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サー・マジョ  作者: さかな
第一部 異世界の魔女
17/22

016 聖都ティファレ 急襲

 

 

 

 

 

 【ティファレ】アヴァンの両親の墓の前。

 アヴァンっは崩れ落ちながら織姫の助けを求めていた。それは自分が敬愛しているエリスが変わってしまったという事だった。

 神獣討伐後、織姫が眠っている時にアヴァンとエリスの間に起こった事を全て吐露するアヴァン。

 その事実を聞いた織姫は、少し冷静さを失ってしまったのか虚ろな瞳で


「エリスがそんな事言ってたんだ……。ははは、私は道具なんだ……」


 空間を見つめ焦点が合っていない視線のまま織姫は呟いた。そんな織姫を見て、アヴァンは


「確かにエリス様はそう仰っていた……。だが本来のエリス様なら誰かを道具などと言うお方ではないっ!! 他者の事を思い、いつも自分を犠牲にしてしまうのがエリス様だったのだ……。なのに、エリス様は変わってしまわれた……」


 悔しさがあるのだろう。アヴァンは自分の拳を強く握る締め、その拳を地面へと叩き付けた。そして


「だが、私は織姫を道具などとは思っていないっ!! いまだに魔女は憎いが、織姫が私の両親を殺した魔女ではないという事だけは分かる。貴様は誰かを殺せる程、無神経ではない。今の私を受け止めてくれたように、私も織姫を信じる」


 強い瞳で織姫へと自分の気持ちを伝えるアヴァン。そんなアヴァンの気持ちが心に届いたのか、織姫の虚ろな瞳には光が灯った。


「あいがとね、アヴァン。あーなにウジウジ考えてんだろ私。私ってこういう性格じゃないよね。もっとこう、ガーッとやってオンドリャァっ!! ってしちゃうようなタイプだったわ。女々しく考えても何も解決しないし、真実に辿りつけない。だったらさ、私達で直接エリスに聞いちゃおうよっ!!」


 そう言い膝を着いているアヴァンに手を伸ばす織姫。その手を苦笑を浮かべながらも掴むアヴァン。そして立ち上がったアヴァンに織姫は言う。


「でもさアヴァン、これだけは約束して。エリスがどんな風に変わってても、エリスがアヴァンを裏切ったとしても、アヴァンだけはエリスを信じ続けてあげて。きっとエリスにとってアヴァンは、この世界で一番大切な存在だから」


 真剣な表情でアヴァンに言う織姫。そんな織姫の言葉を聞いてアヴァンは一瞬だけ俯く。

 それは一度でもエリスの気持ちが分からなくなってしまったからで、もう一度昔のようにエリスを信じられる自信がアヴァンには無かったからだ。

 だが、織姫の言葉、そして昔のエリスが語ってくれた夢。その夢を聞いて、エリスの思いを知って騎士団に入ると、エリスの剣になると決めたアヴァンの気持ちが甦っていた。


「あぁ、分かった。何があっても私はもうエリス様を疑いはしない。エリス様が道を間違えそうになったのなら、私の剣で道を照らそう。そうだ、私はエリス様に忠誠を誓った騎士なのだから」


「やっといつものアヴァンに戻ったね。私に剣を向けたときのアヴァンに」


 アヴァンの瞳にはもう一度炎が灯り、自分がエリスを導く騎士なのだと強く言い聞かせた。そんなアヴァンをからかう様に織姫は言葉を紡いでいた。


「あ、あの時はただ騎士たる仕事を果たそうとしただけだっ!! 王に拳を向ける者を成敗しようとして何が悪いっ!! アレは完全に織姫が悪かったのだぞっ!」


 幼い子供のように頬を膨らませ、織姫の言葉に反論するアヴァン。そんなアヴァンを織姫はからかい続けて、本物の姉妹のように見える。

 そんな二人ははしゃぎながら、自分達の家【アスタリア】へと帰るのであった。

 

 

 ◆

 

 

 【ティファレ】【アスタリア】間の山道。

 織姫とアヴァンは【ティファレ】で馬車を使い【アスタリア】への帰路にいた。

 アヴァンは「自分でも馬車くらいなら扱える」と言ったいたが、織姫が「疲れてるんだから誰にやってもらったほうがよくない?」と言い、運転手付きの馬車に同乗している。


 現実世界でも織姫は「金なんていくらでもあるんだからタクシーで帰ろうよ」と言い飲み会でのタクシー代を自分で全て支払うという完全無敵のめんどくさがりやだった。

 その事実があるからなのかアヴァンも織姫の押しに負けて、今の状況を作っていた。


「それにしても、本当に今日は気分転換に誘ってくれてありがとね。アヴァンが誘ってくれてなかったら今頃私、凄く落ち込んでたと思う。それに今日はアヴァンの事も沢山知れたし最高の一日だったよ」


「何を言っている。それは私も同じだ。織姫がどういう者なのか知れてよい一日だった。それに父さんと母さんにも会えたしな」


 他愛も無い会話。二人の絆が少しだけ深くなった事を実感させてくれるような会話だった。

 そして織姫とアヴァンは二人とも笑顔で、帰ってからエリスの真意を問う者の姿ではなかった。だがそれは、二人ともこの先の未来が何となくだがわかっている証拠とも言える。


 ここから【アスタリア】帰り、エリスに真意を問う。それがきっと自分達が思っているような素晴らしい結果ではなく、事によってはエリスの敵になってしまうかも知れないと言う予測。

 だからこそ二人は笑っているのかもしれない。だが


「楽しい話しをしているのにすまないが、織姫は気がついているか」


 笑顔を真剣な表情へと変え、織姫に問うアヴァン。そんなアヴァンの問いに織姫は


「アヴァンが言うなら私の勘違いじゃないんだね。まぁ気のせいだとは信じたかったんだけど」


 アヴァンの問いに答える織姫の表情も真剣なものへと変わるる。


「そうだな。私も信じたくは無かったが、私達は確実に尾行されている。だが今の私には武器がない。徒手空拳で戦っても構わないが、敵の人数が分からない以上、ここで戦闘に転ずるのは愚行だ」


 冷静にその場の判断を下すアヴァン。だが織姫の考えは違っていた。


「何言ってのよ。私は天下無敵の魔女だよ? 敵が何人いようが関係なくない?」


 織姫の意見は尤もな事だった。確かに普通の兵ならば相手の人数や武器、その他もろもろを視野に入れ作戦を練り戦闘をおこなう。だが織姫は異世界の魔女であってこの世界に住んでいる者からしたら異端な存在だ。

 そして織姫には魔女補正という途轍もない力がある。それをふまえれば敵がどんなに多くても織姫一人でどうにかなる問題なのだ。

 だがアヴァンは


「何を言っているっ! ここで織姫が戦闘をしてみろ、その瞬間他種族へ貴様の存在が浮き彫りになってしまうのだぞっ!? 私達は関係を立たれている間柄だが、魔力探知を疎かにした事は無い。神獣の件でも、きっとエルフ領に魔女が居るという事は既に露見している。だがあの時はトウカという魔女がいたから織姫存在が認識できなかったかもしれないが、今貴様の力を使えば確実にエルフの手中に魔女がいると勘違いされる。それがどういう意味だかわかるか」


 必死に織姫の説得を試みるアヴァン。それでも織姫にはアヴァンが何を伝えたいのか分からないようであった。


「だから、それを知られたら何が起こるって言うのよっ」


「そんなもの、戦争が起こるに決まっているだろうっ!! 魔女とは異質な力だ。それが国土最小で四大種族の中で最弱のエルフに偏ってみろ。他の種族達は私達が力を蓄える前に攻撃を開始し、その力を奪うべく争うのだっ!! そうなればもう一度、50年戦争の惨劇が訪れる……!!」


 50年戦争。それはこの世界での最強最悪の戦争。今では文献でのみその惨劇を語られているが、当時は何千何万もの者達の命が奪われた。

 そしてそのもう一度戦争が起こるとするのならば、故意的に戦争を起す者がいるか、それとも強大な力の存在が浮き彫りになった時であろう。


 その事を懸念しアヴァンは織姫の戦闘を止めたのだ。


「だから織姫は戦うな。もしもの時は私がどうにかしよう。取りあえず馬車屋の主人にもう少し速度が上げられないか聞いてくる」


 そう言うとアヴァンは馬車屋の主人の下へと行く。そして前へと出て、主人の姿を確認したアヴァンは


「おい主人、もう少し速度を上げられない、か……!?」


 アヴァンの声音が変わった。そしてアヴァンがそこで見たものは、気を失ってしまっている主人だった。

 主人の手からは手綱が離れており、誰かのいう事を聞いて馬が走っているのではなかった。その身を自由になった馬はそのまま山道をはずれ雑木林の方へと進路を変えた。


「織姫っ!! 馬車から飛び降りるんだっ!!」


 大声で叫ぶアヴァン。その声を聞いた織姫は驚いてはいるが、すぐさま今の状況を察したのかアヴァンと共に馬車から飛び降りた。

 そして馬は林の方へと入っていき、屋形は生えている木に辺り粉々になってしまった。


 間一髪で馬車から飛び降りた織姫とアヴァン。そんな二人の目の前に馬に乗った数人の黒いマントを羽織った者達が立ちふさがる。

 マントのフードを被っているせいで顔が見えない。そしてその者達を睨みながらアヴァンは叫ぶ。


「貴様等はいったい何者だっ!! この私がエルフ領騎士団、団長のアヴァン・ハイムと知っての狼藉かっ!!」


 叫ぶアヴァンの声は響き渡る。だがその言葉にたいしていっこうに反応を見せない黒マントの集団。そんな黒マント集団に織姫が


「何か言ったらどうなのよっ!! つか何も答えないとかマジで殺すよ?」


 何も答えようとしない黒マント集団に苛立ち、殺気立っている織姫。今にも集団に飛び掛ってしまいそうな雰囲気を醸し出している。そんな織姫の目の前に腕を出し、制止するアヴァン。


「先ほども言ったが、織姫の戦闘は禁ずる」


「だけど、敵は見えてるだけでも5人はいるんだよっ!? アヴァン一人でどうこう出来る問題じゃないっ!!」


「私を誰だと思っている。このような者達が何人束になったとしても、そして武器が無く徒手空拳で戦わなくてはならなかったとしても、騎士団長の名は伊達ではないのだぞ?」


 そう言い微笑むアヴァン。

 日も暮れ視界が悪くなっている状態で、力量すら分からない敵と対峙する。すると


 ポツッ


 雨が降り始めた。夜で視界も悪いのに雨まで降ってきてしまった。だがそんな状況になってもアヴァンは不敵に笑う。

 そしてアヴァンは拳を構えた。


「織姫は出来る範囲で索敵を頼む。私はこの者達の顔を拝見させてもらうっ!!」


 そう言いアヴァンは黒マント集団へと突撃した。

 素早い動きで敵の懐に入り、身をかがませた。そして


「まずは貴様からだっ!!」


 その言葉とほぼ同時に、アヴァンの拳は開かれその手は刀へと化していた。そして黒マントの一人のフードがアヴァンに引き裂かれた。

 露わになったその黒マントを見て織姫が愕然とした。


「ア、アヴァン……。この人意識が無いよ……。それに、この人さっき【ティファレ】で私見たよ……?」


 黒マントの一人の正体は【ティファレ】のエルフだった。

 そんな織姫の言葉を聞いたアヴァンは口を閉じる。


(この者達が【ティファレ】の者だと……? ならどうして私達に攻撃をしてくる。待てよ、織姫は意識が無いと言った。だとすれば、何者かに操られている……? ならば)


 再びアヴァンが構える。そんなアヴァンの姿を見て織姫は


「何で構えてるの……? このエルフは【ティファレ】の住人なんだよ……?」


「何を寝ぼけたことを言っている。この者達が【ティファレ】の住人という事はもはや関係ない。騎士団長の私に牙を向けた事自体が罪なのだ。だからもう終わりにする」


 アヴァンの瞳には殺意が込められており、目の前にいる数人を殺す為に構えを取った。そして


「終わりだ」


「やめてえええええええええええっ!!」


 アヴァンの動きと同時に織姫の叫び声が木霊した。だがそんな織姫の声などお構い無しにアヴァンは目の前にいる全ての者に攻撃を加えた。

 そしてその場で倒れる黒マントの集団。そんな状況を見て織姫は


「どうして……、このエルフ達は何も悪くないのに……。これが騎士団長の仕事だとでも言いたいのっ!?」


 感情を爆発させてしまっている織姫。そんな織姫を雨を浴びながら佇むアヴァンが見ている。だが


「そんなに感情的になるな織姫」


「感情的になるな……? なるに決まってんだろうがっ!! どうして大切な民を殺すんだよっ!! アヴァンは何も感じないのかよっ!!」


「だから、感情的になるなと言っているだろう。冷静になれ。この者達は死んでなどいない。気を失わせただけだ」


 アヴァンの言葉を聞いて冷静さを取り戻す織姫。そして倒れている黒マントの集団の所まで行き、死んでいないことを確認した。

 そんな織姫を嘆息気味に見つめるアヴァン。そして


「よもや私が殺すとでも思ったのか?」


「だって……、私に牙を向けた事自体が罪とかアヴァンが言うから……」


「あの言葉はこの者達に言ったのではない。この者達は何者かに操られている可能性が高いと私は思ったのだ。そしてそんな精神操作系の魔法を使うのには至近距離からの発動が条件になる。そんな高度な魔法を使う事が出来て私達を襲う理由があるのは━━」


 アヴァンが最後まで話し終わる前に、アヴァンと織姫の目の前に一人の少女が現れる。そして


「あーあ、やっぱり精神操作系は使い物にならないわね。まぁ大きな戦場で使えば味方同士で殺し合ってる滑稽な場面が見れるんだけど。今回は使う場所間違えちゃったな」


 黒と青色のヒラヒラとしたドレスのような服を身に纏い、黒くて長い髪を靡かせている。そんな少女の声音はとても高く、アヴァンと織姫を小ばかにした話し方だった。

 そんな少女の姿を目視し、アヴァンは睨みながら言う。


「やはり貴様だったか。魔女トウカ」


 トウカ。それは神獣討伐の途中で乱入してきたもう一人の魔女だ。

 そんなトウカを睨み、威嚇をしているアヴァン。だが今のトウカはアヴァンに臆するような態度ではなかった。


「エルフ風情が何格好付けて言ってんの? つかアンタ邪魔。私はそこの魔女、織姫に話があって来てるんだから」


 そう言うトウカは織姫の方へとその瞳を移し不敵に笑った。そんなトウカに乗せられてしまったのか織姫は


「私もてめぇには借りがあるんだよね。あの時の決着、ここでつけるか?」


 トウカを眼前に織姫は本能的に戦闘態勢へと入る。それは神獣討伐の時の恨みなのか、はたまた怒りなのか。織姫の拳は強く握られた。だが


「やめるんだ織姫。先ほども話したが、ここで織姫が戦うのはダメだ。それに、私は個人的にトウカに聞きたい事がある」


 再び織姫を制止するアヴァン。そんなアヴァンの言葉を聞き冷静になる織姫。そして織姫はアヴァンの言葉を守るために一歩後ろへと下がった。

 対峙するトウカを睨んでいるアヴァン。そんな状態で発せられたアヴァンの台詞にトウカが答える。


「なになにー? エルフのアンタが私に聞きたい事ー?」


「そうだ。15年前、貴様は【ティファレ】の丘で一組の夫婦を殺さなかったか……?」


 アヴァンはトウカに問う。それは15年前のアヴァンの両親を殺した人物が魔女だったからだ。

 そしてアヴァンの知る、この世界での魔女は織姫以外トウカしかいなかった。


「15年前? あーそっか、こっちと現実世界じゃ時間の流れが全然違うんだった。ちょっと待ってね、【ティファレ】の丘でしょ? んー、えーっと、あぁ!! あの時のムシャクシャしてて幸せそうだった夫婦を殺した時かー」


 思い出し楽しげに話すトウカ。


「あれは笑えたよ。だって女を守るために男が自分の身を捧げてやんのっ! まぁ結果的には両方殺してやったんだけどね。今でもあの叫び声を思いだすと凄い快感だよ」


 笑いながら言うトウカ。そんなトウカの話しを聞いて怒りを覚えている織姫。それは完全にアヴァンの両親を殺したのがトウカだと知ってしまったからだ。

 どんない足掻いても過去を変える事は出来ない。そして過去に戻る事も出来ないのだ。だからこそ今の織姫は歯痒い気持ちでいっぱいだった。


 だがそんな話しを聞いているアヴァンはとても冷静に


「なぁトウカ。その夫婦は最期に何か言っていたか……?」


「んー命乞いの時に娘がどうとか言ってたけど覚えてない。あ、でも切り刻む瞬間に何か名前みたいなの言ってたなー。確か「アヴァン」だったっけな? まぁそのまま簡単に殺すのが勿体無くて女も男も死ぬギリギリの所で刺しまくったんだけどね」


 トウカの話しが終わり初めに怒りを露わにしたのは


「てめぇっ!!」


 織姫だった。だがそんな怒りに満ちてしまった織姫をアヴァンは止める。


「良いのだ織姫っ!!」


 再び織姫の前に腕を出し、制止するアヴァン。そんなアヴァンは俯きながら


「やっと父さんと母さんの最期を知れたのだ。私はそれだけで良い。最期の最期まで二人が私の事を思ってくれていたのだから」


「……アヴァン?」


 そう言いアヴァンは織姫へと笑顔を見せた。その頬には雫が流れていて、雨なのか涙なのか今の織姫には知る術がなかった。

 それでも眉間に皺を寄せながら笑っているアヴァンはきっと泣いていたんだ。そして


「これで両親の敵が判明したな。トウカ、私はここで貴様を討つ」


「はぁ? 何言ってんの? エルフ如きが魔女の私に勝てるとでも思ってんの?」


 織姫へと笑顔を見せていたアヴァンの表情は真剣な表情へと変わり、トウカを睨みつける。そんなアヴァンをあしらう様は言葉を言うトウカ。そして


「御託はいい。私はここで貴様を討つと言っているんだっ!!!!」


 その言葉と同時にアヴァンはトウカへと詰め寄る。その速さは黒マントの時とは比べ物にならない程の速さで、一瞬にしてトウカの懐まで入っていた。


「せいっ!!!!」


 振りぬかれるアヴァンの拳。だがその拳をいとも容易く避けるトウカ。だがその攻撃では終わらずアヴァンは乱打をトウカへと打つ。

 アヴァンの攻撃はエルフの者とは思えない程の速さだった。それでもトウカはアヴァンの乱打を全て避ける。


「だから何度も言うけど、エルフ如きじゃ私に傷一つつけれないよ? もう諦めなって」


 嘆息気味に言うトウカ。だがその言葉を吐いている最中もアヴァンの攻撃を避け続けていた。

 そんなトウカにアヴァンは


「ここで諦めてしまったら……。私の騎士道が穢れてしまうんだっ!!!!」


 叫ぶアヴァン。その言葉を聞いていいるトウカが


「何言ってんのよ。そんなもん穢れたって何も失わないじゃない。それよりもこれ以上攻撃を続ければ自分の命がなくなっちゃうよ?」


「それでもいい。私は私の騎士道を貫くっ!! 我が魔力よ 我の身に宿り 我に力を与えたまへっ!!!!」


 アヴァンの言葉と同時に、アヴァンの体が赤く光る。それは人体強化系魔法を使った時の現象だった。


(人体強化系……? こんなクソエルフに魔法が使える奴がいたなんて……)


「これで終わりだっ!!!!」


 アヴァンの渾身一撃がトウカを襲う。だがその攻撃すらトウカはいとも簡単に避けてしまって、空を切ったアヴァンの拳は地面へと叩きつけられた。

 その衝撃で地面には大きなクレーターが出来る。そしてその攻撃が終わり、アヴァンは息を切らしながら自分の攻撃を避けたトウカへと視線を向けた。


「あービックリした。まさかエルフに魔法が使える奴がいるなんて思わなかった。でも、どんなに人体強化をしたって当たらなきゃ無意味なんだよ?」


 アヴァンの攻撃を避けたトウカは微笑みながら言った。そして


「つかもうかなり疲れてんじゃん。もう少し体力をつけた方がいいよ。そんな君には特別に本物の人体強化系を見せてあげる」


 不敵に笑うトウカ。そしてトウカの体が赤く光り始めた。


「バイバイ。勇敢な騎士様」


 その言葉は言ったトウカは既にアヴァンの目の前にまで来ており、その速度をアヴァンは自分の目に映すことすら出来ないのだあった。

 そしてアヴァンの腹部にトウカの強烈な蹴りが炸裂した。


 その衝撃で吹き飛ばされるアヴァン。そんなアヴァンの体を近くに聳え立っている木へと打ちつけた。


「ガハッ!!」


 自身の体が木へと当たり、その衝撃で吐血するアヴァン。そしてアヴァンの体が命中した木は大きな窪みを作っていた。

 そして地面へとずり落ちるアヴァンは再起不能になっていた。


「あはははははっ!!!! 見たっ!? 今の飛び方っ!! ちょーいいシュートだったよねっ!? あー私ってサッカー選手にもなれちゃったりするのかな。自分の才能が怖いよ」


 ボロボロになっているアヴァンを見ながら高笑いするトウカ。そんなトウカとアヴァンの戦闘を口を挟まず見ていた織姫の怒りが爆発する。


「ふざけんなよ……。なんでてめぇは、そんなにクソ野朗なんだよ……!!」


「あぁ!? 今なんて言った? オバサン」


「ぶっ殺してやる……」


 織姫の体は闘気を纏っているようだった。そして一歩一歩ゆっくりとトウカへと近づいていく織姫。だが


「や、やめろ……、織姫。こ、これは私の問題だ……。私が決着をつけなければならないのだ……!!」


 ボロボロになっているアヴァンのその場で立ち上がり、今日何度目か分からない織姫を止めるという行動をした。

 そんなアヴァンは口から血を流し、腹部を押さえている状態で再びトウカを睨みながら


「ここで、決着をつけるんだ……。私の過去をここで全部清算するんだ……!!」


「そうだよね。騎士君が言ってるように魔女のアンタはそこで指を咥えながら大切な者が死んでいく様を見届けなよ」


「ふっ。何を言っているんだ貴様は……。確かに私も織姫には指を咥えて見ていろと言いたい……。だが、こんな所で簡単に死ぬほど、私はやわではないっ!!!!」


 叫ぶ言葉とは相反しアヴァンの体力は底をつきそうだった。そんな強がっているアヴァンに


「わかったわかった。もう飽きたから、早く死んでくんない?」


 この茶番めいた状況に飽きてしまったのか、トウカはその表情は冷徹なものへと変え、アヴァンへとその拳を振りかざした。だが


 ガンッ


 トウカの拳は間に入った織姫の腕で制止された。


「てめぇなんかに、アヴァンは殺させない」


 魔女補正があるからなのか、人体強化系を使っているトウカの拳を何事も無かったかのように止める織姫。

 そしてそんな織姫の瞳はトウカ睨んでいた。だが自分の攻撃を止めた織姫を見たトウカは笑い。


「そうよ、それよ。アンタはもっと憎しみを蓄えなきゃいけないの。そうやって憎んで憎んで憎み続けた私にアンタは殺される。私はそんなアンタを本気で殺したいのよっ!!」


 そう言い織姫から距離を取るトウカ。そして


「ここでは殺さないわ。寧ろそこの騎士様が攻撃してこなかったら、私はここで戦うつもりも無かった。私はアンタに伝えたいことがあったからここにいるの」


 笑みを浮かべるトウカは織姫を見ながら


「この数日間の間に私は王都【アスタリア】を潰すわ。それがどういう意味かきっとそこの騎士様なら分かるわよね。まぁこれは決定事項だから、どんなにあんた達が拒絶してもおこなうわ。じゃぁまたその日に会いましょ、織姫」


 不吉な事を言いトウカは去っていった。その言葉の意味を理解出来ない織姫。だが織姫は今の傷ついたアヴァンをどうにかすることで精一杯だった。


「アヴァン……、しっかりしてアヴァンッ!!」


 傷ついたアヴァンを抱き寄せ織姫は叫ぶ。


「す、すまなかったな織姫……。私が不甲斐無いばかりにこのような結果になってしまった……。本当に私は団長失格だ……」


「もういいから喋らないでっ!!」


「そうだな。織姫の言うように少し私は休む。ここから【アスタリア】まで織姫の魔女補正の力で私を運んでくれ……。家に帰るまで私は少し眠ることにする……」


 その言葉を言いアヴァンは気を失った。

 端から見てもかなりの重傷を負っているアヴァン。そんなアヴァンの言葉を聞いた織姫はアヴァンを背負い【アスタリア】へと続く道を見つめた。


(絶対に許さない……。ぜってぇゆるさねぇからなトウカッ!!!!)


 自身の中にある硬い思いを表情にも出さず、織姫は強く誓うのであった。

 自分の大切な者を傷つけたトウカを絶対に許さないと……。

 だが今の織姫は重症のアヴァンの身を案じるのが先で、アヴァンの体に障るかもしれないが全力で【アスタリア】へと向ったのであった。







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