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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
35/107

35 メルト外伝 紅の墓標16 伝説を目指して

ヨキの「散!」という号令の後、一人の男がバレインに向かって突っ込んで来た。

クロスバである。

バレインはそれに合わせて飛び退き、クロスバが向けて来た刃を弾く。

弾かれようが気にするそぶりも無くクロスバは更に調子付いて刃を向けてくる。


キン!キン!キン!!


そのようなことが続くこと数十合。


バレインは後ろに目があるかのように木々を避け、クロスバのロングソードをかわしていく。

そうして彼らは段々と仲間とはぐれていった。


大きく開けた場所に出た所でバレインはクロスバを大きく弾き飛ばす。

ある程度クロスバと距離を取って警戒していた所でバレインは長い捜索で凝り固まった筋肉を解すべく、時間を稼ぐ為にクロスバに語り掛ける。


「随分とせっかちだな。前とは大違いだ」


そう、前回戦った時はクロスバの圧勝であり、そのことについて特に興味も抱いていない様子だった。

今回の態度とは大違いである。


クロスバはその言葉にニィ、と獣のように口角を歪め、心から直接吐き出すように殺気にまみれた言葉を吐き出す。


「そりゃ、アンタみたいな男とヤり合えるんだ。逸りもするさ。

なぁ、そうだろ?キース=バレンタイン!!」


キース=バレンタイン。

その言葉を聞いたバレインは眉をピクリと動かす。


「知らんな。ただの人違いだろう。俺はただの冒険者バレインだ。そんな奴は知らん」


フンッ、と鼻で笑うバレインとは対照的にクロスバはあくまで愉し気だ。


「急に饒舌になったな。口調も崩れてる。図星か?」


その言葉にバレインはチッと舌打ちをする。


「髪は切ったのか?クッ……自分自身が情けないぜ。たかが髪と服装変えただけで分からなくなるとは……。

まぁ、情報源は元を辿れば三日間の証言一つだ。

しゃあねぇか」


自嘲するクロスバにバレインは眉をしかめる。

完全に嫌そうな顔付きであり、そこからどれだけこの話題が嫌いなのかが推測出来る。


「髪なんて切った覚えはない」


バレインの辛うじて嘘では無いが、苦しすぎる言い分をクロスバは嘘だと看破する。

口角を歪めるとまるで裁判官のように無慈悲に……否、明確な悪意を持って宣告する。


「今更おせぇよ。このことを調べるのは大変だったそうだぜ?

何せバレインってのはある日突然冒険者ギルドに現れてそれ以前の経歴が皆無なんだそうだ。

そしてバレインが現れたのと同時期に暗殺ギルドから忽然と消えた人物が一人……誰だか分かるか?」


クロスバは分かりきっている質問をあえてバレインにぶつけ反応を伺う。


「さぁな」


口調とは裏腹にしかめられた眉は一ミリも解されずクロスバを見据えた目も同様に一ミリも逸らさず睨み続けている。


「キース=バレンタイン。そう、お前だ。

最初はこの二人を結び付けられなかった。何せ二人は全く違う存在だ。無理もねぇ。

だが、たった一つの情報がそれを成し、テメェの反応がそれを裏付けた。

キースの暗殺が決行されたその日その場所、宿屋に一人の客が泊まった。キースの目撃証言に被る刀を持った黒髪赤目の青年。

そしてそいつが名乗った名はバレイン」


こじつけとしか言いようがない証拠にバレインの眉によった皺は更に深みを増す。


「ただの偶然だ」


「クッ、後生大事に「刀」を抱えて往生際の悪い奴だ。キースの武器は物珍しい「刀」だ。しかもご丁寧に今は誰も使えねぇ始源ルーン魔法の付与付きと来た。

抜けよキース=バレンタイン。

そいつがテメェをテメェだと証明する」


クロスバは戦意の入り雑じった随分と獣臭い殺気をバレインに叩き付ける。

バレインはふざけたように一度エストックと見紛う程に細い両刃剣をしまうともう一度抜き放ち、晴眼に構える。

パルトネ公国宮廷剣術の基本の守りの構えだ。


「クッ、そっちじゃねぇよ、まぁいい。力付くで刀を抜かせるだけだ」


そしてクロスバは更に強く柄を握り締め自嘲する。


「こうしてテメェをキースだと知って見りゃその剣もチグハグな所だらけだ。何で気付かなかったんだか」


通常パルトネ公国宮廷剣術を使う者は手首のスナップで剣を弾くために手首と腕の筋肉が鍛えられ、足はそれを支える持久力しか必要としないために腕が太く、足が体に比べて細くなる傾向がある。

しかし、バレインはその正反対である。

足が体全体の比重より太く、上半身は女よりも全体的に細い。

何か別の流派をやっていた証拠だ。

そのことをクロスバがバレインに伝えるとバレインは皮肉めいて「良く知ってるな」と答えた。

彼としては女のように細い体はコンプレックスの一つなのだ。


「なぁ、何でテメェみてぇな大物がA級なんてやってんだ?テメェならA+級どころかS級すらも簡単になれるだろうに」


「貴様には関係ない」


取り付く島もない拒絶した答えにクロスバはクッ、と軽く笑う。


「そりゃそうだ。関係ねぇな。結果に対して感謝はするべきだが、その過程はどうでもいい。

今ならテメェがA級をやっていた幸運をクソッたれな神に感謝してやってもいい。

いや、この一事実だけを持って意味わからんことをほざく宗教屋の隣に立って神の素晴らしさって奴を広めてやってもいい。

何せテメェとヤれるんだからな!!」


完全に戦闘本能に身を委ねているクロスバにバレインは溜め息を吐く。


「大層なことだな。人違いだと言うのに、御苦労なことだ」


クロスバは地を這うように駆け出し、自らのロングソードを体を伸び上がらせるのと同時に全身全霊で振り抜く。

受け止める筋肉がないことを覚ったバレインは上体を反らしながら蹴り付ける。

バレインはこの動作の中で避けることよりも蹴り付けることに主眼を置いており、髪がロングソードに一房持っていかれるが、それに一切斟酌せずに次の行動に移る。

全力で突っ込んだクロスバはバレインの蹴りによって勢いを殺され、一瞬体勢が崩れてバレインから目を離す。

次の瞬間クロスバが目にしたのはバレインの残像だった。

慌てて五感を研ぎ澄ませてバレインを追うが、既にその時にはバレインはクロスバの横の木を蹴ってクロスバの後ろにいる。

感覚を全開にしたクロスバに死の恐怖と共に刃が迫る。

クロスバはギリギリで回転し剣で受け止めようとするも間に合わず甲冑の籠手も使い、何とか受け止める。


ガキン!!ギリギリギリ……。


「速ぇな……。それがお前の素か?」


本来守り主体のパルトネ公国宮廷剣術には決してない尋常じゃないバレインの速さ。

恐らくバレインの筋肉によって最適化されているだろうそれは、魔人の優れた知覚能力、身体能力をも圧倒的に凌駕する。

つまりそれはとっさに出た訳ではなく、バレインの……あるいはキースの流派が元々そちら側だということだ。


キース=バレンタイン。

暗殺ギルドで、『夢魔』、『虚無』、『双龍』、『死神』と並ぶレジェンダリィクラスの暗殺者。

『黒雨』の二つ名を持ち直接戦闘能力の欠けた夢魔を覗いた四人にクライシュテスの暗部頭領を入れて裏の五強の一角を占める。

強者専門の殺し屋で、その暗殺方法は単純で闇討ちするというもの。

数多くの護衛を雇った者や腕に覚えのある者も数多く居たが、その致死率は100%。

唯一一人の男が生き延びたことでキースの人相が知れ渡ったが、男がその三日後死亡したことで憲兵は男の証言の「風みてぇに速ぇ奴だ。地に付くほどの長い黒髪に血みたいな赤目で男か女かわかんねぇ、夜をそのまま纏ったような外套を引き摺ってた」という情報しか得られなかった。


「素?何の話だ」


あくまで惚けるバレインは淡々と返すがそれはクロスバの笑みが深まるだけの結果に終わる。


「ヤベェよ。益々テメェの本気が見たくなって来た……!!」


クロスバが力を込めて剣と籠手を押し返す。

悲しい哉、二人の力の差は歴然でありバレインは難なく吹き飛ばされる。

三メートル程飛ばされた後着地するとパルトネ公国宮廷剣術の防御の構えを取る。

半身で構えるバレインにクロスバは怒気を滲ませる。


「……あくまで冒険者バレインだと、そう言いたいんだな?」


「言いたいもなにも俺の名はバレインだ。そう決めた」


「そうか。ならそうやっていつまでもほざいていろ!!」


クロスバは自らの二本目の剣に手をかける。

鞘の形を見るからにバスターソードであり、柄頭に宝石が付いている。

恐らく魔石だろうそれが妖しい輝きを放つ。


「見せてやる。早めに剣を抜けよキース。命の保証まではしないぜ?

黒雨解放!!」


バスターソードを鞘から一気に引き抜く。


ブチュル!ブチュル!!


本来刀身があって然るべき部分から闇が勢い良く噴き出して来る。

その闇がクロスバをたちまちの内に染め上げ、更にそのまま周りの空間まで塗り潰す。

まるで空間にぽっかり穴が空いたかのようであり、人間の根源的恐怖を助長する。

それと同時にクロスバのロングソードから嵐が飛び出し、闇の周りで竜巻を起こす。

木の葉や枝を巻き込み空へ打ち上げる力の奔流は始まった時と同様唐突に終わりを告げる。


ボン!!


空気の急激な膨張音と共に竜巻は闇共々吹き飛ばされ、中心地にはクロスバのみが残る。

様々な金属で作られた筈のクロスバの全身鎧は色という色が抜け落ち、真っ黒へと還る。

確かに引き抜いた筈のバスターソードは絶えず蠢く不定形の剣のような物に成り果ててしまった。

一瞬一瞬姿が変わり、まるで剣自体が生きているかのようだ。


「解放、『墨染めの盾』『墨染めの矛』……。


驚いたか?」


そして黒雨をトントンと叩く。


「コイツは上が実験中の代物でな。

カッコいいだろ?アンタの姿を模してるんだぜ?

さぁ、どっちが本物の「黒雨」か試してみようじゃねぇか」


全身鎧に黒い魔力を纏わせ、不定形の剣を持つことをキースを模したと言われ顔がひきつるバレイン。


「全く、悪い冗談だ。大体黒雨などと名乗ったことは無いんだがな」


バレインはエストックのような剣を納刀し、二本目の刀に手をかける。


「やっとその気になったか……」


戦意を爆発させるクロスバとは対照的にバレインは寂しく笑う。


「見て、後悔するなよ……」


シュピン。


居合い抜きの要領で刀は右後方に高く振り抜かれる。


「なっ!!」


そこに在ったのは何の変哲もないミスリルとオリハルコンの合金製の刀。

始源ルーン魔法による付与など一ミリもかけられていなかった。


「テメェ!!刀はどうした!?」


怒りと殺意を込めたクロスバの詰問にバレインはあくまで超然と或いは寂しげに答える。


「ここにあるだろ?」


「ふざけんな!!」


伝説の崩壊に怒りを露にするクロスバにバレインはあくまで仮定としてと念押ししてからこう答えた。


「まぁ、お前の意図を汲んでもし俺をキースだとするならば、そんな刀は友にくれてやった、と答えるさ」


客観的に考えれば有り得ない主張だが、何故かバレインの表情が真実と感じさせる。


「ふざけるな!!敵を倒す剣を溝に捨てるなど有り得ねぇ!!あったとしても認めねぇ!!

キース=バレンタイン。テメェには失望した。

せめてもの情けだ。テメェが少しでも英雄で居られるように今ここで殺しておいてやる……!!」


こうした理想を押し付ける姿から見て分かるようにクロスバというのは元々キースに対して強い憧憬を抱いていた。

強い意思によって強者を下して行った暗殺者は大いなる力を持つ軍によって度重なる実験を受けていたクロスバにとってまさに希望であったのだ。

クロスバ自身気付いていない、或いは忘れてしまったことではあるのだが、その時抱いた強い想いは魂にこびりついて離れない。

だからクロスバはその想いを汚す目の前の男が酷く気に入らないのだ。


「だから何度も言わせるな。

人違いだと言ってるだろう」


バレインは先程と同じく刀を晴眼に構える。

ただし先程と違うのは守り主体の構えではなく攻め主体の構えだということだ。

そうして先程と同じ様にいや、更に速いスピードで消える。

残像すら置き去りにするスピードは先程のスピードに対応できなかったクロスバは先程とは比べ物にならないスピードにあえなく轟沈する筈だった……。


ガキン!!


しかしそれは裏切られ、現実には後ろに回ったバレインの刀をしっかり剣で受け止めるクロスバが居た。


「気持ちの悪い剣だな……」


受け止めたのは黒雨と呼ばれたバスターソードらしき物だ。

いや、受け止めたというのも正しい表現では無いかもしれない。

何故ならクロスバは一ミリも動いておらず黒雨の不定形の闇のみが動き、バレインの刀を止めていたのだから。


「速ぇな。もうこっちかよ。油断も隙もねぇな」


黒雨がまるで意思を持っているかのように判断して受け止めた事実を何とも思っていないようだ。

それはつまり元々黒雨がそういった能力を持っていたということだろう。

そんな気持ちの悪い刀がキースを模していると言われ身震いする。


その圧倒的とも言える速度に畏怖したのか間合いを取るクロスバ。


「チッ!筋力強化3、4。」


クロスバがそう言った瞬間に彼の右足左足が肥大化する。

彼の度重なる筋力増強実験の効果である。

短期的かつ副作用が大きいが、その分威力は絶大だ。

更に魔力で覆われた鎧は小規模の結界の役割を示し空気抵抗を無くす。


「うおら!!」


その瞬間最高速度はバレインすら越える。


しかし。


「(動きは直線的、恐らく自分で制御できていないな。

動きが読めてしまえばいくら速かろうが関係ない)」


半歩避けて見切り、避けざまに首筋を切り裂こうと刀を操作する。


ギャリ!!ズバッ!!


鮮血が飛び散る。

バレインの血だ。


ポタポタと切り裂かれた胸から血が滴り落ちる。

対してクロスバは無傷。

首筋は黒い鎧が変形し防御していた。


「確かに見切った筈だが……」


「残念だったな。俺はこの速度にはついていけねぇが。黒雨(お前)なら余裕だろ?」


不定形の剣のような物を持ち上げると共にバレインを皮肉る。

つまり、攻撃したのはクロスバではなく黒雨の自動攻撃という訳だ。

ついでに盛り上がった魔力部分が急所を守ったのだ。


「成る程……。分かった」


クロスバはニヤリと笑うが次の言葉にその笑みは脆くも崩れ去る。


「次は当てる」


静かに呟くバレインにクロスバは怒りの表情を浮かべバレインに怒鳴り散らす。


「ハッタリを言うんじゃねぇ!!只でさえ読みにくい軌道の神速の剣を手負いで!しかも鎧越しに有効な攻撃が入るか!どれだけ無様を晒せば気が済むんだキース!!」


バレインの傷は深い。左肺を切り裂かれており、呼吸をする度に奥の方から血がせり上がって来る。

だが、一切呼吸を乱さず構えを崩さない。

いや、それどころか口許には微笑さえ浮かべている。


「喋る気力も無しか……今楽にしてやる」


もう一度突っ込む予備動作をした所で試合終了の鐘が鳴る。


ピピピピピピピ。


クロスバは腰から電子音が鳴り響き、思いっきり顔をしかめる。


「チッ!時間切れか……。どうやらお互いにな」


その言葉にバレインは言葉を返さない。


「勝負は預けておく。次会う時がテメェの最後だ」


そう言うとクロスバは全速力で撤退する。


その姿が見えなくなると同時にバレインは膝を付き、大きく息をする。


「ハァ、ハァ、ハァ、ゴホォ、ゴホォ。……ハァ、コッチの台詞だ」


二回戦バレインvsクロスバ。

決着は次へと持ち越され、互いに獲物だと見定め合う形となった……。




バレインカッコいい……。

まさかこんなに消費するとは思わなかったけど……。

くっそ、メルト小さく押し込んでやる。


キース=バレンタインの紹介しきれなかった部分をここで紹介します。


キース=バレンタイン

誕生日2月14日

現在21歳

外伝当時19歳


11歳の時母と片想いしていた人を同時に喪い最強を目指す。

各地を転々としながら武者修行をし、強者を屈伏させているとある事件により『虚無』に助けられ借りを返すために暗殺ギルドに所属。

数々の強者を殺す内に16歳の時ある事件を経て友を無くし、『黒雨』の二つ名と共にレジェンダリィクラス入りを果たす。


好きなもの

果実、干し肉

嫌いなもの

梅干し、辛いもの全般、他刺激の強い物、貴族

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