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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
42/107

42 メルト外伝紅の墓標23 積み重なりて血色の骸、一つ数えるは自責の為、二つ数えるは亡き人の為、三つ数えるは主の為

「オラオラオラ!」


ブオン!ブオン!ブオン!ブオン!


ハッシュがバルディシュを頭上で振り回し、魔物達を威嚇する。

強い者には弱く出て、弱い者には強く出る。

彼の基本方針である。

もうこの場所にはハッシュより強い者はいない。

故に調子に乗ったハッシュは態度と気が大きくなった。


「≪火撃≫!!≪烈火≫!!≪陽火山≫!!」


右左から襲い掛かる魔物達をばったばったと薙ぎ倒し、猛スピードで駆逐していく。

ハッシュの得意分野は対人戦の決闘スタイルだが、力が大きく隔たっている魔物相手ならその限りではない。

力押しで充分対応できる。

怪我をしようが自力で回復出来るし、リタも居るため万が一は起こらない。

そう、ハッシュが恐ろしいのは解析能力だけではない。

恐るべきは驚異的な頑強さと、治癒魔法の要らない程の自己回復力による長大な継続戦闘能力である。


要約すると、最強にタフだということだ。


ならばリタ(回復役)は要らないのではないかとも思うが、タフだからこそ必要なのである。

二人はツーマンセルで行動するのが普通だ。

理由としては別件なのでここでは置いておく。


「うしっ!これくらいで終わりかな〜。さてと、のんびりメルト達を待ちますか」


助けに行く気などゼロである。

大体メルトなら兎も角、あの3人に手助けなど必要ない。

邪魔者扱いがオチだ。

何しろ怖いし。

こうして、仲間の帰りを待とうとしたハッシュ。

しかし、そうは問屋が下ろさなかった。


ズドォォン!!


衝撃音と共にもうもうと立ち込める粉塵。

ハッシュが咄嗟にそちらを向くと何やら聞き覚えのある声が響いてきた。


「ワハハハハ!!貴様にリベンジを果たす為、我は地獄より舞い戻った!!」


物凄く嫌な予感を感じつつ粉塵が晴れるのを待つハッシュ。

粉塵が晴れた先に見えたのは案の定、PSを装着したエドガルだった。


「マジカル……」


ハッシュは降ってきた厄介事に頭を抱えるとこの容認し難い現実に対して不満を募らせ、愚痴を溢す。


「あんだよこのサプライズ。んな復活イベント超絶要らねーんだけど……。大人しく死んどけチクショウ!前回不意打ちみたいな物だし勝ち筋ゼロだぞ、どうすんだ……。ヤベ〜〜〜超絶舌噛みたくなってきた。絶望過ぎんだろ。どうすんだこれ……」


ハッシュの受難は始まったばかり……。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



城へと踏み込んだメルトが何より最初にこう呟いた。


「何だよ中にもゴブリンいんのかよ」


折角外で掃討して来たと思ったのにその思いを裏切られたメルトの素直な心情の吐露だ。

その言葉通り広間とも言うべき場所には魔物達が蠢いていた。

中にはキングも見受けられ外よりも精鋭なのが見て取れた。


「では主、ここで別れよう」


バレインが提案すると皆の合意により別々に別れそれぞれ標的を目指すこととなった。


チャキ。


シュルルルン。


バレインは前回の戦闘時あれだけ嫌がった刀をあっさりと抜く。


「ゲギャギャギャ!」


一体のゴブリンがバレインに向かって走って来るがバレインは一切斟酌せず、刀の握り心地や二度三度振って刀の振り心地を確かめる。


「長らく手離していたせいか……やけに重く感じるな。これも当然の報いか……」


刀に哀愁の念を送るバレイン。

しかしゴブリンはそれを待つような紳士な性格は持って居ない。


「ギャアアアア!!」


奇声と共に飛び掛かるとその爪と牙を以てバレインを倒そうとした。


「一つ」


シュピン。


小気味良く立てられた音と共に一閃。

飛び掛かるゴブリンの右横に移動するように切り上げ、ゴブリンの上半身と下半身を分断する。


「ゲギャギャギャ!」


一体の死を皮切りにキングの命令によって他のゴブリンがバレインに殺到する。


「腕が重い、足が重い、体がイメージ通りに動かない」


ドドドドドドド!!


「コレがツケか」


自らを嘲笑するように発せられる澄んだ声。


「ギャアアアア!!」


そしてその澄んだ声は次々と飛び掛かるゴブリン達の滅びの調べとなった。


「だが、この堕ちた力。ゴブリンを葬る程度には丁度良い――」


シュピン!!

袈裟斬り。


「二つ」


シュピン!!

逆袈裟斬り。


「三つ」


シュピン!!

斬り上げ。


「四つ」


シュピン!!

大上段。


まるで舞を舞うように、一つ一つ型を押さえた戦い方。

一太刀毎ゴブリンを真っ二つにしていく。

それは最早戦いとは言えない。

稽古だ。

業を、感覚を取り戻す為の型稽古。

勿論、間違えれば死ぬし、運が悪くても死ぬ。

頭がイカれてるとしか思えない所業だ。


「血によって磨かれ、やがて血錆びの付いてしまった技は血によってしか鍛え直せない。悪いが……俺の野望ユメの糧となってもらう」


パチッパチッ!!


バチッ!!


体から電流が溢れ、静電気のように蒼白い光が時々バレインの周りを彩る。


「≪雷突≫!!」


周り全てを吹き飛ばす突きで一気に駆ける。

ただ一人の男は獣となって吠え叫び、獲物を求めて走り回る。


雷突を使って進行上の敵を薙ぎ倒したバレインはクロスバを目指して突き進む。

既にクロスバの魔力構成を把握したバレインは位置を掴んでおり、移動するのは難しくない。


「もう刀を抜いているのか……ようやく俺を敵と見定めたか」


それがクロスバの扉を蹴破ったバレインに向けた第一声だった。


「バカ言うな。誰だろうが通過点に過ぎない」


口調がすっかり変わり、元の傲岸不遜な性格に戻ったキースにクロスバは不快げに問い返す。


「じゃあ、お前の目的ゴールはどこだ」


キースは決まってるとばかりにフンッと鼻を鳴らし答える。


「最強」


キースは更にニィと獣の如く笑うと続けた。

彼は既にパルトネ公国宮廷剣術を使う冒険者ではなく、我流剣術を使う暗殺者となった。

そしてクロスバはその暗殺者(獣)の標的(獲物)となったのだ。

キースは立場の豹変した敵を見下す。


「遊んでやる。来い」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「俺の前に立つとは良い度胸だな」


ガルシアは目の前のゴブリンの魔法使い達にガンたれる。

ゴブリンウィザード。

六大神の扱う魔法を各々10体ずつ、総勢60体のゴブリンウィザードだ。

高度に組織化されており、個々の力量もさることながら隊としての実力は凡百の魔法使いでは到底及ばないだろう。

それが六隊。

しかも違う属性毎一隊ずつあるのだ。

通常の魔法使いなら即座に降参しても可笑しくない。


「其処を退きな。嫌なら力ずくで退かしてやる」 しかしガルシアは違った。

その理由は彼の使用属性にある。

どんな魔法使いだとて苦手な属性はある。

それは使用出来る属性が限られて居るからだ。

先ず魔法使いとして攻撃魔法を使えるだけの才能を有しているのが10人に1人。

そして、ダブルと呼ばれる二つの属性持ちは更にその中の10人に1人。

次にトリプルと呼ばれる三つの属性持ちは更にその中の10人に一人。

公式にはここまでである。

人類はこれ以上の属性を持つことは出来ないとされ、定義付けられているのはここまでだ。

しかし実際には居る。

眉唾物の英雄譚として存在したオウルフと共に魔王を葬ったとされるダニエル=リーヴがこう呼ばれていた。

パーフェクトウィザード。

全属性使用者と。

そして、ここにももう一人。


「≪レインボーブレット≫!!」


六色の色をした魔力弾が降り注ぎ、ゴブリン達を攻撃する。


ドドドドドドド!!


ゴブリン達も属性防御盾を張るが、全属性をカバーする魔力弾は難なく貫通しゴブリン達を蹂躙する。


「ギャアアアア!!」


程なくして生きたゴブリンは居なくなり、死体だけとなった。

ガルシアが主に使って居るのは土魔法だが、これは嫌悪するバレインが雷魔法を多用することへの嫌がらせである。

主にガラスや岩石等の攻撃方法を使うことによってバレインの全体への功績を下げようという狙いだ。

まぁ、バレインの使うルーン魔法は才能に左右されるステータス魔法とは違って努力や優秀さに左右される物であるため知識さえ有れば全属性を使用出来るのだが。

事実、戦いの天才であるバレインは基礎速度上昇率が一番高いから雷魔法を多用しているだけで全属性使える。

ガルシアは死体の山を見ながら嫌そうに言った。


「あんなダルクなんぞに興味はねぇが、バレインに劣ると言われるのは癪に障る。さっさと消して置くか……。チッ、メルト……お前の為なら神にだって祈ってやるよ」


もう神になど頼らないと、自分の力だけでやると決めた幼少の誓いを破ることさえメルトの為なら容易い、そう、ガルシアは思った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「オラァ!オラァ!ハァ、ハァ……」


大将前に戦って体力を削られでもしたら元も子もないので必要最小限のみ倒しながら進むメルト。

体力はなるべく温存しておくことに越したことはない。

何しろトルダの説得中にヨキが乱入して来れば最悪2対1で戦わねばならない。

最悪を想定して今は少しでも力を溜めて置かねばならないのだ。

トルダの魔力察知が出来ないメルトは片っ端から扉という扉を開けて回っている。


「違う」バタン!「違う」バタン!「違う」バタン!「違う」バタン!「違う」バタン!「違う」バタン!


食料庫や空の宝物庫など様々な部屋を確認し、しらみ潰しに探していく。

メルト以外の3人が真っ先に標的へと向かった為、メルトが先に会うのはトルダかヨキのどちらか。

確率は二分の一。

当たったのは……。


「これはこれは……侵入者だからと来てみればやはり貴方でしたか……」


ヨキだ。


「クソッ!!」


コツリ、コツリと石で出来た廊下を歩きながら喋るヨキにメルトは毒づく。

メルトは分かっているのだ。

今の自分ではどうやっても勝てないと。


「(どうする……打つ手無しだ……ここで戦うしか……)」


しかし、その時、メルトの内より声が聞こえてきた。


『ここは私に任せて先に行ってくれないか』


オメガだ。

知らない人に説明すると今喋ったのはオメガ=ディアボロス。

悪魔族の元皇帝であり、目の前のヨキの元上司だった男だ。

現在は魔力を回復させる為、メルトの中に入り、肉体の主導権を取り合う仲にある。

メルトの肉体とオメガの力があり、精神世界の勝者が全て総取り出来るようになっている。

メルトの精神の中でメルトに負け越しが多いせいかメルト化が進み、もう一人のメルトのようになって居たが、今回はこのように皇帝として現れた。

つまり、それだけ目の前のヨキという人物がオメガに対して感情を奮起させたということだ。


「分かった。頼む」


メルトがそう言った瞬間メルトからもう一つ人影が出てきた。

見事な金髪に黒い目、高い鼻とまるで貴公子のような全く悪魔という言葉に相応しくない容姿の人物が高級感溢れる服を着て現れた。


「オ……ガ…………さま…………。

オメガァ!!貴様ァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!!!!!!」


ヨキがそれを見た時、目を一杯に見開いたかと思うと何事か呟き、突如としてヨキが咆哮を上げた。

髪を振り乱し、オメガを睨み付ける。


「貴様のせいで!!貴様が負けたせいで!!私達は!!今こうして死ぬより辛い目に遭っている!!私は実験体じゃない!!実験体じゃない!!黙るな!!何か言え!!オメガァ!!」


気持ちのままに言葉を吐き出すヨキ。

顔は醜く歪み、怒りに燃え、本能のままに怒りを表現する。

その姿には先程までの理性的な行動は見られなかった。

精神が狂暴化する悪魔化してさえ理性を保っていたヨキ、それが立った一人の悪魔のお陰でこうも狂ってしまったのだ。

オメガはヨキに対して何も答えず何かに耐えるように下を向いたままメルトに向かって小さく言った。


「先に行け……早く……!」


息が多分に混ざる感情丸出しの声でメルトを促す声。


「あ、おう」


ヨキのあまりの豹変振りに呆気に取られていたメルトは正気に戻ると、トルダを説得しに先に行った。


タッタッタ。


オメガはメルトがしっかり離れるのを確認すると、堪えていた憤怒を爆発させる。

メルトに行かせたのはこの怒りを誰かに見られて怒りが減るのを恐れたからだ。


「フォルダ……ッ!!私は貴様を許さないッ!!私の部下を……ッ!!良くも!!非道なる王めッ!!私はあの日負けた私を憎み!私の弱さを憎む!だが、それ以上に!!貴様を私は憎むッ!!!!」

オメガは部下に残る実験後と判る魔力の残滓を認め大いに憤る。

そして怒りに狂う部下と戦わねばならぬ現実を今ここに居ないフォルダへと怒りを募らせる糧としたのだ。

あの日さえ無ければ貴様さえ居なければ平和に暮らせていたのに、と。

その悪魔とは思えない流麗な顔が怒りに歪み、皇帝として得た体が怒りに打ち震える。 その時こそ、彼は本当の悪魔と化したのだ。

スペースの関係上入らなかったイグマさんに黙祷。

別に格好いい台詞もないし、ヌルって入っても大丈夫だよね。

ハッシュの最後に一文

長い間ご愛顧有り難う御座いました。彼の次回作に御期待下さいと書こうと一瞬血迷うも踏み止まる。

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