39 メルト外伝紅の墓標20 広がる不和
時間軸が分かりにくいかと思ったので一応説明しておきます。
ヨキ達はトルダ加入後城を建設。
一夜明けてノルドス林でムシキングと会談後メルト達と戦闘。
その日の内に今回の話となります。
メルト達がノルドス林に向かったのはイグマから兵(魔物)調達の話を受けたからです。
ヨキ達の方が先に入ったのですが、結界により姿が隠れてしまった為、期せずして待ち伏せという形になりました。
8月中はさっさと終わらす為に出来るだけ二話投稿しようと思います。
その日世界に衝撃が走った。
突如出現した漆黒の一夜城。
そこに配備されるように現れた5000を越える魔物。
皆の頭には魔人侵攻の四文字が浮かんだ。
それは魔人国建国以来200年程立つが、一度たりとも無かった事実である……。
その情報を得たある者はしたり顔で魔人の悪評をふれて回り、またある者はこの世の終わりと悲嘆に暮れ、またある者は本気で憤慨し、またある者は魔人の素晴らしさを必死で説いた。
人々が悲喜こもごもに認識したこの事態は更に王都を戦禍へと巻き込んで行く……。
〜〜〜〜冒険者ギルド会議室〜〜〜〜〜〜〜〜
「いやー、腕治って良かったな!ビックリしたぜ。駆け寄ってみれば腕が千切れてんだもん」
ハッシュがメルトの肩を叩き、負けてむすっとしたメルトを和まそうと必死だ。
実際、幾らリタの回復術が凄かろうが腕がその場に無ければどうすることも出来なかっただろう。
腕が再びくっついたのは暴走したメルトの異様な回復力とリタの治療のお陰である。
「そろそろ始めても宜しいでしょうか?」
今ここはギルドの会議室。
現在は魔人の侵攻について話し合う為の会談が始まろうとしている。
そこに出席しているのは大物ばかり、今口火を切ったギルド支部長のチャド=スマートに加え、冒険者ギルドの上位陣、更には王子のグレン・パルメノ・リコール=ヴァインズまでが集まっている。
グレンはシスクスを伴い、いかにもお忍びといった感じでその端正な顔を隠している。
というのもグレンがこの会談に参加したのは独断であり、グレン曰く頭の軽すぎるクソ親父が冒険者嫌いで冒険者と関わると自らの高貴な身が汚れると本気で考えているからだ。
グレンとしては王都が滅びるなら高貴もクソもないだろうと思うのだが父親としては違うらしい。
ここに来たのは王都を守る為に会談に出るのと他にもう一つ目的がある。
「構わない。心遣い感謝しよう、ホストを立てるのも客人の務め、進行はそちらに任せる」
話の進捗状況を気にして此方に一々気を使わなくても良い旨をチャドに伝える。
しかし、上位者としての態度はそこで終わりを告げる。
妙にソワソワしだし、まるで恋い焦がれる少女のようだ。
勿論、根っからの貴族なだけあり、体の所作、顔の表情は変わっていない。
ただ例を上げれば、何の用も無いのに顔を触り、テーブルの埃を払うなど、何かしらの動作をする回数が普段よりも格段に増えていた。
「そ、それでギルド長殿との回線は繋がったのだろうか……」
ギルド長、ギリアン=バーンビー、グレン曰く我が神。
その鬼才っぷりは凄まじく、ギルド支部長からの信任で決まるギルド長としては異例の6期連続当選を果たしている。
実務能力にも長けているが、交渉術にかけては右に出る者はいない。
特に全S級に対して一定の発言力を持っているという所業から、生きる伝説と化している。
「(私もクソ親父のせいで要らん後始末をしなければいけないからな!!
その才能に是非ともあやかりたい!!
毎朝ギルド長の方向に向けてお祈りをしているが効いた試しがない……せめてそのお声だけでも聞きたいが……)」
端から見れば異常行動過ぎて、最早新たな宗教の匂いすらある。
回線をと言ったのはここに居ないことは既に知っているからだ。
「申し訳ごさいません……現在故障しておりまして……お繋ぎ出来る状況では御座いません」
平謝りするチャド。
そう、回線機器はメルトがバッキバキに壊してしまった。
回線機器は直通で繋がる為、どこかで借りるということも出来ない。
援軍の予定も脆くも崩れ去り、もうこれで完全に孤立無援となってしまったのだ。
ここに宣言しておこう。
100%メルトのせいである。
「そうか……」
これでグレンのやる気は著しく低下した。
「ご、ご安心下さい。私が出来る支援は手を尽くしておりますし、向こうでも何かしら策は練っておられる筈です!」
グレンの落ち込みを支援が無いせいで展望が見えないから落ち込んでいると判断したチャドは全力で慰める。
「オイ!早く始めようぜ!!」
グレンとチャドのやりとりに痺れを切らしたのはB級冒険者のラタだ。
彼も王都にいた唯一のB級冒険者パーティのリーダーとしてこの席に参加していた。
彼について一応説明しておくならば、昨日ニティとの邂逅時にニティと先に契約し、突然現れたメルトに睨まれ、そのことに対して睨む正当性がないと抗議した所、後入りしたメルトに横暴にも契約を横取りされ、それに対して著しく公平性を欠くと猛抗議したにも関わらず、存在が気に入らないと壁にパンチで埋められた被害者である。
「そ、そうですね。始めましょう」
チャドは一瞬、グレンの方を心配気に見たが、進行へ向けてのグレンの配慮を考慮しそのまま続ける。
「その前に騎士団は動かねぇのかよ!?なぁー、そこんとこどうなんだよ。どうなんですか?聞いてるんですけど、なぁ」
決して王子に対して取って良いような態度ではない。
シスクスが思わず立ち上がろうとするが、グレンはそれを制し眉をひそめつつ答える。
「すまない……余り期待しないでくれ。騎士団の統帥権は父にあるのだが父は王都を守る気がないようだ。王城に引きこもって出てこない。
私の派閥下にある騎士団はもう一つ城壁がある中心街へ住民を避難させている。
避難を完了させれば直ぐに戦場に配備させるが数が少ない。殆どが貴族派閥に振れている上に大将の一人が3日程前から行方不明だ。
3分の1が使えないとなると私が動かせる兵は少ない」
すまないと頭を下げるグレンにラタは怒ると思いきや深く考え込む。
「ふーん、成る程ねぇ……大将が不在か……じゃあ今は動けねぇな……ふぅ、……を呼んどいて良かった」
何やらとブツブツ呟くラタ。
しかし、ラタとは違い周囲には絶望が広がる。
それは騎士団が動かないことによる生に対する諦めの伝染だ。
「絶望的じゃん……」
ハッシュは戦慄する。
王都の冒険者だけでも5000どころか2000にも及ばない。
内半分は戦闘が出来ない便利屋G級である。
そこへ外部からの支援も期待出来なければ騎士団の支援もない。
最初から勝負にならない。
イグマが予言した明日どころか今日中にでも滅びかねない。
「オメーらバカじゃねーか?」
「殺すぞ!!」
メルトのお前らバカだろ発言にハッシュは反射的に全身に殺意の波動をたぎらせる。
バカにバカ呼ばわりされることより腹の立つことはない。
ハッシュは無茶苦茶キレていた。
「何守ること前提で考えてんだ。相手を全員倒せば俺らの勝ちだろう?」
それが出来ないからこうして集まって話し合っているのだ。
それが出来れば苦労はない。
「しかし、それでは守りが……」
チャドが呆れたように額に手をあて、それでもメルトを諭す。
5000に対して兵を割いて攻勢を仕掛けても攻め手に欠ける。
仮に全兵で仕掛けても倒せるか分からないどころか魔人一人でも王都に侵入すれば壊滅だろう。
しかも相手の城はただの城ではない。
戦の為だけに特化された要塞である。
それに軍が配備されてるとなれば恐ろしい防御力を持つ。
ただの魔物の群れなら知能がないことが期待できるが相手のゴブリンの中にはキングがいることが確認できている。
これで魔物達は軍として存在してる訳だ。
通常の戦でさえ籠城する敵を打ち破るには5倍の兵がいると言うのに。
それが籠城側の方が5倍……。
考える価値すらない。
籠城一択だ。
「要らねぇよ。俺たちだけで充分だ」
どうやら魔物の大軍勢相手に単騎突撃する所存のようだ。
頭のイカれてることこの上ない。
もう既に二度に渡って敗北した男の言葉とは思えない。
「バカか!!敵5000居るんだぞ!!6人で勝てるか!!」
魔物以前にたった5人に敗北してるのだ。
最早正気の沙汰とは思えない。
「そうです!!それに夕碧は唯一のA級パーティ、指揮官としていて貰わねばなりません!!」
チャドがメルトに向かって猛抗議する。
そう、戦には士気を上げる存在が不可欠だ。
勝ち戦なら勝てるものも勝てないし、負け戦なら尚更必要不可欠だ。
それが戦場に出ていって死にました、ご免なさいじゃ困るのだ。
「知るか、んなもん。俺らが倒すんだ。要らねぇよ」
メルトは傲岸不遜に言い放つ。
どうやらメルトの中では自分達が負けた5人+5000の魔物=勝てる。
という謎の数式が成り立っているようだ。
「バカか!!ぜって〜勝てねぇ!!無理無理無理無理無理!!絶対に無理!!俺逃げるからな!!」
命あっての物種。
そこはかとなく……いや、バリバリに命の危険を感じたハッシュは全力で拒絶する。
ハッシュはそんな地獄への片道キップみたいな突撃は絶対に嫌であった。
自殺するなら一人で勝手に死ねと言いたい。
曰く周りを巻き込むなと。
「そうです!!大体何か策は有るのですか!!」
チャドはメルトを糾弾するがメルトはどこ吹く風だ。
「策なんてあるに決まってんだろ。男なら黙って正面突破だ!!」
メルトはキリッとした決め顔で言い放ち腕を組んで何度か頷く。
メルトとしては助けたいという自分の気持ちをを曲げるのは人を幸せにしたいという夢を持ったまま死んだテセトに申し訳ないと思うのだ。
チャドは頭を抱え、シスクスは唖然とする。
それは策とは言わない。単なる自殺である。
「だと思った!!ぜってー違うわ!!もし男が皆そうだって言うなら男なんて辞めてやる!!」
ハッシュは愕然とする代わりに盛大にツッコむ。
可哀想なことにメルトという男にもう慣れてしまっているのだ。
チャドはどうにもこの男は説得出来そうにないので計画を修正する。
心のメモにメルト死亡、死因:アホ。
と書き加え士気を上げる指揮官を選ぶ為に新たにB級冒険者のラタの方を見やる。
「ラタ殿、申し訳ないが指揮官を引き受けてくれないか……」
この通りだ、とテーブルに額をついてお願いするがラタの返答はにべもなかった。
「一昨日来やがれ。誰がこの男のお下がりなんぞを貰うか。願い下げだ」
嫌そうにメルトを見やりゴートゥーヘルのハンドサインと共にキッパリと断るラタ。
「そこを何とか、お願いだ」
それでも諦め悪くすがるチャドにラタは言い放った。
「じゃあ指揮官命令だ。全軍、敵の城に突撃しろ。死ぬまで戻ってくるな。敵前逃亡した奴から殺してやる」
意訳すれば指揮官なんぞ絶対やりたくない、である。
終わった……、と天を仰ぐチャドにラタは更なる追い討ちをかける。
「ああ、それと俺たち『天使の尖兵』は指揮下に入ることを固辞する。
此方は此方で好きにやらせて貰うぜ」
これはメルトにやられたいわば仕返し。
後でギルドから降格されようが除籍されようが知ったこっちゃない。
ラタはとにかくこのメルトという害悪に関わりたく無かったのだ。
曰くこんな悪党に関わったら心が汚れる、と。
全体の一%にも満たないB級冒険者という大戦力が失われたのは紛れもなくメルトのせいである。
「そっ、そんな!?これからどうすれば……」
A級を喪いB級も失ったついでに騎士団大将も一人居ない。
そんなとんでもない情報にこれからの諦感を表すチャド。
しかし、捨てる神あれば救う神ありとは良く言った物。
そんなチャドに救いの手が差し伸べられていた。
「私が指揮官をやろう。神兵がこんなことで良い筈がない」
そう口にしたのは王太子グレン。
確かにその肩書きならば士気を上げるには充分だろう。
「しかし!!王にバレたりでもしたら……」
そう、問題は王がアホであること。
賢人と名高いグレンと親子なのが信じられない程におつむが軽いのだ。
何らかの処罰、絶対に無いとは思うが廃嫡にでもなったら目もあてられない。
貴族に蛇蝎の如く嫌われているグレンは廃嫡になり、大貴族の息子や傀儡に出来るような公爵でも王に据えられでもしたらこの国は終わりである。
現状貴族政策を重視している現国王、グレンが居なくなったらどうなるか等考えもしないだろう。
事実、この国の冒険者が不遇なのも王の冒険者嫌いが原因の一つだ。
「心配するな。この程度、あんなアホが気付くとも思えん」
父親に対して酷い言い草である。
余程自分の父親を軽蔑しているようだ。
「よ、宜しいのですか?」
そんな理由で納得するチャドもチャドだが。
聞かれたグレンは大きく頷く。
「ああ」
ギリアン教の信者たるものこの程度でへこたれる訳には行かない。
グレンはそう心の中でそっと呟いたのだった……。




