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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
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04遅めのプロローグこの世界でただ一つ願いが叶うなら(下)

『危なかったね君たち。もう少しで死ぬところだったよ。もう安心だ。』


頭に直接響く声だ。いや声とは言えないか。音としての体裁を整えられてないからな。

ひどくなんとも言えない気分になる。

全方向白だけの色気のない世界に三人でいる中、そのまぬけな声は似つかわしくない。なぜ痛みがないのか。どうやって何もないところで立てるのか。男は、世界はどこ行ったのか。

なにも解らない場所で聞く声としてはその声は特別どうこうとは言えないが、この場所に合う厳格さをもちあわせていないような気がしたのだ。

「なに、コレ。アタシ撃たれて……あの世?」

それは一瞬思ったが三人でいることで却下だ。もしあの世だったら最高二人だけのはずだ。

うん、うたれて云々については言及しないことにしよう。スルーや気づかないフリは立派な処世術だ。うん。


というかそろそろ正也は俺を離してくんないかなぁ?かばった時の格好のまんまなんだけど……。

俺に男色の気はないし、このままいくとこの世界でも死ねるのか?という疑問の検証することになるんだけど?

ぐえぇ。


「正也…。中身出ちゃう。」

「大丈夫か!優人!痛いとこないか!怪我は!」

「うん…。今正也が右手の力抜いて、肩握り潰そうとするの止めてくれたら完治しそうな気が凄いする……。」

「わっ、わりぃ!」


正也があわててホールドアップの格好をしてしまったため支えを無くした俺はあえなく下方向の光に向かって落下する。


ゴチン!


いってぇ!

頭を光に思いっきりぶつけてしまった俺は鈍い痛みが走る頭を抱える。

ちくしょう。まったく、なんで光がこんなに固いのか責任者に激しく問いつめたいな……。


「いいんだよ。次から今みたいに殺したくなったら先に言ってね?心の準備ってあるから…。」

「わっ、わるい……。」

『フフ、彼をあまりいじめないでくれるかい?

死ぬ寸前だったからね、彼は今メンテナンス中なんだよ。』


メンテナンス中ねぇ……。いつも通りだけどなぁ。というか……。

「そろそろ姿あらわせよ頭んなかに響く声だけじゃどこ向いてしゃべっていいか判らん。」


『これは、これは失敬した。ならこれで−−−−。』


姿をあらわしたのはビジネススーツ姿のオッサン。第一印象で言えば出来る男って感じだろうか。弁護士とか政治家とかやってそうだ。


切れ長の目やどことなく歪んだ口が刃物を思わせる。


「どうだい?イケメンだろう?」


……………。俺の好感度はたった今10下がった。

「で?俺たちに何の用だ?」


「イケメンは無視か……。」

無視だ。早よう話せ。


「まぁいい。今日ここに来たのは君たちに選択をしてもらうためだ。」


「選択?」

「そう選択だ。まぁ本当は他のニクソン・田中とか自称ヴァネッサ・サーガ・ガイロストとか他称ブタメガネとかにしてもらって珍道中とかも良かったんだが……。」


いいから、早よう。

「最初から行こう。死んだのはそこにいる彼だけだ。」

良かった。二人は死ななかったんだな……。


「まぁ、早い話しが君たちの行動に感動した。君たちに贈り物をしようと思ってね……。何がいいかな?」


「じぁあ優人を生き返らせてくれ!お前神さまなんだろ!?」

その願いは可能性が低いな恩を着せるだけ着せて俺を殺すだけの方が奴にとっていいだろう。

生き返らせられたとしても向こうで暮らせるようにはならんだろうな。目撃者も多かれ少なかれいるだろうしな。

向こうで共にいられんのなら正也にとって死んでるのと同じじゃないか?そういう意味で俺を生かす意味は皆無だ。


「神か、そう思ってもらって差し支えないよ。」

言い方が気になるな……。神の名を騙ってるってことか?少なくともこの世界の神じゃねぇってことか?


「頼む!」


「フム、ではゲームといこうか。」


「は?」


「いやいや、勘違いしないでくれたまえ。命を弄んでるんじゃあない。単純な取引、儀式だよ。」


取引で言い方を変えた……?


「これが最初に言った選択だよ。」

相手側の理解をすっ飛ばしてまで言った言葉。

つまりこれから言うことがこいつの目的……。


「彼を君たちの世界へは帰せない。もう色んな人が死を知ってしまってるからね。それを消すのは無理なんだ。

だから私が出来るのは彼を別の世界へ連れていくことだけだ。」


「別の世界?」


「ああ、この話しもまだなのか……。ごめんごめん。飛ばすのはメルヴィルという場所だ。ゲームの世界って言うと分かりやすいかな。

ほら、しかし回り込まれてしまった。とかあるだろう?そういうやつさ。そこの大陸上にある王国ヴァインズの王都になるね。」


「そこで優人が生きられるあてはあるの?」


「現代社会程じゃないけどね。勇者として召喚されるはずだから最初の衣食住は保障されるはずだ。バカ強い魔物とかもいるから絶対じゃないけどね。」


敢えて不安を煽るような言い方……。


「儀式のルールを教えよう。

簡単だ。

選択をするだけ。

選択権があるのは彼以外の二人。

君たちも、メルヴィルにわたるかどうか、だ。」


区切るような言い方……。

「俺たちも?」


「そうだ。二人が同じ選択をなさなければ、彼が生き返ることはない。

彼と一緒に勇者になって三人でメルヴィルにわたるか二人で現実に戻るか、だ。」


安心だ。選択。取引。ぼかし。選択の簡略化。説明不足。三人。



カチリ、カチリと脳内でピースがはまっていく……。



そうだこいつのやってるのは交渉だ!俺を人質にしている!


「さて、選択の時だ。君たちはどちらを選ぶ?」


「待て!こいつ…ぐはぁ!」


ぐっ!はぁ!息が……!

『黙っていろ。君に選択権はない。』


「優人!大丈夫か!?」


正也が俺の肩を揺する。

「大丈夫か?メンテナンス中だったのにムリをするからだよ。」


それは俺を痛め付けて二人に圧をかけるための言い訳だったのか!くそ!


『ああ、まさか気付くとは思わなかったがな。保険を用意しといて助かったよ。』


安心だと声をかけるのも、わざと説明をしないのも、交渉の一助!

なぜ気づかなかった!ちくしょう!


そうなると目的も見えてくる。

奴に必要なのは正也か咲良のどちらか、又はその両方!

直接召喚させなかったのは二人に自分で選択したと思い込ませるため!

副次的な要素としての友好的な関係!


何が自分で選択しただ!選択権なんてほぼないに等しい!だれが人の目の前で帰るだなんて言えるものか! だれが苦しむ奴を見て見捨てるなんて選択ができるか!


恐らくはあの拳銃を持った男もこいつの差し金のはずだ!そうすればなぜ俺たちをほっぽって逃げなかったねかも、俺をいたぶったのもわかる!このやろう!! テメェでぶつけた危険からテメェで救っといて危なかった。だと!?ふざけるな!


「では選択に移ろう。正也君は?」


「もちろんいく!優人を一人なんてできるか!」


このクソ神がぁぁあああ!!!!


「咲良君は?」

「アタシも行くわ!当然でしょ?」


殺す!殺す!殺す!殺す!


「優人君も君たちに助けられた事を覚えているのは辛かろう。

この世界に来たことは忘れさせておこう。」


なんだと!?このクソ神がぁ!ぜってぇ殺す!


「ありがとう。助かるわ。」


「礼には及ばん。一つ貸しにさせて貰うよ。ああ、勇者はもう一人いるそうだが、そやつは向こうの神が選んだ者だ。仲良くな。では、もう会うこともないだろう。去らばだ。」


そう言った直後、回りの光が全て消え、俺たちは闇の中に包まれながら意識を失った……。


――――――――――――


「ククククク、ハハハハハハ!

あぁおかしい。最高だ。

こりゃとんだもうけものだ。精神が相互に繋がってると分かってる上で俺を騙すとは!

素晴らしい!向こうで再構築するために一回バラさなきゃ気づかなかったよ!」

彼はもう一度自らの手元にあるぐしゃぐしゃの紙を見た。そこには血で、


きおくをうたがえ

マサヤはしる


とかかれていた。 「まさか記憶を奪うことまで気づかれていたとは…クク。強い言葉を使っていたのは、強い思念で俺を混乱させようとしていたのか!クク。

わざわざ不神帯まで来た甲斐があった!名前は覚えたぞ!静寂優人!

向こうでもせいぜい足掻いて俺を楽しませてくれ!」


――――――――――――


ああ、くそ!嫌な夢を見た……。ちくしょう!あのクソ神が!


起き上がろうと目を開けると、見知らぬ天井があった。急に子供に戻ったように不安に陥り、目が覚えた。

そうだ。異世界に来たんだった……。納得した俺は今かいた冷や汗のせいで渇いた喉をおさえる。


変な夢見たせいで喉渇いたな……。あれ?変な夢?どんな夢だったか……。


まぁいいか……。


窓を見ればどこか不透明なガラス越しに月と同じような天体が東京ではあり得ない明るさで回りを見れば唯一輝いている。 東京ではこんな自然はまず望めなかっただろう。


…まだ夜明けは遠そうである。


これからへの不安に押し潰されそうになった俺はとりあえず部屋にある高そうな剣を持ち闘技場へ向かう。警備がユルいので練習にはぴったりなのだ。


これからどうするか……。いや、これからどうなるのか。突然ここに何の前触れもなく異世界に連れてこられた身としてはどうしようもないが、気になることではある。

そんなとりとめのないことを考えながらロウソクなしでは通れない程の闇の中を歩く。

一度案内された時に通っただけではあるが、咲良のような方向音痴ではないので大丈夫だ。


闘技場の入口は本来衛兵が二人いるはずなのだが、まぁ、なんだ。そこはお察しである。……素敵な夜を。


闘技場とは言ってもコロッセオのような大きなものではなく、便宜上そう呼んでいるだけでほぼ練習場。もっと言えばただの広いのはらに石の観客席があるだけだ。本当は別の名前があったそうだが忘れた。

……視察の時は草取りが大変そうである。

知ったこっちゃないがこんなんで大丈夫なのか?ヴァインズ。

草の生えていない場所を見つけ素振りを始める。 初めてなので五十回くらいで切り上げるのがいいだろう……。


二回休憩して五十程度の素振りを終わらせると、額に薄くにじむ汗を拭うとまだ暗い空を見上げた。


高い空が俺を見返す。


こんなに荘厳な気持ちになったのは初めてだ。柄にもなく神を敬うような気持ちが沸き上がる。


もし願うなら……。どうかこれから二人を守れますように……。


さてもう一度素振りでも……。


「おっここにいたのか優人!」


衛兵が来たのかと軽い衝撃とともに振り返ったがそこにいたのは衛兵ではなく同じく高そうな剣を持った正也だった。

まぁ、そりゃそうか。衛兵がこんなところにくるわきゃない。

「正也!いったいどうしたんだ?」


「いやなぁに、ほんとはもうちょい早くこれたんだが迷っちまってよ……。」


来れただけ立派である。咲良なら王都すらも出ていってしまうだろう。あいつを一人で歩かしちゃいけない。あいつを探すのは修学旅行でもうこりた……。


「そうか。俺も始める所だし、とりあえず走るか?」


「ああ。」


それから一緒に二十周ほど走って二人でバテた。

模擬戦もしたかったのだが闘技場に木剣や刃の潰れた剣すらもないという驚愕の事実を発見するだけにとどまった。


空も白み始めて来たので二人で闘技場を出る。もうそこにキョロキョロするような動作はない。堂々としたものである。まぁ衛兵のこれまでを知れば当然ではある。すると城門付近が騒がしかったのが見えたので行ってみると……。


「とりあえずベッド貸してくれ!メルトの奴が!」


「夕碧の騎士団!なぜここに!キルトの村は!?」

「そこはもう終わった!いいからベッド!」


「りょ、了解しました!直ぐにメイドに取り次ぎを!おい!」


「はい!行ってきます!」


「治療は済んでる!ベッド二つに休む所!」


「了解しました!」


何か凄い大変そうだ……。朝早くから御苦労様。

夜になってすぐ寝かされたので眠くは無かったが、とりあえず体は洗いたい……。汗でベトベトだ。そう言えばまだ学生服だな。あとで他の服貰えるといいんだが……。

井戸は確か兵舎の方にあったな。えっとあっちを曲がって……。

その時俺の耳に無視できない情報が飛び込んできた。


「くっそ!みんながこんなことになるなら勇者の教育係なんて請け負うんじゃなかったぜ!あの盗賊が!」


なに!?

はいというわけでメルトの依頼は勇者の教育係でした。

必要ない気がするのは私だけでしょうか……。

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