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帝国の栄華  作者: ロンメル
対ソ戦
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1942年3月、半年近い防衛時間が終わって同盟の攻勢は再び開始された。開戦直後から取って取られてが繰り返されているレニングラードも独英が完全に占領した。日本軍にはこの春の大攻勢、雪解け作戦に三種の新兵器を投入した。一つは二式戦闘機飛燕(P51D)であり、もう一つは二式重戦車(ティーガーⅠ改)、そして二式半自動小銃であった。今の所九九式中戦車が唯一T34と互角であり、九三式は完全に時代遅れであり、殆どが突撃砲に改造された。又、重戦車を持っていないのは今後出てくるであろうJSシリーズに対抗できない、更に次の仮想敵国である米国のM26パーシングに対抗できないと言う問題があったのだ。欠点のディーゼルエンジンの未保有と千鳥式転輪もV2を素にした一式発動機とトーションバー式サスペンションで補った。歩兵も進撃を続けた。しかし、四月五日の夜襲を行った第七装甲歩兵連隊はソ連軍の中に取り残され、ソ連軍が築いて占領した塹壕で円陣を組んで必死に抵抗していた。

「撃て!」

塹壕から頭を覗かせて敵兵を確認した。八門の17ポンド対戦車砲と各大隊の迫撃砲が唯一の重火器である。

「こちら第七装甲歩兵連隊から師団本部へ、我々は敵に完全に包囲された。至急増援を!」

「分かっている。第二空挺連隊が今向かっている。全員乗れるだけの四輪機動車が揃ってるぞ。救出作戦には砲兵も投入されるから無理はするな。」

「待って下さい!師団単位での増援じゃないと敵の包囲は崩せません!」

ツー、電話線が切れたようだ。連隊長は電話を置くと双眼鏡で前を見た。

「多過ぎるだろ!何人いるんだよ!」

かつてのインドネシアでの1ヶ月戦争で偵察小隊を率いて従軍した根岸少尉は今回も歩兵小隊長をつとめてこの戦線にいた。汎用機関銃が敵を薙ぎ倒すが如何せん数が違いすぎる。弾薬を使い果たした中隊も出てきたそうだ。

「増援到着?」

四輪機動車が大量に乗り込んで来た。見たところ一個大隊程度しかいない。

「救出部隊は?」

と連隊長が聞いた。

「俺達だ!」

と救出部隊の隊長は怒鳴り返した。

「撤収!撤収!」

各部隊が塹壕沿いに集結した。重火器類は破壊してきたらしい。

「早く!急げ!すぐ敵が来る!」

四輪機動車に乗り込んだ者から撤退していく。結局救出部隊含めて死傷者、行方不明者合わせて851名の損害を出した。何故救出部隊が大隊規模になってしまったかと言うと第二空挺連隊は途中の丘でソ連軍の主力陣地にぶち当たってしまった。そこで装甲車を有する連隊主力や新たに来た機甲連隊に任せて第一大隊は大きく迂回してきたのだ。砲兵、航空機の支援も充実していたが死傷者、行方不明者の半数はこの第二空挺連隊であった。戦闘力を失った第七装甲歩兵連隊はイルクーツクに戻された。続いて日本軍は西シベリア打通作戦を決行した。二式重戦車を先頭に九三式短機関銃と二式小銃を持った歩兵が前進した。開戦直後に大量に鹵獲されたM1940トカレフ半自動小銃を研究して世に送り出されていた。史実のGew43に酷似していて命中率も高く、流石日本製と言うべき信頼性の高さがモノを言った。俺はこれを後の米軍のM14のようにマークスマンライフルとして活用しようとしていた。勿論それはAK47が採用されてからになるけど。補給を受けた第七装甲歩兵連隊は第二独立混成旅団に組み込まれた。

「行くぞ!」

塹壕沿いに九三式短機関銃を構えて前進した。根岸少尉は部下をシベリアの大地に伏せさせると周囲を確認した。そこにソ連軍の重機関銃がある。散開を手信号で指示した。伏せたまま部下が左右に展開した。九三式短機関銃を乱射した。直後一個小隊の全火力がソ連軍重機関銃陣地を襲った。

「・・・山。」

根岸はこの声に気が付いて射撃停止を命じた。

「松山!」

両手を上げながらソ連の士官が塹壕から出てきた。松山とはかつて日露戦争の時代に帝政ロシア軍の捕虜収容所があった場所で、当時の世界常識を覆すとても寛容な捕虜収容所であり、ロシア人の降伏の証となる言葉だった。根岸は捕虜を武装解除すると後方に歩いて向かわせた。根岸は更なる前進を図り、小隊を前進させた。しかし、塹壕から頭を上げると敵戦車隊が目の前で停車していた。先の武装解除の間に接近していたらしい。砲塔はもちろんこちらを向いている。無反動砲より早くこちらが殺られるだろう。

「撤退!」

叫ぶと同時に塹壕に潜ると伏せた。後ろの土がはね飛ばされる。

「退け!退け!」

塹壕を先に部下に行かせる。

「損害は?」

「死者一名、負傷五名です!」

「よし、今から全火力をあの戦車に集中させろ!」

「はい!」

塹壕から銃弾が敵の装甲を狙う。しかし、軽い音と共に弾かれた。だが注意を引ければそれでいい。塹壕を走って敵戦車の左側面の至近距離で塹壕を飛び出した。姿勢を低くして、泥まみれになりながら敵戦車に着く直前まで敵にはばれなかった。取り付くと砲塔のハッチをバールでこじ開けて中に手榴弾を投げ込みハッチを閉めた。戦車から離れるとドウン、とくぐもった爆発音が聞こえた。近付いてハッチを開けると中にソ連兵の死体が転がっていた。

「今の内に後退するぞ!」

塹壕を走って自陣まで退却することに成功した。そこに戦車隊が進出している事は航空偵察で追認され、そこに大量のロケットが撃ち込まれた。ロケットの雨が止むと続いて第一独立重戦車大隊が前進した。クラスノヤルスク北西の森林の近くでの戦闘だ。

「川畑!一二〇〇m先二時方向に敵T34!狙え。」

川畑上等兵は熟練の砲手である。

「了解!徹甲弾装填!」

装填手の大倉一等兵が徹甲弾を装填した。

「照準完了!」

戦車長の高島曹長が命令を下した。

「テエッ!」

ドガン!史実では米ソ両軍を震え上がらせた恐怖のアハトアハトがT34の前面装甲を貫いた。

「撃破!」

「よし、前進!」

たまたま斥候に来ていた戦車を倒したようだ。

「司令部より連絡、3キロ先に敵戦車の大群がいるとのこと。進行方向は我々の右手方向だ。よって一時方向の林にて待ち伏せして潰す。行くぞ!」

近くの林にて上手く木を掩体にできた。直後ソ連軍の一大砲撃が始まった。林で待機していた大隊に転進命令が下ったのは一時間ほど後だった。

「ソ連の野郎共、軍規模の攻勢らしい。一旦重戦車大隊は後退し市街地西の丘の上にて待機せよ!」

今回の攻勢はタイフーン作戦と名付けられていたソ連軍極東における起死回生の一撃だった。七月という日本軍攻勢時期の真っ只中に突然の大攻勢で日本軍を押し戻すという冬の間充分に準備された反撃作戦であった。航空偵察で確認した情報を東京の参謀本部で分析した所推定兵力は九十万から多ければ百万を超える可能性もあり、戦車装甲車は三千から四千両、火砲は万を数える、航空機も新型のYak1戦闘機やil2対地攻撃機等合わせて三千機という空前の部隊だった。それらの部隊を一点集中させ飽和攻撃とするこの作戦に最初に当たったのはソ連軍攻勢の目標とされたクラスノヤルスク付近にいた北方方面軍の第三十装甲歩兵師団、第五戦車師団、第十一装甲歩兵師団、第三重砲兵旅団、第一独立重戦車大隊のみで、戦闘機は飛燕と隼合わせて六十機が迎撃を行なった。勿論たったこれだけで防げる訳が無い。機甲師団が先頭に立っているソ連軍を防ぐべく第一独立重戦車大隊がクラスノヤルスク西の丘の上に布陣したがそこにも戦車隊が迫っていた。第一独立重戦車大隊の戦闘車両は偵察用の九三式突撃砲二個小隊八両、二式重戦車四十両、九八式対空自走機関砲四両だった。夏期野戦迷彩を施された突撃砲は丘の中腹にて偵察任務に付いていた。二両一組で偵察任務を遂行していた。

「一一時報告距離八百に敵戦車!」

「大隊本部へ、こちら突撃砲部隊、丘の中腹にて敵戦車多数を発見!撃破しつつ頂上の主力に合流する!」

「了解!」

T34はこちらに気が付いていないようだ。先頭を進むのはKV85重戦車だ。

「徹甲弾装填!距離五百で発砲せよ!」

「装填よし!」

「テー!」

グワン!17ポンド対戦車砲が火を吹いた。

「命中!」

敵戦車が炎に包まれた。こちらの存在に気が付いたのかT34が発砲してくる。ただ、九三式突撃砲は車高が低く迷彩を施せば見つかりにくい車輌である。付近に着弾はしても直撃は来ない。

「退却!西田、下がれ!」

キャタピラが土を踏み車体がバックで丘を登っていく。その時、敵戦車に発見された。

「クソ!見つかった!砲撃用意!」

「用意よし!」

「テー!」

T34が炎上した。

「完全にばれた!早く下がれ!」

その時、T34の砲が光った。ドゴン!装甲が喰い破られた。

「脱出!」

「車長!」

「何だ!?」

「西田が・・・西田が戦死した他自分も動けませ・・・。」

ここで装填の石井も息絶えた。飛島少尉は九三式短機関銃を持って車外に出た。

「クソ!内村!いるか?」

その問にはは突撃砲の横に横たわっている彼の死体が答えていた。ドン!砲声の直後飛島は意識を失った。

「用意!この距離では絶対に貫通されん!」

第一独立重戦車大隊はソ連軍にピタリと照準を合わせていた。

「テー!」

アハトアハトがT34を貫いた。

「よし!次弾装填!」

「よし!」

「テー!」

ドゴゥン!再び敵戦車が砕け散った。カンッ!軽い音が装甲から聞こえる。ソ連軍も反撃してくるがこの距離で第二次大戦で連合軍の驚異であったティーガーの前面装甲を打ち抜けるはずもなく空しく弾かれるのみであった。逆に日本軍から放たれる88mm弾は濡れた指でしょうじを破るようにスパスパと打ち抜いてソ連軍戦車を足止めした。

「左側より敵戦車!T34じゃない、新型だ!」

左前方に着弾した。その方向には見たことない戦車がいた。新型戦車は史実より早く前線に現れたIs2重戦車だ。主砲は122mm砲を有し二式重戦車の前面装甲を1000mから撃ち抜ける強力な戦車であった。又正面装甲は二式重戦車より厚いソ連軍虎の子の最新鋭重戦車であるが重大な欠点を抱えていた。

「あいつら発射速度異常に遅くね?」

「分からん、あれだけ強力な主砲だ。多少は仕方ないだろう。ただ、それは欠点かも知れん。」

彼らの言う通り、まさに装填速度の遅さこそがIs2の弱点なのだ。直後、それが放った砲弾が隣の車輌の正面装甲を貫いた。

「テー!」

ドゥン!カンッ!88mm砲が弾かれた。

「取り敢えず退却する。あんな化物相手には不利だからな!」

エンジンが轟音を轟かせ二式重戦車の六十トンの車体を後退させる。反対側の斜面を正面を的に向けながら降りる。

「シュトルモビーク!」

左前方から二機のil2がやって来た。37mm機関砲ポッドを翼下に取り付けた機体が飛んでくる。

「くそ!」

車長用の12・7mm機関銃を空に向ける。二〇ミリ連装、12・7mm4連装の各タイプ自走対空機関砲が火を吹いた。各車車長の機関銃も弾丸を放ち続けた。撃墜は期待しておらず敵機の侵入ルートを妨害するため直線飛行の時を狙って射撃を続けた。もたもたしていると丘を超えてソ連軍戦車が追撃してくる可能性が高かった為移動しながらの射撃だった。

「執拗だな!撃て撃て!」

37mmを受けて一両の対空自走機関砲が撃破された。

「怯むな!弾幕張れ!」

ドドドド!航続距離の短い為か直ぐに引き上げた。重戦車大隊は敵の追撃を受けずに防衛線に撤退する事ができた。翌朝日本軍は面制圧と言うのを文字通り実施した。満州国等の同盟国含め九八式重爆撃機実に五百機、隼、飛燕さらに海軍の九八式艦上戦闘機合わせた直掩戦闘機三百機がクラスノヤルスク北西の林にナパーム弾を投下した。又新しく展開したのも含めて四個重砲兵旅団をはじめとする各種大砲による砲撃、更に九七式艦上爆撃機二百機、九九式中爆撃機四百機の戦術爆撃隊が生き残っている戦車や砲兵陣地にロケットや精密ナパーム弾攻撃を行いその後補給を終えた隼と飛燕が地上に対して機銃掃射をかけてクラスノヤルスクに攻撃を仕掛けていたソ連軍を殲滅した。実にナパーム弾七千二百発、各種砲弾合わせて三万発、地上、空中発射合わせてロケット弾四万発がソ連軍に降りそそいだ。森林を襲ったナパーム弾による炎は戦車そのものは燃やさないが周りの酸素を奪うことによってむき出しの歩兵や砲兵は丸焼きもしくは一酸化炭素中毒にされ、戦車兵は生きたまま蒸し焼きにされた。又、戦車は砲弾が周りの熱に耐え切れなくなり自爆した。森の外縁部にいた数少ない部隊は北にある農地に脱出したが遮る物の無い土地で戦闘機や艦上爆撃から放たれるロケット弾や機銃の前に倒れた。クラスノヤルスク付近に密集していたソ連軍は大損害を被った。戦死者は実に二万名、戦車、装甲車合わせて二百両、火砲千門弱が破壊された。砲撃が終わった午後一時には大規模機甲部隊が前進した。九九式中戦車を先頭に後方に二式重戦車が展開し、その左右を守るように九四式歩兵戦闘車や九三式四輪機動車に乗った機械化歩兵が随伴した。日本軍によって攻勢の第一撃が封じられても諦めるようなソ連軍では無かった。直ちに予備部隊を再編し再攻撃をかけてきた。ジューコフ元帥は西部の対欧戦線をトハチェフスキーに任せて自ら極東戦線の指揮に当った。しかし時既に遅く日本軍、満州国軍はクラスノヤルスクを完全に支配下に収めると更に西進を続けソ連軍の再編が終わらない内にソ連軍を南北に分断し各個撃破を図る戦法をたてて実行した。前日に重戦車大隊がいた丘に再度第一独立重戦車大隊を布陣させて、周りを砲兵で支援する。同時に市街を東西に流れるエニセイ川沿いにその他機甲部隊を前進させそこで分断して各個撃破が目標だった。しかし、ソ連軍は市街戦に持ち込み日本軍の消耗を図った。

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