30 メルト外伝 紅の墓標11 準備
30話記念?
ちょっと何言ってるか良く分からないです。
いや、もう懲りたので。
私、どうやったらこれを4話でいけると思ったんだよ……。
王都から出て数キロの平地。
魔人国へ繋がる小さい森が遠目に見える平原。
道ほどでは無いにせよ生えている草は自然より少なく、充分人間の勢力範囲である事が伺える。
そんな何もない平原に居るのは5人の魔人と一匹の悪魔。
つまりここが、ヨキ達があらかじめ決めておいた撤退ポイントである。
「ふーんソイツがもと人間ナァ。あんま見えねぇけど」
トルダを不躾に眺めるのはダルク。
トルダは生粋の魔人との違いはあまり無く、強いて上げるなら痩せた体格だろうか。
上から下へ舐めるような視線にトルダは一瞬萎縮するが、即座に気を持ち直しキッ、と睨み返す。
「なによ」
その最下層ならではの鋭い視線にダルクは怖れる事無く肩をすくめる。
「おー、コエーコエー。嬢ちゃんに怒られちまった」
トルダの印象を悪化させた事についてエドガルは眉をひそめ、ダルクをたしなめる。
「まだ小さい女の子であるぞ。口に気を付けろとよく皆に言われているであろう」
万年寝不足のせいか元からか、注意力が散漫で、記憶力の乏しいダルクは基本ミスが多い。
仲間から注意を受ける事は多かった。
「わぁったよ。悪かったな嬢ちゃん」
軽い調子でダルクはトルダとの会話を打ち切ると続いてヨキに会話の矛先を向ける。
「んで、何でこんなだだっ広いだけの所に集まったんだ?何もねぇじゃねぇか」
既に撤退ポイントに決めた時にダルクにも話してある筈なのだがすっかり忘れてしまっているらしい。
ヨキは溜め息を吐きたくなるのを我慢しながらダルクに説明した。
「話したでしょう。魔物の森に近く平らな場所はここしか無いと」
この回答でも不十分だったらしい。
ダルクとトルダの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
トルダは兎も角ダルクは既に聞いており2度目である。
ヨキは頭痛を覚えたのか額に手をあてながら端的に説明する。
「建てるんですよ。城を。」
この答えでようやく思い出したのかダルクの顔が晴れやかになる。
「ああ!そーいやんな事言ってたなぁ」
その言葉に本格的に忘れていたらしい事を悟ったヨキはダルクから目線をそらす。
流石に呆れた視線を注ぐのは失礼だと思ったからだ。
「城?」
何も知らないトルダはヨキに向かって尋ねる。
城などどこにも見えないし、地下に埋まっているようにも見えない。
しかも先程ヨキは城を建てると言った。
流石に五人で建てようとするとは思えない。
「ええ、見ておいて下さい。これが魔法と云うものです」
ヨキは懐から真っ黒の宝珠を取り出し、それを天に掲げる。
いまにも禍々しい物が溢れだしそうな宝珠は外に出る事を喜んだかのように一層禍々しさを増す。
「≪マジッククリエイト≫」
ヨキの詠唱を起点として宝珠から禍々しさと色が飛び出し、宝珠は石英のような白さを持った。
そして飛び出した何かは徐々に広がり平原を靄で覆い尽くす。
何かそこだけ抜け落ちたかのように真っ黒であり、何かを創る靄というよりはさながら全てを押し潰すブラックホールのようだった。
そして黒い何かが役目を終えたかのように霧散する。
天を覆わんばかりだった黒は嘘のように消え去り、まるで何か夢を見ていたかのようだった。
しかし、夢では無かった事を証明するかのように残った物。
それは城。
城の周りを水堀が張り巡らされ更に一段高い所に城の土台があるため堀から侵入するのは難しい。
入るのに跳ね橋が架かっており、それもいつでも内側から堀に落とせるようになっている。
落とした場合は船で行き来出来るように石の階段のような物が城内に用意されている。
城壁は下部が武者返しになっており、まるで黒曜石のように光沢のある黒色で侵入者を受け付けようとせず、捕虜収容を兼ねた物見の塔は全てを見下ろし城の威圧感を増している。
城は全て墨で染め上げられたように黒一色であり、先程の靄がそのまま居着いてしまっているかのようだ。
最早城というよりは要塞と言った方が通じが良いだろう。
華美な装飾をふんだんに使用した王城とは似ても似つかない。
「オイオイ……マジかよ……。いくら陛下でもこりゃあ無理だろ」
ダルクは要塞を見上げ、呆然と口を開ける。
「そうなの?」
そう聞くのはトルダだ。彼女にとって魔法を見るのは初めての為、目の前の魔法の凄さが分からない。
「ああ……こんなの不可能だ……」
ただでさえクリエイト系の魔法は消耗が激しいのに宝珠に一回保管するとなると劣化もある。
いくらフォルダの魔力量が高いとは言え城を建てるなんてことは出来ない。
直接クリエイト魔法を使ったとしても、せいぜいが庵程度が関の山だろう。
「ああ、陛下(二代目)じゃありません。魔王様(初代)だそうです」
ヨキは聞いた話ですが、と前置きしてそう言った。ヨキはフォルダの統治時代から魔人国に服属した為、魔王という者の人柄は人伝でしか聞いた事が無い。
「ああ……なるほど、それなら納得だ……」
あの自らを魔王と呼称していた理不尽キングならさもありなんと思いながら深く納得するダルク。
フォルダに対して何気に失礼であるがダルクはそんな事は気にしない。
「しかしそんな物よくあったな」
既に魔王は第一次侵攻時戦死している。
そんな貴重な物を今回の作戦で消費してもいいものなのか。
そう聞くダルクにヨキは答える。
「戦時に大量に作った物の内の一つだそうです。
確かに貴重な物ですが、ロレック様の懐からの物らしいので問題ないのでは?」
「ふーん」
知らない単語の連続ですっかり理解する事を諦めたトルダが気の無い返事を返す。
「これは失礼、長話が過ぎましたね。早く入ると致しましょう」
ヨキは逸早くトルダの雰囲気を察するとそう気遣った。
そして城の方から音が聞こえてくる。
ギギギギギギギ……。
不気味な軋む音を立てながら徐々に跳ね橋が降りる。
城の中には誰もいない筈なのだが、まるで城自体が意思を持っているかのようだ。
「では、行きましょうか」
跳ね橋が完全に降りきるとその幅十メートルもないような跳ね橋を半ば渡り、振り替えってヨキはそう言った。
そしてそれに続いて他の面々も次々と不気味な城の中に吸い込まれて行くのだった……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
装飾が無駄に豪華な部屋で円形のテーブルに椅子が13並んでいる。
しかし、その内使われているのは6つの為、物寂しさは拭えない。
全員が各々着席したのを確認してからヨキが司会として場を進める。
「では、此より報告会を始めます」
無駄に固い挨拶に他の面々がうんざりした顔を作り出す。
そこから推測するにこういう事は日常茶飯事であるのだろう。
「接敵、撤退」
早く済ませようと真っ先にダルクが最小限の言葉で返す。
かなり面倒臭そうな表情である。
「敵は?」
やはり伝わらなかったのかヨキが聞き返すとダルクはハァ、と溜め息を吐くと質問に答える。
「不殺。損害なし」
ガルシアとの戦いによって多少の傷を負った筈だが、それを問題ないと断じてそう報告する。
事実、既に自力で治りつつあり、城に常備してある救急箱は必要ないだろう。
「では、次は我から、逃げられたな。足の速い……」
忌々しそうにエドガルが呟き顔を歪める。
「後30秒在れば殺れた」
ボソリと呟くクロスバ。文面にすれば言い訳に聞こえなくもないが本人は本気でそう確信している。
「私の所も同じですね。殺し切れませんでした」
全員への情報共有の為にこうして話している筈なのだが、ヨキ以外はあまり必要とも思っていなかった。そのヨキでさえ意味もわからず規則に従っているだけなのだ。
「皆ダメだなぁ、僕はちゃんと殺したよ?」
ツェーレは皆の不手際を笑う。
それはヨキに対する不快感からでもあり、皆に対する優越感でもある。
更に新入りに対してもあまりいい感情を抱いてはいなかった。
「成程、では現状、共通認識として彼らは作戦対象にはあたらないという事で宜しいですか?」
ヨキの言葉に言葉を返す者はいない。
ヨキはその沈黙を肯定と受け取り話を進める。
沈黙はいつもの事であり、特に問題はない。
「では、作戦は変わらずフェーズ2へ移行します。異論が有る者は?」
ヨキがそう聞くとツェーレが手を上げる。
「それ、いつから始まる?」
「明日ですね。魔法を使って彼女の体調を元通りに戻すのにそれくらい掛かるでしょう」
トルダはなんでもない顔をしているがそんな事は絶対に無い。
ただでさえ魔人になる為に体力を削っていた上に戦闘までこなしたのだ。
体的にはもう既にボロボロに近く、いつ気を失ってもおかしくない。
「じゃあ、それまで別行動してもいい?」
ツェーレが言う事にヨキは怪訝に思いながら了承する。
「ええ、宜しいですが……理由を聞いても?」
ヨキがそう聞いた瞬間ツェーレの雰囲気が一変した。
ヨキを目一杯睨み付けると一言一言に力を込めながら答える。
「調べるんだよ。あの野郎、一族郎党、皆殺しにしてやる」
途端に危険な雰囲気を帯び出した事に対して触れない方が良いだろうという賢明な判断を下したヨキは分かりました、と許可を出す。
「俺も別行動良いか?心配すんな。作戦までには戻る」
意外にもクロスバもツェーレに追従し、別行動の許可を求める。
これに対してヨキは全く理由が思い浮かばなかった為にツェーレと同じく理由を聞く。
「何故ですか?」
「ちょっとバレインって名前が気になってな。少し調べたい。ツェーレ、できればお前の所の奴を幾人か貸してくれ」
「分かった、貸すよ」
ツェーレは親衛隊の隊員であるが、同時に偵察隊の副隊長を兼任している。
それを要求するという事はクロスバはかなり本気で調べるという事だ。
「では、明日の作戦決行までは自由行動ということになります。異論はありませんね」
沈黙の中ダルクが早く終わらせろとでも言いたげに顎でヨキを指す。
「解散」
その一言と共にトルダとヨキ以外の皆が一斉に席を離れ、何をしたらいいか分からないトルダが辺りを見回す。
「貴女は此方へ、疲れたでしょう。食事の用意が有ります。それを食べて寝れば、明日の朝には健康になっている事をお約束致します」
ヨキはそう優しくトルダに向かって囁いた。
「本当?」
最初トルダは全くと言って良いほど魔人を信頼していなかった。
魔人に与する事を決めたのもそれしか方法が無い事とある種の自暴自棄が有ったからだ。
しかし、その気持ちは今この瞬間、変わろうとしていた。
「ええ、お手を」
トルダはヨキから伸ばされた手を取り、ヨキへ付いて扉の向こうへ消えていった。
次回31話外伝。
「ハッシュ、女装する」お楽しみに!




