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九月一日未明、歩兵が国境警備隊を殺し始めた。午前五時には大量の砲兵がソ連領に砲弾を叩き込み、九九式中爆撃機、九七式艦爆(九九式艦爆)が敵陣に大量の爆弾の雨を降らせ、地上のソ連空軍のi16等は飛び立つ前に隼や九八式艦戦が撃破した。制空権を完全に掌握した同盟軍はすぐさま資源地帯の確保という戦略目標の達成にかかった。資源が豊富なシベリアは今すぐにでも欲しい土地だった。九七式輸送機と九九式人員輸送機が参加したのは特別作戦だった。頑強な守備陣地に苦戦している友軍を背後から支援すべく出撃した。大量の隼が周りを護衛してくれている。ワイヤーにフックをかけると飛び降りた。川島は暫くすると落下傘を開いた。九三式短機関銃を構えて地上に降り立った。近くに落ちた武器のケースから簡易爆薬と信号弾拳銃を取り出して上空に発射した。真昼間から敵が降下してきたので慌てふためいた敵飛行場のパイロットは拳銃やサブマシンガンを持って出てきた。敵の指揮所に辿り着くと川島は爆薬をセットした。少し離れてスイッチを起動させて木造の指揮所を吹き飛ばした。次々と投降した敵兵を尻目に九七式輸送機が飛行場に着陸すると軽榴弾砲や迫撃砲、装甲車を下ろしていった。結局人員輸送機で大量の兵員を送り込んで簡易的な塹壕陣地を掘り飛行場を一つの要塞として立て篭もった。その飛行場には戦闘機、戦術爆撃機が多数展開して付近の敵陣地に攻撃をかけ続けた。背後に出現した新たな部隊に浮き足立った敵は機甲部隊の前にあえなく崩れさった。しかし、この飛行場は波状攻撃にさらされて実に増援到着までの五日間で死傷者二千五百を出した。更に貴重な輸送機十二機も失い開戦初頭で初の戦術的敗北、戦略的勝利だった。村松は多数のシベリア部隊を欧州戦線に割いていたため進撃速度は異常だった。日本軍ロシア語放送でシベリアにシベリア共和国を設立させる準備があると放送を連日続けていると共産主義にうんざりしていた民衆や虐げられてきたコサック等が反乱を起こした。日本軍の占領は嬉々として迎え、ソ連軍の輸送網を破壊した。それを察知した俺は直ぐに軍に反ソ連抵抗勢力に軽火器や爆薬を送って支援するように伝えた。軍は猛反対である。
「やつら、いずれ裏切ります。武器の給与など危険極まりない。」
「そうです。ソ連のスパイの可能性も高い。」
そんな非難の中俺は反ソ連抵抗勢力に支援を続けた。
「総統閣下、神武作戦は大成功です。現在に至るまで殆ど抵抗を受けずに前進しております。」
反ソパルチザンは破壊活動を続け、ソ連軍は懲罰部隊をその鎮圧にあてたが政治犯からなる懲罰部隊であるため反共産主義も多い。しまいにはその懲罰部隊そのものまで反ソ連抵抗勢力に加担する有様だった。村松は合理的な考えが出来るがその合理性が変な所に向かったのを俺達は確認するはめになった。どうも数の多さで質を補うという戦法を素に大量の豆戦車T27を前線に投入した。それはウランウデで十一月三日に行われたソ連軍初の反撃で見られた。
「目標前方敵豆戦車!徹甲弾装填!テェ!」
ガウン!五十ミリ砲が火を吹いた。
「命中!」
砲手が叫ぶ。
「敵戦車発砲!」
DT機関銃が装甲に当たって軽い音がする。これくらいじゃあ一番薄い装甲部分でも貫通はしない。飛島少尉はすかさず装填を命じた。
「次、右前方の豆戦車!」
「キリがないですよこれ。」
と操縦の西田は言ってくるが反論する。
「対歩兵では豆戦車は意外とバカにならん兵器だ。」
「はいはい。」
と言いながら前進していく。
「テェ!」
グワン!再び一両が炎上した。西田の言う通り確かにキリがない。このソ連軍最初の反撃に実に二千両の豆戦車が送り込まれた。中にはPTRS1941対戦車ライフルを搭載した車輌もあったため九三式中戦車は少なくない被撃破数を出して日本軍は後退した。これに俺は航空用のMk108,30mm機関砲や無反動砲を搭載したジープや九二式装甲車の主砲を5センチ対戦車砲に換装した車輌を投入することや九七式艦爆や隼にガンポッド式のMk108機関砲を搭載した対地攻撃機を前線で上空からの支援に当たらせることで解決した。翌日も更に前進を試みた敵豆戦車は日本軍に完全に待ち伏せされた。無反動砲を装備した歩兵や連装対空機関砲にまで攻撃されたのだ。戦車をぶつけずに歩兵で対処させた。又、補給用の簡易飛行場手前には地雷が埋設されており多数の豆戦車の残骸がウランウデに残された。次はイルクーツクを解放する予定だ。バイカルの北側を機甲師団で、南側から機械化歩兵がそれぞれ退路を断つ形でソ連からの増援を防ぎつつ砲爆撃を加えて降伏を待つものだった。しかし、軍部から上がったそれを俺は否定して速攻に切り変えさせた。なぜならもう冬が始まったのだ。もたもたしていたら終わりである。うまくイルクーツクで補給を受けながら雪解けを待ちたかった。
「早く陥落させろ!戦略航空軍は全力でイルクーツク攻略隊を支援しろ!」
冬を待って反撃に移るという第二次大戦さながらの作戦のソ連軍に対し反共産同盟は一旦進軍を止めて防衛に移る方針に切り替えた。
「ミンスク、キエフ、レニングラードは既に盟邦の支配下にあります。ソ連は主要工場の殆どをウラル地方に移しました。我々は極東よりそのウラル地方の工業地帯を制圧し、ソ連の降伏を促進させます。このままの状態ならば1943年秋にはウラル山脈東側にたどり着けて翌年五月にはモスクワで戦勝記念会です。西シベリア低地はソ連軍にとってはヨーロッパより重要ではありません。故にイルクーツクを落とせば後は流れでオムスクやエカテリンブルクを落とせるでしょう。幸い空軍は我々が数、質共に上回っています。陸上では兵員数こそ劣るものの両面作戦を強いられている敵にとっては辛いでしょう。ソ連は現状から察するにまず欧州で押し返し、講和を結んでからじっくり東部を巻き返す作戦でしょう。来年の1941年雪解け時に再び進撃を開始、その為に今は新しい部隊を送り込むための飛行場、道路、鉄道を占領地に整備することが重要です。」
しかし、予想はソ連軍によって裏切られた。冬の攻勢の主軸を日本軍に向けてきた。イルクーツクは陥落させたがその時にはソ連軍の主力が迫っておりすぐにイルクーツクで包囲された。相次ぐ救援隊派遣は冬季戦闘に慣れたソ連軍によって防がれていて唯一空輸がイルクーツクの兵士の命綱だった。当然陸軍航空隊の輸送機はソ連空軍の激しい迎撃を受けて日に日に損害を出していった。元旦のイルクーツク防衛隊は人生で一番思い出に残るであろう元旦を送っていた。
「小隊長、こんな気温じゃ機関銃も凍りつきます。武器は暖めさせてますがそれでも限界が、まぁ、敵もそれが分かってるからせめて来ないんでしょうけど。」
「あぁ、空軍の活動も鈍るから干し殺しにするつもりかも知れん。まぁ、敵も仕掛けてこんのだからここで暖かいものでも食おう。」
「はっ!」
と言って鍋をつつき始めた時、警報がなった。
「敵襲!総員配置につけ!」
「行くぞ!」
短機関銃や小銃を持って九三式四輪機動車や九四式歩兵戦闘車に乗り込んだ。
「前進!」
エンジンがかかり待機場所を出発する。
「敵は歩兵が中心だ。戦車は数こそ少ないが新型だから油断するな。」
無線の情報を伝達する。新型戦車は史実のベストセラーのT34である。午後二時は零下には変わりないが零下一桁までにはなる。
「発見!下車戦闘!」
分隊長が降りる。次々と地上で銃を構えた。瓦礫を掩体にして隠れる。敵が近づいてきた。
「手榴弾投擲します!」
誰かが叫んで手榴弾が宙を舞った。ドゥン!
「行け!」
飛びでた瞬間に射竦められた。ソ連軍のDT軽機関銃による掃射だ。
「敵戦車接近!」
グワン!左側に砲弾が着弾した。
「対戦車無反動砲、前へ!」
小隊で四人の無反動砲兵が前に出た。
「テェ!」
バシュウ、カン、乾いた音がする。
「くそ、弾かれた!」
うまい角度で装甲に当たらなかった。上手く当たれば正面装甲でも撃破可能な無反動砲である。
「退却する!分隊支援火器は前へ!その他部隊は退却しろ!」
支援火器が銃口を敵に向けた。
「退却!」
不破少尉は軍刀で後方を指した。
「分隊支援火器撃ち方始め!」
タタタタタッ!軽い銃声と共に敵陣で土煙が上がる。
「分隊支援火器、後退!汎用機関銃、支援射撃!」
二丁の汎用機関銃が毎分一二〇〇発の発射速度を発揮する。分隊支援火器手が戻ると全員が車輌に乗り込んだ。
「待機所まで後退する!」
先頭に二両の九三式四輪機動車、続いて三両の九四式歩兵戦闘車、最後尾に二両の九三式四輪機動車という組み合わせで待機所に向けて撤退を始めた。車載重機関銃を敵歩兵に発射する。
「敵戦車の追撃きます!」
前から一門の無反動砲が発射された。発射した美濃二等兵はそのまま最後尾の九三式四輪機動車に引き上げられた。敵戦車には命中しなかった。待機所にはこの当時最強の対戦車砲が待ち受けていた。
「小隊長!待機所です。」
先頭の九三式四輪機動車に乗っていた不破は待機所内に小隊が帰還した事を確認すると下車して鉄帽を取った。こんな寒い所での戦闘で文字通り頭から湯気が上がっている。暫くして表で対戦車砲の砲声が響きわたった。
「総統閣下、イルクーツクに増援を送りましょう。このままでは彼等は包囲網から脱出できません。」
「待て、三月初頭には大量の戦車隊を用意して敵陣を強襲する。」
「そうですか、わかりました。シベリア鉄道はウラジオストク~イルクーツク間で我軍の物資を輸送しています。三月初頭には第二弾攻勢の準備が整うでしょう。」
あまり雪は降らないが降ったら五月まで溶けないシベリアは日本軍を苦しめていた。道路整備は村松がやってくれたので輸送はある程度楽だが日本ではありえない寒さが将兵を襲い続けていた。冬季装備を持っているとはいえこの寒さは耐え難いものである。実際に凍傷も増え続けているが士気も高く前線にて健闘している。
「反攻作戦開始!」
三月、まだ寒い中十分満州で冬季訓練を積んだ精鋭三個雪中歩兵師団がイルクーツク付近の敵にスキーを使い夜間襲撃を繰り返し続けた。疲弊したら白昼堂々と戦車を先頭に機甲部隊が前進した。勿論機甲部隊の進路には無数の砲弾、ロケット弾が撃ち込まれていた。
「数で押せ!」
ロンドン、ニューヨークにて戦債を発行している為資金は豊富にある。そして満州、朝鮮北部の工場が軌道に乗り始めたのでより多くの兵器が前線に支給されていた。冬季にレニングラードを奪回された同盟は快進撃とは行かず戦線は膠着した。日本軍は機甲部隊の八九式を工場からの戦車や鹵獲した新型のT34に17ポンド砲を搭載したソ式中戦車で補った。陣風作戦はたちまちソ連軍を徹底的にうち負かした。西シベリア低地を進軍する日本軍は最早誰にも止められる事は無いほどの進軍速度だった。想定に反していたのはソ連軍の縦深防御だった。コンクリートを使った対戦車障害物、それを超えると鉄条網や拒馬が歩兵を足止めした。督戦隊の重機関銃やソ連軍師団砲のZis3が日本軍を苦しめた。仕方なく現地の部隊は塹壕を掘っての防衛に出た。
「早く土嚢を積め!ソ連軍の逆襲が始まってからでは遅いぞ!これが俺たちの命を守る盾なんだ。」
円匙で土を掘り、土嚢を積んで塹壕を築いた。迫撃砲や機関銃、17ポンド対戦車砲で守られた塹壕は第1次世界大戦さながらの塹壕戦になった。10月、冬が近付くと日本軍は力を振り絞って総攻撃を行った。しかしこの攻勢は作戦の決行を急いだ為各部隊の連携が取れずに各個撃破され総計二万名以上もの死傷者を出してしまった。塹壕で冬季の防衛に再び移った。
期末テストで更新してませんでした。
まだまだ登場させたい兵器は募っておりますので感想欄でどうぞ。