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サー・マジョ  作者: さかな
第一部 異世界の魔女
4/22

003 プロローグ4

 

 

 

 

 

 宿屋を探して【イーヴィング】を彷徨う織姫。力なく項垂れながら歩く様はまさに生きた屍のようだった。

 そんな織姫は宿屋を探しながらもこの町の事を観察し理解しようとしていた。


(なんか本当に私異世界に来たんだな。辺りを見渡しても漫画とか小説の中に出てくるエルフが沢山いる。服装も私の生きていた世界とは少し違って、しいて言うなら中世のヨーロッパで出てきそうな服装だ。まぁ映画とかでしか見たことない服装だよね。つか八百屋さんみたいな商店が沢山ある。私の世界じゃあまり見ないよね。それでもここの人達は凄く明るくて、なんだか楽しそうに生きてるんだな)


 その時


 ドンッ


 織姫の体に何かが当たる。その衝撃と共に織姫は何かが当たった方を見た。そこには

 小柄な少女が頭を押さえながら立っていた。その少女はとても可憐な瞳をし栗色の淡い髪の毛、肩まで伸びているその髪をは細く少し風が吹けば綺麗なその髪を靡かせた。そして小柄な体躯とは正反対なとても大きな胸。

 そんな少女の胸を凝視してしまっている哀れな織姫とアホのジョナサンがそこにいた。


「ご、ごめんなさいですっ! わ、私凄くドジみたいでいつもお兄ちゃん達にからかわれてしまうです……。ちゃんと前を見て歩いてるつもりなのですが、どうしてか歩いている人とぶつかる事が多いです……。本当にごめんなさいですっ!」


(なんだこの娘は……。私の妹にしたいっ……!!)

(なんやこの娘はん……。おっぱいが途轍もなくデカイッ!!)


 卑猥な考えを浮かべているオッサンと叶うはずもない願いを空想しているアラサー女。

 そんな二人を置き去りにして、少女は何度も頭を下げた後立ち去って行った。だが


 ドンッ


「ご、ごめんなさいですっ! わ、私凄くドジみたいでいつもお兄ちゃん達にからかわれてしまうです……。ちゃんと前を見て歩いてるつもりなのですが、どうしてか歩いている人とぶつかる事が多いです……。本当にごめんなさいですっ!」


 再び歩行者とぶつかる少女。そして織姫に言った時と同じ言葉を繰り返す。

 きっと少女の中では誰かとぶつかった時に言うセリフが一緒なのだろう。そう思わなければあまりにも不思議な光景だといえる。

 ぶつかる度に同じ言葉を言い頭を下げる変な少女。そして次の瞬間


 バタンッ


(何もない所であの子こけた……)

(こけたけどおっぱいがクッションになってるから大丈夫やろ)


 立ち去る少女の姿を心配そうに見ている二人。そんなドジな少女はその後も何度も人にぶつかっては謝り、そして何度も何もない所で転んでいた。


「ねぇオサーン。あの子みたいな女の子って男からしてどうなのよ?」


「そうですねぇ。ドジっ子という特性を好むか好まないかは賛否両論ですわ。だけど、あのタプンタプンのおっぱいは皆大好きですわっ!」


 鼻の下を伸ばしながらジョナサンは織姫の質問に答えた。そんなジョナサンの話しを聞いていいるのかいないのか、織姫は一瞬下を向き少し悲しい表情をしていた。


 そんな織姫の様子に気がついたのかジョナサンは


「どうしたんです? 織姫はん?」


「べ、別になんでもないわよっ!! ほら、さっさと宿屋探してゆっくり休むわよっ!!」


 そう言い織姫は歩き出した。

 

 

 ◆

 

 

 宿屋に着き織姫は部屋のベッドの上に寝転がっている。そしてジョナサンはベッドの横に置いてある棚の上にいた。

 少し安っぽい宿。だが今の織姫には贅沢を言っている余裕なんてなく、少しボロくてもジョナサンの家よりかはましだと思っていた。


「やっとベッドで寝れるー。あーこんなにも普通のベッドが大切な物なんて今まで気がつかなかったよー」


 ベッドに寝転んだ織姫は幸せそうな声を上げ、にこやかな笑みと共に目を瞑った。

「横になりはったら寝てしまいますよ? シャワー浴びるゆーてましたよね?」

「そうだった。シャワー浴びたい」


 ベッドの上から勢い良く起きた織姫は立ち上がりシャワー室へと入っていった。



 シャワー室へ入った織姫は汗でベトベトになり草木で汚れてしまった服を脱ぐ。脱いだ服を入れるために完備された木を編んで出来た籠へ服を投げ入れた。

 生まれたままの姿になった織姫は現実世界と同様な形状をしているシャワーのノズルを捻る。


 ザーッ


 勢い良く流れ出てくるお湯。それを頭から被る織姫の腰の右側には十数センチの痛々しい切り傷のようなものがあった。

 お湯で濡れた髪の毛を手串で撫で織姫はそのまま体を自分の手で洗い始める。


「織姫はん湯加減はどうです?」


「うん。ちょうどいいよ」


 不意にシャワー室の外からジョナサンが織姫に話しかけた。そんなジョナサンへと返答する織姫。

 お湯が流れる音と湿気が混ざった空気。ボロイなりに木の良い香りがする。

 そんな中ジョナサンは織姫に小さな疑問をぶつけた。


「なぁ織姫はん。どうして織姫はんはそんなにも普通でいられるんですか?」


「藪から棒に何よ」


「いや、なんでこないな意味不明な正解に連れてこられたんに冷静でいられるのか気になりはったんです」


 ジョナサンの声音は落ち着いていると同時に不安が混ざったようだった。そんなジョナサンへ織姫は


「別に冷静なんかじゃなかったよ? でもさこの歳にもなれば現状を理解するよりも現状をどう打開するかを考えるのよ。不安になってオドオドして理解が出来ないからってその場で蹲るのはガキがする事。私はそんな子供になれないし、そんな子供になりたいとも思わない。だから受け入れるしかないのよ。今の自分が置かれている状況が現実で、それを否定したって何も意味がない」


 シャワーの音と共に響く織姫の声。その声には少しの寂しさが帯びていて、自分は大人なのだと織姫自信が言い聞かせているようだった。


「そうか……」


 ジョナサンも織姫の気持ちを理解できたのか、悲しげな声音で返事をした。


「まぁそれはそれでいいんだけどさ」


 織姫の声音が変り怒りを帯びた声で言う。そして織姫はいつもの如く拳を強く握っていた。そして


「アンタはどうして私と一緒にシャワー室にいるのかな?」


「そんなん決まってるやろっ! 今日は織姫はんが凄い頑張ってくれたんや、ワイだってそのお礼に背中くらい流したろっつー気持ちくらいありますっ!」


 いつの間にかシャワー室内に潜入していたジョナサン。そんなジョナサンも服を脱いでいて下半身には小さなタオルを巻いていた。

 その姿はもうただのオッサンにしか見えなくて、魔法を使う事の出来る妖精さんには到底見えなかった。


「私の裸が見たかっただけでしょっ!!」


 シャワー室内に織姫の声が響き渡る。だが、その声に負けじとジョナサンも自分の気持ちを通そうとした。


「何ゆーてんねんっ!! ワイにそんな疚しい気持ちこれっぽっちもあらへんっ!! 確かに織姫はんのスタイルはえぇし、普通に魅力的な女性だとも思います。せやけどワイはおっぱいの小さな女には興味あらへんのやっ!!」


 恥ずかしげもなく自信満々に言うジョナサン。自分がどれ程失礼な事を言っているのか全くもって理解していない様子だった。そんなジョナサンは更に続けて言う。


「織姫はんのその胸はなんです? 小さい胸をまな板言いますけど、それでも少しは膨らみがあるやろ。織姫はんのは正真正銘まな板やっ!! 乳首があれば胸だと思うのは勘違いやでっ!!」


 ガシッ


 魔女補正がかかっている織姫の右手がジョナサンを鷲掴みにした。だがその力は加減されており苦しいのには変わりないが手の中でジタバタ出来るほどだった。


「アンタは私の裸が見たかったんだよなぁ? ほらどうだ、私のまな板は、さぞ見ながら後悔してるだろう」


「お、お、織姫はん……? さっきのはジョークやないですか。ワイは織姫はんのちっぱいも大好きやで」


 言い訳すら中途半端になってしまうジョナサン。だがそれは今にも生存している生物を殺しかねないような笑みを浮かべている織姫を見てしまったからである。そして


「オサーン。アンタの内臓をこの場でぶちまけるのは簡単な事だ。だけどね、そんなのじゃつまらないでしょ?」


 バッシャーンッ


 桶の中に溜められた水。織姫はその中にジョナサンを掴んだまま投入する。


「ゴバッ! お、織姫はんっ! ゴボボボっ! ほ、ほんまにこれは、ガバッ、あかんっ!! このままじゃほんまに死んでしまうっ!!」


「あぁ? なら死ねよ」


 そう言いはなった織姫は死なない程度にジョナサンへと空気を与え、苦しんでいる姿を見ながらケタケタと笑っていた。

 その姿はまさに悪魔そのもので、本当に楽しそうにジョナサンを拷問していた。


「も、もうダメや……。ワイはここで死んでしまうんや……」


 ザバーンッ


「もう飽きた」


 そう呟いた織姫はジョナサンを桶の外に出し、そのまま一人でシャワー室から出て行く。


「ケホッケホッ。お、織姫はんどないしたんですか? ワイならまだ耐えられますよ」


「飽きたって言ってるでしょ。それにもう眠い」


 半ば喜んでいたかのような発言をするジョナサンを軽く往なす織姫。そんな織姫の後姿を見ながらジョナサンは呟いた。


「ほんまに、織姫はんの考えてることはよーわからんわ」


 頭の上にタオルを乗せ、桶に残っているお湯に浸かるジョナサン。そんなジョナサンの目に映ったのは、織姫の生々しい傷跡だった。



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