41 メルト外伝紅の墓標22 メルトの力
「お前らやるなぁ〜」
死屍累々。
そんな目の前の惨状を目にしてメルトは言った。
覗くように手を眉辺りに当て、呑気な声を出す。
そして野獣のようなニィ、という野心に満ちた笑みを浮かべる。
被害数目算3000。
その驚異的な数字に刺激を受けたのだ。
そしてその3人の強さも当然だ。
何故なら3人は3人とも階級こそA級だが、S級並みの力を持つ。
何故なら3人共素性が異常だからだ。
小国ながらその優れた暗部の諜報能力と交渉能力のお陰で大国と渡り合える程の発言力を持つクライシュテス、その元暗部副長。 幼き頃より才能を発揮し暗躍によって自家の爵位を伯爵から侯爵へと引き上げ、最難関学術院歴代二位という好成績で卒業し国王に傑物とまで言わしめた少年。
暗殺ギルドのネームドでS級と張り合うと呼ばれるレジェンダリークラスに在籍した元暗殺者、ルーン魔法を駆使する『黒雨』。
そんな化け物共が何故冒険者、しかもA級なんぞをやっているのかと言えば……それはただ単純に全員がメルトに対して忠誠心を抱いたからだ。
メルトを己の成り上がりの為の捨て石に使おうとした魔法使いもいた。
メルトを完膚なきまでに叩きのめし、格下だと格付けした剣士もいた。
ただ単にメルトを利用して任務を果たそうとした諜報部員もいた。
しかし、メルトはそのカリスマと少しの運を持って全員を仲間に入れ、旅を続けて来たのだ。
そうして出来上がったのが今のパーティ、夕碧の騎士団。
そしてメルトは強力な仲間を手に入れた代償に一つの物を失った。
「うしっ!じゃあ俺も行くぜ!!」
メルトはそう言うと魔物に対して半身になり、右腕に力を込める。
筋肉がパンプアップし、皮膚表面の色と感触が変わって行く……。
紫色に……そして岩のように硬くザラザラと。
「≪豪魔の巨腕≫!!」
そしてその腕を黒い靄状の物が覆う。
しかしそれは多大な技術を要するらしくメルトの顔は汗と怒りで苦々しく歪んでいた。
「≪纏禍≫!!≪重禍撃≫!!」
大きく振りかぶられた腕に一瞬、更に大きく靄が膨れ上がり、その握った拳を未だ悲鳴を上げる魔物達へと降り下ろす。
ゴウゥゥゥ!!
ズドォォン!!
風を唸らせ飛ぶ拳状の黒く重いエネルギー弾が抉り込むように地面に激突し、岩盤を捲れ上がらせる。
「ギャアアアア!!」
ゴブリンの悲鳴が飛び魔物達が吹き飛ぶ。
魔物被害数23。
そう、メルトが強い仲間の代償に失ったのはリーダーとしての威厳。
いつの間にかパーティ内で一番弱くなってしまったのである。
これでもメルトはラタを叩きのめしたようにA級として相応しい力はある。
ただ単純に3人とは格が違うのだ。
伊達に一つのS級パーティだけで冒険者ギルドそのものに匹敵すると謳われていない。
悔しげな顔をするメルトをバレインがフォローする。
「気にするな主よ、闘士が遠距離出来なくても問題ない。むしろ普通だ」
お前が言うなという話である。
剣士でありながら強力な魔法で魔物を1000体も駆逐した奴が言う台詞ではない。
ぶっちゃけ、バレインが使うパルトネ宮廷剣術よりも強いだろう。
剣士の本分とは何かを考えさせる問題である。
一応メルトも元剣士なのだ。
オメガに憑かれて以降剣が壊れて使い物にならなくなるから止めただけである。
バレインがパルトネ宮廷剣術を習い始めてから一年足らずで抜かれてしまったが……。
苦々しげな顔になったメルトを今度はイグマが慰める。
「そうそう、メルトは小技で体力を徐々に削ってくタイプだしね。一撃が大きければ良いってもんじゃないよ」
いや、だからお前が言うなという話である(2回目)。
イグマこそ連続した小技でダメージを稼ぐタイプであり、それが効かない相手、若しくは手早く片付ける場合のみ隠し球を使う。
しかし、今見た通り暗殺や諜報には使えない筈の広範囲攻撃がこの威力である。
最早嫌味でしかない。
悪夢と言うに相応しい光景である。
多少怒りに染まった顔のメルトを次はガルシアが宥める。
「威力が最大限に発揮できてねぇだけだ。しっかり直突きの状態で放てば威力は増すぞ」
魔法使いからの闘士指導……。
いや、有難いし、ごく正しいのだが、何故かメルトは非常に気に食わなかった。
それは恐らくガルシアが魔法使いの癖して学術院で拳闘の成績が二位だったことが関係しているのだろう。
顔が引きつったメルトを更にハッシュが気遣う。
「大丈夫、残り900位俺が片付けてやるさ。心配すんな。あ、なんなら今からでも服取って来ようか?」
今はダルクを倒した為ハッシュは何時もの黒を貴重としたデザイン重視の服である。
彼が最凶に嫌う物を自ら取りに行くほどメルトを気遣った生暖かい目線は軽くメルトの心を突き刺す。
もし、彼がLOVEビームを放てば魔物の被害数300は下らないだろう。
一緒に村から出てきた筈なのに何処で歯車が狂ってしまったのか……。
その顔に寂寥の念を抱いたメルトを最後にリタが励ます。
「格好良かったよ!メルトくん!!」
皮肉にも取れるがリタの顔を見ればそうではないのが一目で分かる。
キラキラとした純粋な目に、僅かに紅潮した頬。
裏も含みもなく、本心から格好良かったと、そう思っているのだろう。
恋は盲目という奴である。
「ぐっ……」
だが、その一言は今のメルトに取って一番破壊力が高いかも知れなかった。
「う、うるせぇ!!さっさと行くぞ!!」
(主にリタによって)粉々に砕け散ったプライドを何とか再構築し直したメルトはそう言うと丘から魔物達を見下ろす。
「しかし、未だうようよ居るなぁ」
そう、いくら3000ちょい(端数切り捨て)削ったとは言え母数が母数。
生き残りでは済まされない程の数が未だその場所に残されていた。
「めんどくせぇ、イグマ王都の方で何とかしてくれんだろ。ソッチに回せ」
「止めろ!!てめぇ!!」
ハッシュが慌てて駆け寄った時には時既に遅し。
イグマは既に香炉の準備を始めてしまっていた。
ハッシュはメルトの胸ぐらを掴み猛抗議する。
「ふざけんな!!帰ってみたら王都壊滅してました、とか笑えねぇぞ!!」
そう、幾ら残り2000とは言え戦える王都の冒険者数は1000。
しかも、そこには戦闘経験のないF級すら含まれている。 ゴブリンを倒せるのは600程度だと見て良いだろう。
しかも急拵えの編成で3倍の軍勢を打ち返せるとは思えない。
幾ら城壁があるとは言え攻撃範囲を広げられたらそれだけで終わりだ。
王都壊滅とは本当に起こりうる可能性であって決して笑える冗談などではない。
「大丈夫だろ」
「根拠を示せ!!根拠を!!」
何か可笑しなことでもあったか?とでも言うように小首を傾げながら軽く考えるメルトにハッシュは目眩がする。
これ以上言葉の通じない奴は今までに会ったことがない。
まだゴブリンと話す方が楽そうだ。
そう切に思ったハッシュだった……。
「あー!!もう!どうなっても知らねぇからな!!」
ハッシュは1光年隔てる程の価値観の違いに説得を早々に諦め、王都の皆さんには幸運を祈る方向に考えをシフトする。
ハッシュの許しを得たイグマは香炉に幻術を練り合わせ、発動させる。
「≪マインドコントロール≫」
簡易的な物である為範囲から外れた者が複数居たが、大体の魔物は何かを追うように、何かに追われるように王都へと急いだ。
ドドドドドドド!!
回りの者を踏みつけ王都というただ一点を見定め蠢き始めたのだ。
「結構残ったな〜」
数百の魔物を見下ろしメルトは面倒臭そうに一人ごちる。
処理を開始しようと飛び出そうとするがハッシュがそれを止める。
「待てよ。此処の後処理は俺達がやっとくわ。丁度俺の役割も終わったことだしな」
ブオン!
ハッシュは背中に背負ったバルディシュを抜き、肩に担ぐ。
ハッシュがこの武骨な武器を選んだのはあの服とセットで貰ったピンキーでファンシーな杖への反抗心故だ。
「先行っといてくれ」
自分に与えられた役割である打倒ダルクはもう達成した為、ハッシュに取ってこの戦いは消化試合なのだ。 リタも仲間に付いて行くのは危険な為、より安全なハッシュと行動を共にすることになる。
「おう!」
メルトとしても面倒な為にハッシュに任せることにして先に進む。
目的地は既に見え距離も近いものの、そこに到達するには一つ問題が存在する。
水堀、そしてそこに掛かる跳ね橋である。
当然今は上げられており、これをどうにかして下ろさなければならない。
いや、リタとハッシュが別行動している今、3人だけならこれくらい一っ飛び出来るのだが、メルトの飛距離ではどうしても濡れてしまう為跳ね橋を下ろすことが必要なのだ。
跳ね橋は山折りの二つ折りになっており、山折りの頂点の部分の両端から城の方へ太い鎖によって巻き上げるような形になっている。
つまり跳ね橋を下ろすにはこの太い二本の鎖を千切れば良いのである。
「さぁてと、コレが良いかな〜」
イグマは持ち物の類いを漁り、一本の瓶を取り出す。
ポーションの様に瓶に入った液体が、太陽の光に反射して煌めく。
「バレイン、そっちの鎖をお願い」
バレインは無言で頷くと刀に手をかける。
「せーの!」
イグマの掛け声と共に二人は同時に行動する。
イグマは瓶を投げ、バレインは一瞬だけ魔法付与により刃の延長線状に雷の刃を伸ばし鎖を切断する。
バキン!!
ジュワァ……。
一本の鎖が切れ、更にもう一本の鎖が腐食により弱くなったことで鎖が跳ね橋の重さに耐え切れなくなり、鎖が音を立てて千切れる。
ガキン!!
ガラガラガラガラ。
ガコォーン!!
跳ね橋が自重により落下し、見事跳ね橋が水堀に掛かる。
「うしっ!!行くか!!」
メルト達は跳ね橋を渡り、城の中へ消えて行った……。
コンビニでアイス頼んで財布取ろうとしたら財布が盗まれない為の伸縮自在の紐が鞄の底に引っ掛かり、そのまま力強く引っ張ったら最大限伸びきった状態で引っ掛かりから解放され顔面に直撃。
バチコーン!!という轟音に負けず一切表情崩さなかったのに、次の日もアイス頼んだら偶然同じ店員で「アイスですね、バニラのカップで宜しかったでしょうか?」と流れるように訊かれたの納得行かない。




