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知らない世界にとばされた。  作者: 茶碗蒸し
17/21

勝利-1

「よろしいかな?」

 いや、セグンドさんであれだけ苦戦したのだ。闘って、勝てる相手ではない。

「えと、俺と闘うんですか?」

 信じられず聞き返すが、

「ああ」

 ロスさんは毅然と頷く。

 もしかしたら、守護剣士と言えど、セグンドさんとロスさんに大した差はないのかもしれない。それなら、勝機はある。

「……わかりました」

 最後まで悩みながら、俺は了承した。

「そうか」

 ロスさんは言うと、俺から少し距離をとる。

 俺もロスさんも木刀を構える。その様子を見て、他の剣士は壁際に行った。

 ロスさんはすごいを威圧を放っていて、見ただけで強いという事が分かってしまうような気さえする。

「では、行くぞ!」

 ロスさんの声が俺の耳にとどいた。


 ユアはいつも通り、ヨーラの部屋でヨーラやマアと一緒に魔法の構造についての解析をしていた。

 解析も、いつも通りの進行速度で、3人でやっているため、あと20日もあれば余裕で完成するだろうという所だ。

 だが、いつも通りでない所もある。それは会話だ。毎日、同じ話題で盛り上がれる訳無いし、かといって会話に集中しすぎても、魔法の解析の方が疎かになる。

 だが、ユアは話したかった。

 今は部屋が静寂に包まれている。

 話題が尽きたのだ。

 マアやヨーラも気まずそうにしている。

 だが、ユアにも話題があれば、とっく出している。

 ただ1つ。聞いておきたい事ならあるんだが。

 ユアは昨日のヨーラと蓮斗が抱き合っている姿を思い出す。

(またか……)

 これで何度目だろう。ユアはこの光景を昨日からずっと思いだしていた。

 たとえ、思いだす事も拒んでも、思いだし続ける。

(はぁ、なにこれ?)

 今まで一度も無かった事に対処法が思いつかない。

(うん、もやもやするなら聞いちゃえばいいのよ! なんでもやもやしてるかは分からないけど)

 ユアは思うと、すぐに行動した。

「あの、つかぬことを聞くけど。ヨーラって、蓮斗の事……どう思ってるの?」

 と、ユアは聞いた。これで、もやもやは解消されると信じて。

 その問いに、自分がどんな答えを期待しているかも分からずに。

「あ、私は……その……好きです」

 恥じらいのある、しかしはっきりとヨーラは答えた。

「そ、そう」

「そうなんですか」

 ユアとマアが言うと、照れたように顔を下げる。

「うん。ユアは?」

 ヨーラは自分の話題に耐えきれなくなり、話題を逸らした。

「わ、私は分からないよ」

 慌ててユアは答える。

「自分の事なのに?」

「うん」

 ヨーラに問い詰められるが、本当によく分かっていなかった。

「マアは? 好きなの?」

 ヨーラの話題がマアに逸れる。

「私は……好き、です」

 こちらも、はっきりと言った。

「そうですか。じゃあ、ライバルですね!」

 ヨーラが言い、

「はい!」

 マアが答える。

「負けませんよー?」

「こちらこそ!」

 そんな二人の会話を聞いていて、ユアはなぜか辛かった。

 もやもやも広がっていく一方で……。

(とりあえず、この話題をやめさせなきゃ)

「あの、とりあえず、魔法の解析を続けない?」

「あ、はい」

「わかりました」

 ユアの提案を、二人は素直にのってくれたが、もやもやが収まることは無かった。


 ロスさんの声が俺の耳にとどいた瞬間、ロスさんは動き出した。

 俺は驚くも、構えを崩さない。

 この速さ、セグンドさんと同じくらいだ。

 俺はそれが分かると、冷静に木刀を当てにいく。

 俺の木刀は狙い通り、ロスさんの頭の方にいき、当たる寸前。

「ふんっ」

 ロスさんの木刀が俺の木刀に当たり、

「なっ」

 その凄まじい威力で俺は木刀を手放しそうになる。

「ふっ」

 ロスさんは無防備になった俺の体に木刀に当てにいく、ただ俺は最初、警戒していた為、遠い距離で攻撃した。その為、ロスさんの攻撃は後ろに跳び、避ける。

 すれば、セグンドさんと闘った時と同じようにロスさんでも隙が出来る。

「はぁあああっ」

 俺は前に一歩踏み込み、体を下げると、そこから体を起こす勢いを付けて、木刀をロスさんの体へ振る。

 その木刀はロスさんの体、ではなくロスさんの木刀に触れた。

 何故、そこにある?

 ただ、ロスさんの木刀でも俺の木刀の勢いは殺せず、俺の木刀はロスさんの木刀を横に飛ばす。

 さっき、一歩踏み出しておいたおかげで俺とロスさんにそこまで距離は無い。

 俺は更にもう一歩踏み出し、

「はぁああああああ」

 木刀を、おもいっきり振った。

 しかし、ロスさんは飛んでいる木刀を掴み、俺の木刀に当てる。

 速いッ。

 ロスさんの木刀の振る速度は異常に速い、ということは威力も並みでは無い。

 俺の木刀はロスさんの木刀にいとも簡単にはじかれる。

 俺は木刀を手元にひきもどし、もう一度当てにいく。

 そして、そこで気付いてしまった。

 俺は避ける準備をしていないと。

「はぁああああああああああ」

 これは、負ける。

 俺は自然と目を閉じた。

 そして、感じたのは俺の木刀が何かに当たる感触だった。

 !?

 俺は慌てて目を開けると、俺の木刀はロスさんに当たっていた。

 ――なんで?

「蓮斗殿。あなたの勝ちだ」

「ど、どうしてです? 俺は、負けたと思いました」

「そうか」

「皆、集まってくれ」

 ロスさんが言うと、剣士達はロスさんの周りに集まる。

「見ての通り、負けた。だから、守護剣士は蓮斗殿に任せようと思う」

 周りがざわつくが、

「異論は無しだ」

 そういうと、ロスさんは階段を上がっていった。

 セグンドさんが近付いてきて、ロスさんが落とした木刀と、俺の木刀を持つ。

「セグンドさん。俺は手加減、されてませんでしたか?」

「ロスさんはそんなことする人ではありません」

 俺の言葉にセグンドさんはそう言った。

 でも、その答えは模範回答で、用意されていた答えに感じた。

「そうでしょうか? では、セグンドさんは俺と闘った時、手加減をしませんでしたか?」

 セグンドさんはそれには答えず、ふっ、と笑って、木刀を片しに行った。

 答えが返ってこないなら、直接、訊きに行くか。

 俺は階段を上がり、ロスさんのところへ行く。

「ロスさん」

 ロスさんは俺の声に立ち止まり、振り返る。

「どうした?」

「手加減、しましたよね?」

 いきなり、真意を汲み取る為に、単刀直入に聞く。

「……」

 ロスさんは沈黙をつらぬく。

「理由はなんです? それに俺が守護剣士なんて……」

 だが、言わないは許さない。理由も言わずに守護剣士になどはなれない。

「無理か?」

「いや、俺は剣士を一時的にしかなってないし……」

「それは何故だ?」

 今度は俺の真意を汲み取ろうとロスさんが聞いてくる。

「それは……」

 それは、俺がこの世界の人間では無いから。なんて、言っても無駄か。

「私は、蓮斗殿にずっと剣士で居て欲しい。ずっとここに居て欲しいのだ」

 なんだ? この過剰な期待は。なんのメリットがある。

「……」

 俺は意味が分からず、そして気まずく、答えを出せない。

「蓮斗殿を守護剣士に任命したのはその方が良いと思うからだ」

「その方が良い?」

 俺には実力からロスさんが最適だと思う。

 ただ、1つを除いて。

「ああ、ヨーラ王女の為には、信頼できる蓮斗殿の方が。そして、できればずっと守護剣士であって欲しい」

 やはり、そこか。

 前に、ヨーラが言っていた。ロスでも疑ってしまう、と。俺はそれに俺を信じてくれ、と言ったのだ。あそこはロスさんの部屋にも近かったから、聞いていたか、あるいは長年の経験から感じとったのか。ただ1つ分かることは、ロスさんは間違っていない。

「その為の手加減ですか……」

「ああ、守護剣士になって欲しい」

 言うと、ロスさんは頭を下げた。

 ここまで誠意。そして、俺は信じてくれと言ったのだ、ここで、守護剣士にならない事は有り得ない。

「解りました」

「有難う」

 ロスさんは悲しみを見せず、そう言った。


 剣士達が全員、城に住んでいる訳ではない。

 部屋に限るがあるので、ロス、セグンド以外は皆、城の外の街に住んでいる。

 それはつまり、城の外ならば集まれるという事だ。

 街の一室。宿屋の中にあるのだが、その中でも一番広い部屋で、3人部屋だ。それは3人が暮らして狭くないという事で、けして3人以上は入れない訳ではない。

 実際、その部屋には10人の剣士達がいた。ベットを端によせて、スペースを広くした部屋には長机が置いてあり、そこに10人の剣士が座っていた。

 剣士は鎧は着ておらず、私服のため、見た目では剣士とは判断できない。

 他に、その部屋にはフードを着た男もいた。全員で11人だ。フードを着た男も長机に座っている。

「よく集まってくれた。剣士達よ」

 フードの男は一人、話し始める。

「集まれなかった者もいるが、問題無い。じきにみな、集まる」

「前置きは良い。捕まった剣士はどうする? まだ、自白はしていないのだぞ!」

 剣士の一人が声を荒げて言う。

「分かっている。王女を人質にとれれば、すぐに解放されるさ」

「王女を人質に……?」

 その剣士は、困惑して言った。

「そのまま、国の金も奪ってしまおう」

「な、なるほど」

 フード男の発言に剣士の一人が納得した。

「それは良い」

 もう一人の剣士も納得する。

「今日は、何かあったか?」

 フード男は言った。

「そうだ。今日は蓮斗という奴がロスの代わりに守護剣士になった。それから、あいつはいつも守護しているぞ」

 思いだしたように剣士の一人が言う。

「厄介だな。だが、問題は無い。まずは皆が集まり、そこから打開策を考える」

「おお」

 フード男の驚きない発言に剣士は納得した。


 俺は、守護剣士に任命されてから、ロスさんに仕事を教わった。

 その仕事はヨーラを守護する事だが、ロスさんと違う事もある。

 それは、俺がヨーラを24時間、守護している事である。

 ロスさんはプライバシーの事もあり、城内では守護しない事になっていたが、ヨーラが許可したため、俺の場合は24時間、守護する事となった。

 そして、夜。

「どうするの? 蓮斗」

 ユアが言った。

 ユア、マアには守護剣士になった事と、24時間体制で守護する事を伝えていた。

 今のユアのどうするの、は寝る時はどう守護するのか、という事だ。

「どうしよう」

 俺としても案は無い。

「じゃあ、一緒に寝るんですか?」

 マアは突拍子も無い提案をした。が、本当にそう思っているというより、当然、否定するでしょ? という感じで訊いたのだろう。

「うーん、さすがにそれはしないよ」

 勿論、俺は否定する。

「じゃ、じゃあ、布団をもう一つ敷きます?」

 ヨーラが言う、が、それも無しだな。

「それじゃあ、俺も寝てるから、守護できない」

「でも、それじゃあ、寝ないの?」

 ユアは不安そうに言った。

「いや、それはそれで守護に集中できなくなる。俺は壁に寄り掛かって寝るよ」

「ああ、なるほど」

「それなら大丈夫ですね」

 ユアとマアが言った。

「はい、蓮斗、ありがとうございます」

 マアが言った。

「ああ。あと、ユア。ここに硬化魔法をかけておいてくれ」

「それって、壁や天井、床を固くするってこと?」

 俺の頼みごとに聞き返す。

「ああ、ドア以外からの侵入も考慮してな」

「私もやりましょうか?」

 マアが言うが、

「いや、魔力を溜められるユアが良い」

 あまり、負担をかけさせたくない。

「そう……ですか」

 マアは悲しそうに言った、ように見えた。

「じゃあ、クラシオン」

 ユアは杖を淡く光らせて、硬化魔法を発動させた。俺の目には見えないが床、天井、壁に魔法がいき渡っているのだろう。

 だが、杖の先端は透明のままだ。

「そろそろ、帰りましょう」

「そうね。じゃあね、蓮斗、ヨーラ」

 マアの提案にユアがのった。

「さようなら」

 マアが言う・

「ああ、あと、杖に魔力を溜めておいてくれ」

「ええ、じゃ」

「さようなら」

 ユアと、ヨーラが言う。

「じゃあ、寝るか」

「は、はい」

 慌てたヨーラの返事を聞くと、俺は壁に寄り掛かった。


「良かったわね。蓮斗が24時間で守護するようになったから、魔法の解析の進行状況の教えやすくなったし」

 廊下でユアは話す。

「そうですね! 私も嬉しいです」

「う、うん」

「ユアも、嬉しいでしょう?」

「え、うん!」

 二回目の頷きは一回目とは異なり、晴れ晴れとしていた。


 深夜、といってさしつかえない時間帯。

 ヨーラは起きていた。

(ね、眠れない。蓮斗は寝てるのかしら)

 ベットから体を起こす。

 そのまま蓮斗を見てみるが、遠く、暗いので寝ているかはよく分からない。

 ベットから下りて、蓮斗に近付く。

 すると、弱い寝息が聞こえてきた。

(うん、よく眠っている)

 何故か一人で納得すると、ヨーラは夜に一人、安心した。

 ベットに戻って、横を向き、手と足を軽く曲げる。ヨーラは気付いていないが、ヨーラがいつもすっきり眠れるのはこの姿勢の時だ。

(あれ、安心したら、眠くなって……きた……)

 ヨーラはそのまま、眠りについた。

お読み下さってありがとうございます。

このタイトルの意味は手加減された分を引くという事です。

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