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知らない世界にとばされた。  作者: 茶碗蒸し
19/21

不協和音『君に言えない』

 ヨーラに異世界の人間だと打ち明けた次の日。

 俺、ユア、マア、ヨーラはいつも通りヨーラの部屋で魔法の解析をしていた。

 ヨーラも変わった様子はない。

 ただ、俺達の会話は壊滅的に少なくなっていた。

 別に、話さなくても良いのだが、全員が全員そう思っているからこそ、会話は無い。いや、ダメだな。会話をしよう!

「い、良い天気だな」

 俺は窓を見て言った。

「そうね」

 ユアは目線は動かさずに言う。

「最近、暑くなってきたんじゃないか?」

 最近、肌寒かった気候も、少し暑いと感じるようになってきた……のだが。

「そうですね!」

 マアは俺の方を見て、元気に言った。

「ああ」

 俺も笑って答える。

「…………」

 こんな感じで、会話が終わる。

 今までは意識もせずに続いていた会話が、突然、続かなくなった。きっと、心の奥底では会話を続けたいと思っていても、どう言えばいいか、どうしていたかが分からなくなっているのだろう。

 作業を効率化する為か、会話は途絶える。

 一番の変化は、会話にヨーラはあまり参加しなくなり、元気もまた無くなっている。

「ヨーラ」

「はい?」

 話しかけると、無理をして元気に見せる。それが俺には辛かった。

「いや、なんでもない」

「はいっ」

 また、解析を続ける。

 ノックが聞こえた。

「はい?」

 マアが答える。

 その声が聞こえてか、ドアが少し開く。その先にはセグンドさんが見えた。

「ああ、蓮斗さん。ちょっと良いですか?」

「え、ええ」

 俺への用事とは思ってなく、セグンドさんの言葉に慌てて答えた。

 焦って立ち上がり、セグンドさんに近付く。

 セグンドさんは俺が近付いたのを確認すると、ドアをもう少し開けた。

 外で話そう、ということか。

 俺はそのしぐさで理解すると、部屋からでる。

「どうです? 魔法の方は?」

 セグンドさんの口から出たのは、当たり障りの無い問いだった。

「え、ああ、まあまあですかね」

 とりあえず、普通に返す。

「そうなんですか」

「で、何の用です?」

 こんな会話をする為に呼んだ訳ではないんだろう。

「それなんですが、確証の無い話ですが、剣士達の中にはまだ裏切り者がいるかもしれません」

「ええ、俺も居ると思います」

 唐突に始められた話に肯定する。

「ですよね。なので、それを見つけて、粛清する為に、作戦を練りました。参加していただけるでしょうか?」

「作戦内容によります。あくまでも一番はヨーラの安全ですから」

 作戦を練りました、などと言われても、内容が分からないければ、なんの言いようもない。

「ええ、では、話します」

 その言葉に俺は頷く。

「作戦は、まず蓮斗さんに守護剣士を辞めてもらい、そこでロスさんに城の外に出てもらいます。あと、確率を上げる為に蓮斗さんも城に外に出てもらう。すれば守護剣士はいない状況になる。そうなれば敵も出てくるでしょう」

 セグンドさんは言い終わると、俺の言葉を待つ。

「なるほど、危険な作戦ではありますね。しかし、可能性としては高い。けど、やはり、その作戦でヨーラの安全は保障されていません」

 元守護剣士のロスさんと俺を城の外に出して、ヨーラが無事で済むからは分からない。

「彼女の安全はどんな時でも保障されていませんよ。いつ病気にかかるかも分からない。それは安全が保障されて無い、とそういうことでしょう?」

 その理屈は論点がずれているし、強引だ。

 思ったが、俺は他の言葉を口にする。

「はい、しかし、ヨーラにふりかかるかもしれない危険は限りなく避けるべきです」

 俺の言葉は、守護剣士としての、当たり前の言葉。

「だから、作戦はやらない、と?」

 セグンドさんの言葉に首を振る。

「いえ、多少は確率が低くなるかもしれませんが、ユアとマアにもヨーラを守ってもらいたいです。敵兵はユアとマアの実力を知りませんから」

 その俺の言葉に、セグンドさんは疑問をなげかけた。

「彼女達は危険にさらしてもいいと?」

「信頼してますから」

 即答した。

「あなたの仲間まで危険にさらす訳にはいきません。ヨーラ王女は私が守りますし、敵が攻めてきたら、ロスさんと蓮斗さんにもすぐにお伝えします」

「いえ、彼女らは強い。不必要で無いのなら、頼りたいのですが」

 ここまで頑なになってもらっても困る。

「なるほど。作戦決行は5日後となっています」

「はい、では、二人には俺から言っておきます」

 セグンドさんが了承したので、ドアに手をかける。

「はい」

「あと……このこと、ヨーラには言わない事にしませんか?」

 俺は、セグンドさんの目は見ずに、言った。

「何故です?」

「また、悲しむかもしれないから。きっと、ヨーラはずっと知らなくていいことなんです」

 少し、小さく言った。

 これが、正しい事なのだろうか。

「はい。ロスさんにも伝えておきます」

「ありがとうございます」

「いえ! 蓮斗さんも王女へのお気遣いありがとうございます」

「いえ、別に……」

 お気遣い、か。

「それでは!」

「はい」

 俺はドアを開けた。


 ヨーラの部屋に入ると、すぐに何の話をしていたか聞かれたが、剣士の話と言ったら、それ以上は聞かれなかった。

 3人は解析に戻る。

 さて、どうやってユアとマアだけに言おうか?

 俺達は、ほとんどここにいるし、その中から俺、ユア、マアだけが部屋から出る事なんて、皆無に等しい。

 明日、言うか。

 俺は問題を先延ばしして、部屋に座った。


 朝、俺が目を覚ますと、ヨーラはもう起きていた。

 時計を見る。

 まだ、ユアとマアは来ないだろう。

「おはようございます!」

「おはよう」

 俺は返事をする。


 それから30分ほど経つと、そろそろユアとマアが来る時間となった。

「ヨーラ、ちょっと部屋に忘れ物したから、とってくる」

「ええ、分かりました」

 ヨーラの許可をもらうと、部屋から出る。

 すると、ユアとマアがいた。

「あ、おはよう」

「おはようございます」

 ユアとマアが言う。

「ああ、おはよう。ちょっと話があるんだけど」

「何?」


 俺は作戦を話す。

 全て聞いたユアは開口一番に、

「へえ、で、なんでヨーラには言わないわけ?」

 と言った。

「ユア?」

 ユアの言い方に少し怒りを感じとってか、マアが言う。

「知らなくていいことだから。辛くなるだけだし」

 俺は言い訳みたいに呟いた。

「でもさ、それで別れるまでずっと言わなくて、それで良いの?」

「それは…………」

 ユアの言葉にすぐには返せない。

「言ったよね。隠し事はなしだって、あなたがそれを破るの?」

「だから……俺はこれが終わったら守護剣士を辞める。守護剣士である資格が無いから」

 俺はその言葉を言った。

「辞めるって、あんたのその一方的な感情にヨーラが振り回されんだよ!?」

 そんな俺にユアは怒る。

「一方的……?」

「当たり前じゃない……ヨーラは、あなたに守護剣士を辞めて欲しくないし、隠し事もして欲しくない。あなたは、ヨーラの為を想って、ここまで……してるのに」

 だんだん、声が小さくなっていく。

「俺は……いつか自分の世界に帰る。なら、俺が犠牲になるのが一番だろ?」

「なにそれ?」

 弱くユアが言った。

「ごめんな。ユア」

 俺はヨーラの部屋に戻る。

「……蓮斗」

 いつか、お前とも……会えなくなる日が来る……。


 それから、魔法の解析が始まった。

 空気は重く。それを感じとっているのは、俺とユアとマアだけだろう。

 会話は無かった。

 俺も、気分的に会話をする気にはなれなかった。

 ヨーラが頑張って話す。俺も、できるだけ明るく。ユアも何事もなかったかのように返す。マアも元気よく話す。

 それでも、会話は長くは続かなかった。

 これで、いつか会えなくなるから、これで良いって俺はそう思った。

 無理やり、そう思った。


 俺は、ミューテイトを取りに行って、今はヨーラの部屋に帰る所。

 俺が、廊下を進む。

 前にはユアが。

 ユアは俺に近付いて、俺はユアに近付いて。

 何故だろう?

 俺は心の中で俺は悪くないんだ。そう言って。

 俺はユアの顔を見ずに、ユアもきっと俺の顔を見ずに、通り過ぎた。

 すれ違う時に感じた風が少しせつなくて、俺は足を速めた。

 俺達は、せっかく近付いた距離を広げていく。

 入ったヨーラの部屋で、少し明るい京極蓮斗のフリをした。


 作戦決行まであと2日。

「蓮斗さん。最近、ユアさん達と何かありました?」

 ユアとマアがまだ来ていない、2人きりの部屋。

「いや、なんで?」

 俺は冷静に嘘をついた。

「気まずそうにしているように見えたので。いや、すみません。憶測なんですけど」

 そんなヨーラの言葉に、

「いや、ありがとう」

 あまり意識せずにそんな言葉を返した。

「え?」

「嬉しいよ」

 素直な気持ちを。

「は、はい」

 俺は、嬉しくて、辛かった。

 俺が守護剣士を辞めるまで、あと2日。


 廊下。

「蓮斗さん!」

 後ろから、声が聞こえて振り返る。

「マア?」

 俺に何か用事があるのだろうか?

「私の使える魔法で、役に立ちそうなのがあるんですけど……」

「え?」


 作戦決行まであと1日。

 俺はロスさんの部屋に来ていた。

 作戦の確認をする為だ。

「蓮斗殿。作戦を確認する」

「はい」

 俺はロスさんの言葉に返事をした。

「まず、蓮斗殿が守護剣士を辞めたという事を、セグンドに広めてもらう。全剣士が知ってもらわないといけないから、これは今日からやっておく。頼むぞ」

 ロスさんは作戦の内容を告げていく。

「はい!」

 その言葉にセグンドさんが返事をした。

「次に、私と蓮斗殿が城から出る」

「はい」

 次のロスさんの言葉には俺が返事をした。

「敵が攻めてきたら、ヨーラ王女の部屋に行かせないようにセグンドが止める。ユア殿かマア殿に魔法で窓から炎を出してもらい、合図とする。それを聞いて私と蓮斗殿が城に戻る。足止めは頼んだぞ。セグンド」

 ロスさんの言葉に、

「はい!」

 セグンドさんはさっきより大きい返事をした。

「以上だ」

 ロスさんが言うと、セグンドさんは部屋から出ていく。

「ロスさん。俺にある案があります」

「ほう?」

 ロスさんは興味深げにそう言った。


 その頃、ヨーラの部屋。

「なんか最近、蓮斗が部屋から出ていく事が多いような気がします」

 少しすねたようにヨーラが言う。

「そうかもね」

 ユアは悟られないように素っ気なく言う。

「何か知りませんか?」

 ヨーラが言うと、

「知らないです。ユアは?」

「私も、知らないわね」

 マアは用意していた言葉を言い、ユアはそれに合わせる。

「ですよね」

 やはり、というニュアンスを込めてヨーラは言った。

「聞けば教えてくれるかなぁ」

 多分、教えてくれないんだろうなと思いながら、ユアは独り言を呟く。

 そして、願った。

(はぁ、言ってくれたらな)

 その願いは…………。


 俺はロスさんとの話を終えると、ヨーラの部屋に戻った。

 入ると、やはり和やかな空気ではなかった。

 ユアが意味ありげにこちらを見ていたが、意味まではよく分からなかった。

 マアを見ると、こちらを見て微笑んでくれる。彼女はいつも通りだな。

 俺は、いつも通りでいれてるだろうか?

 いや、無理なのは分かっている。

 今日、守護剣士を辞めると言うのだ。いつも通りでいれてる方が嫌だ。

「順調か?」

 何を話せばいいのか分からず、座りながら言った。

「ええ、そうね」

 ユアはこちらを見ずに言う。

「そ、そっか」

 ユアのことは、どうすればいいんだろう。

 ヨーラには言わない。けど、それじゃあユアとは仲直りできない。

 ただ、俺は言わない方が正しいと思うわけで、ユアと仲直りする為にその意見を変える気にはなれない。

「蓮斗、最近何かあった?」

 顔はこちらを見ず、声は明るくない。

 だけど、この言葉は助け舟だ。

 この言葉に守護剣士を辞める、と言えば良いのだから。

 きっと、今、もうセグンドさんは剣士達に言っているんだろうし。

 しかし、何故?

 俺はユアを見るが、やはりユアはこちらに顔を向けない。

「ああ、俺、守護剣士を辞める事にした」

 極めて冷淡に俺は言った。

「え……なんで……です?」

 思ってもみなかった、という感じでヨーラが驚愕し、俺に理由を聞いてくる。

「なんでって、特に理由は無いよ」

 人の事は言えないな。俺もヨーラの顔を見ずに行った。

「お願いします。辞めないで下さい」

 ヨーラは手で俺の二の腕を掴み、言う。

 目を逸らすことはできない。そして、今、俺の目に動揺があってはならない。

 優しく、動揺を隠すなんて、俺にはできなかった。

 俺の目が冷たくヨーラを見据える。

「ひっ……」

 少し、怖がる。

 でも、ヨーラが俺の二の腕から手を離すことはない。

「い、言ったじゃない……ですか。信じていいって、裏切らないって。お願い……です」

 ヨーラが顔を下げる。声は最後の方はかすれていて。ヨーラの顔から床にしずくが落ちた。

 ヨーラが顔を上げると、涙がながれていた。

「ごめん……っ」

 俺は振り払って部屋を出た。

 これで……良いんだ。


 部屋を出た俺の手を、誰かが掴む。

「蓮斗……言わないと、ダメよ」

 ユアは手を離して、言う。

「ユア」

 隠してたって、良いじゃないか。

「ヨーラの為にも」

「俺は、ヨーラの為に言わないんだ」

 ユアの言葉に反論する。

 こんなこと、言わなくたってユアなら分かってるはずなんだ。

「でも、ヨーラは傷ついてるよ」

「それでも……」

 それでも、言っちゃいけないんだ。

「ヨーラを元気にしてあげられるのは……蓮斗なんだよ」

 ユアの言葉。

 俺はその言葉が深く心に刺さった気がした。

「今、元気になったから、なんだって言うんだ!」

 俺は声を大きくして言った。

「でも、泣いてたのよ!」

 ユアは弱弱しく懇願するように言った。

「ユア?」

 ユアが泣いてる……?

「あ……いやっ……」

 手で涙を拭いて、必死に誤魔化そうとする。

 思えば、俺がユアに怒鳴ったってほどでも無いが、大きな声で反論したりするのって初めてだったかもしれない。

 ユアはそのまま立ち去ろうとする。

「ちょっ」

 俺は反射的に肘を掴む。

 すると、ユアは抵抗すること無く止まった。

「ごめん……ありがとう」

 何を言えばいいのか分からず、俺はそう言った。

「……うん」

 ユアの声が聞こえて、俺は安堵した。

今回の話は蓮斗を中心にその周りの人達が形成する感情や想い、行動。それが蓮斗にどんな変化を与えるのか、という感じでやっていきました。

蓮斗は結局、ヨーラに言うんですね。

今回の話はヨーラはどう思うんだろうより、蓮斗はどうするんだろうより、ユアはどう思うんだろう、が凄く難しかったです。

マアは何をするんだろう、と思った人は、マアが何をしたかは次話で分かります!

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