10話記念 メルト外伝 紅の墓標
王都孤児院。
その裏にある一つの墓。
ただ木の十字架を差しただけの簡素な墓の前でメルトはスッと目を閉じ昔に想いをはせる。
遊んでいる子供達の声は明るい。
――――メルト 視点――――――――
俺がずっと動かないことに疑問を持ったのか一人の女の子が俺の元に来る。
ここの孤児院は院長が元司祭であり他の孤児院とは違い子供に非道な事は行わない。
運営資金としては俺達が出資する前は蓄えとここの孤児院を卒業した子供の寄付でまかなっていたらしい。
どうにもここを卒業した子の中にC級の冒険者のお陰で潰れずにすんだようだ。
今は俺達の寄付もあってかなり設備が充実している。
そんな中にいる子供警戒心が少ないのは心配だが俺達というバックがある限り安心だろう。
「ねぇ、ねぇ、何してるの?」
言葉足らずに聞く一人の少女に苦笑しながら答える。
「今はねお祈りをしているんだよ」
「ふーん、このお墓はどんな人だったの?」
目の前のお墓を指差して聞く少女は少し言葉がおかしいが意味合いは分かるため答える。
「悲しいお話しだよ?聞くかい?」
「悲しいお話しは嫌い。でもご飯まで時間があるからきいてあげる」
「ハハハ、分かった。昔のことなんだけどね?」
こわい話はなるべく省いて優しく語ってあげる事にした。
第二次連合軍侵攻。
冒険者の意見を全面的に採用し、その意見の基に装備を整えた魔人の掃討を主目的とする侵攻軍。
第一次侵攻ではオウルフ等の活躍もあり魔王を討ち取ったものの国の政変や魔人の反抗にあい、撤退せざるを得なかった。
そして今回はA級冒険者を中核とした討伐隊。
前回のようにS級こそいないものの、兵の人数、質共に高く、更に冒険者の数も増やし、魔導師も大幅に増員。装備も前回より上質かつ実用的。
15年前の第一次侵攻と比べればどちらが強いかは明らかであり、魔人たちも弱体化していると予想されており、もし魔王が生まれていてもさほど脅威ではないと判断された。
敗因はなかった。
だが、負けた。
侵攻軍構成人員17万人の内、命からがら逃げ帰ったのは6万人にも満たない。
A級も一パーティが全滅。二パーティが半壊し、冒険者を続けられなくなった。
ほぼ全滅であった。
高みの見物を決め込んでいた時の権力者は帰って来た者達に慌てて聞いた。
何があったのか、と。
兵士達は答える。
たった五人にやられた、と。
その悲痛な声は絶望を伝えるだけでなく、魔人達の反撃の狼煙でもあった……。
この3年後、今から2年前。
災いがメルト達を呼び寄せる事になる。
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王都スラム街。
金のある人間が蔑み見下ろす物を凝縮させ、目に付かないように1箇所に集めた。
そんな地に吐く唾が止まらない程理不尽な場所。
家を見てみれば骨組みに布を掛けただけのような家はまだマシで、骨組みしかないようなものもある。
これは力のある者がバックについているかどうかを示唆する指標となる。
力のある者がバックにいる場合上前をはねられるのと引き換えに大事にさえならなければという条件はつくが守ってもらえるという恩恵が得られるのだ。
正確にはそれを破って庇護下にある者を傷つける者がいれば後日これ幸いとばかりに全てを奪われるという抑止力のようなチンケな物だが。
そして上前が足りなければ容赦なく切り捨てられる。
そうなった者の最後は悲惨だ。
他の貧民から大いに搾取されるような事になる。その場合、まだ殺された方がマシということも少なくない。
もちろんそんな場所を市民は嫌うし、指揮官に貴族が多い衛兵なんてもっての他だ。
故に犯罪行為は見てみぬ振りをされるのが暗黙の了解だ。
同じ町にありながら別世界とすら言える。
そんなスラム街を一人の青年が歩く。
身なりからして金持ちではあるのが分かる。と言っても貴族が好む装飾に凝った物ではなく、研ぎ澄まされた高い性能を持った装備で埋め尽くされているからだ。
更に一切足音がしない歩き方は見るものが見ればただ者ではない事が容易に知れるだろう。
容姿としては十人並みだろう。中の上という言葉が良く似合う。優しそうな青い目に高い鼻、色白で赤い髪。
それなりに顔は整っているものの、それなりでしかない。
だがそれは青年の元の職業で言えば天上の才である。
警戒感を全く持たれない顔と言えば分かりやすいだろうか。
たが、スラム街はそんな容姿を持つものがいる場所としては異様に過ぎる場所だ。
ギスギスと薄汚れた無法地帯にある優しそうな金を持った男。
誰もが次の展開が予想できるはずだ。
なぜ、彼、イグマはそんな場所にいるのか。
バラしてしまえばそれは思い出す、いや、忘れないためである。
何をかと言われれば、血と暴力の人が腐ったような臭いだ。
そんないつもと同じ日常を過ごしている彼はほんの日常に遭遇する。
「ゴラァッ!まぁァてぇぇ!」
そんな声に彼が目を向ければすぐ目の前を浮浪児が駆けてくる。どうやら複数の男に追われているようだ。
イグマを避けようとして失敗したのだろうか。
浮浪児が数歩よろけて転び、手に持っていた物をぶちまける。
持っていたのは金。それも金貨だ。
もちろん貧民にとって金貨など縁遠い物だ。
中には一生見られない者とて珍しくない。
このスラム街では娼婦だとてどんなに見てくれが良くても銀貨数枚がせいぜいのはずだ。
それがバラけた枚数が全て金貨。もし袋に入っているものも全て金貨だとしたら恐らく50枚はあるだろう。
そうするとちょっとした重さ。よろけるのも仕方がない。
その浮浪児は慌てて金貨を拾い集めると去っていく。
無論、全てを集められたわけではない。
二、三枚拾い残しがあり、当然それは最も近くにいたイグマの生活費にあてられる事になる。
彼としてみれば楽して金が稼げればそれに越した事はないのである。
浮浪児との関係は分からないにせよそんな蛮行は当然の如く男達が許すわけがない。
三人の男のアイコンタクトにより一人がイグマの取り立てに目的を変える。
一人なのはイグマが鴨が葱を背負っているように見えたからだろう。
実際には真逆なのだが……。
「コラッ!お前!今拾っただろっ!ああ!?
ありゃあハイド様の物なんだよ!」
そこまで言ってから男は優しそうな顔に給料の値上げの可能性を見たのだろう。
更に凄みながら。
「お前!今この金を借りたんだよなぁ!?
借りた金には利子もつけて返すって決まってんだよ!
身ぐるみ全部置いてきな!」
いきなり盗賊に変身した男に対してイグマは飄々と返す。
「こまったなぁ〜。これから女と会う約束があるんだよねぇ〜。ねぇ、おに〜さん?お願いだから見逃してくんない?」
イグマからすれば最後の警告だったのだが、残念ながら目の前の男には通じなかったようだ。
因みにイグマが女と会う事に関してだが、これから仲間と合流する予定であるためにあながち嘘というわけでもない。
「ヘハハハ。大人しく差し出せばタマぐらいは取らずにおいてやるさ」
これで上手い事を言ったつもりらしい男のセンスに辟易しながらイグマは最終判決を下す。
「だじゃれが下品だから死刑!決定〜!」
困った事にこの無法地帯にはイグマの勝手な裁決を遮るものは何もなく、死体をどうするか等の諸問題も既に解決済みのようであった。
こうして、理不尽なイグマ裁判長によりスラム街に死体が一つ増える事となった。
当然、身ぐるみは剥がされる事になった。
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タンッ、タンッ、タンッ。
トルダは今、死刑台を登っている。
上を向けば空が見えるだろうが今は枷がついているため上を向くことは出来ない。
本来ならスリごときで死刑になることはない。
指を折られるか酷ければ手を切り落とすくらいだろう。
だが、貴族の物を盗んだと言えばその限りではない。
トルダは神に祈った事はない。
いや、祈ってはいたが父に無理矢理やらされた初めてのスリの獲物を取られるまでの事だ。
神の加護というのはどうやら金持ちにしか与えられないらしい。
初めてのスリは成功したものの渡すのを拒んで父親にも後に発覚して賄賂を父親が払わなかったために衛兵にも殴られた。
トルダには妹がいた。
腹違いの妹であったが、そんなことはトルダには関係なかった。
トルダにとっては妹が全てだった。
初めてスッた銀貨を渡すのを拒んだのも痩せ細る妹にパンを買ってやるためだし、今回貴族の金を盗んだのも妹を学校に入れるためだ。
捕まらない等という甘い考えを宿していた訳ではない。
ただ何の力もないトルダにはそれ以外の選択肢が無かったのだ。
トルダは金を貯めていた。
無論、盗んだ金だが。それでも強欲な父親から金を隠すのは過酷という言葉以外に似合う言葉などないと断言できる。
上前が足りなければ殴られた。
腹がへったと言って殴られた。
金が隠してあったと殴られた。
ムシャクシャすると殴られた。
顔がイラつくと殴られた。
理由もなく殴られた。
床の土の下に作った収納や、孤児院に何割か寄付するのを条件にトルダの妹の身柄を置いてくれる事をお願いし、それと学校に行かせてくれる事を頼んだ。
貴族からスッた金も既に渡してある。
トルダは闇を歩いていたが妹は……。
妹にだけはこんな闇を歩いてなんか欲しくなかった。
自分の分も妹には日の当たる場所を歩いて欲しかった。
今までの犯罪の分はトルダが今ここで殺される事で償われる。
その償われた金で……妹には……。
刑は斬首だ。見せしめの為に多くの聴衆の前で執行人に首を落とされる。
トルダにも本当は解っていた。
解ってしまっていた。
孤児院に預けた金は孤児院の為に使われることが……。
そうでなくとも父親が許さないだろう。
でも、ずっと死ぬより辛い現実の中で生きてきたのだ。
死ぬ前ぐらいは夢を見たっていいだろう……。
……そうトルダは思っていた。
執行人が仕事を果たそうと斧を振り上げる。
上を向けないトルダには見る事はかなわなかったが、聴衆の反応や空気の音で分かった。
(ニティ……最後まで一緒にいられなくてごめんね……。)
そして、斧が振り下ろされ……。
ガキンッ!
受け止められる……。
「ハロー。ニンゲン共!」
そこにいたのはさっきまでいなかった五人の魔人達。
もし、そこに侵攻軍に所属していた者が言えば震え上がるだろう。
なにせ二十万近くの軍隊をたった五人で壊滅した魔人達。
正にその五人だったのだから……。
「なんだ!貴様らは!何者だ!」
衛兵から飛び出したその言葉は明らかに魔人をイラつかせた。
口調に怒気を滲ませながら。
「私達の上に立てるのは魔王様御一人だけだ」
騎士のように全身鎧に包まれた魔人は二本ある大剣の内一本の柄を握りつつ答える。
「待ちなさい。この辺り一帯を灰塵に帰すつもりですか?目的が先です」
この男だけは魔人ではなかった。悪魔族。本来なら人と交わる事がないはずの種族だ。
何故なら、実力が悪魔族と人とでは天と地ほどに隔たっているからだ。
その力は本来なら魔人よりも個としても軍としても上のはずなのだ。
それが魔王に従っている……。
どれだけ魔王が強いというだろうか。
「あなた……いい目をしていますね」
その悪魔族の男がトルダを覗き込む。
周りの聴衆は威圧で黙らされているのか鎮まりかえっている。
「もし良ければ、実験に付き合いませんか?成功率は低いですが成功すれば力が手に入ります」
「……そんなの何の価値もない」
トルダにとって価値があるのは妹のみだ。
そしてその妹の為にしている時に邪魔をされたくはない。
「憎んでいるのでしょう?目を見れば分かります。私もそうですから」
そう言いながら悪魔は人の心に入り込む。
と言っても心の壁を壊すだけだ。実験に耐えられるか見るために。
「お前にこの憎しみの何が分かる!
この世界の全てが憎いんだ!
殴る父が憎い!
けっして救わない神が憎い!
法を守らない衛兵が憎い!
孤児院の皆が憎い!
笑って幸せに生きる街の人が憎い!
陰で指差して笑ってる人が憎い!
何もしないで金だけ得る貴族が憎い!
日の当たる場所を歩く奴が憎い!
妹が……憎い……」
「その全てを壊す力が欲しくありませんか?」
その言葉に少し躊躇いトルダは頷く。
「では、コレをお飲みください」
魔力の総入れ換えを行う物である。
当然、地獄の苦しみが伴う。
成功率は30%。
当然そんなもの見たくはないので黒い魔力のベールで覆い尽くす。
「では、目的は終了しました。好きにしてください」
「やっとか!ハッ!待ちくたびれたぜ」
そう毒づいたのは魔族の青年。彼としては人間を殺す事を待っていたのだろう、その言葉と共に殲滅に動き出す。
着ている服は魔人特有の浅黒い肌を見せびらかすように魔法耐性を備えたズボンと前の開いたチョッキを羽織るのみという騎士風の魔人とは真逆の物である。
「ぎぃやややぁ!」
「たすげでぇぇ!」
その魔人は片手で首をへし折り、腕を胴体から引きちぎる。
これが恐ろしいのはこの魔人は特殊能力以外は全く普通の魔人と同じであるということ。
つまりこの魔人は素の腕力だけで以上のことを成したのだ。
「フム、我は今回は遠慮しておく。とは言ってもダルクのお陰で出番がなさそうなだけであるがな」
眼下の惨状を見下ろしながら苦笑する魔人。
この男の特徴を示すならデカイというのが最も適当である。
二メートルはあるだろう。恐らく死刑台がなくとも見下ろしていたに違いない。
「僕もパス。いくら魔王様に今回の指揮官を任されているとしてもコイツに使われるなんてゴメンだね。全く、ヨキは僕ら魔王様親衛隊の面汚しだよ」
唯一魔人族ではないヨキを指しながら愚痴をこぼすのは魔人軍の偵察隊の副隊長を兼任する少年だ。
この少年にとってすれば戦奴隷の悪魔族が指揮官であることで栄光ある親衛隊を汚されているように感じるのだ。
ただし、彼らが思う程に今回の偵察任務は簡単には終わりそうになかった。
「おい!何で魔族がこんな王都ん中にいるんだよ!俺ののんびりライフは!?」
「知るか!つーかイグマてめぇ依頼でのんびりするつもりだったのか!?」
「煩いぞハッシュイグマ!よぉ、魔族さん達。ここは人間の領分だ。ちょっと帰ってくれねぇか?嫌ならムリヤリ帰らすまでだがな!」
当時A級だったメルト達、夕碧の騎士団だった。
10話記念のクセに10話を越えてしまってごめんなさい
つきましては11話を今回の話の続き前回の話の続きにするか感想でアンケートを取りたいと思います(無かった場合は普通に9話の続きを書きます)
今回は前書きを除き全て三人称になっています。途中で自らの文才の無さを痛感しました
それと遅れてしまってスイマセン!




