29 メルト外伝 紅の墓標10 新魔人爆誕
本当すいませんでした!!m(__)m
遅れました!!
マジでスミマセン!
黒い膜の残骸の中で一人の新魔人が立っていた。
「コレは……随分と早いですね……」
ヨキがトルダを見て呟く。
本来あの薬品による種族変更は4時間程掛かる。
それに対して予定していた作戦時間は3時間。
つまり作戦上被験者は殺して死体として回収する予定だったのだ。
しかし、それが1時間もしない内にトルダは魔人へと変貌した。
ヨキ達としては完全に想定外の事態だ。
「(何かが狂った……いや、噛み合ったのか。
アレ(薬)はハッキリ言って欠陥品……。
開発隊が言うには遺伝子操作と言っていましたが、端的に言えば魔力構成の変質でしょう。
本来それは兵器に利用するタイプの物……。
それを魔人生成(別目的)に転用するのですから成功率など御察し。
浮浪児には成功率30%と言いましたが、それは生存率に直結する訳ではない……。
そこに対して成功後死亡だとか四肢欠損だとかは含まれていません。
中にはぐちゃぐちゃの人間の影も形も見えないペースト状の物さえ魔力構成が魔人の物へ至ったということで成功になった事例すら有りますし……実際の生存率は1%以下。
現在まで生きている者は皆無の筈です)」
それがパーツ欠損の無い貴重な完成品。
しかも悪魔族の張った結界を壊す程の力を持った魔人……。
そんな莫大な価値を持つ貴重なサンプルを逃す訳にはいかない。
ヨキは予定を前倒しする事を検討し、それを採択する。
辺りに広がる死体の山という惨状を確認し、作戦の基幹部は達したと判断したからである。
ヨキは拠点撤退時に後ろから魔人国へと流す事を考え、先程、部下に対して本国への撤退を指示した事を悔やむ。
「(くっ……、ツェーレに輸送して貰う……いえ、体自体が既に丈夫であるとは限らないですし。先程の膜を壊した衝撃で負傷している可能性が……。
本国から応援を呼ぶ……?
いや、この作戦も人体実験すらも陛下には極秘……これ以上は怪しまれます。
……仕方ない。
非常に惜しいですが作戦に比重を置きましょう。
開発には記録を取る事で許して貰うとしましょう)」
ヨキは魔王の力を利用して開発に直接映像、音声、その他の情報を送る。
部下に対してそれ程卑屈になる必要もない。
ヨキは副官から与えられた命令を遂行するだけである。
「開発の言う新兵器に興味がありますしね。
何にせよ、新兵器の導入は心躍る物です」
そうしてヨキは親衛隊にメッセージにて通達する。
設定時間内にて撤退。
そうしてヨキ自らは目の前の新兵器に注意を向ける。
直ぐに死ぬだろう事を予感しながら。
「何だよ……ソレ……どうして魔人がアイツの家族なんだよ!?」
メルトが驚愕に目を見開く。
それはそうだろう。
何せそこにいるはずだった依頼者の家族が依頼者と種族が違っていたのだから。
それも極悪非道と評判の魔人である。
彼の驚きも無理はない。
一瞬最初から違っていたのかと思ったメルトだが、直ぐにその考えを否定する。
人間の都市は魔人を住まわしてくれる程生易しい場所ではない。
見つかり次第即処刑だろう。
それが出来る程弱ければ、だが。
つまりそれは種族が途中からヒューマンから魔人族に変更されたという事になる。
アンデッドならいざ知らず、亜人の分類である魔人に人間がなれよう筈もない。
メルトも聞いた事が無かった。
膜の中から出てきたのは浮浪児だった。
頭髪は赤の短髪でかなりの汗をかいたのか、額と共に汗で濡れている。
青い目も疲労を湛えており、元からニティのように浮浪児であるのか少しこけた頬に骨に少し肉が付いただけの腕、少し吐瀉物の付着した口元。
ボロボロの作業着のような衣服もすっかり汗を吸い、変色していた。
「最高の気分……力が沸き上がってくる……」
しかし、トルダの目は死んでいない。
その目は多少の疲労を映しているものの、万能感による圧倒的な愉悦に浸っていた。
自らの色の変わった両手を握ったり開いたりして感触を確かめる。
その手のひらを見つめトルダの目には何時しか危険な光が宿っていた……。
「何で……!?お姉ちゃん?」
ポツリと呟かれた言葉は静寂の広がりつつあった広場に意外な程響いた。
早くから建物の陰に隠れていたニティが変異した姉の姿に驚いたのか一歩引いたような位置で尻餅をついていた。
「そう呼ぶなっていつも言ってるでしょ!?どうして分からないの!?誰のせいでこんな格好してると思ってるのよ!!」
ニティに向かってそう言うトルダは肌の色が違っているせいか酷く別人のように見えた。
いつも決して泣き言すら言わなかったトルダは決定的に変わってしまっていたのだ。
外見だけでなく、中身も……。
それでも姉であることは間違いない。
「ごめんなさい……」
普段気の強いニティであるが姉に対しては別だ。
むしろ普段の気の強さは姉以外への人物に対する警戒心の表れである。
家族であり、大恩人でもある姉には必要ない。
「ニティはいつもそうよね……。あなたのせいでいつもいつも私が酷い目に……!」
トルダは力を得た万能感からか心に蓋をして押し込めていた物が爆発していた。
閉じ込められていた怨み辛みは力を糧にしてニティへと牙を向く。
止まることのないような悪意の雨がニティに降り注ぎ、為す術無くニティはその雨に心を抉られていった。
ニティはいつも優しかった姉の豹変に目を白黒させる。
しかしそのトルダの闇の吐露は横からメルトが口を挟んだ事で中断される。
「オイ!謝ってんだ。もういいだろ!!」
少し大きな声にトルダがビクッとしたが、途中で止められた事に腹が立ったのか怒りの矛先がニティからメルトへと変更される。
「何?あなたが何の関係があるの?私達の事に口挟まないでよ!!」
金切り声を上げてメルトを睨み付けるトルダにメルトは少し考え、言った。
「んー……俺はコイツの依頼でお前を助けに来た関係無くなんかない!」
メルトはこの言葉を何の計算もなくただの本心で言っていたのだが、それを聞いたトルダの反応は冷淡だった。
「出来もしない事言うの、得意ね……大人って」
メルト(大人)に対し、力無いトルダでは決して言うことが出来なかった心情は、今はもう隠す必要がない。
何せもう既に力を得たのだから。
「いや、俺は本当に……」
「黙れッ!!」
それでもどうにか説得しようとしたメルトを大声で遮り、トルダはその激情のまま言葉を吐き出す。
「助ける!?何を今更!!遅いのよ!!私が何のために女を止めたか知ってる!?何も知らないようなアンタが知った風な口聞かないで!!」
一挙に捲し立てるようなトルダの口調に一瞬気圧されたようなメルトだったが、直ぐにトルダを真っ直ぐに見て、告げる。
「じゃあこっちは依頼だから取り合えず助ける。そのついでにお前の闇も全部ぶっ潰してやるよ」
少し面倒臭そうなに、それでいて本心で放ったその言葉はトルダには届かずイラつかせただけだ。
「本当に男って嫌い。興味があるのは金と自分より弱い奴だけ。気に入らなきゃ直ぐに暴力。見てて吐き気がする。
結構よ!!私は魔人として世界に復讐する事に決めたの!」
復讐。
それがトルダの目に輝いた危険な光の正体だった。
言うなれば力の無かった時でさえ復讐をしようとしていたのだ。
自らの妹を嫌な目に遭わせない事で。
自らの妹を学校に行かせる事で。
それが力を持った事で直接的な物に変化しただけに過ぎない。
「お前……魔人に与するのか?」
メルトが感情を秘めた表情で聞く。
彼にとって魔人とは親友を殺し、悪逆非道を繰り返す人類の敵に他ならない。
その魔人によって新たな犠牲者が生み出されるのは看過できる物ではなかった。
「ええ、力を貰ったもの、全てを捧げるにはそれだけで充分よ」
しかし、トルダにとっては人間(周りの世界)こそがトルダ自身にとって嫌な事を強要する悪逆非道そのものに他ならない。
トルダにとってただ単に最悪よりも、ただ悪いだけの方を選んだだけに過ぎない。
「じゃあ救う理由がもう一つ増えたな。
テセトを殺した奴等の好きにさせてたまるか!」
交渉決裂。
絶対に価値観の交わらない二人。
その二人の決着はトルダの言うとおり暴力で決まろうとしていた。
トルダはぴょんぴょんと跳ね、自らの体の駆動を確認し、満足したのか体に力を込める。
バヒュン!
広場の石畳を粉砕しながらメルトの方に向かって跳んだ。
トルダは景色が後ろにぶっ飛んで行く初めて体感する事態に気分が高揚するのを感じていた。
「オイ!どこ行くんだ!!」
メルトがそう声を上げたのはトルダがメルトを素通りしたからだ。
別に力が制御出来ずに止まれなかった訳でも体の操作を誤った訳でもない。
最初から目標が違っていた……。
「ま、まさか!」
メルトの後ろに居たのは建物の陰に隠れていたニティだ。
メルトも慌てて全速力でニティに向かって駆け出す。
トルダは走りながら手を槍のように先をすぼめニティを貫くために大きく振りかぶった。
武道者さながらのぶれない動きはその執念を最もよく表していた。
「死ねぇ!」
ズボォ!
トルダが手を突き出し、魔人になった事による強靭な肉体能力で体に孔が空く。
「テメェ……!
どういうつもりだ……!」
体に孔が空いたのはメルトだった。
咄嗟にニティとトルダの間に入り込み、トルダの攻撃を我が身を犠牲にして受けたのだ。
ゴフッ、と込み上げた血を口外へ押し出し、メルトは強い眼でトルダを睨む。
その眼に映るのは強い怒り。
それは妹を殺そうとした事に対する強い非難の眼だ。
「どういうつもり?
あなた忘れっぽいのね。言ったじゃん、復讐だって」
それに対するトルダは冷淡だ。
先程の強い光を放つ瞳でメルトを見つめ返す。
「だからだ!大切な家族だったんじゃねぇのかよ!!」
少し興奮したせいかせり上がる血を吐き出し、トルダを睨む。
「憎いからに決まってる……。
私がニティにどれだけの事をしてきたか……!
私がこれまで何を与えて来たか!
半分しか血の繋がってないこの子に!!
私が!!捨てなきゃいけなかった物まで全部!!
お姉ちゃんだからなんて……!!
女の子だってニティの為に諦めたのに!!
ニティをお日様の所まで押し上げるのに、どれだけ……どれだけ私が汚れたか知らないんだ!!
涙を飲んで頭を撫でた私の気持ちがあなたに分かるの!?」
服、食べ物、寝床。
全てが不足する中、資本主義のヒエラルキーの最底辺で、一人の子供が二人分……否、血の繋がらない父親(木偶の坊)を合わせた三人分食い扶持を稼ぐのがどれだけ大変か。
衛兵がどれだけ粘着質だったか、どれだけピンはねされたか、どれだけ給金を踏み倒されたか。
そんな地獄すら生温い場所にいたのだ。
トルダにとって家族など、復讐リストの一番上にいる人の総称に過ぎなかった。
「だからって……殺していい訳じゃねぇ!!
命に替えはねぇんだ!!
後悔した時はもう遅いんだよ!!」
しかし、メルトには分からない。
メルトにとって家族(仲間)は何より大切な、自分の全てだから。
それに復讐するなど到底理解する事は不可能だった。
毎夜訪れる夢の中のテセトは常に決意した顔で前を向いていた。
メルトは一日一日をそのテセトの決意を無駄にしない為に生きている。
だからこそより一層人の命を奪う事を看過する事が出来なかった。
「ええ、本当にそうね。今まで何もしてこなかった自分を後悔しているわ」
睨み合う二人。
しかし、そんな一触即発の空気の中、一つの無粋な声が投げ掛けられる。
「残念ながらそろそろ撤退の規定時間を過ぎます。撤退しますよ」
ヨキである。
ヨキは撤退の指示を全員に出した後、親衛隊全員に支給される懐中時計で撤退の殿の為の時間を過ごしていた。
といってもここまで皆の距離が離れていては意味がないのでただ単に時間を潰していただけではあるのだが。
真面目なヨキは別に待たなくても良い時間を正確に時計で計っていたのだ。
「もうちょっと待ってよ。もう直ぐでコイツを……」
トルダがヨキにメルトを殺すための時間を要求するがヨキの返答はにべもない。
「今貴方の指揮権は私にあります。反抗する気なら軍規にて死刑にする事になります」
冷徹なまでに機械的なヨキの返答に私情や懇願は通用しない。
言い方こそ丁寧だが、実質脅迫と大差ない。
「くっ……!!」
名残惜しいような目でニティを一瞬見ると直ぐに視線を戻しヨキの横につく。
「待て!!」
メルトが追い縋ろうと立ち上がるが孔が空いているせいで力が入らずヨロヨロと倒れてしまう。
「私だって好きで行くんじゃない。待っていろ!必ず殺してやるッ!」
その言葉はメルトにというよりはニティに言っている言葉のようだった。
「では」
ヨキがそう言ってニティを横抱きにすると何処からか宝石の付いた短杖を取り出し何事か呟く。
次の瞬間、浮かび上がったと思うと王城とは反対の方角へ飛び去っていった。
「畜生……!!」
メルトは怒りのままに拳を石畳に叩き付けたのだった。
ボツネタ
トルダがメルトを刺したシーン。
「あら、いつも好き放題さしてるのにさされるのは初めてかしら」
何かエロかったので没




