『魔』法
俺は朝、街を散歩していた。
眩しい朝日を受けながら街を歩く。
太陽は直接は見えないけれど、四つの柱は大きな影を作る。その光景を一言で表現するなら綺麗だろう。
今日はユア、マアと魔術師に会って魔法のロジックを聞く予定だが、どこに魔術師がいるかはわからない。
待ち合わせ時間の8時まで――今は7時なので――時間があるので散歩兼、情報収集をしているのだ。
「にしても、素っ気ない街だなぁ」
俺はおもわず呟いてしまった。
だが事実。
さっきから人とすれ違って目があっても、誰にも話しかけられない。
なんというか、寂しい。
この街でユア、マア以外に話したのは宿屋の人くらいだ。もしかしたら、その人も商売だ、と割り切って俺に話しかけたのかもしれない。
前に人がいる。
「なあ」
俺はすれ違う時に話しかけてみた。
「はい? なんでしょう」
なんだ、人当たりがいいじゃないか。
「ああ、魔術師って知らないか?」
「魔術師? それは分かりませんが、北の山の洞窟には近寄らない方がいいですよ。強い化け物がいっぱいいますから」
「あ、ああ」
魔術師の事、聞いたんだけどな。
「ありがとよ、じゃあな」
「ええ」
あんなに良い奴なら、なんで今まで話しかける奴が一人もいなかったんだ?
それに洞窟の事はもう少し早く教えて欲しかったな。
まあ、そろそろ宿屋に戻るか。
俺は違和感を感じながらも宿屋に戻った。
俺が宿屋に戻ってから10分ほど経った所で、マアとユアが来た。
「や、蓮斗。はやいわね」
ユアは以外そうに呟く。
「まあな。じゃあ、魔術師がどこにいるか探そう」
「はい!」
マアが元気よく言う。
「なんか、さっき人に魔術師を知ってるか聞いたんだが、知らないって言われたんだよ」
一応、知っている情報を話しておく。
それに、
「そりゃあ」
ユアと、
「そうでしょうねぇ」
マアが答えた。
「ん? なんか知ってるのか?」
二人の言い方に疑問を感じたので聞いてみる。
「あなたって、魔術師をどう思ってる?」
そりゃあ、考えるまでも無い。
「かっこいい、とか?」
魔法とは人類の夢だ。ロマンだ。そして正義であり、憧れである。
「でも、私の世界では魔術師は犯罪者なのよ」
「え?」
俺は衝撃を受けた。
気付きもしないうちに、魔法は正しいと思いこんでいたのだろう。
「私の世界では魔法を使うだけで犯罪。それを研究する魔術師なんてのは重犯罪者よ」
「ただ、国を警護する者の一握りは魔法の使用を許されていますが」
ユアの説明にマアが補足した。
「それも特例中の特例だものね」
その情報を集約すると、分かる事がある。
「ってことはユアとマアは……」
「ええ、犯罪者よ。マアは違うけどね」
ユアは淡々と言った。
「私も、バレてないだけです……」
マアは後悔の色を滲ませていった。
「まあ、それは置いといて」
「ええ!? 置いとくの!?」
ユアは驚きながら言うが、
「だって、話が進まないし、魔法を使っただけで犯罪とかおかしいし」
うん、魔法を使うくらいいいじゃないか。
「……なんか、ズレてるわね」
ユアはマアと目を見合わせて言った。
「そりゃあ、住んでる世界が違うんでな」
「あはは」
ユアはなんというか楽しそうにというよりは嬉しそうに笑った。
か、かわいいな。
「まあ、つまり、お前達はこの世界で魔法師を探すなら聞いて回るのは意味が無いって言いたいんだな?」
「ええ」
「ただ、俺も一つ分かった事がある」
「何?」
その瞬間、近くを知らない奴が通る。
「よっ」
俺は話しかけた。
「やあ、武器なら武器屋。魔法なら杖屋に行くと良いよ」
「そうか、ありがとう」
話しかけただけで説明をしてきた奴に、礼を言った。
「聞いてたか?」
「え、ええ」
「俺は、何を聞いてないのに武器やら魔法やらの説明をしたろう?」
「ああ、そういえばそうね」
「やっぱり、ここは俺の願望で作られている。俺は聞かなくても有益な情報をくれる人が大好きだからな」
主にゲームの中で、
「そうなの?」
「ああ、それに楽だろう?」
ゲームの中では、
「ええ、まあ」
「てことは、『俺の思っている魔法』がこの世界の常識ってことだ」
少し考えてユアは言った。
「そうか、あんたかっこいいって言ってたもんね。じゃあ魔法は禁止されてない!?」
また、嬉しそうにユアは言う。
「ああ、それに街で普通に杖を売ってるから、魔法は禁止されてる訳ないしな」
「あ、そうね」
ユアが納得したので、
「じゃあ、聞き込みしよう。同じ奴には何度質問しても同じ答えしか返ってこないぞ」
「めんどくさいわね」
「やりましょう!」
マアの活気のある声に、
「おう!」
「ええ!」
俺とマアはそう返した。
「で、杖屋に聞くのが一番早いんじゃないか?」
「まあ、そうでしょうね」
「そうですね」
賛成多数なようなので、
「じゃあ、行くか」
「ええ」
「はい!」
俺は杖屋のドアを開けた。
「すみませーん」
俺が言うと、
「はい、なんでしょう?」
と店員が返した。
「魔術師って知ってます?」
「はい、杖を持って魔法の使える者なら皆、魔術師ですかな」
「ああ、そうか。じゃあ、魔法の構造とかって知ってます?」
「いえ、そこまでは……。それほど知っているのは魔法を研究してる、ヨーラ・エストゥディオさんくらいしか……」
また面倒な名前を…………。
「え? その、ヨーラさんってのはドコにいるんだ?」
「止めといた方がいいですよ……」
心の狭い奴なのか? 店員をこんなに委縮させるとは。
「まあ、とりあえず教えてくれ」
「この街の真ん中にある大きな家です」
「あそこか」
俺もこの街に入ってからずっと気になっていた。
「あそこの王女ですよ」
「そうか。俺が好きそうなベタなパターンだ」
「え?」
「いや、なんでもない。ありがとな」
ただ、そう簡単には教えてくれそうに無いだろうな。
俺はユア、マアと大きな家――というか外見は城――に向かっていた。
広いな。
城までには長い道がある。
その時、何故この世界の魔法とユアの世界の魔法はロジックが違い、ミューテイトでコピーした杖では魔法が使えなかったのか、疑問に思った。
「そういえば、魔法ってのはどういう原理なんだ?」
あと、ただ単に魔法が使いたいってのもある。
「ああ、簡単に言えば、火の魔法なら火をイメージして自分の精神力を使って発動するのよ」
「精神力?」
魔法っぽい単語がでてきた。
「簡単に言えば、やる気とか。そういうものよ」
「へえ、なんか、思ったより簡単だな」
もっと難しいものかと思っていた。
「魔法は本来ものすごい長い詠唱と精神力が必要なのよ。ただ、この杖に魔法の発動自体を簡略化する魔法が組み込まれているの。だからこれだけでいいんだけど」
難しい話だ。
「多分、この街で売っている杖も魔法を簡略化する魔法が組み込まれていると思うわよ」
「じゃあ、ミューテイトで杖をコピーしただけじゃ魔法は使えないのか」
使いたかった…………。
「それは分からないわ。ただ、その機械が杖に組み込まれている魔法ごとコピーしたなら、使えるかもしれないわね」
「へえ」
「コピー? ってなんです?」
マアが話についてきていない。
「ああ、蓮斗は形を変えられる物体を持ってるのよ。ミューテイトって言うんだけど」
ユアが説明をはじめた。
「へえ」
「それは形をコピーするとその形にできるの。それで私の杖をコピーしたんだけど」
「えぇ!? 始終の杖を?」
何? そんなに驚く事なのか?
「別に大丈夫よ。たいした変化は無いし」
「ユアの杖ってそんなに凄いもんなのか?」
「私が知る限りで最も凄いです」
……。
「おい、マジかよ。なんか、無理やりコピーしてごめん」
「良いって言ってんでしょ! ちょっと、火をイメージしてフエゴって唱えてみなさい? できるかもしんらいからっ」
ユアは優しいのか優しくないのか俺を急かす。
「あ、ああ」
でも、親父が魔法までコピーするなんて考えて作る訳無いしな。
「杖」
ミューテイトを杖に変える。
俺の願望がこの世界をイメージしたというのなら、火のイメージなんて容易い筈だ。
俺の前にはユアが出したのと同じような火の玉がある、と連想する
「フエゴ!」
あくまでイメージだったそれが、本当に火の玉として現実に現れる。
確かに、熱を感じる。
「できてますね」
マアが言う。
「一発ですごいわね」
ユアは褒めてくれるが、
「疲れたー、こんなに疲れるのか」
俺はすごい疲労感に苛まれていた。
「魔法も慣れですよ。ずっと使えばだんだん疲れなくなります」
「そうか」
もっと練習が必要だな。
「そういえば、俺、化け物と闘って中々倒せないんだ。多分、ミューテイトが重さまでは変えられないからだと思うんだよ。すげえ軽いし。だから、物を重くする魔法ってあるか?」
「ええ。でも、難しいわよ?」
「大丈夫だ」
物は試しというしな。
「じゃあ、宿屋で練習しましょう」
「ああ」
そんな俺達を嬉しそうにマアは見守っていた。
「ここか」
俺達は城の前に着く。
「近くで見るといっそうでかいわねー」
「そうですねえ」
俺達が門を通ろうとすると門番に話しかけられる。
「何か用か?」
威圧的だな。
「王女さんに会いたいんだが?」
「ダメだ」
即答。
「何故?」
「一般人が会える訳無いのだ。理由など無い」
「へえ、そうか。んじゃ、いいや」
俺は引き下がる事にした。
「え? いいの? 蓮斗」
ユアは不思議そうに言うが、
「ああ、ここで何を言っても同じ事を繰り返されるだけだ。それに策が尽きたわけじゃない」
「……そう」
悔しそうにユアは言っている、ように見えた。
「一度宿屋に戻ろう」
俺達が宿屋の前に戻ってくる。
「とりあえず、金を稼ぐよ」
金が無ければ生活はできないしな。
「私達も」
「いや、お前達は街の人に話を聞いてくれないか?」
「え? なんでです?」
マアが言う。
「もしかしたら、この街にも困り事があるかもしれない。それを解決すれば、あるいは王女に会えるかも」
「なるほど」
「そんなにうまくいくかしら?」
「何もしないよりはマシだろう」
これまた、物は試しだ。
「物を重くする魔法は金を稼いだ後に教えてくれ」
「ええ」
時刻は11時を過ぎた所だ。
街でユアは呟く。
「全然ダメね」
「ええ、有益な情報はくれますけど、悩み事なんて何もなさそうです」
マアが言う。
二人は随分な数の人に話しかけている。
そして、その全ての人は有益な情報しかくれない。
その時、ユアの横を男が通る。
「ねえ、ちょっと」
軽く呼びとめただけで、
「こんにちは。あそこの城には王女がいますよ?」
と返してきた。
言い終わるとまた男は歩きだした。
「知ってるし……」
「もう皆に聞いたんじゃ……」
マアが言う。
「それねぇ、でも蓮斗は金を稼いでくれている訳だし、ここで情報無しってのも……」
すると、マアが言う。
「あ、あの人にはまだ聞いてないですよ?」
マアの目線の先には四つの柱の内の一つ。
その柱の下に座って落ち込んでいる人がいた。
「明らかに困ってるっぽいわね」
ユアとマアは近付く。
「ねえ、何かあったの?」
「実は、洞窟に強い化け物が住みつくようになって、他の街との交易ができないのだ」
(よっし、アタリ!)
「へえ、じゃあ、解決してあげるわよ!」
ユアは満面の笑みで言った。
「本当か!? いや、でもあの洞窟は暗いのだ。それに化け物も強いし」
「大丈夫よ。じゃあね」
強制的に会話を終わらせる。
「じゃあ、宿屋にもどろっか」
「はい!」
俺が金稼ぎを終えて、宿屋の前に着いてから1時間ほど経つと、ユアとマアが帰ってきた。
「帰ってきてたの?」
「ああ、350ケイン稼げたから、もういいかと」
それに、この前あんま遅く帰ってくんなって言われたし。
「そうね。十分よ。こっちも良い情報が手に入ったわ」
「なんだ?」
「洞窟にいる化け物を倒して欲しいんだって、交易ができないとかで」
「へえ」
「じゃあ、明日行く?」
「そうだな」
「じゃあ、宿屋に入りましょ!」
ノックの音が聞こえる。
「はい?」
ドアを開けるとユアがいた。
「こんばんは。さて、魔法の練習でしょ?」
「ああ」
「じゃあ、スパルタに行くわよ!」
「オッケー!」
その夜、俺はオークと闘った時より疲れる事となった。
どうだったでしょうか。
この世界の事が分かってきた蓮斗達です。
しかしまだ、お互いの事はよく分かってないんですよね。
ただ、次はお互いの事情が少し分かったりすると思います。
では、次回!(も読んでくれると嬉しいです)




