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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
31/107

31 メルト外伝 紅の墓標12 ハッシュ、女装する1

ちょっと手違いで数分遅れましたすみませんm(__)m

メルト達は魔人達が撤退した後、ギルド会館へと合流しつつあった。

木造の古い会館ではあったが壊れる事は無かった為、王都に拠点を持たないメルト達はギルドマスターへの報告も兼ねてここに集まっていた。

【夕碧の騎士団】A級パーティであるメルト達のパーティで半数が泥にまみれ、包帯が巻かれていた。

S級が自由行動が認められている、正確には強すぎてギルドで制御出来ない為、ギルドの主要戦力であるA級が、だ。

しかも、それが更に驚きなのは包帯が巻かれている人物。

メルト、バレイン、ガルシアの三人である事だ。


「何か意外だなぁ」


ハッシュが重苦しい雰囲気を吹き飛ばそうとわざと明るい口調で唐突に話を切り出す。


「何が?」


それが分かっているのかそれに乗るイグマ相変わらずの気遣いの男である。


「いや、メルトがボロボロなのは分かるけどさ……」


「あ?んだとコラ」


メルトがハッシュ達の会話の途中にも関わらず遮る。

魔人にあしらわれたのが相当悔しいのか究極に機嫌が悪い。

ついでに態度も悪い。


「いや、いつもだろ……」


しかし、これに関してはハッシュ達の方が正論である。

メルトは危ない事に躊躇無く首を突っ込む、そのせいか生傷が絶えない。

つい先日も大ケガを負ったばかりであった。

ハッシュはあきれ顔でメルトを見つめる。


「チッ!」


反論が不可能である事を悟ったのか舌打ちだけで済ませると鼻息をフンッ、と一つ鳴らしてそっぽを向いた。

やっぱり態度が悪い。

ハッシュは肩を竦めると、話の続きを語り出す。


「メルトは兎も角、ウチのツートップがここまでになるとはね……」


夕碧の対看板であるガルシアとバレイン。

白狼、黒虎と評される二人である。

戦闘能力は突出して高い。

まぁ、ガルシアの白狼は侯爵家時代の渾名ではあるのだが……。

その為、今回のような大怪我はおろか、かすり傷さえまれである。


「お前らこそ怪我無さすぎねぇか?」


ガルシアは疑問に答えず話題を逸らすように全く怪我の無いハッシュ、リタ、イグマに問い掛ける。

そんなにハッシュ達の相手の魔人達は弱そうに見えなかったが……と続けるガルシアにハッシュはサムズアップする。


「思いっきり逃げてたからな!」


歯がキラーンと光る程に良い笑顔のハッシュにガルシアは顔をひきつらせる。

為す術が無いとはこの事だ。


彼は村に居た当時修行が嫌で元冒険者の母から十年近く逃げていたというのだから強者かつ筋金入りのヘタレである。


「私も……」


リタも恥ずかしそうに手を上げる。


「いや、お前は全力で逃げててくれ」


物凄く真剣味を帯びた表情で懇願するガルシア。

これは別に恋愛感情や厚意からでは無い。

リタの基本方針は撤退だ。

彼女の場合は絶対に敵と直接対峙してはならない。

ハッシュ達にだって人権はある。


「俺も隠れてたよ」


そう言ったのはイグマ、しかしその言葉は信じられない物だ。

バーリトゥドゥバトルならばツートップにも遅れを取る事はない。

そんなイグマが敵を無傷で倒したなら兎も角隠れていた等とは少々信じられない。

しかし、イグマの言葉で全てが氷解した。


「いっ、や〜〜、やっこさん怒らせちゃってさ、女って恐いね、本当。

殺されるかと思ったよ、実際」


ハハハハハ、と朗らかに笑い話で話してはいるが、殺し合いである。

巷の痴話喧嘩ではない。


「お、おう成程」


元暗殺者、しかも暗部副長という大物の癖に相変わらず口の軽い奴である。

それで自分で災いを引き寄せていれば世話がない、自業自得である。

怠け者の癖に何気に修羅の道を歩く奴だ。


仲間内で話し合っているのを認めたのか、ギルドの受付嬢がメルト達の方へ駆け寄ってくる。


「すみません、メルト様。ギルド長と通信石繋がりました。ギルド長が話したいとおっしゃっていますが如何致しますか?」


口調は丁寧だが有無を言わさない雰囲気がある。

それもそうだろう、依頼外とはいえ報告は義務ですらあるのだから。


「分かった……行く」


膝を叩いて立ち上がるメルト。


「俺も行くよ」


ハッシュはメルトだけでは不安という非常に賢明な判断を下し、メルトに付いていく。

メルトはハッシュと連れ立ってギルド長への報告の為、受付嬢に付いていく。

いくらギルド会館とは言え木造である。

広いとはいえ二階などはない。

カウンターの奥へ進むと会議室のような場所に着く。

会議室とは言っても五、六人も入れば一杯になるような小さい物であり、会議室というよりは休憩室といった方が適切だ。


「此方です」


そう言って受付嬢は扉の向こうへ消えていき残ったのはメルトとハッシュともう一人。

ギルド支部長であるチャド=スマートが人の良さそうな面を引っ付けた狸顔で既に席に付いていた。


そしてもう一人、席には着いていないものの、魔法越しに一人の男がそこにいた。


『また君かね……。

全く、君が居なければ世界が平和だという与太話、私も信じ始めた所だよ』


その声が聞こえてくるのは水晶玉のような石だ。

そこに小さな石板のような物が付いており、通信する相手に対して指向性を持たせている。

石から放たれる強烈な嫌みに顔をしかめるとメルトは手持ちサイズの石板をもつ。

そこから声を相手に向かって飛ばす、いわば受話器のような物だ。


「アンタの話に付き合ってる暇はねぇよ」


『不快にも意見が合ったな。君のような他生物のような奴とは話が合わんと思っていたのだが』


中々に酷い中傷なのだがメルトには半分も理解できなかった。

ギルド長もその辺を分かってやっているのだろう、反応を期待せずにそのまま続けた。


『さて、今回は何をしでかしたんだ?』


ギルド長の酷い決め付けであるが、哀しい哉、反論の余地がない。


「ハハハ、ええっと……」


ハッシュが自分のせいでは無いがなんとなく自分が悪いような気分で答えずらそうにしていると焦れたのかギルド長は足早に結論を急いだ。


『ヴァインズ王都が魔人達に襲われた、そうだな?』


「はい」


短く答えたハッシュにギルド長は質問相手を変える。


『チャド、被害は?』


「建物全壊多数、死傷者目算800。内死者は200名程だと思われます」


『思ったよりも少ないな……分かった。では、メルト君、君には待機を命じる』


「ふざけんな!!敵の場所は分かってんだぞ!これ以上犠牲は出せない!攻めるべきだ!!」


待機、その命令が気に入らなかったのだろう。

即座にギルド長に反対するメルト。

そもそも彼に待機は無理な話だ。

人の話すら最後まで聞けないのだから。


『だからこそだ。現状戦えるのは君らしかいない。故に無駄な戦力低下は容認できない。それこそ徒に被害を重ねるだけだ』


魔王軍が建てた城は陽動とは思えない。

大きすぎる。魔力で創るのならここまでの無駄な出費はできないはずだ。

つまりそれは宣戦布告。何時でも何処からでも掛かって来いということに他ならない。


『現在、他のA級をそこに向かわせている。到着まで待機だ。動くな』


「くっ……」


悔しそうに歯噛みするメルト。


『では十分な戦力が整い次第攻城戦を仕掛ける。目標は悪魔族一体魔人族5体だ。最善は殲滅、もしくは追い返せ、それまで待……』


「待てよ、今なんつった」


ギルド長が言い切る前にメルトが遮った。


『ん?戦力が整い次第……』


「そこじゃねぇ!!」


石板に対して怒鳴ったせいでギルド長の耳がイカれたのか、ぐぅ、と苦しげな声が漏れる。


「アイツの姉ちゃんだぞ!!殺す必要なんてねぇだろうが!!」


石板に向かって怒鳴り散らすメルトは、唾を撒き散らさんばかりの形相である。


『敵対したのだろう?それだけで殺す理由には余りある』


ギルド長は至極真っ当な答えを返し、声に一切の動揺を表さない。

そもそも魔人だ。

それだけで惨殺するのに理由はいらない。


「そんなこたぁ関係ねぇ!!」


このままでは水掛け論になると危惧したハッシュが恐る恐る手を上げる。

水晶越しの為、そんな必要は無いのだが、そこは気分だ。


「依頼人の依頼を反故にしたら対面的に不味いんじゃないかなぁって思うんだけど」


確かにニティの持ち込んだ依頼は姉を救う事。

殲滅、というのはギルドとしての信用を失う行為だ。

ハッシュの控えめな援護射撃もギルド長は一蹴した。


『面子に捕らわれて犠牲を出す事等認可しない』


面子に捕らわれて人に死なれる位なら面子等クソ食らえだ、とそう言っているのである。


「まだ、子供だ!!」


ギルド長に対して悲鳴のように大声を出すメルトにギルド長はあくまでも冷淡だ。


『君も分からない奴だな……。私達の背中にある幾千万の命は、たかが私情に流されて良い物ではない!』


毅然とした態度から確かな圧を感じさせる言葉が紡がれる。


「だから見捨てるってのか……?」


一を捨てて十を救う。

それは十から見れば正しい行為かも知れないが一から見れば自らに無理を強いる害悪でしかない。

捨てられる一にとっては堪った物ではないだろう。


『自ら敵対したのだろう?それくらいの覚悟は出来てる筈だ』


子供だからなんていうのは単なる甘えだ。

人が一生懸命考えた答えをそんな理由で否定するなんてその子供に対する侮辱でしかない。


「アンタ勘違いしてるよ……。一人の人を疎かにする奴に、大勢の人を助けられる訳がねぇ!!」


1も1億も救う事には代わりない。

ならば何故、1をも救えなかった者が、何を根拠に1億もの人間を救う事が出来ると言える?

メルトが言っているのはそういう事だ。


『詭弁だな。これが間違いと言うのなら、一人の為に皆を危険な目に遭わせる大愚に比べれば、涙を飲んでその間違いを受け入れるべきだ』


ただ、目の前の状況があって、その状況下で最善を尽くす。

その最善は全部救う事かも知れないし、1しか救えないかもしれない。

そんな当たり前の事を今更疑念に持つことなのだろうか。

ギルド長は理解が出来なかった。

その疑念を持つ僅かな時間こそが人の死を作り出すというのに。


「何を言っても分からねぇのかよ……」


メルトは石板を強く握り締め、歯軋りをした。


『それは此方の台詞だ。いいから従え、お前の不和こそがより死を作り出すのだ』


先程と全く変わらないコマンド。

待機。

メルトはギルド長が賢しげに振りかざす正義が、昔故郷で見た冒険者のように見えた。


「そうだ……そうだよ……これじゃ何の為に冒険者になったのか分かりゃしねぇ」


ブツブツと自分一人の世界に閉じ籠ったメルトにギルド長は呼び掛ける。


『おい、どうした』


「俺達は冒険者、何にも囚われず自由に前へと進むと決めた筈だ……」


昔、抱いた夢その訳を今の自分が否定する訳にはいかない。


『おい!聞いているのか!!』


それでも諦めずギルド長は呼び掛けを続ける。


「俺達は夕碧、何物にも染まらず決して折れない事を誓った筈だ……」


三人で決めた名前。

メルトはその名前を嘘にはしたくなかった。


『クソガキ!!話は最後まで聞け!!大体その子供は恐らく妹の……』


どうにもならない苛立ちからギルド長から徐々に仮面が剥がれ落ちる。


「悪ぃな。今回は俺達で勝手にやらせて貰う」


『わっ!!おい、バカ!!切るなぁ〜!!。ヤバい!!ルシエに後で絶対怒られ……』

バキバキバキ!!


訣別の音が響く。

メルトは持っていた石板を握り潰し、強引に回線を切断した。 石板の握りカスを机に放り出し、後ろを向いてハッシュに命令する。


「行くぞ」


「あの〜〜〜、つかぬことをお聞きしますが……もしやあいつらと一戦交えるお積もりで?援軍ナシで?マジで?」

情けなくも揉み手しながらにこやかに聞くハッシュにメルトは爽やかに答える。


「ああ、当然だ」


悪い予感程良く当たる。何故自分はメルトが暴走しないように付いてきた筈なのに、全く効果が出ていない。

今、ハッシュにはこう叫ぶより他に為す術が無かった……。


「嘘だろぉぉぉ〜〜〜!!」


そんなハッシュの哀愁漂う慟哭を一切斟酌せず、メルトはズンズンと進んでいく。

途中有った扉を足で蹴り開け、仲間の元へ向かう。


ようやく仲間達のその姿を認めると、そいつらに向かって自分が決めた方針を高らかに良い放つ。


「おめぇら戦闘だ!!派手に暴れるぞ!!」


ドスの聞いた声を張り上げると途端、仲間達の様子が一変する。


「よっしゃ、さて、偵察に行きますかね」


そうイグマが呟いたかと思えば彼は跡形もなく消え去る。


「さて、戦略を立て直すとするか」


そうガルシアは呟き膝を叩く。


「鍛練するか」


スッと隙の無い動きで立つバレイン。

しかし、そこにガルシアが突っ掛かる。


「そんな付け焼き刃で勝てんのかぁ?大会準優勝の癖に」


刀技大会。剣術大会と並ぶ最高峰の剣の大会だ。

準優勝出来れば表としては最高クラスの剣士と言って良いだろう。

しかし、ガルシアはその程度では認めない。

大会に出るのは精々A級位まで。

S級(伝説)には及ばない。


「今やれば勝てる。お前こそ戦略なんぞで埋まる差か。万年二番煎じが」


この言葉にカチンと来たガルシアは戦闘モードに移行する。

万年二番。

歯軋りと共にガルシアに思い出させるのは懐かしき学舎での成績。

首席で卒業はしたものの、実技、筆記共に常に歴代二位であった。

卒業にあたる最後の最終総合試験では学年では文句なしに一番だったのだが、歴代二位。しかも一位にダブルスコアをつけられての二位だった。


「あ?んだとコラ。良いだろう。表出ろテメェ。吹き飛ばしてやる!!」


あ?んだとコラ、というのは元々メルトの、果てはその父親の口癖である。

いくら、冒険者とはいえもっと言葉の上品な者はいくらでも居たのだから見習う相手を間違えたと言えよう。


「上等だ!相手してやろう。後悔しろ」


バレインは既に口火を切っている。


そんなバチバチの空気の中リタが所在なさげに、それでもしっかりガッツポーズを取っていた……。


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