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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
18/107

18 逆鱗2

つまらないとかでもいいので感想とかブクマとか反応を下さい!

お願いします!!

――――優人 視点――――――――


遠くに見えるのはリュートという名の夢魔の外渉担当のようだ。


高く通った鼻筋、薄い唇、白い肌、黒髪黒目のこの世界に珍しい日本人よりの顔立ちをしている。


日本人よりというのは黒目黒髪こそ優人と同じだが、顔の作りが全く違う。


瞳や髪はともかく顔自体の作りは西洋の血が色濃く影響されついる。


分かりやすく言えば外国人が髪染めてカラコン付けたって所だ。


似合っては居るが外国人なのは変わらない。


それに髪と瞳のせいかな。イケメンなんだけど……どこか暗そうな男だ。


いや、暗いっていうのは違うな……。


何て言ったら良いのかな……。


こう、どこか耐え兼ねるような、何かを諦めるような、そんな顔だ。


「以上で報告を終わります。続いてイテナの情報を余さず知りたいとの事ですが……」


リュートは別に俺に話している訳ではない。


リュートが話しているのは目の前に居る取り巻きBだ。


俺はリュートの斜め後ろの見張り台に居てその話を見ている。


声が辛うじて聞こえる辺りであり、恐らくリュートは気付いてない。


見方も木を削って隠れながら見てるしな。


「ああ、何とかならんか?」


夢魔の担当の仕方と言えば直接話すのがB。念話だかで話すオブザーバーがAだ。


「ええ、ではコレをお持ち下さい」


そう言って取り出したのはドリームキャッチャーと呼ばれるちっこい虫取あみみたいな奴だ。


ドコの伝承だったかな……。


確かアメリカインディアンのオブジワ族の装飾品か。


異世界の世界観が台無しだがどこから伝わったのだろうか。


「コレを枕の下に敷いて寝れば我らが手に入れた情報を同じ時に見る事ができます」


ふーん。


確かに腕は凄いからな俺は昨日記憶を盗られた筈なんだが全く分からなかった。


いや、分からなかったんじゃなくて覚えてないって所か。


見に覚えの無い情報のみが頭に残ってるからな。


「おお、そうかすまんな」


取り巻きBがリュートの手からドリームキャッチャーを取り上げる。


「ありがとうございます金貨8枚になります」


すかさずリュートが別途資金を要求する。


「ぐっ……。白金貨で良いか」


苦い顔になりながらも巾着袋から白金貨を取り出す。


「ええ、お釣り金貨二枚です。ではこれで」


そう言ってリュートは去って行く。


勿論、去り方としては夜の者に相応しい消えるような去り方だ。


多分門は通らないだろう。


しかし白金貨か……。


高いな。


数日たって計算してみて大体の価値が分かるようになった。


10枚ごとに位が替わる10進法だから一つの貨幣の価値が分かるだけで自動的に分かる。


俺が目を付けたのは金貨だ。


金貨一枚10グラム。


俺の持ってる一円玉で確かめたからそれは確か。


で、金の含有率を導きだそうとした。


大体金の含有率は50%程度だな。


で、10グラム中5グラム程度が金だ。


金の市場価値は1グラム4800円。


一枚2万4千円プラス他の金属で3万位かな。


で、国が信用価値を与えないと通貨にならないし、魔物とかも居るらしいし、多分文化水準的に見ても採掘は難しいだろう。


だから大体一枚5〜10万円の価値はある。


範囲が広いのは仕方ない。


計算がしやすいよう一枚10万にしよう。


だから金貨8枚って言うと80万。


ドコのぼったくりだ。


まぁ、俺としてはそんなに痛まないけどな。


何せ前金として白金貨10枚、つまり一千万貰ってる。


ちょっとなら無駄遣いしても構わないだろう。


まぁ、通貨としておかしいのは最低が鉄貨の100円しか無いことだが、多分ビタ銭みたいのがあるのかな?


まぁ、いずれ城を出る時に分かるだろう。


更におかしいのはプラチナは10倍の値段じゃ効かない筈だがそこら辺はどうなんだろうか。


市場操作が何者かによってされてるのか?


国……程度じゃ無理か、クソ神辺りかな。


しかし魔王の首の値が50億ってすげぇよな。


しかも、一人50億だし絶対国傾くよな。


どうすんだろう。


まぁ、二人の事じゃないしどうでも良いか。


イテナさんに近付いてドンマイって事で。


実際イテナさんに脅し取られたようなもんだし。


あの時の殺気凄かったからな。


押し潰されるかと思った。


やっぱりアイツの情報は必要だ。


その為には80万位は安いもんだ。


数日中に得られるだろう情報を思い優人は口の端を吊り上げる。


さぁて、どう利用してやろうかな。


〜〜〜〜同日夜部屋にて〜〜〜〜〜〜〜〜



数日中だった予定が急きょ今日になった。


昼に取り巻きAに耳打ちされたのだ。


こっちだって色々予定立ててるんだがな。


急に予定変更するのは止めて欲しい。


お陰で今日の予定が台無しだ。


誰のせいだ。怨むぞ全く。


まぁ、実行する前で良かった。明日に回せる。


そうして優人はベットに潜り込みこれからイテナの情報を精査する事にかなりの高揚感を感じ眠る体勢に入る。


さぁ、金貨4枚もしたコイツを試すときだ。


俺の手の中には金貨4枚でBから買ったキャッチャーがある。


ん?金貨8枚だろうって?なんの事だ?ちょっと何言ってるかよく分からないな。


さて、枕の下に敷いて寝るんだったかな。


まるで初夢祈願みたいだな。


まぁ、別に手間も少ないし良いけど。


優人は精神統一も兼ねて瞑想しながら心を落ち着けて行った。


呼吸のみに意識を集中させ全ての雑念を排除していく。


数十分程で睡魔に捕まり夢に堕ちて行った。


そしてイテナの記憶の欠片が次々優人に襲い掛かり始めた。


〜〜〜〜イテナの追憶〜〜〜〜〜〜〜〜



「クソッ!!」


ガシャンガシャアン!!


メルヴィルに来て二日目。


イテナは部屋の中、一人荒れていた。

勿論、部屋の中も周囲にも誰も居ない事は確認済みである。


花瓶は砕け破片にイスは木片と化し部屋に散乱している。


今も机を叩き付けたばかりである。


「クソッ!!……何故だ!?何故……後もう少しだったのに!!畜生!もう少しで……クソッ何故だ!!」


横倒しになっているテーブルに何度も何度も固く握った拳を打ち付ける。


ドシン!ドシン!と一撃ごとにテーブルが悲鳴を上げヒビが広がって行く。


大理石や御影石等の何らかの石英系の石で作られているこのテーブルはこのまま打ち続けられれば、近い将来拳に負け粉々に砕かれてしまうだろう。


勿論、これは後からバレないレベルで修理するし、どうにもならなければ時間を戻すだけだ。


今イテナが柄にもなく感情に支配され破壊行動に走っているのはこのメルヴィルに呼ばれた事に原因がある。


もっと正確に言えば呼ばれた事に付随する弊害がこの惨状の原因だ。


トシン……トシン。


「もう少しで貯まる筈だったのに……後金貨400万枚で俺は……畜生!」


金だ。


欲望の始源にして最も強力な力持つ概念。


イテナは折角苦労して集めた金を置いてきてしまったのだ。


元々用心深い性格であるイテナはそのほとんどの資産を持ち歩いていた。


それが一番のセキュリティだからだ。


武器、携帯食料、金。


他にも彼の持つ物は色々有るが大体は彼の持つ影空間にしまわれている。


ただ、それは大体で全てじゃない。


置いてきた金額は金貨400万枚。


所有する全金貨の4分の1である。


全資産では微々たる物だが彼にとって持ち物で一番大切なのは金である。


それなのに後400万枚で目標を達成していた筈が残り800万枚に逆戻りである。


しかもようやく裏の王として急速に集まり始めていたのが10年前の振り出しに戻った。


また一から人脈もコミュニティも作り直さねばならない。


「必ず……後800万枚集めきる……必ず。待ってろよ……」


自らに誓うように呟くイテナの目は昔を思い出したのか酷く悲しみに堪えていた。


その修羅の如く寂しげな顔を辛うじて形の残るテーブルがひっそりと見上げていた……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



14の少年は走る。


さっきの悪魔のような光景を思い出して。


恐らく後方にいるバルサムは二度と立ち上がらない。


バルサムはイテナが初めて心を開いて彼の心の中では孤児であるイテナがただ一人“父”と慕う男だった。


大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。


人を殺すのは二度目だ。一度も二度も大した違いはない。


それでも先程の光景や過去がフラッシュバックする。


止めろ!決めたばかりだろ!と思うが止められない。


郷愁の波に彼は襲われた。





少年はスラムの出だった。


母と姉の三人暮らしだった。


母は娼婦であり、元々は大きな娼館に勤めていたものの姉を身籠り一時休業をせざるを得なくなった。


流産させようとしたが金が無かったのだ。


そして誰が父親とも分からない子を産み、休業のせいで金が底をついたためもう一度頭を下げて雇ってもらった。


そして身籠ったのがイテナである。


イテナが産まれた後も母親は娼婦を続けた。


そして母も若さは消え、先が見え、二人の子供を育てるのに限界を感じ始めた辺りで母はイテナを売った。


三歳か、四歳になろうかという年の頃である。


姉を残した理由は姉を売っても生き残る可能性が無いからだ。


姉は八歳。変態の慰み物になるか享楽で殺される位しか道は無い。


だが男なら、まだ人足として生き残れるかも知れない。


そうしてイテナを奴隷商に売ったのだ。


その後イテナは競売にかけられる。


買い手はほとんどつかなかった。


こんな小さな年頃の子供を買ったとて使い道が無いからだ。


あわや鉱山行きかと思われたがその寸前で金貨一枚というスラムの子にしては珍しい高値で買われる事になった。


イテナを買ったのはバルサムという男。


おかしな男で本来結ぶ筈の奴隷印を結ぶ事はなかった。


奴隷印とは被差別者の烙印であり、魔力による強制でランクこそあるが大抵の命令は聞かせる事が出来、使役者を殺す事は出来ない。


そしてその魔力は付けているだけで徴収されるため使役者の苦労も少ない。


この印が付けられている者は基本どのように扱われても法に触れない。


使役者さえ生きて居なければこの印を持つ者は誰にどんな事をされても文句は言えない。


それが奴隷印だ。


バルサムは金貨一枚というかなりの高額な値段でイテナを買ったため手数料を引いた銀貨数枚が売り手である母に渡る事となった。


母親は久し振りの銀貨収入に喜んだが全く男の印を刻まない理由が分からなかった。


この日からイテナは男の奇妙な奴隷になった。


バルサムに連れて行かれて十日。


初日こそイテナは男の息子の従者になるように言われたものの、十日目から方針が変わった。


毎日、毎日殺されかけるようになったのだ。


まず今にも潰れそうな小屋に連れて行かれた。


そしてそこから地獄が始まった。


朝は川での沐浴等雑事に追われる。


そして出される致死量ギリギリの毒入りの飯の後に一方的に蹂躙される。


長いいたぶりで出血多量で殺されそうになった後、気がつけば気絶しており、朝になっている。

それの繰り返しだ。


毎日、毎日繰り返される常に変わる事の無い地獄。


基本付きっきりで度々仕事で空ける時があったがその時はバルサムの分身が“教育”を請け負った。


俺を殺さなければ終わる事は無い、と言われいつ如何なる時でも反撃を許された。


しかしどんな攻撃もかすりもせず、食事に毒を入れても効果は無かった。


この男を殺すために何をすれば良いか、そう考えるようになったイテナは来たる一日の為に技術を盗み読み日を数える事にした。


そうして三年程が過ぎた頃。


その頃になるとイテナはバルサムを殺す事が出来るだろうと確信を抱いていた。


だが、既にイテナは方針を変えていた。


殺す、というのは出来る。しかしそれは騙し討ちであったり、罠であったりといった偶然の産物だ。


どうせならバルサムの技術を全て盗む事にしたのだ。


今ここで逃げてもツテが無い、物乞いをして野垂れ死ぬのがオチだ。


しかしここなら少なくとも飯は食える。


だとしたらここにいる方が無難だし、その間退屈しないで居られる。


そう思い、イテナは来たる日のために犠牲にして来た一日一日を取り戻し始めた。


欲しい技術の見本を見るために出すように誘導したり、技術の習熟具合を誤魔化す為に演技したりしたのだ。


そして更に四年が過ぎ、十歳になった頃。


イテナは軽く絶望していた。


バルサムが蹂躙されている、という演技に気付かないのだ。


イテナは辛かった。かつて巨峰の如くそびえ立つ壁だったバルサムは最早見る影もない。


家族の事を寂しそうな顔話す顔も見る事は出来ない。


グシャグシャに髪の毛を乱される大きな手は最早見れない。


あの男とは比べ物にならない別人のちっぽけな男が居るだけだ。


それほどまでに“父”が小さく見えるのだ。


あの時に技術を全て盗む何て言わずに殺して置けば良かった。


そうすればこんな思いを味わう事は無かった。


だがそれでもまだ得るべき物はあった。


知識だ。


知識や経験ならば追い付く事は無いだろう。


何せこれだけの年齢の隔たりが在り、更に相手も成長し続けている。


そんな祈りも込めて口数の少ないこの男から一つ一つ知識を読み解いて行った。


知りたい情報に誘導しバルサムの考えを聞いていく。

そうして四年。


バルサムの中に最早知らない知識は無かった。


最早父に利用価値が無くなってしまったのだ。


それと同時に思い知った。


結局知らず終いだった父の姿を重ね、愛を求めていた事に。


イテナはバルサムを利用価値で見ていた訳では無かったのだ。


イテナは男の俺を殺さなければ終わる事は無い、という言葉に希望を見出だしていた。


イテナはこの男と離れたくは無かった。


殺しさえしなければ一緒に居られると。


しかし側に居る理由が無くなった。


バルサムと一緒に居る意義が見い出だせなかったのだ。


本当に辛かった。


逃げるように教育を受ける事は分身に任せ、外で初めて“仕事”をした。


確かに嫌悪感は凄かったが、思った程では無かった。


少しバルサムから聞いていたからかも知れない。


戻って来てもバルサムはイテナが分身であったことに全く気付いて居なかった。


そこには全く変わらない毎日を過ごす二人が居たのだ。


その日常のサイクルの中にイテナは居なかった。


おかしな話だがこの瞬間イテナはバルサムを誰かに盗られてしまったかのように感じた。


バルサムはそこでしごかれている分身のバルサムであって自分の親ではない。


そう思ってしまったのだ。


それでも寂しさを演技で押し隠し退屈な毎日を過ごした。


毎日負けた振りをして寝床に入る。


そしてその演技にもバルサムは気付く事は無かった。


数日の悩んでる間バルサムと話す気は起きなかった。


一人で決めなければならない事だと分かって居たからだ。


こんな場所に二人で居た所でどちらにも意味はない。


別れる他に道は無い。


では、どうやって別れるか。


彼が死を望んでいるのは分かってる。


彼は家族を捨て俺を後継者に選んだ事でバルサムを救うには殺すしか無くなった。


そもそもバルサムは既に人生に疲れて居るようだった。


殺さなければならない事は分かってる。


だが……殺したくない……。


“俺を殺さなければ終わる事は無い”。


だが、殺せば大切なこの時間は終わってしまう。


イテナは悩んだ。


たった一つしかない答えを。


そうして夜、一人月を見上げているバルサムに近付く。


こうして密かに盗んだクナイを握り締め、全くこちらに気付かない無防備な首筋にスッと突き入れる。


バルサムは首筋に刃物が当たるまで全く気付いて居なかった。


「かはっ……」


分身であってくれと願いながら突き入れたクナイの先から出てきたのは分身を構成する魔力ではなく、正真正銘真っ赤な血液だった。

どう、と倒れるバルサムに寄り添い呼吸を確認する。


……まだ在る。


どうやら苦しませてしまったようだ。


「見事だった……。イテナの名を……受け継いで……行ってくれ。……それと……コレを……」


途切れ途切れだがしっかりとした口調で絞り出された言葉で懐に在る紙を指し示す。


「奥義書だ」


……知っている。


そこに在るのは白紙だ。もう既にイテナがスって一言一句まで把握している。


「はい……」


だがそんな事を言うことは出来ない。


小さく消え入るような言葉で返す。


何故……もっと強くなかった。何故……気付かなかった……。


何故……見てくれなかった……。何故……。


そうしたらもっと……違う事になっていた気がする。


そうして師匠としての言葉が終わった後に父としての言葉が続いた。


「お前……力を隠していたな?……父さん知ってたぞ」


……嘘だ。


イテナは瞳孔、脈拍、目の動き、匂い、呼吸、そして性格が全て嘘だと断じる。


威厳を保ちたかった嘘なのか、それとも迷いを察した嘘なのか。


どちらでもいい。


この嘘でイテナが救われた事だけがただ一つの真実だ。


「風邪……引くなよ」


それが最期の言葉だった。


その言葉を言い終わるのと同時にバルサムの全ての筋組織から力が抜ける。


体が少し軽くなりそのままバルサムは動かなくなった。


その表情は全ての仕事を終えたかのような安らかな、希望に満ちた表情だった。


急に恐ろしくなった。


仕事で殺した時よりも酷い感情がせり上がって来る。


そのまま吐いてしまえば楽になれる気がしたが、そうすれば死から逃げた事になる。


父を殺した事実と共に飲み込み、静かにここを去る。


バルサムの死体の後始末はしない。


月見を途中で止めてしまったのだ。


せめて静かに眠る時位は存分に見せてあげたい。

父の終わる日に一つだけ誓う。


決めた。俺が一番強くなる。


そうすれば最強を育てたのはアンタになる。


俺が父を永遠を生きさせてやる。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



トントン。


20を越えてしばらく立つのに17から全く姿が変わらない少年のいる部屋がノックされる。


時間は全ての時計の針が山頂を過ぎ、もうすぐ草木も眠り始めるような夜中である。


「……開いてるから入ってくれ」


それでもイテナは起きていて、直ぐに返事を出せる位には目が冴えている。


ガチャリ。


その言葉で入って来たのは薄い寝間着を着た女性だ。


赤い髪に青い目、程よく焼けた肌に主張して譲らないバスト。


「ルナマリアか。何の用だ」


深い谷底のような重く沈んだ声に対してルナマリアと呼ばれた女は答える。


「えーと、よば……じゃなくてアンタがちゃんと寝てるかと思ってさ」


一瞬どもったものの心配して来てくれたようでわざわざ訪ねて来たらしい。


「眠れてないな……眠れないんだ」


そう言ってイテナは窓を見上げる。


外には月が出ており星明かりと合わせてなんとかランプ無しでも歩く位には明るい。


「アンタさ……昨日もそんな事言ってたじゃない。まだ引きずってるの?」


声音に多少の呆れを含んだ言葉はイテナに届いても意味をなす事は無い。


「お前に何が分かる……」


そう言って心を閉ざしてしまう。


その心は冷たくきつく閉ざされており、取りつく島もない。


「見てないけど分かるよ。アンタさ、頑張ったんだろ?ダメだったかもしんないけどさ、それでもどうにかしようと頑張ったんだろ?」


その言葉はイテナをイラつかせ声に僅かな険がこもる。


「何が分かる……ッ!俺がどれだけ後悔したか。それはリンの為に何一つやってこなかったからだ」


どこか自嘲めいたその言葉はルナマリアに向けた物と言うよりも自らに向けた物のようだ。


その言葉を受けてもルナマリアはへこたれない。


「分かるさ、だってアンタ優しいもん」


自信満々にどや顔でその大きな胸を張りつつ答える。


その光景は少し滑稽であり、イテナの笑いを誘うものの、直ぐに笑みは失われ目は悲しみに堪えた色に戻る。


「金のために何人殺したと思ってる。その言葉はどこぞの正義の味方にでも言うべきだろう……」


ルナマリアは罠にかかった小鳥を嘲笑うかのように口を意地悪く歪め必殺の一撃を繰り出す。


「アタシがその証拠だよ。アンタを殺しかけたアタシが生きてるんだよ?これ以上の証拠があるもんか!」


イテナはその言葉に苦々しげな顔をする。


「チッ……!成り行きでそうなっただけだろう」


この女との出会いは最悪だったな、等とイテナは思い出す。


「生きてる事には変わり無いさ」


ハァ、とため息を吐きながらゆっくりとベットを離れ扉に向かう。


「俺はやっぱりお前は嫌いだ」


「え゛っ!」


ルナマリアにというよりは自らに対する確認のように呟いた言葉にルナマリアは過剰に反応する。


「いやいやいや、もうちょっと角度を変えて考えて見なよ。違う結論が出るだろ?ほら、心配してくれて嬉しいな〜とか、頼りがいがあるな〜とか、押し倒したいな〜とかさ」


慌ててすがろうとするがイテナが扉を閉める方が早い。


バタン。


無情にも眼前で閉められたを前に呟く。


「畜生……どこで間違えた……」


その言葉にイテナは扉越しで心に届いたから逃げたんだろうと苦々しく笑った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



15歳の少年が娼館に居る。


それだけなら珍しいような物でもない。


金を持っているのか睨まれるだけで特別でも何でもない光景だ。


しかしイテナがここに居るのは女を買う訳でも童貞を売り払う訳でもない。


「おい、聞きたい事があるんだが」


受け付けに居る中年のオーナーだろう女性に語りかける。


「なんだい」


女性はさも面倒臭そうに気だるげな声で答える。


「ここにマルタと言う女性が勤めていただろう。どこ行った?」


親の名前をあたかも他人であるかのようにイテナは聞いた。


「ここは情報屋じゃない娼館だ。知りたきゃ買いな」


その言葉にイテナは眉をしかめると懐から金貨を取り出す。


「……盗品かい?」


女性は少年から分不相応な硬貨が飛び出して来た事にイテナを胡散臭げに見下ろしてから金貨をジロジロ見る。


「まぁ、そんなような物だ」


少年は公に言えない仕事の為に軽く肩を竦めただけで女性の質問に真っ向から答えない。


「ふーん、足がついてなきゃいいさ」


どれだけ汚れていようが金は金だ。


そんな態度で女性は金貨を懐に入れる。


「で、どの子かね?」


そう言ってオーナーは女の子が沢山いる場所を指差す。


「おい、話を聞いてたのか。マルタって人はどうなった。辞めたのか?どこ行ったんだ?」


イテナは好き勝手に話を替える女性を睨みながら問い詰める。


「従業員の事なんざ知らないよ。勝手に買って勝手に聞きな」


どんぶり勘定としか思えない大雑把なオーナーに不信感を覚えつつも情報源にならなきゃ仕方ない為にイテナは妥協して買った者から聞く事にする。


「じゃあここで一番長いのは誰だ?」


下手したら勤めていたのは12年も前になる為そう聞く。


「そりゃ、もっとかかるけど?払えるのかい?」


オーナーが目利きをする奴みたいに目を細める。


「ああ?何でそんなに高いんだよ」


ぼったくってるんじゃないだろうな?、と更に不信感を募らせたイテナは聞く。


「処女だからだよ」


というふざけた答えにイテナは呆れ果てる。


「だから話を聞いてたのか?一番長い奴って言っただろ?」


それを聞いたオーナーは心外だ、とばかりに目を向く。


「産まれた時から居るんだよ。姪でね」


それを聞いたイテナは顔をしかめる。


「クソ野郎だなお前は。最悪12年前になるんだが覚えてるか?」


オーナーは気分を害したのか真っ正直な罵倒に皮肉で返す。


「お褒めに預かりありがとうよ。そうさねその時ゃ3、4歳だから本人に聞かなきゃ分からないが覚えてるんじゃないかね?」


大体同い年位なんだな。


それぐらいなら覚えてるか。


オーナーの答えに満足しイテナは満足しイテナは聞く。


「ふーん、ならいい。で、いくらだ?」


仕事以外でこういった場所に来ないイテナは言い値で買うことを決める。


「後金貨4枚だよ」


ふーん、随分高いが親戚価格でも入ってるんだろうか。


更に革袋から金貨を後4枚取りだし受け付け台に置く。


情報だけでこれだけの金が飛ぶのは少し痛いが、別に金に執着してる訳でもない。

足りなくなったらまた稼げば良いだけだ。


金なんてものは仕事の評価を測る物差しでしかない。


「かなり持ってるじゃないか」


見せびらかした訳じゃないが横からチラリと見えてしまったようだ。


オーナーが目を細めながら聞いてきた。


「金は有る所には在るもんだ」


オーナーは疑わしそうにこっちを見ながら感慨深げに言った。


「そういうもんなのかねぇ。さぁ、話が長くなった。ルナマリアァ!降りといでぇ!」


オーナーが天井に向かって大声を上げるとドタドタと忙しそうな音がして一人の少女が降りて来る。


「は、はい!只今!」


ルナマリアと呼ばれた少女はそう言って急ぎ足で来た。


赤い髪が特徴的な少女だ。


休憩中だったのか少しだらけた服装をしている。


「何、サボってんだい!仕事だよ!案内しな!」


雷のような声でどやしつけられた少女はビクッと震える。


「は、はい!えっ?でも今勤務の人はみんなお客の相手をしてて……」


少女がしおらしげに質問するがそれに対してはこの熊のようなオーナーは一切容赦しない。


「今日からお前がお客を取るんだよ!ほら、さっさと行きな!」


オーナーがさっきより更に大きな怒鳴り声で雷を落とす。


「えええぇぇぇ!そんな!私まだ……」


驚きと悲しみで目を大きく見開くルナマリア。


イテナは何か情報を聞くだけなのに俺が悪役になってないか?、とも思ったが親子の在り方に口を出すのもどうかと思い結局口を閉ざす事にした。


「つべこべ言ってないでさっさと行きな!本当にグズだねお前は!誰が食べさせてやってると思ってんだい!今アンタ借金いくらあるか分かってんの!?」


オーナーは段々本当にイラついて来たのか愚痴まで飛び出し始めた。


イテナは実の姪から金を取っていることに少し驚いたが、母も同じような物か、と思い直した。


「はい、……ひぐっ……お、……ひぐっ……叔母さんです……ひぐっ」


少女についに泣きが入り始めた。


少女がしきりに手首の辺りで目を擦りながら返事をする。


イテナは本当にこれでマルタの事が分かるんだろうな?、と猜疑心が頂点に達したが今イテナが何か言った所で逆効果になるのが目に見えているので黙っておく。


「だったらさっさと行きな!」


オーナーはシッシッと何かを手で払うような仕草をしながらルナマリアを追い出しに掛かる。


「はい……ひぐっ。着いて……ひぐっ……きて……ひぐっ」


泣きながらロビーを出て大きな部屋を真ん中に通路、左右が幾つもの小部屋に仕切られているような場所に連れられて行く。


左右からは男女の矯声が絶えず聞こえて来ており、精神が削られる事この上無い。


イテナは自然と眉をしかめてしまうのを止める事が出来ない。


仕事ならどうとでもなるのだが私事だとどうしても主観が入ってしまう。


「ここ……です」


少女は空いている小部屋の中で一番奥の部屋の前で止まる。


恐らくは少しでも遅くしたかったのだろう。


歩行速度も涙ぐましい事に大変ゆっくりとした物だった。


この時間が長い程精神が削られるイテナとしては止めて欲しかったが。


ガチャリ。


少女は扉を開け、ゆっくりと中へ入る。


バタン。


イテナも続き扉を閉める。


男女の矯声が僅かに静かになったが、イテナの耳を逃れられる程の物ではない。


今でも微かにやる気が削がれていくのを感じながらイテナは会話の糸口を探す。


「あー、突然「お、お酒でも如何ですか!」」


向こうから会話の糸口を断ち切られたように思えたが流石に素面でこの状況はやってられないので了承する。


少女はイテナに背を向け備え付けの酒瓶からグラスに注ぎ入れる。


「あ、あのどうぞ」


少し怯えた声でおずおずと差し出されるグラスを受け取る。


イテナはいつもの癖で酒の匂いを嗅ぐ。


……。


この酒……どうしても死毒の匂いがするんだが。


死毒。


その名の通り飲めば死ぬと歌われる薬で、トビ大森林の入り口によく生えている毒草のコノツメの根から抽出されたエキスを主原料として、他多数の毒と混ぜ合わせて丸薬にしたものだ。


水分に溶けやすく、飽和以下の分量であれば数秒で溶けてしまう。


市販されている毒薬の中では一番即効性が高く強力な為に暗殺によく利用される物だ。


欠点としては多少独特の香りがするために博識な者ならば判別が容易であること。


致死量としては一キログラム辺り0、3?という猛毒だ。


イテナは躊躇なく口に含み飲み下す。


自分がどれだけ飲めば死に至るか分かっているし、毒を飲む訓練もしてる。


そのお陰で致死量も普通より高くなっている。


さて、毒が体に回るとされる時間まで後15分。


そして、本当に効き始めるまで一時間。


その前に此方の用件を済ますとしよう。


「あ、あの……どうですか?」


少女が上目遣いで聞いてくる。


暗殺者としては毒を入れたお酒に注意を持っていくような話し方は×だな。


0点。


「ああ、美味しいよ」


私事だったのがすっかり仕事モードになっちゃったな。


折角の休みが台無しだ。


「よ、良かったです……」


うつ向いて小さく消え入るような返事をするルナマリア。


良心の呵責でも感じているのだろうか。


「聞きたい事があるんだが」


少し唐突ではあるが死毒のせいで時間がない。


ここはやむなしという事で諦めよう。


「……はい……何でしょう?」


返答が遅れた。


やはり心ここに在らずといった所か。


「マルタという女性を知らないか?」


ここで情報が無かったらどうしようもないな、諦めるしか無い。


「……マルタさん……ですか?ええ、確か8年前に出ていった筈ですけど……」


8年前ねぇ……。


「どこに行ったか知らないか?それか何か聞いてないか?」


少し性急過ぎたかも知れない。


怖くて言い出せませんでしたじゃ困る。


「えぇっと……」


何か言いたそうにもじもじと膝の内側を擦り合わせる。


ここで急いでもどうしようもないのでどっしりと待つ。


「マルタさんとはどんな関係なんですか?」


関係無さそうな質問だがヘソを曲げられても敵わないので正直に答える。


「母だ」


短くそう答えれば少女はハッとしたようにうつ向いてしまう。


「……そうだったんですか……。すみません。6年前にマルタさんは亡くなりました」


そうか……親子の縁を切ってもらう手間が省けたな。


親はバルサム一人で十分だ。


「姉はどうなったか分かるか?」


唯一の肉親だからな。


居場所ぐらいは知って置きたい。


「一度オーナーが誘って断られたきり……すみません」


そうか。


駒に使えるかと思ったんだが……。


「知ってる奴に心当たりはあるか?」

「……有りません。すみません。」


少女は別に自分が悪いわけでも無いのに深く頭を下げる。


「謝らなくていい」


自分が悪い時だけに謝れば良いのだ。


そんな生き方をしてると損をして生きて行く事になる。


「でも……」


毒を飲ませた良心の呵責か?


そう言ったきり沈黙の時間が続く。


さて、毒が効いてくるにはまだ数分あるがそろそろ効いた振りをしておくか……。


こっちの用事は済んだし、初犯だろうし気付かないだろう。


それにこれ以上この矯声の中に居ると精神がまいっちまいそうだ。


「すまん。ちょっと体の様子がおかしい。休んで良いか?」


そう言った瞬間少女の顔が一気に暗くなる。


「……ええ」


許可を取ってベットに横になる。


嫌悪感とストレスが凄いが背に腹は変えられない。


「すみません……」


ん?表情を読まれたか?


「毒……飲ませました……」

あ?


「すみません……ここを出るためにお金が必要なんです……」


コイツ……バカか。


対象者に暗殺してる事を教えるバカがどこに居る……。


暗殺者以前の問題だ。


理解出来ない……。


もし点数をつけるならマイナス百億点くらいだろうか?


「ほれ」


少しモヤモヤしたものを抱え込んでるのは気持ちが悪い。


懐から革袋を取りだし横に置く。


「えっ?」


ルナマリアは酷く混乱した目を見開いた顔をして此方を見る。


「使え」


イテナの短くボソリと言った言葉はどうにか届いたようだ。


「えっ、いやそんな」

少女は胸の前で軽く手を振って拒否を示す。


「貰えないってか?殺してまで奪い取ろうとして?」


毒を飲まされた異種返しに意地悪く言うと少女は戸惑う。


「それはそうですけど……」


少女はどこか奥歯に物が挟まったような言い方をした。


「気にするな。それ持って叔母に借金返してその足でどっか行け」


どうせ母の手切れ金を使わずに済んで浮いた奴だしな。


「借金よりも多いじゃないですか。コレ。うわっ白金貨入ってる」


少女は革袋の中を見て少し怯えた顔だ。


「バカか。どっか行った後も生活費はかかるだろうが」


金には興味ない。


俺よりも有効利用出来るって奴にならくれてやってもいい。


「そりゃ、そうですけど……」



どこか迷ったような少女の背中を押す。


「ほら、それ持ってさっさと行け。振り向くなよ。いくら振り向いた所で過去は助けちゃくれないぞ」


そう優しく言ってやれば少女はどこかスッキリしたような顔になった。


「ご免なさい!これ!貰います!」


そう言って少女は扉を開けオーナーの所に駆けて行く。


開いたままの扉のせいで矯声が一段と増し、イテナは眉をしかめた。


少女が借金を全て返済し終え感謝の為に戻って来た時には人の影も形もなかった。


一つ

優人の予定が狂ったのはお前のせいだからな優人!

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