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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
28/107

28メルト外伝紅の墓標9

遅れてスミマセンm(__)m


ヒュオオォォ……。


風の夜鳴きのような音と共にヨキの氷吏に氷が絡み付いていく。

ダンッ、と地を蹴りメルトへと肉薄するとヨキはスキル技を発動させる。


「≪玲瓏たる氷の調べ≫!」


パキイィィィン!!


切り上げる氷吏の後を追い掛けるように多量の氷が発生し、メルトの四肢を奪いにかかる。


「クッ!」


メルトは氷の追撃も併せてかわす為に咄嗟に足のみ悪魔族のそれに変化させ飛び退く。

急な制動に足が悲鳴を上げるが、それを無視して眼前にある一種のオブジェと化した氷を見やる。


「すげェ剣だな……ソレ」


メルトが驚嘆しているのはオブジェではなくヨキの手にしている剣の特殊性にだ。


通常、剣というのは使用者の新たな手となり助ける物だ。

それに違わず属性付きの剣であっても使用者の魔力を魔法への変換効率を上げる程度の働きしか出来ない。

言わば魔法使いの杖代わりである。

それを戦闘時に他の用途に使用できるようにしただけに過ぎない。

バレインの剣などもそれにあたる。


しかし、メルトの目の前の剣は違った。

先程の攻撃時、ヨキは魔法所か魔力すら使用していない。

ただ武器に登録された技を使用しただけで剣自身が攻撃してきたのだ。


タネを明かしてしまえば事前に魔力を溜めておけるだけであるのだが、それでさえ恐らく刃物でそのような事が出来るのはいくらもないだろう。

何せ魔法を専門に扱う杖でさえそのような事が出来るのは王家の護身用というレベルなのだから。


「剣ではなく刀と言うそうです」


ヨキが片側にしか刃の無い氷吏を見ながら言った台詞に、聞き覚えが有ったのかメルトが反応する。


「へー、ソレすげェんだろ?バレインがよく言ってたぜ?」


刀。


出回る数が少ない為、世間にはあまり知られていないがその道を心得る者ならば一度は聞いた事のある名だ。

その出所は定かではないが人間の国より魔人国で見掛ける事が多い為に魔人国発祥とされている。


「ええ」


元々武器に対してそこまで詳しくないヨキだが、コレはきっと凄い業物なのだろうという確信があった。

それはこの刀の由来故だろう……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「オイ!」


ヨキがその声に反応して振り返ると、そこには放られたらしくドアップで刀がヨキの目前まで迫っていた。


……抜き身で。


「うわっ、とっ、と……!」


普段冷静沈着なヨキが珍しく取り乱し、何とか軽傷で刀を受け取る。


フー、と一息つき、余裕が出来て初めて自らに対してとんでもない暴挙を犯した相手を見ようと目を向ければ、なんとそこに居たのは「魔王」フォルダその人だった。


「し、失礼致しました陛下!!」


慌てて敬礼をする際、持っていた刀で危うく腕を落としそうになったが、何とか持ち直し、人間から魔王と呼ばれる魔人に対し敬意を表する。

それに対しフォルダはゴミを見るような何時もの蔑んだ視線を向け短く「貴様にくれてやる」と言った。


このような視線は大抵誰に対しても行う物なのでヨキとして気にならない。

それよりヨキとしては気になるのが、やると言われた抜き身の刀だ。


「コレは……」


ヨキは目の前のよくわからない剣について無礼とは知りながらもフォルダに聞いてみた。

本来なら解雇ものの失態にも関わらずフォルダは寛大にも蔑んだ目線を強めるだけで答えてくれた。


「魔王様が身に付けておられた物の一つだ」


フォルダが魔王と言うとややこしい事この上無いが、フォルダが魔王と言う場合指すのは初代で先代の魔王だ。

初めて魔王へと進化し、一から国を作り上げた英雄。

残念ながら300年の寿命をまっとう出来ずに戦死してしまったが、その遺志は今日まで生きている。


そんな男が身に付けていた物が単なるナマクラな訳がない。

ヨキには判断する事は叶わないが、凄い物であるということは理解した為、全力でフォルダの行動を止める。


「このような物を使う訳には……!私のような者に下賜される事はありません!」


刀を返そうとするヨキに対してフォルダの目は更に冷たくなり、最早絶対零度を下回っていた。


「思い上がるな、クズが。誰が貴様の為だ。頭でも沸いたのか?契約をソチラから破られたら堪った物じゃない」


一辺の容赦も無い言葉がヨキを強襲する。

だがヨキにへこたれた様子はなく、固辞せんと必死である。


「私よりもロレック様や四天王の方々の方がよろしい筈では……」


四天王と副官では圧倒的に副官の方が権力が大きい。

四天王四人と副官一人の権力が同等なのだ。

5人で行う最終議会では四天王が全員反対に回らなければ副官の意見が優先される。

四天王と副官の意見が完全に分かれ、4対1になった場合のみ四天王の意見が優先される。

四天王はそのまま王の守護を担当する近衛とそれぞれ4つの師団を抱えているが、副官は一名のみで4つの師団と親衛隊を統帥せねばならない為に親衛隊隊長等は副官補佐のため四天王とほぼ同一の権限を持っている。


そのためヨキの答えは副官が氷魔法を専門としていない以上的外れな事であり、案の定その言葉を聞いたフォルダは更に眉間の皺を増やす。


「貴様は耳で裁縫ごっこでもしたのか?貴様の様な雑魚にはこの刀を付けてやらねば死ぬだろうが」


フォルダは言葉を替えて先程と同じような事を言った。

契約を守る為に必要だ、と。

ヨキとしてはそれでも辞退したかったが、最終的にはフォルダの国家反逆罪で処刑するぞ、という言葉で渋々受け取るしか無かった……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



メルトは攻防の中ある種の危機感を覚えていた。

それは負けるかもしれないという現実的な予感。

ヨキの方が強いという無視できない現実。


「(このままじゃ確実に負ける……状況を打破するには完全変化しかねぇ……)」


完全変化。


悪魔族の姿になる事で爆発的な身体能力を得る事が出来る。

しかしその絶大な身体能力の反面、オメガと精神的に近付く為、常にオメガとの肉体の綱引きをしなければならなくなる。


現在のメルトが理性を安定して保てるのが四肢のどれか一つ。


現に前に完全変化をした時メルトは完全に理性を失い、暴走してしまった。


「(何迷ってんだ、俺……迷って戦闘する手段を捨てるなら、負けるのと同じじゃねぇか!

迷ってる暇なんてねェ!前を見ろ!)」


敵を倒す事を再確認し、完全変化の前段階として体を作り替えていく。

腕が紫の巨腕となり、足を胴を悪魔族のそれへと作り替える。

敵が元部下であったからなのかオメガからの乗っ取りが何時もより激しい。


「(黙れ!!お前の主人は俺だ!!)」


自らの内なるザワツキを黙らせると、吹き上がる力と万能感をコントロールする。


「≪完・全・変・化≫!!」


顔が山羊というよりかは犬に近くなり、口からは牙が口内に収まらない程伸び、髪は生え放題で後ろにオールバックにしたツンツンとした毛が腰辺りまで伸びている。

服は腰回り以外は破れ去り、筋肉質な体を晒している。

二メートル半程に全体が大きくなったためか先程までの釣り合いの取れていない不格好さはなく、遠くから見ればむしろ細身に見えるだろう程均整の取れた体つきだ。


「ホウ……コレはまた懐かしい」


メルトの完全変化にオメガのかつての面影を見たのか感嘆を示すヨキ。


「ワリィがこの姿は長く持たなくてな。サッサと決めさせて貰う」


ヨキに浮かぶ郷愁の念にそう言ったのだがヨキは別な風に受け取ったようだ。


「フッ、クハハハハハ!!」


唐突に笑い出すと何がそんなに面白かったのか敵であるメルトから目を離す程の笑い声を上げる。


「何が可笑しい!!」


メルトが叫んだ事で漸くヨキがメルトの方を向くといかにも笑いを堪えきれないといった表情でメルトに語りかけた。


「貴方……もしかして忘れているのですか?」


幼子に諭すような口調でメルトに問うが、別にメルトの答えを求めていた訳ではなかったようでメルトの答えを待たずに続けた。


「私が……悪魔族だということを!!」


楽しくて仕方がないとでも言うように両手を広げ、神に祈るようなポーズになったかと思うと一言呟いた。


「『擬態解除』」


その言葉とともにヨキは変身する。

まるでさっきのメルトの変身を早送りしたかのような速度の変身だ。

あっという間に人間の風貌からメルトによく似た風貌へと様変わりする。


「チッ……やはり暴虐性が有りますね……まぁ、抑えられない程ではありませんが……」


変身した自分を見下ろし小さく舌打ちすると、正面のメルトに向き直る。


「戦力は同じって訳か……」


メルトが呆然と呟くとそれを目敏く聞き付けたヨキが嘲笑する。


「浅薄な見立てですね……。少し考えれば分かるでしょう?本来の姿である私のこの姿は無制限。しかし貴方はさっきの口振りからするとどうやら時間制限があるようだ……。私は時間稼ぎをした戦い方で充分勝ててしまう」


的を射た発言に自然とメルトが歯を食い縛る。


「それに……私にはコレが有りますしね…」


そう言って手に持った氷吏を見せびらかすように持つとニヤリと笑う。


「さて、では貴方に時間が無いようなのでサッサと終わらせて差し上げましょう」


そう言って一旦氷吏を納刀し、居合いの構えを取る。

クロスバに教えてもらった動きだ。


刀に手を添えたままメルトに向かって悪魔族の身体能力を存分に使い走り込むとそのまま抜刀する。


「≪神誓の氷結≫」


辺り一帯ごと凍らせる技を発動させ、振り抜く速度で空間が氷結していくが、メルトには届かなかった。

一旦後ろに下がったメルトは後ろの建物を利用してヨキの右斜め後ろの建物まで飛び、もう一度一蹴りするとヨキの背後に降り立つ。

一切のムダを省いた動きであり、普通の人間には残像すら見えなかった筈だ。


そう、普通の人になら。


「遅い!!」


ヨキはそう一喝すると氷吏を持っていない方の手でメルトの突きだした拳ごと叩き潰す。


「≪重撃≫!!」


ヨキはメルトを片手一本の力のみで吹き飛ばす。


「グハぁ!!」


ガシャァアアン!!


吹き飛ばされ、建物に突っ込んでいったメルトに向かってヨキは語る。


「遅いんですよ……そのオメガのポテンシャルならもっとスピードが出ていい筈ですし、戦い方も雑です。ただ身体能力に任せて暴れているだけ……話にもなりません」


ビキキ……。


双方とも何処からともなく聞こえてくる音に耳をすませる程余裕はなく、この何とも知れない音は無かったように流される。


ガラガラ。


メルトが瓦礫から立ち上がるとヨキは驚く。


……既にメルトの変身が解けていたからだ。


「持続時間も短すぎますね……基本その力では戦闘が出来ないと見て良いでしょう」


ヨキの落胆の色を正しく示したその姿はしかして落胆した本人に破られる。


「るせぇ!ゴタゴタ言ってねぇで掛かってこい!!まさか今のが全力か?」


頭でもぶつけたのかフラフラと立ち上がるメルトをヨキは真っ直ぐ見やる。


「良いでしょう……心掛けだけは及第点にしてあげましょう」


その時だった。


ドガァァァン!!


死刑台より……新たな魔人が誕生したのだった……。

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