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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
40/107

40 メルト外伝紅の墓標21 三強

えっ?40話記念?

ちょっと何を仰ってるのか良く分からないんですけど……。

カタカタカタ……。


ゲギャギャギャ!


眼下に望むは魔物の群れ。

それらは大別すればスケルトンとゴブリンに分けられる。

ただ単純に群れているだけではなく、城を囲うようにして配置されている。

スケルトンの弓兵は城壁の上、ジェネラルを基本とした陣らしき物。

まるで人間のように組織だった物であり統率力の高さを窺わせた。

ゴブリンの鳴き声、スケルトンの骨が動く度になる音。

一つ一つは小さいが、それが5000も集まれば性質は異なってくる。

それらが重なり合って見る者に魔族に相応しい鬱屈とした雰囲気を城の周囲に感じさせるのだ。

そんな一夜城を丘から眺める一団があった。


夕碧の騎士団ことA級冒険者、メルト達である。


「うわぁ〜、超うようよいるよー、気持ち悪い……もぞもぞする!!」


イグマが遠くに見える魔物が蠢く虫の群れのように見え、身震いする。

暗部の同僚のせいで虫に対してトラウマがあるイグマは虫ほど嫌いな物はない。


「逃げてぇ〜」


ハッシュがその心情をシンプルに表せば、イグマもそれに同調する。


「リーダー、マジで帰らない?今なら王都の皆も生温かく迎えてくれると思うけど」


真正の怠け者と筋金入りのヘタレの意見が照合一致し、メルトへ抗議するが理不尽の塊たるメルトが許す筈がなかった。


「あ?行くに決まってんだろ?じゃあ、何で付いてきたんだよ」


メルトの疑問の視線は会談の際、散々止めようと口を挟んだハッシュに向けられる。

ハッシュが割りと抵抗なく、すんなり付いてきたのがメルトとしては疑問だったのだ。

そんなに嫌なのであれば付いて来なければ良いだけの話。

まぁ、行かないとハッシュが駄々をこねてもメルトは引きずってでも連れてきただろうことは置いておいてだ。

口だけではなく行動上の抵抗があっても良かった。


「行くのは決定かよ……。夢の旅路をタダで護衛してくれる奴が死んだら困るってだけで……。

べっ、別に深い意味は……」


何やら言い淀むだけではっきりと煮え切らない態度で答えるハッシュ。

……究極に嘘が下手である。

食道楽の護衛をタダで引き受けてるどころかそのパーティ自体家計が火の車であり、その食道楽自体を止めざるを得ないという本末転倒さ。

もしそれが本当だったらハッシュはパーティをとっくに抜けている筈だ。

それか損得勘定が出来てないだけか。


口調にさえ動揺が表れ、内容は矛盾だらけ。

こんなので騙される奴がいたとしたら真のアホだけだ。

流石にギルド支部長にアホと断じられたメルトでもこんなバレバレな嘘気付く……。


「ふーん、成る程」


訳がない。

メルトは真のアホなのでバリバリに納得する。

いや、そもそも自分のパーティが火の車だとすら知らないので気付く訳がなかった。


「うーん、俺はメルトが心配だからかなぁ」


メルトに目で聞かれたイグマはそう答える。

その言葉にハッシュは大きく目を見開く。

その勢いのままにイグマの下までダッシュして胸ぐらを掴み抗議する。

メルトに聞こえないように小声で叫び倒す。


「お前バカか!!メルトに対してんなこと言ったら余計に面倒連れてくるだろうが!!」


「ん?」


ここに二人の認識の差がある。

メルトを心配している、という事実は二人の中で共通しているがその実態は異なるのだ。

そう、まるで戦いたくない、という意見は一致していても理由が死にたくないと殺したくない、という風に異なる二人の生き方ように。

ここでイグマがメルトに対して抱いている心配は出来損ないの弟が怪我をしたらどうしよう、という真っ当な心配だ。

しかし、ハッシュは異なる。

ハッシュとしては極力危険な場所には行きたくない。

だが行かねばならない。何故ならメルトは放って置くと面倒事を「増やす」からである。

もし、今回命惜しさに参加を見送ったら面倒と危険を倍連れて帰ってくる。

実に迷惑な話だ。

だったら行かない訳には行かないし、行って面倒を減らした方が圧倒的に良い。

つまりハッシュの言う心配は一人で歩かせるのが心配ということである。

情けは人の為ならずとは良く言うが、ハッシュが心配しているのは自分の身であってメルトの身ではない。

メルトに関しての心配など、ハッシュとしては無用であると言わざるを得ない。

そんな物パーティの誰かが勝手に護ってくれる。

凄腕のパーティメンバーが揃っているのだ。

自分が心配する必要など皆無。

するだけ無駄という奴である。

ずっと一緒に居るというだけあってハッシュの方がメルトのことを良く知っていた。


「あー、めんどくせぇな。こうすりゃ抵抗の余地なしだろ」


ハッシュはメルトのことを良く知っていた筈なのに致命的なミスを犯した。

メルトから意識を逸らしたのである。

ハッシュに子供じゃあるまいに……と言う奴も居るがハッシュに言わせればそんな物片腹痛い。

事実、メルトはハッシュが目を離した一瞬の隙に面倒事を拡大した。

ごちゃごちゃ不満を漏らす二人に否応なしという状況を作り出そうと考え行動したのだ。


パァン!!


空に向かって合図用の照明弾を打ち上げ、自らの位置を示したのだ。

5000を越す魔物に……。


「何してんだてめぇ〜〜!!殺すぞ!!」


何をしたか気付いたハッシュは今度はメルトの胸ぐらを掴み泣き喚く。

涙やら何やら振り乱して決死の表情でメルトに詰め寄るハッシュ。


ギロッ。


この照明弾によって丘の上に侵入者を発見した魔物達は即座に殺気立つ。

先程の雰囲気とは比べ物にならない程の濃密な負の感情が一夜城を包み込み、魔物のキングが一つの指令を出す。

曰く――突撃と。


ゲギャギャギャギャ!!


ドドドドドドド!!


ゴブリンやスケルトンが一斉にメルト達に向けて突撃を始める。

一万の足が地面を叩く音は地響きとなってメルト達の方まで届き、彼らの体を縦方向に小さく揺らす。


よくもまぁ、ハッシュが目を離したたった十数秒の間にここまでトラブルを呼び込めた物である。


先程まで規則的に配置されていた魔物達はメルト達に近い方から突出して陣形が崩れていく。

5000もの殺意が自らの肌に突き刺さる様子はハッシュに身震いを起こさせた。


「きぃ〜た〜〜!!」


ハッシュの生存本能が全力で危険を知らせる警報を鳴らす。

しかし、逃げ場など何処にもなくただメルトを揺する他為す術がない。


しかし、そんな中前に歩み出る者が二人。


「一ミリでも効果範囲被ったらコロス」


「小さな器だな。そんな一滴の水すら入らない器と一緒に生きるのは苦痛だろう。貴様の首ごと切り飛ばしてやろう。感謝しろ」


ガルシアとバレインの二人である。

ガルシアが一緒に出てきたバレインを牽制すればバレインはガルシアを扱き下ろす。

どうやら二人にとって目の前に迫ってくる魔物の軍勢よりも互いとの喧嘩の方がよっぽど重要らしい。


「あ?んだとコラ!!上等だ!!あいつらより先にてめぇを片付けてやる」


ガルシアが魔物の軍勢を指差してバレインを睨めばバレインも睨み返す。


「おや、驚いた。どうやらお貴族様は魔物が来るまで生きている積もりらしい。自信過剰とはこのこと。呆れ果てて憐れみが湧いてくるな。瞬殺されて現実を知れ」


バレインは「刀」の方の口火を切るとガルシアの首筋に狙いすました。

クロスバに対してあれ程抜かなかった刀を、である。

巨大な危険を前に本気の仲間割れ。

ハッシュとしては堪った物ではなかった。


「止めろ!!仲間割れしとる場合か!!アッチを何とかしろ!!何とか!!」

ハッシュ全力で魔物の方を指差して二人の方向転換をはかる。


「「チッ!!」」


互いに相手を殺し損ねたことに対して二人とも盛大に舌打ちして魔物の軍勢に向き直る。


「ハァ、しゃあねぇメルトの為だ」


「気は進まないが主の為だ」


似たような台詞を二人で吐きながら互いに迎撃の準備を始める。

バレインは肩幅に足を開き両手を突き出して魔力を集めることによって瞬間的な風が起きる。

それによって夜空のような色の髪が浮き上がり、その隙間から見える赤目を強く見開く。

制御から漏れた雷が薄くバレインの体を纏い目標を目の前に迫り来る魔物達に定める。

「神よ鳴らせ、咎人に怒りの鉄槌を落とせ!愚かなるその身にその神なる怒りを刻み給え!!」


バレインの魔力が爆発的に高まりバレインの魔法が発動する。


「『サンダーストーム!!』」


ガガァーン!!


魔物達に上空から雷が降り注ぎ、阿鼻叫喚の地獄と化した。


「ギャアアアア!!」


魔力によって本物の雷よりも強く大きい雷がまるで雨のように降り注ぎ、あるゴブリンは炭化し、あるゴブリンは感電死した。


その被害数1000。


魔法による圧倒的な蹂躙であった。

バレインが使ったのは所謂普通の魔法ではない。

失伝して人間では既に使う者は居ないとされる始源ルーン魔法。

その通常の魔法にはない圧倒的な殲滅能力と費用効率から多くの魔法使いから切望されたが、修練に掛かる膨大な時間、制御における無理難題とすら呼べる難しさから段々と消えて行き今の修練が必要ないステータス魔法を主流として歴史の闇に消えていった。

そのルーン魔法の威力は絶大。

とうとう効果範囲には草のはげた土の円が広がっているだけになってしまった。


ガルシアも一つの魔法に魔力を込める。

此方は普通の魔法ではあるがその込めた魔力が桁違い。

正に災厄の一撃だった……。


「喰らえ!!≪メテオストライク≫!!」


その起句と共に、空に大きな存在が影を射す。

それは隕石。


全長数十メートルに及ぶ巨大な岩石の塊はゆっくりと、近付くにつれ速く迫ってくる。

絶望が、押し潰すように。

先端が大気との摩擦により赤熱し、光の塊となって接近する。


隕石は地面に衝突することなくエアバーストを起こし、爆風と共に全て吹き飛ばす。

その爆音は魔物の悲鳴すら吹き飛ばし、地面に一部ガラス化したクレーターのみを残した。


その被害数1000。


「えぇ〜俺もやらなくちゃダメ?」


如何にも面倒臭そうにイグマがメルトに向かってお伺いを立てる。

イグマはおもむろに手を組む。

立てた人差し指を握って、更に握った方の手の人差し指も立てるポーズだ。


「ドロン!……ってダメだよね……。ハァ、しょうがない真面目にやりますか……あんまり殺したくないんだけどなぁ……」


メルトに睨み付けられ観念したイグマはとうとう真面目に魔法へと魔力を込め始める。


「≪――――――――≫!!」


イグマが叫ぶと黒い幕状の物が魔物達を覆い尽くす。

それは黒い球体のドームのような物を形成し、侵入不可かつ脱出不可の空間をたちまち作り上げる。


「ギャアアアア!!」「ギャアアアア!!」「ギギギギギ!!」


中から聞こえる断末魔の叫び。

それらは魔物であろうと感じ取れるほど悲壮感に満ち、絶望に富んだ物だった。


「中で何が起こってるかは秘密。見た誰かが心を病むといけないし……それに……彼らに怨みを向けられるのは一人で良い」


誰かに聞かせるように呟くイグマ。

その言葉が終わる頃にはドームが開くように消えて行きその全容を晒す。

そこには何故か死体もなく、ただ単に何かを塗り潰したような魔の抜けた黒い円が浮かび上がるばかりだった……。


その被害数1000。


魔物達は……一瞬にしてその数を5分の2まで減らしたのだった……。


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