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サー・マジョ  作者: さかな
第一部 異世界の魔女
7/22

006 エルフ王の依頼

 

 

 

 

 平凡な日常、普通な毎日。それは誰もが社会人になれば感じる日々で、同じような事が毎日毎日繰り広げられる。

 朝のアラームで目が覚め、寝ぼけながらもベッドから出る。そして寝起きの不安定な体を洗面所まで運び、冷たい水で顔を洗う。それから歯を磨きシャワーを浴びて、目が覚めた状態で朝食を拵える。

 簡易的に作られた朝食を食べながらニュース番組で情報を収集して、髪の毛を乾かし化粧をする。綺麗にセットされた髪を見ながら満足し、スーツに着替えて荷物を持ち家を出る。


 これが社会人になった女性がする一般的な流れだ。

 もちろん前日に飲み会やら夜更かしなどをしていた場合、こんなにも優雅な準備をする事は出来ない。その実例を見てもらおう。


 ピピピッピピピッ


「……んっん。ふぁぁもう朝かぁ」


 時計の音で目を覚ました一人の女性。そんな女性は優雅にベッドで上半身を起し、伸びをしている。

 伸び終わりゆっくりと時計の時間を確かめた。すると


「ふぁぁ、ん? もう八時かぁ。……ん? って完全に寝坊しているじゃないっ!!」


 現在の時間を確認して慌てふためく女性。そんな彼女の名前は

 華虞夜かぐや織姫おりひめ


 ごくごく普通のOLで、彼氏いない歴数年という29歳目前のいき送れ女だ。

 そんな彼女は何も無い平凡な日常を送っていたのだが、ある日突然、異世界へと飛ばされてしまったのである。その異世界はこの現実世界とは全く異なっている世界であり、物語なんかで存在するファンタジーな世界だった。


 そんな世界に小さな妖精さんに召喚されてしまった織姫は自分の世界に戻るために契約をまっとうした。そのおかげで今は現実世界で生活をしている事が出来るのだ。

 だが、そんな織姫は寝坊をしてしまってせいで、ドタバタと慌てふためいている。


 そんな中でも情報を収集する為にテレビをつけニュースを見る。

 だが、そのニュースは驚愕なものだった。


「三ヶ月前から行方を追っている某市の女子高生行方不明事件。未だに女子高生の行方は分からず、警察は引き続き捜査を続行すると公表」


 女子高生行方不明事件。あまりにも悲しいニュースであり、絶対に起こってはいけない事件だ。

 だが、そのニュースはまだ続く


「先ほどの女子高生行方不明事件の更に数ヶ月前に起こった事件で、行方不明になっていた女子高生が遺体で発見されました。遺体の状況は酷く司法解剖の結果、事件性は薄いという判断が下りたのこと。だが警察は何らかしらの事件に巻き込まれていると捜査を続行するもようです。続きまして今日の天気に移りたいと思います」


 人々が感じている不安はごくごく小さなもので、誰も自分の身には降りかかりはしないと思っているのだろう。それが今の平和な国になってしまった日本の現状なのである。

 一般人が普通に生活をしていれば犯罪に巻き込まれる可能性は少ない。だからと言ってその可能性を完全になくしてしまっているのが今の日本人なのだ。


 自分は大丈夫、自分はそんな事にならない。そんな風に安易な思考に取り付かれてしまっているが為に犯罪という現状に面した時、自分では何も行動をする事が出来ないのだ。

 誰かが助けてくれる、きっと自分を守ってくれる人が現れる。だけど、そんな物語の中で起こっているような奇跡は起こらず、そのまま命を落としてしまう人間が多いのだろう。


 そんなニュースを横目で見ているのか見ていないのかよく分からない織姫は


「ちくしょー!! あーもう、化粧なんか適当でいいよっ!! なんで今日に限って寝坊するかなっ!!」


 結局、いつもの様にちゃんと準備もしないまま織姫は会社へと向っていったのであった。

 

 

 ◆

 

 

 そして会社。

 織姫は息を切らしながら社内へと入っていき


「おはようございまーす」


 グチャグチャになっている髪の毛のまま朝の挨拶をした。

 そして社内にいる数人の人から挨拶を受け、織姫は何事も無かったかのように自分のデスクへと座った


(あぶねー。もう少しで遅刻するところだったよ。まぁ昨日は遅くまで飲んでたし、何となくこんな事になるんじゃないかって思ってたんだけどね)


 遅刻しないで安心したのか織姫は自分の席に座り何事も無かったかのように仕事の準備を始める。

 だが、誰も何も織姫に言わないだけで織姫の今の見た目は結構酷いものだった。


 先ほども言ったが髪の毛がグチャグチャで服装を汚い感じだ。挙句の果てにはその化粧。口紅は少しはみ出ていて、眉毛は片方書いていない、それにくわえて焦っていたのか羞恥をなくしてしまったおばさんの如く濃くつけられてしまったピンク色のチーク。


 もはや化物と言っても過言ではないだろう。そんな状況の彼女に大人は何も言えない。きっと学生ならば「何その化粧ー」とか言いながら笑ってくれるのであろう。だが、社会人はそうもいかない。気になりはするが相手を傷つけてしまうんじゃないかと恐怖するあまり何も言えなくなってしまうのだ。

 これが大人になり他人を気遣ってしまうあまり起こってしまう悲しい事件だ。


 もうこうなってしまったら自分で鏡を見て気がつくことしか出来ない。そして思う、どうして誰も言ってくれなかったのって……。

 だが、何も言ってくれなかった人達を責める事は出来ない。それは貴女のことを思ってのことだったのだから。


 そして何も気がつかないまま織姫は準備をする。そして自分のデスクの引き出しを開けた。

 だが、それは今回の時間の発端にもなる出来事で、この時の織姫は何も知らなかった。


 ガラガラッ


「大変やっ!! 大変やっ!! 大変やっ!! 大へ━━」


 バタンッ


 引き出しを開けた瞬かに物凄い顔をしている小さなオッサンがいた。そのオッサンは切羽詰っているようで、何かを伝える前に自分の大変さを伝えたかったのだと思う。

 それは未来からきたニャンコロボットではなく、本物の小さなオッサンだった。


 織姫は周囲を見渡し、誰も何も気がついていないことを確認すると、もう一度その引き出しを開いた。


「大変なんや織姫はんっ!! って化物やっ!!!!!」

 奇声を上げながら更に奇声を上げる小さなオッサン。そんなオッサンの姿を見た織姫は


「てめぇ……。後で必ず殺すからな……。だけど今は仕事だからマジ後にして。仕事終わったらいくらでも話し聞いてあげるから」


 そう言うと織姫はデスクの引き出しを閉めた。

 その直後に感じる痛い視線。それは会社中の人達が奇妙な目で織姫を見ている視線だった。

 それはもう、本物の変質者や精神異常者を見るような目で誰もが精神を破壊されてしまうくらいの現状だった。だが


「は、はははー。何か今日は喉の調子が悪いなー。大変やー。あーやっぱり今日はダメかもしれないー」


 棒読みで言う織姫。それが無駄な演技なのだと自分でも分かっているようだった。だが、こんな事でもしない限り今の現状を打破することは出来ないと判断したのだろう。

 織姫の凄い所は状況判断能力だ。


 どんなに自分がダメな立場になってしまっても、今のような変態のように見られても、現状で一番良い選択肢を選ぶ事が出来るのが華虞夜 織姫だ。

 それは、その行動で自分の評価が下がろうとも、どんな風に思われようとも何もしないよりかは何倍もましな選択肢を選ぶことだ。


 織姫が人生の中で育んできた能力は決して悪いものじゃない。そんな冗談じみた行動をしなければ織姫は確実に変態というレッテルを貼られていただろう。

 だって自分のデスクの引き出しと一人で喋っている変態なのだから。


 今日という日まで自分の地位を確立してきた織姫だ。

 仕事も出来て成績も良い、人当たりもよく周りからは「本当に華虞夜さんは良い人」なんて言われてしまう程の人間だ。

 そんな人間が簡単に自分の築き上げてきたものを手放すとは思えない。


 それは今の社内の状況で分かる。回りの人間は「なんかいきなりだったけど、華虞夜さん風邪ひいてるのね」「いつも優しいお姉さんの先輩が変になる事なんてないですよね」という言葉が行き交う。

 その言葉を聞いて安心した織姫は、仕事を始めたのだった。

 

 

 ◆

 

 

 そして全ての仕事が終わり帰宅する織姫。もう太陽は沈んでしまっていて辺りは暗くなってしまっている。

 疲れ果てている織姫は家に着き、荷物を部屋の中に雑に置く。そして着ている服を脱ぎ投げ捨てる。


 社会人を始めて数年経つ一人暮らしの女性の生態とはこのように無残なものなのかもしれない。


「あーマジで疲れた……。朝は寝坊するし、化粧は中途半端になるし、挙句の果てに……」


「もう、そないに疲れてどうしたんですか織姫はん」


 疲れきっている織姫の目の前には朝に現れた小さなオッサンがいる。そのオッサンを冷たい表情で睨む織姫だが、何か言葉を発しようとはしなかった。

 きっと、もう何を言っても今の現状を変えられないと悟っているのだろう。睨む織姫の瞳には諦めが混ざっていた。


「……はぁ。それで、何が大変だったの……?」


 嘆息し織姫はオッサンに話しを聞いた。するとオッサンは思い出したかのように


「せやっ!! 織姫はん大変なんやっ!! もう大変すぎてワイも何が大変なのかいまいち分かってへんっ!! もう取りあえずなんでもえーから織姫はんにはまた異世界に来てもらいます」


「ちょ、ちょっと待ってよっ!! 私は仕事終わりなんだよ? マジで疲れてんだよ? そんな何でもいいからなんて言われて簡単について行くほど私は軽い女じゃないんだからねっ!!」


「何が軽い女じゃないや。織姫はんは自分の歳をちゃんと弁えなきゃあきまへんよ。さぁ、こっちでも仕事なんやから大人がワガママ言わんといてください」


 織姫の言葉も虚しく、オッサンは強制的に織姫を連れ出した。


「もうオサーン、本当に今日は疲れてるんだってばぁ……」


「ワイはオッサンあらへんっ!! ワイの名前はオルヴィウス・サーベント・ジョナサンやっ!!」





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