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サー・マジョ  作者: さかな
第一部 異世界の魔女
15/22

014 聖都ティファレ アヴァンの過去

 

 

 

 

「貴様は本当にバカだっ!!!!」


 大勢の人が賑わう街の中でアヴァンの声が響き渡る。

 そんなアヴァンの後ろを追いかけながら歩く織姫。そんな織姫は前方にいるアヴァンに


「だからさっきのは本当にごめんってばー。冗談のつもりだったんだよー」


「じょ、冗談でもあのような卑猥な行動をするなっ! わ、私は貴様に辱められたのだぞっ!?」


 歩みを止めたアヴァンは振り返り、織姫へとその怒りを露わにしていた。そんなアヴァンは織姫にされたと言う卑猥な行為を思い出し赤面している。

 街行く者達はそんなアヴァンと織姫の姿を不思議そうに見ているものの、これといって関わりを持とうとは思っていない様子だった。


「だってアヴァン途中から凄く気持ち良さそうにアンアン言ってたから、私もなんだか楽しくなっちゃって」


「べ、別に私は気持ち良そうになど……!! あーもう良い。この話しをしていると今日一日を費やしてしまいそうだ」


 そう言いアヴァンは諦め項垂れる。

 そんな二人が来ている街は王都【アスタリア】から西方に位置する聖都【ティファレ】だった。


 聖都【ティファレ】

 聖都と呼ばれているだけに何かの信仰者がいる街なのだけは理解できる。レンガ造りの建物が多く、綺麗な町並みをしていた。

 そして街の中央には大きな教会が建っていて、その教会よりも高い建物は他には無かった。


「でもさ、何で【フィルガンテ】じゃないの? 私は【フィルガンテ】が良かったなー」


 アヴァンの許しが出た途端に態度を一変させワガママを言い出す織姫。そんな織姫の隣にいるアヴァンは申し訳なさそうに


「すまないな。【ティファレ】には私の用事もあったのだ。また今度【フィルガンテ】には案内しよう」


 とても紳士的な対応をするアヴァン。そんなアヴァンの今の姿も紳士的だった。

 黒のパンツに白のワイシャツ、上には黒のチョッキを着ていて深い赤色のネクタイをしていた。

 綺麗で長い銀髪を後ろで結び前髪は下ろしている。


 そんなアヴァンの姿は女性ではなくどこからどう見ても男性だった。

 高身長でスラっとしたイケメン。それが今のアヴァンにピッタリの呼び名であろう。


 そのイケメンの隣にいる織姫の格好は、アヴァンの部屋で見つけ出した純白のワンピースだった。

 華虞夜 織姫、28歳 独身。後少しで29歳という曲がり角まで来てしまっている彼女が、純白のワンピースを身にまとっているのだ。


 端から見たらはしゃぎ過ぎている痛いオバサン。だがそれでもアヴァン同様に高身長でモデル体系の織姫の姿はさまになっていた。

 普通にしていれば綺麗な女性なのに、どうして結婚できないのか。


 それは考えれば簡単に答えが導き出される問題で、完全に性格が難だという事だけだろう。

 それでもアヴァンと織姫が並んで歩いている姿は絵になる。道行く女性達はそんな二人を見ながら「かっこいい」「綺麗」という言葉を飛交わせていた。


 そんな言葉を耳にしている織姫は


「ねぇねぇアヴァン。私って綺麗らしいよ。むふむ、綺麗だって」


 とても嬉しそうな表情、いや悦に浸っている悪い大人がそこにはいた。

 そんな織姫を見ながらアヴァンは


「そうだな。織姫は普通に美しいぞ? そんな美しい女性をエスコートするのは騎士たる私の務めだ。さぁお手を」


 微笑むアヴァンは織姫へと手を伸ばした。そんなアヴァンの手を恥ずかしそうに掴む織姫。


(ちくしょーっ!! ちょーかっけぇじゃねーかよっ!! 何でコイツは女なんだっ!! 私の旦那はいつになったら現れるんだああああああっ!!!!)


 女性らしく扱われたのが久し振りだったからなのか、はたまたアヴァンがカッコよかったからなのか。織姫の顔は赤くなりしおらしい女性の表情になっている。


「織姫、今日は楽しもう」


 そう言うとアヴァンは織姫の手を引いたのであった。

 

 

 ◆

 

 

 アヴァンと織姫は楽しそうに街を回る。色々なお店に入り、ご飯を食べて気がついた時には陽が傾き始める時間になっていた。


「あー本当に今日は楽しかったー。ありがとねアヴァン」


「楽しんでもらえたのなら私も嬉しい」


 笑顔になり互いが互いの心に少しだけ触れることが出来たようだった。そして織姫は


「ううん、ありがとうだよ。それに、ごめん。アヴァンは私の事気にかけてくれたんだよね? 私がもとの世界に帰れなくなったから……」


 笑顔が一変し苦しみを帯びた微笑へとその表情を変える織姫。

 そんな織姫を見てアヴァンは


「よし、この後は私の用事に付き合ってもらうぞ」


 そう言い織姫の手を引いた。

 街から少し離れた高台の方へと歩いていくアヴァン。その先には街からも見えている丘へ続く道。


 アヴァンの用事が何なのか分からない織姫は、何も喋らないアヴァンの手を掴みながら静かについていく事しか出来ないでいた。

 そして綺麗に舗装された林道を抜けた先、そこには【ティファレ】を一望できる丘だった。


 夕方のオレンジ色に染められた幻想的な街。

 いまだに街は賑わっていて、そんな景色を眺めていると教会の鐘の音が大きく響き渡った。

 美しい景色を見て織姫は感動している。だがそんな綺麗な丘には似つかない少し大きめの石が二個並んであった。


 その石に近づくアヴァン。そんなアヴァンの表情は優しく微笑んでいるがどこか悲しげな表情にも見えた。そして


「今日は命日。15年前、母さんと父さんはここで殺されたんだ」


 突然のアヴァンの言葉。その言葉を聞いて驚きを隠せない織姫。そして言葉を失った。

 ただただその真実をどう受け止めれば良いのかを考える。


「私がここに来た時には無残な姿になった母さんと父さんがいたよ。血だらけで母さんを庇うように抱きしめている父さん……。その姿を私は15年間一度も忘れた事はなかった。誰に殺されたのも知らないまま、私はエルフ王に拾われ、エリス様に出会い、そして騎士団へと入団し、2年前の18の時、私は最年少で気団長へと昇格した」


 過去の話を始めるアヴァンの言葉を、静かに聞く織姫。


「そして団長へと昇格した矢先に私は聞いてしまったのだ。父さんと母さんを殺した者を……。それが誰か織姫には分かるか……?」


 悲しく辛い表情で織姫に問うアヴァン。そんなアヴァンの質問の答えなど織姫には分かるわけも無かった。

 首を横に振る織姫、その姿を見たアヴァンは


「父さんと母さんは……、魔女に殺されたのだ……!!」


「魔女に、殺された……!? それって」


「あぁ、織姫と同じ魔女に殺されたんだ」


 悲しい表情は怒りの表情へと変わり、織姫を睨むアヴァン。そんなアヴァンとは正反対に織姫は眉間に皺を寄せ、再び言葉を失っている。


「そんな風に思い続けて2年。やっと私の目の前に魔女が現れた。私の両親を殺した魔女ではないのかもしれないが、どうしてもこの憎しみを消す事が私には出来なかったっ!! 今日、ここに織姫を連れて来た理由が貴様を殺す為だと私が言ったらどうする」


 憎き敵を目の前にアヴァンの感情は憎悪へと化していく。たとえ両親を殺した魔女が織姫ではなくても、今のアヴァンには関係のない話しだった。

 子供の頃に失い、何もかもが変化してしまったアヴァン。それは憎しみを絶やさない事でしか生きられない存在へと変えてしまったのだろう。


 そんなアヴァンの言葉を聞いた織姫の表情は無へと変わり。そして


「うん、わかった。殺していいよ」


 自分の死を受け入れる織姫。その言葉はアヴァンが想像していた返答とは異なっていたようで動揺するアヴァン。


「何故だ……、何故なんだ織姫っ!! 私は貴様を殺すと言っているのだぞっ!! 確かに貴様に全力で抵抗されれば殺す事も傷を負わせることも私には出来ないのかもしれないっ!! それに貴様には逃げるという選択肢もあるだろうっ!! なのに、どうして……。どうして貴様はそこまで他者の為に傷つけるんだっ!! あの時も、神獣討伐の時もそうだった。狂乱してしまった私の部下をチャロの攻撃から守り深い傷を負ったっ!! 本当ならばその行動をしなくてはならなかったのは私だったのに……。貴様はどうして……」


 自分の感情を吐き出し、その場で崩れ落ちるアヴァン。そんなアヴァンの横を通り過ぎ、アヴァンの両親の墓の前で織姫は


「私はね、自分で両親と妹を殺したの。正確に言えば助けられなかった……。まぁ殺したって言っても同じだよね……。アヴァンと違ってさ私はすぐにお母さんのお姉さんに引き取られたの。そこからは何も不自由なく育ててもらった。でもね、私もアヴァンと同じでずっと両親の死を忘れなかった。自分は弱い人間だ、だから助けられなかった。だから強くなろうって思ったの。色々な格闘術とか習ってさ、自分の身も他の人達も全部助けられるくらいの力が欲しかったから……」


 語りだす織姫。そんな織姫の過去を聞き、今のアヴァンは先ほどまでの織姫同様に言葉を失ってしまっていた。


「そしたらさ、回りにいた人達が少しずつ私を怖がるようになったの。それでどんどん独りになってって……、だからそんな自分を捨てて普通な人になろうって次は思った。でもそれで得た友人とか知り合いとか、本当につまらなくて息苦しかった……。それでオサーンに出会ってこっちの世界に来て、また沢山の人に出会って……。こんな暴力的な私でも皆ちゃんと受け入れてくれて笑ってくれて……。だからあの狂っちゃった騎士団の人も助けたいって思った。そしたら身体が勝手に動いてたんだ。でもそのあとトウカが現れて、私は戦って、全部終わって振り向いた時、皆が私を化物を見るような目で見てた……。凄い怖かったし、また独りになるんだって思った……。でも、今考えてるのは、それでも私は助けたいっ!! 誰にも傷ついて欲しくないっ!! 私が傷ついて誰かが救われるなら私は喜んで自分を傷つけるっ!! だから私の命でアヴァンの気持ちが楽になれるなら、私はアヴァンに殺されるよ」


振り向きアヴァンへと優しい微笑みをみせる織姫。その笑みはとても優しくて、オレンジ色に染まる空がその優しさを増大させているようにも見えた。


「貴様は本当にバカな女だ……。本当にバカだ……。私も、私も織姫のように強くなりたい……」


 涙を流しながら悔いるアヴァン。地面の拳で何度も殴り、自分の無力さ自分の幼さ、そして自分の弱さを悔い続ける。

 何度も何度も地面を殴り続け、仕舞いには血を滲ませていた。

 そんなアヴァンの手を握り


「そんなにしたら痛いよ。大丈夫、アヴァンは凄く強いから」


「織姫……?」


「だからアヴァンは自分を傷つけなくていい。アヴァンの剣はエリスを守る為の剣なんでしょ?」


 アヴァンを優しく諭す織姫。だが織姫のエリスという言葉に反応したアヴァンは俯き


「エリス様は変わってしまったのかも知れない……、織姫、私はどうすればいい……!!」


 いきなりのアヴァンの態度に動揺しながらも織姫はアヴァンの話しに耳を傾けるのであった。

 

 

 ◆

 

 

 織姫とアヴァンが【ティファレ】の丘にいる時と同じくして【アスタリア】


 織姫の部屋に残っているのはジョナサンだけだった。リリーナは兄達と王宮で何か仕事はないかと手伝いを所望し部屋をあけている。

 そんな織姫の部屋で一人、ジョナサンは


(どうして織姫はんを帰すことが出来んのや……!! 魔力は十分にあるのに、いったい何が原因なんや……)


 織姫をもとの世界に転移できないことを悩み、そしてその原因を考え続けているジョナサン。そんな時


「入りますわよ」


 一人の女の声が部屋の外から聞こえてきた。そしてその女はジョナサンの返事を待たずして部屋の中に入ってくる。

 そんな横暴な態度を取れる人物は


「なんや、エリスはんか」


 エリスだった。


「どないしたんですか? 織姫はんならまだ帰ってきてませんよ?」


「織姫に用があったのではありません。私はオサーン、いいえオルヴィウス、貴方に用があるのです」


 真剣な表情を浮けべているエリス。だがその表情はどこと無く禍々しい何かが入り交ざっていて、普段のエリスではないとジョナサンは気がついた。


「そんな怖い顔して、用事ってなんですか? デートのお誘いならまた今度にしといてや。今はもっと考えないといけないんですわ」


「貴方が考えている事は、どうして織姫を転移出来ないかという事ではないのですか?」


 ジョナサンの心を読むかのように言い当てるエリス。そして


「その原因が私には何となく分かっています。貴方はそれを知りたくは無いのですか?」


 エリスの言葉でジョナサンの表情が変る。


「エリスはん……。アンタいったい何を知ってはるんですか……?」


「私は貴方のような妖精や織姫さんのような魔女には詳しくありません。ですが今回の神獣討伐の件の概要を聞き、そして織姫さんが転移出来ていないという事実から基づき結果は簡単に出せます」


 淡々と無表情で話すエリス。その言葉使いは機会のようで、まるで死んでしまってるかのような瞳をしていた。


「その原因はもう一人の魔女でしょう」


「なんやて……?」


「貴方は不思議に思わないのですか? どうして織姫さん以外にも魔女がいるのか。貴方が召喚していないのにどうして異世界の存在がいるのか。それは簡単です。貴方と同じ妖精がもう一人いるという事です」


 その言葉を皮切りに、ジョナサンとエリスの夜が訪れるのであった。

 

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