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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
33/107

33 メルト外伝 紅の墓標 ハッシュ女装する3

王都が滅びる。

それも三日以内で。

そんな衝撃的な報告はテーブルの上を駆け巡り、夕碧に沈黙をもたらした。


「どういうこった」


最初に沈黙を破ったのはメルト。

短気な彼は元々沈黙に慣れていない。

そのため常にこういう役割はメルトが果たす事になる。

イグマはメルトから向けられた太い視線に肩をすくめると語りだした。


「先ずは現状の把握と行こう。現在(土台)無くして未来(家)はないよ」


彼はテーブルに寄り掛かりながらまるで教師のような語り口で説明する。


「疑問1、どうして彼らはこんな事をしたのか。その目的。これはとりあえず置いておこう。

次だ、疑問2、彼らは最初何故5人しか居なかったのか。ほら、普通攻める時は大勢の筈だろ?少数精鋭にしたって少なすぎる。

それに対して立てられる仮説1、陽動である場合。この作戦の他に何か別目的の別動隊が動いている可能性、これはない。

5人というと意識を集められる兵の数にも限度があるし、俺の情報網にも後続は引っ掛かってねぇ。逆に5人以外の全員が引き上げだ位だよ。」


イグマの説明が長すぎてこの辺りからメルトは居眠りしている。


「仮説2、……ってもう寝てるじゃん。しゃあない、諸々省いて要点だけ行こう。起きて!

まぁ、俺はあいつらは軍とはあまり関わりの無い『はぐれ』だと思ってる。

動きを色々と見てるとな、統合性もないわ、明らかに自分の命に拘りないわでちょっと軍と関わりを持ってるとは思えないね。

この事から奴等は魔王に取って捨て駒って所だろうね」


この言葉に一気にメルトの顔が険しさを増す。

メルトは捨て駒というのが吐く程嫌いであり、それは敵に対しても同様である。


「で、最初の疑問に戻ろう。退路がない捨て駒に何をさせてるのかと言えば、総合的に判断して敵情視察っていうのが最も有り得るね。派手に暴れて強者を誘き出そうって事。

その証拠にギルド長も言ってたでしょ?被害が少ないって」


この男、会談には同席していなかった筈なのだがどうやらしっかり盗み聞きしていたらしい。

何とも抜け目の無い事だ。


「魔人の生成って異形に目を逸らされたけど、彼らに取ってそっちが脇道で視察の方が本筋って事で合ってると思う。

死刑台で殺されたのは100人足らず、後は戦闘の巻き添え食らった奴だしね、作戦上の措置って事でしょ。

本来こういうのは暗部に属する仕事の筈なんだけどあちらさんそこ弱いからね。隊長以外はあんまり価値無いし。

一当たりしてそこから得た情報で調べる相手を決めようって事でしょ。

さて、長い前置きはこれぐらいにしてぼちぼち最初の話に戻ろうか」


メルトは首を傾げる。

今話が終わった所じゃなかったのか?という意味の動作だ。

イグマはそれに苦笑して話を繋げる。


「長過ぎる前置きだったね、ごめんごめん。

最初は何故王都が三日以内に滅ぶかって事だっただろ?」


メルトの顔に理解の色が浮かんだのを見て、イグマが満足気に続ける。


「さっき言ったろ?捨て駒とは言えたった5人で多くの人の耳目を集めるのは無理があるって。そこで必要なのは兵隊だよ」


「援軍か?」


ガルシアがイグマに質問するがイグマは軽く首を振る。


「それもさっき言った。彼らは現状軍じゃない『はぐれ』だよ。恐らく捨て駒の性質上、上に連絡取れないんじゃないかな。一方的な連絡はともかくね」


イグマが語る中、メルトの目がつり上がっていく。


「なんだそれ、あいつらが勝手にやった事で私は知りませんってか!?ふざけんな!!」


敵に起きた事にすら怒れるのは高潔とすら言えるだろう。

しかしイグマはそれを不出来な子供を見るように優しく笑う。


「ふふっ、うん、そうだね。その方が良い。メルトの言う通りだ」


実際の史実を少し知っているイグマとしてはお笑い草だが、それでも……思うのだ。

メルトのような者が沢山居れば今の世の中もっと良くなって居ただろうか……と。

一瞬、恐ろしいまでに純粋な彼に全てを話し、楽になりたいとも思ったが、止めておく。

まだ夕碧は全人類を敵にして立ち回れる程強くない。自分はメルトの意志よりもメルトの方が大切だと、そう思い直して。


「話を戻そう、軍は呼べない。じゃあどうするんだ?」


物思いに沈んでいて話すのが止まったのかハッシュが急かす。


「ああ、ごめん。途中だったね。そう、兵力なら既にこの近くに常備してあるよ」


良くわからないイグマの言い方にハッシュは首を傾げる。

近くに兵士等見たことないし、先程軍と関わりを持てない事に反するのではないかと。


「なぁ、それってどういう「魔物だな」」


聞き返そうとしたハッシュに被せるようにバレインが答えを出す。


「正解」


嬉しそうにバレインを指差して笑うイグマにハッシュは納得する。


「なる程」


「そう、そして悪魔族が魔物従えちゃったらもう終わりだね。こんな城壁じゃあ全く役に立たない。好きにさせたら三日と持たないだろうね」


その言葉にまた場に沈黙が満ちる。

さっきまでの意味が分からないための沈黙ではなく、どうにもならない事に対する沈黙である。


「つまり、兵力も質も違うしさ、止めよ「つまり林にいきゃあ、止められんだな?」」


メルトはイグマの怠け癖より止めようという言葉を押し退けイグマに確認する。

イグマがえー、という顔で頷くとメルトは口の端をつり上げる。


「戦闘だっつったろ。誰が引くか。全面戦争だ」


辺りは呆れた雰囲気に包まれ、イグマが蚊の鳴く声でばか〜というのが微かに聞こえた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



戦闘準備、という事で解散した中でテーブルに残っていたのはハッシュとメルト。

後者が残っているのは準備が必要ないからだが、ハッシュが残っているのはまた別の理由だ。


「マジか〜、ぜつてー着たくね〜〜」


テーブルに掛けられているのは一着の服。

ハッシュのとんでもなく鬱を含んだ独り言にメルトは正論を返す。


「じゃあ、着なきゃ良いじゃねぇか」


しかし、正論というのは常に正しい訳ではない。

今回もそうしたパターンの一つだった。

メルトの無神経な一言が大いに気に障り、ハッシュは子供が癇癪を起こす寸前のような顔でメルトを睨む。


「貴様バカなの!?死ぬの!?着なかったら死ぬっつーの!!一撃だっつーの!!三秒持たねぇよ!!バーカ!!」


悪口のダイレクトアタックにメルトは思わず仰け反る。

メルトは若干キャラがぶれたような気がしないてもなかったが、気にしたら負けな気がしたのでツッコまなかった。


「じゃあ着ればいいだろ」


またもや正論で返すメルトはそろそろ空気という物を読むべきだ。

全くもって学習能力という物が皆無である。


「ぜってぇ嫌だー!!何でこんな格好しなきゃなんねぇんだよ!!ふざけんな!!バーカ!!」


案の定想定されて然るべき口撃を見事食らいまたもや仰け反るメルト。

めんどくせぇな……とメルトは小声で呟いた積もりだったが、地声が大きい為に小声であったとしてもばっちり聞こえてしまっていたらしい。

ハッシュは顔を修羅に変えてメルトに向かって猛烈な八つ当たりしてきた。


「テメェ!!人が真剣に悩んでんのに何だその言い草!!ボコボコにすんぞ!!」


「わりぃ」


メルトは素直に謝りこうべを垂れる。

ここでガルシアのように「俺も真剣にめんど臭がってんだから察せや。ボコボコにすんぞ」と言えるほど口が達者ではないし肝っ玉も大きくはない。


「あ〜〜〜、戦いたくね〜〜〜」


ハッシュは頭を抱え込んで机に突っ伏す。

実はこの問題は既にハッシュの中で解決している。

ただその答えが彼に取って絶対に取りたくない手段であるため、こうして喚き散らして現実逃避しているだけなのだ。

話を聞いている側のメルトとしては実に傍迷惑な話だが。


「まぁ、そんな落ち込むなよ。な?」


背中に手を添えて優しく言うメルトにハッシュはくわっと顔を寄せて盛大に八つ当たりした。


「落ち込むわ!!お前、俺の二つ名知ってるか!?」


顔から吹き出る熱が伝わりそうな剣幕にメルトは誤魔化す。


「『逃腰』?」


「そっちじゃない方!!」


ハッシュとしてはそっちもかなり気に食わなかったが、今はそちらの話じゃない。

多大に弁明したかったが今回は止めておく。

声を大にして戦略的撤退だと叫びたかったが今は止むを得ない。

ハッシュは冷静だった。

既に土俵際まで追い詰められたメルトは遂に観念してぼそっと呟いた。


「……『女装癖』」


「ぬわぁんだってぇ!?誰が好き好んでこんなの着るかぁー!!」


ハッシュは初めて呼ばれた時の怒りが再燃したのかメルトの胸ぐらを掴み前後に激しく揺する。

いっそ理不尽である。


「いや、俺が言った訳じゃ……」


激しくヘッドバンギングしながら何とか弁明を試みるが、ハッシュは聞く耳を持たない。


話の流れから分かると思うが、テーブルに掛けられている服は女物である。

もっと細かく描写するならばフィギュアスケートの選手が着る上下一体の物で、レースの付いた白地にピンクのミニスカに宝石をあしらった同じく白地にピンクのブーツ。

腰から上にかけて、ボディーラインを意識した臍出しのセクシーな物に胸にまた大きな宝石とそこを中心とした大きなリボン。

手の甲に宝石をあしらったナヨナヨっとした布製の頼りない可愛さ重視の萌え袖籠手に終いにピンクの髪止めである。


端的に言えばフリッフリでフリッフリの甘ロリ衣装である。

……キツイ。


「黙れ!!今すぐ口塞いでやる!!そこに直れ!!」


別に着なくてはならない訳ではないがこの装備はひじょーにムカつく事にハッシュの真っ黒コーデとは性能が段違いなのである。

理由は元A+級の母親がオーダーメイドした(服屋に勝手に作られた)からである。

近々S級に上がる筈だった母親が着けていた物だけあってハッシュがコツコツと貯金し、死ぬ思いでモンスターを狩り、真剣に悩んで買った装備が母に押し付けられたふざけた装備に全く敵わないのである。


彼の心中お察しするし、全人類彼に黙祷を捧げたってバチは当たらないと思う。


特に思春期の少年が母の痛々しい装備を着た事は、どれ程彼の精神を削った事だろうか。


「似合うから良いじゃねぇか……」


そう、ハッシュは母親の血を引いているだけあってかなり美形で、この服を着ればどこぞの少女戦士にも引けを取らない。


「だから嫌なんだよ!!」


ハッシュはだからこそ嫌いなのだが……。

特にあの頭のイカれた母親に似ていると言われる事が。

こうして準備は着々と進む。そしてそれは魔族側も。



〜〜〜〜夜、城内部のとある部屋にて〜〜〜〜〜〜〜〜



ベッドですやすやと眠るトルダの頭を撫でながら微笑むと、ヨキはおもむろに窓際へと腰を上げる。

窓から夜の澄んだ空気を照らす星々を眺める。

そして珍しく感傷に浸るとポツリポツリと独白する。

「今夜は本当に綺麗な夜です。空に吸い込まれるような気さえします」


そう呟いた後にスッと一瞬少女に目線を送る。

そしてまた空に視線を戻し、空を通じて自らの過去を見渡し一人愚痴る。


「私では彼女を助ける事が出来ません。ただ一瞬死から遠ざけただけ。いつもそうです。私は結局全て中途半端。

オメガ様の部下にも、陛下の部下にも、悪魔にも人にもなれませんでした。

人の正義を語ることしか出来ない犬にも劣る体たらく。何の力も持たない私は……願う事しか出来ませんでした。その願いは生涯一度だけであった筈なのに、日を追う毎に増えていく。まるで際限無く繰り返す過ちのように。

こんな私が悪魔と言うのなら、なんと滑稽な事でしょう。そう思いませんか?陛下。

ふふっ、貴方は『下らん』と笑まれるのでしょうね。分かるような気がします。

さて、行きましょうか。陛下の笑みが曇らない内に……地獄の果てへ」

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