20話記念正也外伝俺の周りで主人公がゲシュタルト崩壊し始めた件について
遅くなってすみません!!m(__)m
彼は主人公だった。
彼は牙を持った獣だった。
しかし彼は出会ってしまった。
自らでは決して勝ち得ない獣に。
その獣は彼より大きな牙を持ち、彼より鋭い爪を持ち、彼より遠くを見通す眼を持っていた。
彼はその獣に牙を砕かれ、爪を剥がされ、眼を潰され、戦意を挫かれた。
彼はその決して勝ち得ない獣と付き合う内に自らが牙を持っていたことを忘れ、爪を持っていたことを忘れ、眼を持っていたことを忘れ、獣で在った事を――主人公で在った事を忘れた。
彼は人に成り下がってしまったのだ。
その事実を知った獣は彼の事を陰で怠け者の天才と呼ぶようになった。
いつの日か獣に戻る事を願いつつ、自分が獣に戻らせると誓いつつ。
在りし日の彼の輝きに眼を細めながら。
――――正也 視点――――――――
「ほら、早く起きなさーい!遅れるよ!」
下から母親が俺を大声で呼ぶ声が聞こえる。
毎度毎度の事だ。
その声で睡眠へ導入しようと低空飛行していた意識を苦痛を伴いつつ無理矢理覚醒へと向かわせる。
ここは二階の東向きの最も無難な部屋だ。
壁に掛けられてる時計を見ればいつも通りの結構ギリめな時間だ。
どうやら俺の目覚まし時計は独りでに止まってしまうらしい。
いつの間にかスヌーズ状態になっている目覚まし時計を見ながらそう自身を正当化する。
「ふわぁ〜あ」
三大欲求への名残惜しさを大あくびと共に吐き出し、デジタル式の目覚まし時計を次の日の為にセットする。
ついぞ役に立った事は無いが……。
ある種のルーティーンというよりは単なる習慣である。
どうにもこの記号のような数字を見てる間に眼が覚めるような気がする。
まぁ、それが本当なら母親の世話になる筈は無いんだがな……。
考え過ぎるとプラシーボ効果が無くなる気がするのでこの辺りで止めとくとしよう。
すっかり覚醒した頭で着替えを済まし、トトトトトと軽快かつ滑らかにフローリングの階段を駆け降りる。
重力を利用しつつ軟骨を十全に使用した最も速さを得られる降り方であり、若い内しか出来ない膝に重篤な被害をもたらす降り方だ。
「さっさと顔洗って来なさーい!」
母さんがご飯の用意をしつつ叫ぶ。
家の母さんはまぁまぁ美人だ。
テレビに出れるって程じゃないけど若作りには成功してる方だと思う。
30前半にしか見えない。
実年齢は……勘弁してくれ。
俺だって命は惜しい。
洗面所でまず左手で蛇口を捻り顔を右手で洗っている間に左手で手探りで壁掛けのタオルを用意する。
顔をおでこ、目、口と三分割し、それぞれ洗った後左手のタオルに顔をうずめつつ空いた右手で蛇口を閉め手拭きも兼ねつつ顔を拭く。
横着するなとよく言われる。
完成された動きだと思うんだけどな。
そう思いつつ顔を上げ鏡越しに先程より幾ばくかシャキッとした顔を覗く。
自分ではまぁまぁイケてると思うんだけどな。
その顔は日本人らしい黒髪黒目、見目麗しいとまでは行かずとも母親譲りのキリッとした目に細目の眉、通った鼻筋。
贔屓抜きで上の下から上の中に含まれる顔だ。
普通ならまぁまぁイケてるなんて低い評価には到底ならない筈だが正也は違った。
優人には負けるか……。
正也は思い出す。
上の上から下の下までの人の勝手な9段階評価を飛び越えて皆から特上を得るだろう友の顔を。
絶対どっか日本以外の血が入ってるだろアイツ。
日本人の理不尽さに毒づきつつリビングに行き朝食の席に座る。
父はとっくに会社に行っており、朝食を食べるのは俺一人だ。
メニューは食パンと鯖の水煮(缶詰)と野菜ジュース。
……うん、栄養バランスが完璧だね!
変に目玉焼きとか作るより潔いよ……。
これ以外に誉め言葉が見つからないサバイバル料理を食す。
母さんは料理が苦手だからなー。父さん作っといてくれれば良いのに。
正直に言えば料理が苦手云々というレベルの話ではない。
どんな料理下手もルーがあるんだからカレーライスは作れる、という神話があるが、それを打ち砕いたのが母さんだ。
父さんが宥めつつ俺が出来上がったダークマターを廃棄するという完璧なコンビネーションを見せたのは苦い思い出である。
その時の父の愛してると言った言葉の虚しさよ……。
だから家では料理は父さんか俺の担当だ。
男の料理ではあるが母さんよりはマシという現実の不条理。
灰色の記憶を思い出しながら食べていたせいで食事がいつの間にか終わっていたので缶と紙パックを片付け玄関に向かう。
「行って来まーす」
スポッと足が入る為にお気に入りの靴を履き足のポジションを直しつつリビングに居る母に告げる。
「ほーい!」
フー……。
これから学校へと踏み入れる覚悟を決めつつ扉を開ける。
ガチャ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「どうしたの?難しい顔して」
周りを警戒中の顔が不機嫌そうに見えたのかさっき合流した咲良がそう覗き込んでくる。
「ああ?何でもねーよ。俺よかテメーのアホ面直せ!」
基本アホ面である事以外は普通の女子高生である咲良だが、ある巨大過ぎる欠点が彼女を異常たらしめている。
「……人がせっかく心配してやってんのにッ!そういう言い方はないでしょ!!」
モーレツに不運なのである。
「ハン!そいつを言やぁ俺だってテメーのアホ面の事心配してやってんだろうが!」
こういう言い方は好きじゃないけど、説明にピッタリだから使わせて貰う。
ドジッ娘って言葉を知ってるか?
「その口調絶対心配してないじゃない!!」
俺も詳しく無いんだけど転んだりとか花瓶壊したり色々ぶちまけたりする奴って認識だろ?
咲良に照らしてみりゃそんなのはにわかだとすぐ分かる。
「ハイハイ、そーですねー」
自分から起こす不運なんて物はたかが知れてる。
コイツは不運を起こすんじゃない、不運が起きるんだ。
「何よその空返事!」
どういう事か分かんない?
さっきのドジッ娘の例で言うとだ。
花瓶を壊すんじゃない、コイツが持った瞬間経年劣化で割れるんだ。
違いは分かるだろ?
「だってバカに合わすの大変だから止めとこうかなぁって」
未だ分からなきゃコイツの前歴教えてやろう。
色々と凄いぞ?
「アンタねぇ〜!その減らず口今すぐ訊けなくしてやるわよッ!」
殺人事件に遭遇。
誘拐される。
詐欺に遭う。
修学旅行で迷子になる。
野外学習で調理中の豚汁にカエンダケ(猛毒)ぶち込む。
野外学習で火災が起き途中で中止になる。
スキー教室でマグネシウムの燃焼実験、雪上に直径三メートルの土を露出させる。
乗り物遠足、運転不可にさせる。
学校のガラスが割れる。
学校の花瓶が割れる十。
学校に時限爆弾が設置される。
その他諸々だ。
「やってみろ!!」
半分は自分で起こしてるような気もするが、悪意が有った訳では無いので良しとしよう。
そんなこんなで何時もの如く二人で睨み合っているせいで少し警戒を怠ってしまった。
学生服を着た不良らしき四人がコッチへ近付いて来たのだ
通り抜けようと試みたが一人の腕に遮られてしまう。
「オイオイ、どこ行くんだよぉ〜。俺達さ〜今金欠なんだよね〜。良かったらさ〜金置いてってくんない?」
しまった。
と思った時にはもう時既に遅く四人に囲まれてしまっていた。
「いやー、先輩。残念ながら俺達も今金もってねぇんすよ〜」
こんな朝っぱらからかよ……。
どうせこれもまた咲良が引き寄せたに違いない。
さもなくば今時こんな絶滅危惧種(不良)がこの辺りにいる筈がない。
何度も通り抜けようとするが男達はニヤニヤしながら進路を妨害する。
「そんな訳ねぇだろ〜。俺が直接確認してやっから財布ごと出せよ〜」
詰んだな……アレだ優エモン助けて〜って所か。
マズイ、マジで不味い、このまま行くと確実に誰かしらの物語に巻き込まれるな。
今の俺達の現状は不良に絡まれる生徒A、Bって役割を果たしてる。
このまま行くと多分モブ顔ハーレム辺りが助けに来んじゃねぇか?
うわっ、マジでか。
俺アイツ嫌いなんだけど……。
この際金と遅刻については諦めてやってもいい。
だがあーゆう奴等との接触は断固固辞する。
あんな奴等に関わるなんぞ時間のムダ以外の何物でもない。
「あー、すみません。金は俺だけで咲良は見逃してくれません?」
彼女にとって正也の言葉が意外だったのか咲良は目を見開く。
「ちょっと正也!何言ってんのよ!」
咲良が正也の肩を掴んで揺さぶりながら大声で叫弾するのを見ると不良達は更にザラついた笑みを深めつつ。
「いやぁ〜ムリだな。ソイツは出来ねぇわ〜。キッチリ二人分払えよ」
不良達は正也の格好つけを打ち砕く言葉を吐いた積もりだったが正也には届かなかった。
正也にとって予想通りの返事であり、代替え案はもう既に組み立ててあったからだ。
うし!んじゃ、報復とかメンドイけど一発かましてトンズラと行くか!
主役どもと関わるなんぞゴメンだしな!
「お前らストップ!そこまでだ!」
朝日で少し見えないが坂の上の方から男が叫んでいる。
遅かったァ〜〜〜。
畜生。もうちょい早めにアクション起こしとけば……。
いや、今からでも逃げて関わり合いになるのを避けるべきか?
「誰だテメーは!?」
坂の上に向かって不良が声を張り上げる。
「チッ!よっ、と!」
その声を聞いた男は気だるげにうなじ辺りを書いたと思うと坂を坂をひとっ飛びでこちらの近くに着地する。
「ウ、ウソだろ!?十メートルはあるぞ!!それを助走なしで!?」
距離が近付いたお陰で逆光がなくなり顔が見えるようになる。
あれ?モブ顔ハーレムじゃねぇな?
そういやアイツは美少女しか助けないんだっけ?
いや違うか、助けた奴が美少女だっただけか。
結果的には一緒だな。
「ここは俺様の通学路だ。通行料として財布置いてけ」
現れたのは研ぎ澄まされた筋肉がはち切れんばかりについたヤンキーの男。
ジムで鍛えられた物ではなく野生で磨かれたような筋肉だ。 通学路と言った割には学生服は着ておらず黒のタンクトップに一見学生服っぽい黒ズボン。
勉強道具や鞄の類いは一切持ってない。
「誰がテメーなんぞに……」
「お、オイ!待て!コイツは組を一人でぶっ潰したとかいう伝説のヤンキー。返り血の錬哉じゃねぇか!?」
あっ、ヤベッ!ボーッとしてる間に主役の口上が始まっちまった!
サッサと逃げねぇと巻き込まれる!!
「構わねぇ!!やっちまえ!」
何で情報貰ったのに勝負仕掛けちゃったんだよ!
組を潰したような奴に素手で勝てると思ったの!?
バカなの!?
せめて俺達の反対方向に逃げろよ!
使えねぇな!
「チッ!面倒増えたじゃねぇか……」
青年はそう呟くと自らに四人を見据える。
腰を落としたファイティングポーズを取ったかと思うと、まず一人目の顎を蹴り砕き吹き飛ばす。
そして空いたスペースに体を入れ込むと左右の男をワンツーパンチでのして最後のへたり込んだ男を踵落としで昏倒させた。
慣れた手つきで財布を漁りシケてやがる、と呟きながら札だけ抜き取り財布を気絶している男どもの上に放る。
「いやー、ありがとうございます!助かりました!」
穏便に終わらないかなーと淡い期待を込めつつ揉み手で後ずさる。
「あ?誰が助けただ?テメーらも通行料だせや」
ですよねー。
絶対言うと思った!
「どうせそれでおとなしく帰す気はないんだろう?」
どうせボコボコにして明日も持ってこいとか言うもんな面倒臭い。
「分かってんじゃねぇか」
男は口端を釣り上げ野性的に笑む。
「後から優人に頼るのも何だし、今負けたら付きまとわない?」
優人なら一瞬でボコれるだろうけどあんまり頼るのもなんだからな。
「俺様は負けねぇよ!」
作戦は続行。
一発かましてトンズラする。
少しでもビビらせたら即撤退だ。
「それでこそ正也よ!」
何かハッタリで勝負する振りだけしようとしたら隣から満足気な声が聞こえてきた。
どうやら先程のチンピラへの態度が不満だったらしい。
いや知らんがな。
生き残るためには処世術って大切なのよ?
「ハッ!ほざいてろ!!」
そう吐き捨てると錬哉はアスファルトを思いっきり蹴り、此方に突っ込んで来る。
先程の十メートルジャンプでさえ児戯だったと言わんばかりの猛スピードだ。
振りかぶったのは右手そこからの軌道を見極めるとその軌道上に手を構え錬哉の手がそこに入って来るのを待つように防ぐ。
バチィン!!
イッテェェェェ!!
なんつー威力してやがるコイツのパンチ。
手を引きつつダメージ減少させたっつうのに何でこんな音すんだよ!
「俺は見逃してくれるだけで良いからさ〜ここで引き分けって事にしない?」
内心の痛がりは隠しつつ澄ました顔で聞いてみたが効果は薄かったようで……。
「なッ!俺様のパンチを!……良いだろうそんなに食らいたきゃ食らわしてやる!!」
アララ……逆効果?
参ったなぁ……もう遅刻ギリギリじゃない?
錬哉は今度は左手を大きく振りかぶる。
そんな受け止められたままの姿勢じゃ威力出ないよ?
もう一度軌道を見極めるとその拳の軌道上に手を置く。
ガツン!!
見事に鼻っ柱に食らい自ら後ろに飛んでダメージを減らす。
鼻を擦ると見事に赤い血がついて来た。
まさか肘鉄で来るとはな。
一回で見極められて即座に対応されるとは思わなかった。
普通の肘ならかわしてたが直前まで拳の振り方だ。
まんまと騙された。
掴んだ右手でアイツの体勢崩してなかったら鼻を骨折かずれてたな。
「ハッ!弱いな!そんなへなちょこじゃ人に頼ろうとするのも分かるわ」
その言い種に頭にカーッと血が登るのが分かる。
思考を全部ほっぽりだして相手の事のみで頭のキャパを一杯にする。
「上等だ!ぶちのめしてやる!!」
久方ぶりに彼が獣になった瞬間だった。
ギャグの積もりだったんだけどなー。
何でこんなに熱くなったんだろう?
一応続きません
森沢和宏のスピンオフとピカチュウ高校の紹介したかったのにそこまで届かなかった……。m(__)m
全て作者の至らない故です
申し訳ございませんm(__)m




