37 メルト外伝紅の墓標18 絶対不滅のハッシュ君
ノルドス林の中、戦闘域の中に居るのは3人。
エドガル、リタ、ハッシュである。
しかし、その様相は他の戦闘域とは大きく異なっていた。
異なっているのは先ず戦闘が行われていないということ。
次にハッシュの服装がフリッフリなこと。
そして最後に3人の位置関係だ。
一戦目ではリタを守ろうとリタを隠していたのだが、今回は全くの真逆。
ハッシュはまるで幼子のようにリタの後ろに隠れ、頼りなさそうにリタの服を掴んでいた。
元々母似の女顔なのもあって、見た目は完全に恥ずかしがり屋の女の子にしか見えない。
「ねぇ、いい加減出ようよ。私の後ろじゃ戦えないでしょ」
リタがそう諭しながら後ろを振り向く。
いや、振り向こうとした。
「動くな!!一ミリでも動いたら舌噛みきってやる!!」
まるで刑事が犯人確保の時に言う台詞のような脅し文句を放つ。
まぁ、動いたら舌を噛むとは脅し文句としては不合格だろうが。
この時点でエドガルは(大抵の者はそうであるが)勘違いをする。
この者は好きに女の格好をしている、所謂『女装癖』の持ち主なのだ、と。
頬を染めてリタの陰に隠れるハッシュを見ればそう見えるのは無理もない。
むしろ過去にああ、女の子だったのか、それにしちゃ前の服装はボーイッシュだったな、と考えた奴と比べれば100倍マシである。
しかし、マシだからと言ってそれが正解である訳ではない。
エドガルの誤認はこのすぐ後にハッシュにとって致命的な行動を誘発する。
「ふぅ〜。畜生!」
大きく深呼吸したハッシュは小さく毒づき、ええぃままよ、とリタの陰から一歩踏み出す。
「さ、さぁ。た、戦いを始めようではないか」
相手の格好に触れまいと気を遣って服からは遠い話題を提供する。
顔の筋肉という筋肉がひきつりまくっていたが、大した狼狽も見せずハッシュに対応したエドガルは賞賛に値する。
しかし、それが正解とは言っていない。
「止めて!!変に気ぃ遣って話すの止めろ!!これならイジられた方がまだマシだ!!」
そう、そんな気を遣っているのが丸分かりの顔で言われても嬉しくないし、その気遣いがハッシュの心に突き刺さる。
今のハッシュにとって世界とは無数の槍が自分に向いている状態であり、自分、もしくは誰かの一挙動で容赦なくその槍がハッシュに突き刺さっていく。
ハッシュの心は既に血だらけなのである。
そしてハッシュの一言は一瞬にしてエドガルの退路を奪う。
エドガルの背中を大量の冷や汗が流れ落ち、鼓動は早鐘を打つ。
そう、この文脈上エドガルはハッシュの服装について触れねばならない。
そしてそれは決して今日はいい天気ですね、という言葉と同じ様には行かないのである。
エドガルは一歩踏み外せば奈落の底に落ちる山の尾根を幻視する。
エドガルは決心してキメ顔を作る。
目の前の男を女だと思えばいいのだ。
幸い見てくれは良い。
いや、良いどころかそこらの女では太刀打ち出来ないだろう。
それほどの魅力がハッシュにはある。
だからエドガルはこれから嘘は言わなくて済む。
嘘だとバレればハッシュにヘソを曲げられかねない。
エドガルは最大限に心を込めて褒める。
これで鎮まってくれと神に祈って……。
「うむ!最高に似合っておる!!美しいぞ!!」
斯くて地雷は踏み抜かれる。
所謂、やっちまったと言う奴である。
踏み抜かれた地雷。
後は爆発するだけである。
「なッ!!」
似合っている、デートで男に言われれば嬉しい言葉だが、その相手も男であるならば話は別だ。
ただただ気持ち悪いだけである。
ハッシュのその驚いた顔を好機と見たエドガルは更に畳み掛ける。
「そなた程の美しい女性は見たことが無い!!燃えるように赤い髪は天の熱球ですら恥ずかしがり、姿を隠してしまうだろう!!
そなたの珠のように白き肌は世界を染め上げ夜の闇を駆逐し、そなたの空よりも蒼き瞳はどんな宝玉よりも綺麗だと断言できる!!
細くキメの細やかな指、輝くうなじはは男共を魅了して止まない!!
そなたは絶世の美女だ!!このエドガルが保証する!!自信を持たれよ!!」
エドガルの決死の口説きはリタにすれば、な、何もそこまで地雷を踏み込まなくても、と思わずには居られない。
リタはこれから来る絶望的な未来に愕然とする。
何か恨みでもあるのでは?と勘繰りたくなる。
エドガルの犯した失敗は情報収集を怠ったこと。
自分の勝手な思い込みを軸に作戦を立てたことである。
これは地雷を裸足で踏みつけるに等しい暴挙だ。
そう彼はハッシュを女性として扱ってしまったのだ……。
それがハッシュを最も傷付けるとは知らずに。
しかし、結果はハッシュの心の惨殺。
知らなかったでは済まされないとはこのことだ。
まぁ、ついでに口説き文句がこのハッシュの、ひいては母の戦闘服を作った者(変態)の母への口説き文句と大体同じであったことが皮肉と言えば皮肉だろう。
深く深くハッシュの中に踏み込められた地雷はエドガルが口を閉じた、つまり地雷から足を離した所で炸裂し、爆発する。
その爆発は彼の理性、精神力を崩壊させる。
「うわぁぁああん!!うわぁぁああん!!うわぁぁああん!!」
ハッシュは地面に崩れ落ち、堰を切ったように泣いた。
それも無理はない。
元々ハッシュは純男的な思考の持ち主で格好良さを至上とする。
誤解を恐れずに言えば中2病のような感じだろうか。
実際彼の装備は黒を基調とした装飾の凝った物が主流だ。
そこへ来て男としての自尊心を踏みにじるような服の方が死ぬ気で貯めた金でオーダーメイドした自分の装備より高性能。
しかも屈辱的にも敵にはこの装備とも言えないような服で無ければ勝てないと来て恥を忍んで着れば男前に綺麗だねとナンパされるというこの仕打ち。
退行化したことを嘆くのではなく、直ぐに世界を破壊しようとしなかったことを全人類の誇りとすべきだろう。
「リタぁ……もうこんなのやだぁ……。何で僕だけこんな目にあうの?
ぜっだいおがじぃ〜よ〜。
ふこうへいだよ僕だけこんな目に遭うなんて〜。
みんな平等にするにはどれだけ殺せばいいの?
何人?ねぇ何人?
そうだぁ。みんな殺しちゃえばみんな平等だよね?ね?」
例え数瞬後に魔王と化そうとも。
もう、精神が崩壊したせいで人格が変わってしまっている。
「ぅえ!?えぇっと」
リタは答えることが出来なかった。
見上げる瞳が、さっき言っていたことがとても冗談とは思えないくらい昏く澱んだ色をしていたのだ。
要するに目がイッちゃっていた。
普通に考えれば出来る訳がないが不思議とその目には本気で人類を滅亡させそうな力があった。
「ディ、ディナー奢るから!!たッかい奴!!元気だして!!ほら、何だっけ!?」
なんという苦し紛れだろうか。
人類の滅亡の危機に対してよりよってディナーとは。
高がディナーごときでハッシュの爆発四散した精神が戻るわけが無いだろうに。
場末の子供じゃあるまいし、奢る位で最悪な機嫌が戻るほどハッシュはチョロくは……。
「シュヴァインスヴィニヤーコションマヤーレか!?出します出します!!
ヤフー!!」
チョロかった。
いや、流石にこれを責めるのは酷だろう。
元々ハッシュの夢は母を継いでS級冒険者になること……ではない。
父親の定食屋を継ぐことである。
元々ハッシュがメルトと一緒に旅をしているのは色々な場所の色々な食べ物を知りたいだけだ。
だから危険を冒すことに対して消極的、つまりはヘタレなのだ。
彼にとって夢半ばで死ぬ必要などどこにもない。
命あっての物種という言葉もある。
しかし現実は無情だ。
夕碧は(9割9分9厘メルトのせいで)常に金欠であり、ハッシュの夢に使う金銭的余裕はない。
それは貴族のガルシアが金子を漁った所から察せられるだろう。実に惨い変わり様である。
それなら何故ハッシュはメルトに従っているかと言えばメルトが心配だからだ。
しかし、そのせいで夢に対する計画は停止中。
そんな中に降って湧いた超高級料理店の奢りである。
ハッシュが喜ばない訳がなかった。
大体がフルコース一食が金貨5枚というふざけた値段設定の店だ。
ハッシュ達のような定食屋を目指す貧乏冒険者にとって夢みたいな物だ。
そのことを瞳を輝かせて力説するハッシュにリタは大いに顔をひきつらせる。
「(そ、そんなにするの!?高が食べ物で!?
ど、どうしよ〜。今更出来ないなんて言えないよね……。どうやって稼ごう……)」
どうやら値段を知らなかったようである。
是非頑張って二人揃って白金貨一枚を稼いで欲しいものだ。
今、人類の存亡はリタのその手に掛かっているのだから……。
だからたった今悟った表情で天を仰ぐリタは見なかったことにする。
この事態を端から眺めていたエドガルは凍り付いていた息を吐ききり、どっと安心する。
何故かハッシュが闇落ちしかけ、周囲に殺気を撒き散らしていたので即座に自分の失態を悟ったのだ。
それがリタのお陰で元に戻り、端から見れば元気一杯な女の子になりつつある。
何が失態だったかは不明だがもしかしたら褒めるのが足りなかったのかもしれない。
エドガルはそう思い、勘違いは更に進むがリタの今世紀最大の超賢明な判断によって更に事態が悪化するのは回避された。
「せ、世界を滅ぼすのはダメだけどアイツはいいわ!!憂さ晴らししてきなさい!!」
リタとしてはただ単に金を稼ぐという問題を棚上げしただけなのだが結果として国民栄誉賞並みの英断を下したのだ。
素直に褒めるべきだろう。
こうして全てが丸く収まり、ようやく戦いが始まった。
「よっしゃぁああああ!!やってやるぜ!!」
気勢を上げて盛り上がるハッシュであるが、そこにエドガルが待ったをかける。
「今少し待ってくれ、その前に確認したい」
真剣勝負が大好きなエドガルがわざわざ盛り上がるハッシュを止めたのだ。
恐らくエドガルにとって余程重要な案件なのだろう。
「結局男として扱えば良いのだろうか?女として扱えば良いのだろうか?」
うん、情報共有は大切である。
もしそれが空気を読めているのならだが。
「……いっそ俺を殺せぇぇぇえええ!!」
ハッシュは折角立ち直った所に黄金の右ストレートを喰らいふらつきながらも何とか踏ん張る。
普通なら退行に逆戻りなのだがそれでも耐えられた理由。
哀しい哉、それは慣れてしまっているためだ。
ハッシュは胸をドンと叩くと宣言する。
「俺は男の中の男だ!バカ!!」
その格好(女装)で言われても説得力ゼロである。
「そしてこうも付け加えて置くぜ?
もうお前は俺に勝てねぇ。何百回戦おうが俺が負けるのは有り得ない。それは最早自然の摂理だ。
何せお前はもう読めちまったからな」
……いや、だからその格好(女装)で言われても説得力ゼロである。
そして傲岸不遜にハッシュがカッコいいと思ってしているポーズに対して、衝撃の真実から立ち直ったリタによる手酷い裏切りが為されていた。
「(何か指差してふんぞり返ってるけど……またカッコ付けてるのかな。
貴族が平民を見下してるようにしか見えないんだけど……)」
現代でいうなら女王様だろうか……。
どちらにしろハッシュに知られれば先程の闇堕ちが再来するだろうことは間違いない。
エドガルは諸々スルーしてハッシュに疑念を呈する。
「うむ、悪いが信用できないぞ。前の戦いの時に我から逃げ出したのは誰であったか」
そう、ハッシュの戦闘スタイルは騙し討ちからのヒット&ランである。
卑怯なことこの上ないが先程書いたように彼の夢は父の定食屋を継ぐことである。
危険を犯す必要は皆無だ。
自らの最大の攻撃力を持つ技で一撃し、倒せれば良し、倒せなければ手傷を負っている間に逃走する。
流石は修行が嫌で母親から十年近く逃げ回っていた筋金入りのヘタレなだけはある。
無駄が一切ない。
「それが勝つための一歩さ」
もう一度言おう。
彼は母親から十年近く逃げ回っていたのだ。
それもただの母親からではない。 元A+級冒険者の母親からである。
「面白いぞ!!我に見せてみよ!!」
ハッシュに飛び掛かるエドガル。
超速で迫るエドガルの拳は本来ならハッシュに避けられるようなスピードではない。
「もう読めたんだ。お前の攻撃は当たんねぇよ」
しかし、現実はそうはならなかった。
華麗に回避された後ハッシュが言ったその挑発に乗って更に4回、5回殴り付ける。
「ムダだ。欠伸が出るぜ全く」
しかし、当たらない。
そう、普通の子供であるならばA+級の冒険者から十年近くも逃げ切れる訳がないのだ。
A+級冒険者が十年近くも追い回す程のハッシュに見出だし、十年近く捕まらなかったその能力の名は超解析能力。
相手の癖、呼吸、予備動作、目線、以前の行動などから類推して、相手の次の行動を予測出来る能力。
その的中率、実に100%。
最早未来予知と言っていい。
以前メルトとの戦績は3戦2勝と言ったが、後でメルトがハッシュと例え千回戦おうが万回戦おうが1勝とて上げることは出来ないだろう。
最初の勝利を放棄し再戦時に不敗を取る。
それがハッシュのやり方である。
ハッシュの二つ名である『逃腰』はネーミングセンスはさておき、敵前逃亡するからではなく、このヒラヒラ避けるスタイルから名付けられている。
「クッ!ヒラヒラヒラヒラと避けおって!真剣勝負はどうしたのだ!?」
出す攻撃、出す攻撃がことごとくかわされることに苛立ったエドガルはハッシュに向かって怒鳴る。
ハッシュにとっては真剣勝負なんて約束をした覚えがなかったが、律儀にも乗ってやった。
「心配するな。今、全力でお前を殺してる最中だ。大技には精神統一が不可欠なんだ」
避け方が体を反らす物が多いせいでミニスカートを履いているハッシュは大変なことになっているが、本人は対して気にしていない。
まぁ、男なので当然だが。
「そうか、ならば先に言え。待とうではないか」
そう言うが早いかエドガルは三メートル程の距離を取り、仁王立ちをする。
ハッシュは不審に思い警戒するが、エドガルは安心させるように言った。
「技を打つのに精神統一が必要なのだろう?
我は待とう。相手の攻撃を受けきって勝ってこその最強である」
エドガルは一度皮膚硬質化の手術をして邪道に墜ちた。
だからこそ、この一点は譲れなかった。
譲ってしまって正道な最強を目指すことを止めるのは自分が自分でなくなってしまう。
そうエドガルは怯えているのだ。
「バレインみたいな奴だな……。まぁ、いいさ。その積もりならそこで見てろ。いや、やっぱ目ぇ瞑ってろ。絶対見んな、気ぃ散るからな」
そうしてここに鶴の恩返しと同じような契約が結ばれることとなった。
ハッシュはエドガルの言動に仲間であるバレインを幻視しながら、それを振り払い、精神を統一する。
「(クソッ!何で一々技を打つのにこうして葛藤しなきゃなんないんだ!理不尽だろ!
誰だこの装備作った変態は!!絶対呪ってやる!!殺してやる!!
つーか、母さんが持ってたってことはこのポーズやったの……ダメだ!!余計なことを考えるな!!
考えてる隙はない……思考をそっちに回すな!!精神的に死ぬぞ!!
とりあえず落ち着け……仕方ないんだ。俺のせいじゃない、これを作った変態が悪いんだ!!
クッソ俺は俺を母の子とした天を憎む!!
メルトと一緒に出発したあの天日を憎む!!
絶対にこれ作った奴殺してやるッ!)」
ハッシュは盛大に変態を呪いながら精神を統一する。
目を瞑ったままにエドガルへ半身になりながら両手で作った逆桃型の手を大きく頭の上から胸にかけて一回ししてから、片足を上げながら逆桃型の手を突き出す。
「私の気持ちよ!!あ、貴方の心を貫け!LOVEビーム」
因みに台詞や動作が僅かでもずれると魔力過剰供給により籠手が爆発する仕組みである。
このままじゃダメだ……。
これから戦うのなら相手から一ミリも目を離しちゃいけない。
そう思い恥ずかしさをかなぐり捨て決意を持って前を向く。
その時、ハッシュの目に映った物とは……。
「(何で目ぇ開けてんだよ!!瞑ってろって言っただろうが!!こっち見んなぁぁぁあああ!!)」
驚きに目を見開くエドガルの姿だった……。
ガッツリ目が合ってしまっている……。
因みにこのLOVEビームという技、装備に付帯している技で超強力な技だが、タメ時間等は存在せずポージングの後に数十秒の隙が出来るだけだ。
つまりはハッシュの精神統一とはただ単に羞恥心と戦うだけの時間である。
しかし、それだけに目を瞑ったエドガルというのはハッシュの心の中で大きな役割を果たしていた。
それをガッツリ裏切られたのだ。
彼の心中お察しする。
更に、発動するまで数十秒ということはハッシュにとっては地獄の時間が数十秒続くということに他ならない。
「(オイ!!なんだその明日肉になる家畜を見るような目は!!
そんな濁った目をこっち向けんな!!
俺は生きてるんだぁ!!
早く撃てよ!!何でこんなに時間掛かるんだ!!
理不尽だろ!!
何故だぁ〜〜)」
キュゥゥウウウン。
ズドーン!!
所謂ハート型な形の光の柱がエドガルを襲う。
ハッシュの突然の奇行に目を疑っていたエドガルはそれを避けきれず、ものの見事に命中した。
ズドーン!!
けたたましい音と共に土埃がもうもうと上がる。
視界が遮られる程の土埃の中、ハッシュは考えていた。
「あー、ヤバい。このパティーンはまさか……」
土埃が段々と晴れて行くなかで……。
「うっわっ!!やっぱりか〜〜。
どこの3文芝居だコンチキショウ」
まるでハッシュの最初の一撃の時の再来のようにエドガルが仁王立ちのまま現れる。
「(ヤベ〜〜。
攻撃が効かなかったことよりポージングの方が泣きそうだ。
チクショウあんな思いまでして撃ったのに……!!)」
まだ粉塵がエドガルの回りを小さく渦巻いている中、彼はポツリと呟いた。
「今のは少々効いたぞ……」
エドガルが組んだ腕を腹に当てている。
よく見れば腹に軽く煤が付いており少々汚れていた。
「じゃあ今ので死んどけよ……」
思わずハッシュは言葉が刺々しくなるが、エドガルはそれを気にした様子はない。
というよりも聞いてすらいなかった。
というのもエドガルは痛みを感じたのが実に久しぶりであり、そのことが彼の気分を高揚させていたからだ。
「ワハハハハ!!今のは効いたぞ!!次は我の番である!!」
最初のハッシュに抱いた、ビックリ箱を覗くようなオモチャとしての興味ではなく、自らを傷付ける「敵」としての興味。
ようやくエドガルはハッシュを敵として見定めたのだ。
「気持ち悪ぃ……」
ハッシュとしては完全にいい迷惑でしかなかったが……。
「食らえい!!≪ボルケニックボム≫!!」
エドガルが拳に魔力を纏う。
そしてその魔力を火系統の物に変化させ腕に魔法で代用した爆発反応装甲を付ける。
「うわぁ〜〜。ガッツリ近接専用かよめんどくせぇ」
ハッシュは顔をひきつらせる。
魔法を使うなら高火力の遠距離型の方が都合が良かった。
そうでなければエドガルの鋼鉄の皮膚を攻略出来そうになかったからだ。
しかし、どうやらエドガルは打撃系の魔法の連撃でダメージを稼ぐタイプの戦士らしい。
見かけや言動によらず慎重派である。
「行くぞ!!」
エドガルが気合いを上げ、殴りかかるがハッシュには一切掠りもしない。
いくら数を打ってもただ空を切るばかりである。
千日手。
その言葉が二人の脳裏に十分染み付いた頃、ハッシュが言葉に毒を混ぜながらエドガルに語りかけた。
「なぁ、こんなちゃちい戦いがアンタのしたかったっていう真剣勝負って奴なのか?」
「何だと!?」
ハッシュの余りの言い種に思わずエドガルは相変わらずハッシュを殴りながら怒鳴る。
その反応にハッシュは「かかった」と思わずほくそ笑む。
「このままじゃ千日手の時間切れだ。
アンタだってそりゃ嫌だろ?」
「確かにそうであるが……」
「そこで、だ。二人で最高の技を同じタイミングで撃ち合おう。
そこで最後に立っていた者が勝者ということでどうだ?」
エドガルはデメリットメリット計算を即座に行いある一点に辿り着く。
「欺いている可能性は?」
そう、この提案の問題点はハッシュが裏切る可能性にある。
大体ハッシュの行動を思い返しても、逃げ出したり真剣勝負という約定を反故にしたりと大いに信用に欠ける。
「じゃあ、聞くけど、欺いていたとしてアンタに不都合でもあるか?」
そしてハッシュもこの返答までは既に予測済みである。
エドガルは例え無防備な状態であったとしてもLOVEビーム程度であれば傷付けるのが関の山である。
エドガルを倒すまでには至らない。
次は逃げるかもしれないという疑念であるが、どのみちこのまま繰り返しても時間切れである。
考慮するのもバカらしい。
つまり、この提案はエドガルにとっては有利すぎるのだ。
「(罠であろうか……?いや、罠だとしても食い破るのみである!!)」
乗った!と大きく宣言するエドガルにハッシュは歓喜する。
面倒臭い下準備を一切省けた、と。
もしかしたらイグマの怠け癖が移ったか、と一瞬背筋が凍るが、気のせいだと首を振って否定する。
「どれ位の距離がいい?」
ハッシュが聞くと発動するまで待ってくれるならどこでも一緒だと答えたので、ハッシュはその言葉に甘えて二メートル程の超至近距離に陣取る。
「では、行くぞ?」
そう軽やかに告げるとエドガルから噴出する魔力が明らかに増大する。
そしてエドガルが放つのは自身の最大最強の技。
極限まで溜めた魔力を火魔法に変換し、拳に乗せ、敵に向かって一気に放出する。
それこそまさに火山が噴火するが如し。
その威力。
一撃必殺という言葉すら生温い。
「≪イズヴェルジーニェフレイム≫!!」
そしてエドガルが魔力が高まった瞬間、ハッシュも即座に準備を始める。
敵の新技を解析し、過去の行動などから類推して、エドガルが放つであろう魔法と同系統、同量、同質、同構成の魔法を作り上げる。
つまり、エドガルと全く同じ魔法をエドガルより先に作り上げる。
そして、ハッシュは同じく拳に乗せエドガルの拳に叩き付ける。
「≪イロウシェンシュピーゲル≫!!」
そうして起こる結果……。
ズドォォォォォォォオオオオオオオン!!
それは超至近距離によるエドガルの技の2倍のエネルギーによる大爆発。
自身の最大の攻撃の2倍のダメージをゼロ距離で食らうのだ。
どんな奴だろうがただでは済まない。
それはハッシュもであるのだが、彼は少々事情が違う。
彼のその類い希なる解析能力はその爆発のむらを瞬時に導き出す。
そしてその「むら」に自らの身を滑り込ませ爆風に上手く乗る。
そうすることでゼロ距離で食らう腕はボロボロになるが、それ以外はほぼ無傷と言っていい。
そしてハッシュの傷付いた腕、リタに頼っても良いが頼らなくても特には問題にならない。
それは彼のもう一つの能力に起因する物だ。
それは圧倒的な回復能力。
治癒魔法も使わないのにみるみると傷が治っていってしまうのだ。
これは本人の特異体質による。
こと、対人戦闘という限定的な勝負においてハッシュを越えられる者はそう居ない。
三度目の正直と言うべきか粉塵が晴れて行くなかで黒く焼けたエドガルが倒れていた。
その光景を見下ろし、ハッシュはニヤリと笑う。
「人を見掛けで判断するなって、誰かに教わらなかったか?」
ビシリ!と腕を交差させてエドガルを指差すハッシュの姿は残念ながら、まるでどこぞの少女戦士にしか見えなかった……。
ピピピピピピ……。
こうして試合のゴングは鳴り響いたのだった……。
大分オーバーしました。入り切りませんでしたm(__)m
これでハッシュの印象がいるのかいないのかわからん奴、コイツ誰だっけ?からランクアップすることを祈ります。
ハッシュ
メルトと同じメイナム村出身。
母から逃げながら幼少期を過ごす。
大好きな父の影響で料理人を目指しているがメルトが余りにも心配な為、料理人としての修行で色々な所を旅するが護衛の金が浮く分得だからな、とツンデレってメルトの旅に付いてくる。
本文中にある通りヘタレ故の突出した解析能力(臆病心の表れ、一度戦ったら勝利不可能)にギャグ補正(驚異的な逃走速度、圧倒的な回復力)が掛かっているので対人戦において彼と戦うのは普通に無理ゲーである。
好きなもの
父親、料理、チーズ
嫌いなもの
母親、ナンパ、性別を間違える奴、お酒




