が出た為か消えたように見えた。

刈り上げられた金髪は男のようだったが顔付きや体つきを見れば女だということは直ぐに分かった。

それは服装のせいもあるだろう。

前までに着ていたのは男物のブカブカの作業着。

しかし、今現在はノースリーブタイプのワンピースを着ている。

仕立ての良い物なので恐らくはツェーレの物と推測される。

メルトは暫くの間、全くと言って良い程動けなかった。

ツェーレの変わりように驚いたからだ。

それは純粋な驚きだ。

だがしかしトルダはそうは受け取らなかった。

今、メルトがこうも驚いているということは以前の自分はそれ程までに酷かったということ。

それに対する理不尽な怒りが湧き上がったのだ。

そうならざるを得なかった大人達に対して沸々と心を染める恨みとも呼ぶべき感情がトルダを満たしていく。

妹を救うだけの機械のような空っぽの人形のようだった自分はそれによって完成したのだ、とトルダはそう思った。

元々妹を救うこと自体も復讐だった。

力が無いなりに考えたトルダの唯一出来る復讐。

妹にだけはこんな思いを味あわせない。

妹を陽の下で生かすことによる自分を見下す人への復讐。

しかしそれは力を得る以前までのこと。

力を得た今は違う。

今は世間全てに復讐が出来る。

こんな世の中全て壊れてしまえばいい。

だって要らないのだから。

こんな世の中全て壊してしまえばいい。

要らない物(私)を壊したのはお前達だろう?

そしてそれは自分が少し変わっただけで手の平を返すように驚いた目の前のこの男も含まれている。

トルダはメルトが言葉を発せられない内にメルトに対して文句を言った。


「あら、ノックもしないで女の部屋に入るなんて随分失礼ね」


当然自分だってしないししたことないが責める分には自由だ。

そういう常識が存在すること自体は知っている。

皮肉気にそういい放ったトルダにようやく我に返ったメルトが言った。


「よし、帰るぞ」


端的、しかし全く質問に答えていない言葉は確実にトルダをイラつかせる。

今のトルダには王都に帰る場所なんて無いのだ。

実験体として魔人側に居る他生き残る術はない。

そのことを思い出したトルダは若干イラついたら声でこう返した。


「宝探しの次は説得ゲーム?楽しそうだけど拒否よ。それよりお前を殺す方がよっぽど面白そう」


トルダは怒りを込めて言ったのだが、全く伝わらなかったのかメルトは小首を傾げながら不思議そうに言った。


「あ?お前に言ってねぇよ。何で俺がお前なんかに許可取らなくちゃいけねぇんだ?

俺の依頼者はお前じゃなくてお前の妹だ。

分かったら大人しく拐われろ」


理不尽極まる言い分、更に此方へ来いとばかりにビシッと手まで付けるメルトにトルダの怒りは頂点に達する。

ただしそれは先程までのどす黒い何かの混じった物ではなく純粋な何処か澄んだ年相応の怒りだ。


「断る!!」


前傾姿勢で思いっきり大声で断るトルダ。

その姿は魔人でも復讐者でも何でもなくただの普通の女の子にしか見えなかった。

こうして魔王の城に囚われたお姫様と助けに来た王子様の壮絶なバトルが今始まる。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「矢を絶すな!!射掛け続けろ!!」


グレンの声が城壁に響く。

今現在王都は2000弱の魔物に襲われていた。

(イグマの調合した香によって)普通の魔物と同じ様に理性なく来た者から襲い掛かってくる。

故に魔物の隊列は前後に延びきり後方に矢を飛ばし前方は門と槍で持たしているのだ。

しかし門は長い間酷使してきたため多少の老朽化が進んでおり何時この均衡が崩れるか分からない。

更に槍の効かないスケルトンのお陰で徐々に槍を奪われ槍が足りなくなっている。

そんな緊迫した空気の中、一人の少女が物陰に隠れていた。

ニティである。


「あっコラ!!未だこんな所に!!早く避難しなさい!!ここは危険だ!!」


しかし補給の伝令の為に走り回っていた騎士見習いの青年に見付かってしまう。


「イヤ!!」


近くを飛び交う怒号や悲鳴に負けじとニティも叫び返す。

しかしそんな言葉足らずの答えで小さな少女がここに居させる程世の中は甘くない。


「ふざけるな!!いつ門が決壊するか……」


ガガーン!!


分からないんだぞ!!、と続けようとした青年の後ろの方で轟音が響き慌てて振り返る。


「なッ……」


門が破られていた。

青年の言葉が呼び水となってか、門が迫り来る魔物の質量に耐えかねてか遂に均衡が破られ門が抉じ開けられその穴から次々と魔物が這い出して来たのだ。

青年がそちらに気を取られた隙を突いてニティは逃げ出す。


「あっおいコラ!!」


青年が慌てて呼び掛けるがその時にはもう、火急の事態を置いて追い掛けるような距離ではない。


「あ〜〜〜クソッ!!絶対に避難しろよ!!絶対だからな!!」


駆け去る少女か門から這い出る魔物か悩んだ青年は何度も二つを見比べると最後にそう少女に念押しし門の方へと駆けて行った。


タッタッタ……。


ニティは門近くの裏路地を走る。

魔物の恐怖にあてられたか、青年の叱責に何か思ったか何処をどう走ったか分からないままに住み慣れたスラムへとたどり着きスラム街を駆け抜けていた。

そこは奇しくもトルダが学園に通う貴族のハイドから逃げ、イグマとすれ違った路地だ。


「(こんな所でグズグズしてる暇なんてない。お姉ちゃんを助けなきゃいけないのに……!)」


避難する為にリタに宿屋に預けられたがこっそり抜け出した。

門から外へ出ようと機会を伺って居たが、魔物が門から溢れ出す現状、とても外に出られるとは思えなかった。

その届かない姉への焦燥がニティを走らせていたのだ。

涙を堪え、下を向いて走っていたニティは前を歩いていた誰かにぶつかり思いっきり尻餅をついてしまった。


「おっと」


トスン。


「ちょっと何よ!どこめぇつけてんのよ!」


スラムではナメられることは死を意味する。

ニティはいつも通り相手のせいにしようとして気付く。


――アタシは一体誰にぶつかったんだろう。


そう王都の未曾有の危機の今住民は残らず第2防壁内に避難している。

火事場泥棒でさえ手早く盗み終え避難している筈だ。

衛兵や兵士なら門の辺りに集まっている筈。

そう、こんな場所に自分以外の誰かが居る筈がない。

まともな理由は思い付かない。

なら敵?、そこまで考えたニティは一気に顔面蒼白になる。

何か善からぬことをしていた場合、口封じに殺される可能性がある。

恐る恐る上を向くとそこには一人の男が居た。

B級冒険者のラタである。


「アブねぇぞ、何してんだ」


ラタはそう言うとニティの腕を取って起こす。

何してんだという言葉はニティの台詞である。

この男が冒険者だということは判る。

ニティが冒険者ギルドに居た時に会ったからだ。

しかし今現在冒険者は兵士と同じく門付近に召集されこんな所に居てはいけない筈だ。


「あ、ありがと」


疑問が渦巻いたまま固まって上手く言葉が出なくなってしまったニティは取り敢えず助け起こしてくれた礼を言う。


「ここら辺は危険だからとっとと貴族街の方へ行きな」


先程の青年と同じ様な言葉。

だが、そのせいでニティは失態をおかしてしまった。

先程の青年と同じ様に返してしまったのである。


「で、でもお姉ちゃんの所へ行かないと!」


言ってしまってニティはハッとする。

この男は召集を無視してここに居る。

冒険者だからと言って口封じに殺されるかも知れないことは変わらないのである。

丁度今ここには目撃者が居ない。

殺された所でコイツが捕まることはない。

これなら嘘でも衛兵の連絡係とでも言えば良かった。

そうニティは自らの迂闊さを呪った。


「どういうことだ?」


ラタは何かを疑ったのか更にニティに突っ込んで聞いてきた。

殺すのを迷ってる?何で迷ってるのか分からないからここは本当のこと話して同情を引いた方が得!

素早くそう計算したニティはラタにありのままのことを話す。

トルダに殺されかけたこと、このままじゃどの道トルダが死んでしまうこと、トルダの所まで行って戻って来て欲しいと説得したいこと。

話してる間にラタのパーティメンバーらしき人達2人が先程ラタの通った道から出てきた。

ここでミスったら本当に死んでしまう。

真剣にそう思ったニティは必死で同情を引こうとラタを説得する。


「お願い!!」


殺さないで!そういう意味で拝んだニティをラタは勘違いしたのか見当外れなことを宣った。


「じゃあ行くか」


ラタはそう言いながらスッとニティに向けて手を伸ばす。


「え?」


向けられた手に何のことか分からず問い返すニティ。

混乱したニティにラタはフッと笑い掛けるとこう言った。


「説得したいんだろ?ならそこまで送って行ってやるよ。行き掛けの駄賃、乗り掛かった船だ、気にすんな。ほら、早くしろ」


急かされたニティは思わず伸ばされたラタの手を握る。

ラタはそのままニティをグイッと引っ張ると門の方へと向かう。

魔物が氾濫する門の辺りまで来ると手を引いたまま右手で背中に背負ったイウルーンを更に巨大化させたようなあり得ない程の大剣を引き抜く。


「むっ、無理よ!どれだけ居ると思ってんの!?」


門より侵入した魔物は既に群れと化し外にいた約半数程が雪崩れ込んでしまっていることが判る。

しかも乱戦となり敵味方入り乱れて小回りの効かない大剣ではまともに戦えるかどうかすら怪しい。


「まぁ、見てなよ」


盗賊らしき赤毛の女が呆れぎみに言い。


「相変わらずズリぃなリーダー……」


それに続けて魔法使いらしい男が呟きニティを更に不安がらせる。

何せ当の本人はバカみたいにただ大剣を振り上げているだけなのだ。

もしかしてただのバカだったんじゃ……。

そんな風にニティの疑念が頂点に達した頃ラタがスキルを発動させた。


「≪神の裁き≫!!」


そう言うとラタは大剣を振り回し更に巨大化させた斬撃を飛ばす。


ギュルルル!!


「ちょっ!!」


ニティが声を上げたのも無理はない。

何故ならその斬撃の前方には未だ幾人もの兵士が魔物と戦っていたからだ。

それごと切り落とす積もりなのか、と驚いたが斬撃を放ったラタはしたり顔だ。


「まぁ、見てなって」


その言葉と共に斬撃は兵士に迫りそして……。

兵士を通過する。


「え?」


魔物は容赦なくズバンズバン切っていくのに対して兵士は傷一つない。


「そうら、道が出来たぞ」


気付けば斬撃によってここから門に向かって魔物の居ない道が出来ている。


「アンタ何者よ……」


その様子に唖然としたニティは思わずそう溢す。

こんなことただのB級に出来る訳がない。


「俺か?俺は通りすがりの正義の味方だ。

さぁ、野郎共。悪党退治に行くとしようか」


「「おう!」」


こうして3人は意気揚々と門へと向かって行った……。

困惑気な一人の少女を連れて。


血迷って相変わらずずっちーなリーダーって書こうとして何とか自重した……。

危ない。

スペース的に入らなかったイグマさんに黙祷。

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