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サー・マジョ  作者: さかな
第一部 異世界の魔女
9/22

008 エルフ王の依頼3

私情でなかなか書くことが出来ずにUPの期間が長くなってしまいました。本当に申し訳ありません。

 

 

 

 謁見の間にいる全ての人間が唖然としていた。いや唖然としているのは客として迎え入れられている織姫一行だけだったようだ。

 エリス姫の大きな叫び声。その声を聞いたエルフ王とアヴァンは沈黙し、エリスは息を切らしている。

 その息を整えながらエリスは織姫一行へと体の向きを変えた。


「本当に申し訳御座いませんでした。父とアヴァンには私が言い聞かせておきますので、どうかお許し下さい」


 深く頭を下げるエリス。そんなエリスに織姫が


「いやいや、私も何か悪かったしここはお互い様って事で良くないですか? それに依頼の内容も気になるし、魔女って言うのが伝説って事も聞きたいし」


 エルフ王からの依頼とアヴァンが言っていた魔女が伝説という話しが気になっている織姫。

 そんな織姫の言葉を聞いて、エリスが話し始めるのであった。


「そうですね。まずは異世界の魔女の話しをしましょう。私達の世界には逸話や物語、そして伝説として語り継がれているものがあります。それが【聖王伝説】【時渡りの一族伝説】そして【救世の魔女伝説】という3つの伝説が存在します。その内容は物語のような有り得ない現象や、嘘のようなものばかりです。我々エルフの民を統括する王族ですら、それらの伝説に関わる文献や資料を殆ど持ち合わせていません。ですが、今私の目の前には魔女がいる。それこそが【救世の魔女伝説】が本当だったという証拠になります」


 織姫が本物の魔女だと信じきっているエリスの瞳は、冷静に話しながらもキラキラと輝きを見せていた。だが


「ちょっと待って。確かに私は魔女だって言われてこの世界に来てるけど、魔女の定義っていったいなんなの?」


「私の知識の中では魔女と、魔法を自在に操ることの出来る女性を指しています。私達エルフは体内に微量な魔力を所持していますがその魔力を使う事は出来ません。稀にその魔力を人体強化系魔法や物質硬化系魔法に転じる事の出来る者もいますが、それは本当に些細な魔法なのです」


 魔力、魔法、魔女。疑問に思っていた事を丁寧に説明され理解する織姫。そんなエリスの話しを聞いて、織姫は気まずそうに言うのであった。


「……えっと、その。私は確かに魔女なんだけど、魔法使えないんだよね……。てへっ」


 苦笑いを浮かべ、気恥ずかしそうに言う織姫。そんな織姫の言葉を聞いた皆が一瞬だけ黙った。そして


「魔法が使えないだとっ!? 貴様は先ほど私の剣をその手で折ったではないかっ!? あれは人体強化系魔法を用いての事ではなかったのかっ!?」


 驚きを隠せないアヴァンが声を荒げながら言う。そんなアヴァンの言葉を肯定するかのようにエルフ王とエリスは頷いていた。


「その事ならワイが説明しましょ」


 今の今まで黙っていたジョナサンが織姫の肩から飛び降り、ムカつくくらいのドヤ顔でアヴァン達を見る。そしてジョナサンが話し始める。


「織姫はんは正真正銘の魔女や。どないして魔法が使えんのかはワイもわからん。せやけど織姫はんが剣を折ることが出来たのは魔女補正がかかっとるからや」


 魔女補正の説明をするジョナサン。

 魔女補正とはこの世界に召喚された魔女に与えられる能力で、その補正がかかっているだけで人体強化を受ける事が出来るものだ。

 だが、織姫の補正は運動能力が突き抜けていて、腕力から俊敏性、反応速度に動体視力に至るまで異常なまでに高まってしまっている。

 なので織姫がアヴァンの剣を折れたのは補正がかかっているからなのである。簡単に言えばただの力バカだ。


 そしてジョナサンの説明が終わりエルフ王、エリス姫、アヴァンの3人は唖然としていた。そして一番初めに口を開いたのはアヴァンだった。


「魔女補正なるものが存在していたという事実はハッキリ言って未だに信じがたい。だが本人が魔法を使えないと言っているし、私の剣も折られてしまっている。やはり信じる他ないか」


 無理矢理自分を納得させようとしているアヴァン。自分の胸の前で腕を組み、悩ましげな表情で今の話しを自分なりに考えているみたいだった。

 そしてエリスも、ジョナサンの言葉を信じられないという表情をみせていたが、アヴァンの言葉を聞いて納得せざるおえない状況なのだと理解している。

 だが、エルフ王だけは違っていた。


「その魔女補正というものが有るか無いかは別にしても、魔法が使えないとすれば今回の依頼は難しくなるぞ」


 意味深長な言葉を吐くエルフ王。

 今回の依頼には魔法というものも深く関わっていると言わんばかりの発言だった。

 そんなエルフ王の発言に反応したのは織姫だった。


「魔法が使えないと難しいって、結局依頼ってなんなんですか?」


「………………」


 織姫の言葉に反応を見せないエルフ王。

 その理由はこの場にいる全ての者達が理解していた。そして


「ねぇ王様、今はさ真面目な話しをしてるときなんだよ。いい加減貧乳と話さないとか後半で使われなさそうな設定を守るのとか止めない? 本当にブッ飛ばすよ?」


 静かに怒りを露わにする織姫。そんな織姫を見ているのに耐えかねたのかエリスが


「すみません織姫さん……。父に代わり私がお話しします……」


 とても気まずそうに言うエリス。その空気はアヴァンすらも感じている様子で、もうエルフ王の味方はこの部屋の中にはいないようだった。


「でわ、今回の依頼の話しを始めたいと思います。今回の依頼はある者を討伐してもらいたいのです」


「ある者?」


 織姫が反応をする。そしてエリスが言葉を繋げようとした次の瞬間


「そんな依頼はダメや」


 急に口を開き始めるジョナサン。その表情はとても険しく、真剣な面持ちだった。


「なんでダメなのよ?」


「ワイは殺しはせぇへん。そんな自分の手を血で染めるような依頼ならない方がましや。エルフの王様からの依頼であってもそこだけは譲れへん。これがワイのプライドや」


 ジョナサンの言葉で場に静寂が訪れる。そしてその静寂の中、再びエリスが口を開く。


「オサーンさん。今回の依頼は決して殺しではありません。あくまで内容は討伐なのです。それにこの依頼がエルフ領内に住む全ての民の命に関わると言ってもオサーンさんは依頼を引き受けてはくれないのですか……?」


 不安げな表情になるエリス。そして口にされるエルフ領内の民の命。

 この依頼を受けなければ確実にエルフ領の全ての者達の命が失われてしまうと、エリスの瞳が物語っていた。

 今まで騎士として振舞っていたアヴァンも俯き、そこには自分の無力さを感じ取っている剣士がただただ存在していた。


 この場の空気を察したのかジョナサンがもう一度口を開く。


「エルフ領の民の命がかかっとるって、いったいどうゆうことや」


「はい。今回の依頼はエルフ領の全勢力を持ってして討伐するのが困難なのです。その討伐相手は━━」


 一瞬の間をおくエリス。そして


「神獣です……」


「神獣、やって……!?」


 神獣という単語を聞いた瞬間にジョナサンの表情が変わった。

 その表情は絶望しているかのようの表情で、恐怖すら入り交ざっていた。そんな神獣というものを知らない織姫は


「ねぇ神獣ってなに? 私にも分かるように説明してよ」


「神獣ゆーんはな━━」


 ジョナサンが神獣の説明をし始める。


 神獣。それはこの世界にいる獣である。四大種族には理性というものや知性というものがあるのが、神獣にはそれがない。すなわち本能のまま生きている動物と大差は無いのだ。

 だが神獣の恐ろしいところは異常な戦闘本能である。自分達以外の種族を敵とみなし、見つけた瞬間に捕食を開始する。それがエルフ領内の民の命がかかっているということなのだ。

 戦闘能力の低いエルフにとっては神獣が領内に入ってきてしまったこと自体が絶体絶命ということだ。


 そしてジョナサンの説明が終わる。そんな説明を聞いた織姫は。


「そんなヤバイ獣がどうしてエルフ領内に出たってわけ?」


「それは私達にもわかりません。ですが神獣はドワーフ領にしか現在生息していません。ドワーフは神獣の心を読み、共存する術を身につけているのです。そんなドワーフは神獣を自由に使役することが出来ます。なので条約が成立して依頼、神獣は他領には出没する事はありませんでした。ですが今回……」


 そう言うとエリスは俯いた。自分でも何がどうなっているのか、どうして神獣がエルフ領内に現れたのか何も分かっていないからだ。

 戸惑い慌てふためくのは簡単な事だが、エリスはエルフ領の姫。そんな醜態を晒すわけにはいかない。だからこそ気丈に振舞うのだ。


「エリスのその表情で何となくヤバサは伝わった。でもその表情から察するにドワーフっていう種族が故意的に神獣をエルフ領に侵入させたって事も考えずらいって事だよね。それならやっぱり私がどうにかしなきゃだよね。これでも一応魔女だし」


 そう言うとエリスを元気付けようとしたのか、織姫は気恥ずかしそうに微笑んだ。そんな織姫を見てエリスは感謝の気持ちをその表情で表している、

 そして織姫は最後に疑問に思っている事を聞くのであった。


「それで最初に言ってたけど、その神獣を討伐するのにどうして魔法が必要なの?」


 その疑問はエルフ王が始めに言った魔法が必要という内容だった。

 確かに未だにその内容だけは話されておらず、織姫が疑問に思うのも無理は無い。そしてそんな織姫の疑問に答えたのは


「神獣は大量の魔力を保持しているからなのです」


 リリーナだった。


「ど、どうしてリリーナそんな事知ってるの?」


 織姫の疑問は尤もだった。

 このような知識をリリーナがいったいどこでつけてきたのか。そんな疑問を浮かべながら織姫はリリーナへと問う。すると


「……え? なにがです? 私今何か言ったですか?」


 不思議な事にほんの刹那前に自分で言った事を覚えていないリリーナ。そんな状況が理解出来ていない織姫は


「どうしたのリリーナ? 大丈夫……?」


「わ、わからないです……。なんか急にボーっとしてしまって、気がついた時には私が何かを言ってたと姉様が言ったです……。私どうしてしまったですか……?」


 今の自分の状況を飲み込めないリリーナは不安を吐露する。そんなリリーナを見かねたのかエリスが


「今日は少しバタバタしてしまいましたね。王宮になれていない皆様はお疲れでしょう。今日はお部屋をご用意致しますのでそちらをお使い下さい。何かありましたら何なりと従者にお申し付けくださいね」


 笑顔で言うエリス。きっと体調が悪くなってしまったリリーナへの配慮であったのだろう。

 そんなエリスに目で感謝の気持ちを伝える織姫。

 話の途中ではあったが、リリーナを優先したいと思っている織姫一行は、謁見の間へと入って来た従者達に部屋へと案内されるのであった。



 

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