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知らない世界にとばされた。  作者: 茶碗蒸し
16/21

未解決な問題×2

 これで良いのだろうか?

 これで、終わったのだろうか?

 俺はあの夜、3人の男を眠らせた後、ロスさんの部屋を訪ねた。

 たとえ、ロスさんが裏切っていたとしても、3人も捕まえているのだから、知らないフリをするだろうし。

 俺がロスさんの部屋を訪ねると、ロスさんは起きていた。

 剣士が最近怪しいから、裏切り者がいないかのチェックをしていたらしい。訓練中にいなくなるのも、それをしていたらしい。

 ロスさんが味方だと確信した俺は事情を説明し、3人の男は牢に入れられた。3人の男はよく俺が剣を模した形をした布に近付くと、警戒する剣士だった。

 だが、ではあの時あった沢山の椅子は誰が使っていたというのだ? 俺が昨日、3人の男を倒した時、もう椅子は一つも無かった。

 3人の男は『俺達だけでやった』と言っているらしい。

 この事は言うべきか言わぬべきか。本来なら、迷わず言うのだが、もし、事件とは関係無かったら、不安を拡散させるだけなのではないのか?

 街は剣士の中から裏切りを目論む者が出たと不安がっている。

 いや、そんなのは関係無いな。言うべきだ。もしもの時を想定して。

 俺はロスさんの部屋へ向かう。

 ロスさんの部屋はヨーラの部屋の横にある。守りやすいようにと。

 俺は階段を上がる。

 すると、その階にはヨーラがいた。

 悲しそうな顔をしている。あの3人の男がしようとしていたのが何かはまだはっきりしていないが、ヨーラに何かしらの私怨があっての行動だろうからだろう。

 俺がロスさんの部屋に向かい歩き、ヨーラと近くなる。

 そうだ。俺はヨーラに言わなくちゃいけない事があるんだ。

「あの、蓮斗さん」

 意外にも、ヨーラが声をかけてきた。全然、嬉しいんだが。

「なんだ?」

「話は、聞きました」

 やはり、悲しそうな顔は変わらず、ヨーラは言った。

「そうか」

 話というのは、剣士から裏切り者がでたあの話だろう。

「蓮斗さんが助けてくれたんですよね」

「蓮斗、な」

 呼び捨てになっていない事を指摘する。正直、そんな顔でお礼されても、助けなかった方が良かったんじゃないか、なんてバカな事まで考えてしまう。

「あ、はい。その、ありがとうございました」

「いや、良いんだ。ヨーラが無事ならさ」

「はい」

 無事、体は無事だろう。でも、心まではそうはいかなかったようだ。

 きっと、ヨーラは考え込んでしまうタイプの人なんだろう。一度、悩み出すと、切り替えず、とことんまで悩みこむ。そういう人間な気がする。

「あんまり、落ち込むなよ。ヨーラは悪くないんだから」

「でも、もしかしたら……」

 もしかしたら、私が悪い事をして、恨まれた、とでも言うつもりなのだろうか?

「ありえない。ヨーラは絶対悪くないよ。だって、俺が体張ってまで助けたいって思った人だもん」

 本音を言わなくては伝わりそうにない。

「蓮斗さん……」

「蓮斗さんじゃなくて、蓮斗だって」

「あ、あはは」

 ヨーラは反射的にだろうか、笑う。

 その笑顔で、俺は安堵した。

「ははっ。やっぱ、笑ってる方が良いよ」

 自然と、笑顔が俺にもうつっていた。

「そう、ですか?」

 照れながらヨーラは言った。

「あと、俺はヨーラに謝らなくちゃいけない事があるんだ」

「なんです?」

「その、この前は突然、部屋に入って、見ちゃってごめん!」

「み、みたんですか……」

 しまった。余計な事を言ってしまった。

 勢いで、何も考えずに言ってしまった。

 ヨーラは下を向いたまま動かない。

「良いです。恥ずかしいですけど、蓮斗なら大丈夫です」

 ぱっと顔をあげると、俺に少し近付いて言った。

「え?」

 意味が分からず、聞き返してしまう。

 それに、蓮斗と呼び捨てで呼んだ事で更に俺の頬を赤く染めた。

「じゃあ、また」

「あ、ああ」

 ヨーラは部屋に戻った。

 俺なら大丈夫って、それって……。いや、おちつけ蓮斗。お前、今までそれで何回、悲しい思いを増大させた?

 変な期待は無しだ。そもそも、お前は下心ありでヨーラを助けてたのか? いや、違う。好きになって欲しいとかじゃなく、悲しい思いをして欲しくないって思っただけだ。

 俺は持ち直すと、ロスさんの部屋に向かった。

 ふう、危うく惚れるとこだったぜ。

 俺はロスさんの部屋の前に着くと、ノックをする。

「どうぞ」

 ドア越しにロスさんの声が聞こえ、ドアを開ける。

「えと、俺がロスさんに朝早くに訓練したいと言った事ありましたよね?」

「ああ」

 唐突な俺の話に耳をかたむけてくれる。

 正直な話、短く終わらせたいので、ありがたい。

「その時に修練場のあの犯人が居たとこに入ったんですが、沢山の椅子が置いてあったんです」

「ほう」

 興味深いという表情でをしている。

「本当に、犯人は3人だけなんでしょうか?」

「なるほど」

 最後は疑問系になってしまった。

「もちろん、確証なんて無いですけど」

「いえ、情報提供ありがとう」

「はい、では」

 俺はドアを開ける。

「あ、今日の訓練は休んでいいぞ」

「ありがとうございます」

 ロスさんのありがたい言葉に返事をすると、部屋を出て、ドアを閉じた。

 眠い。もう、寝てしまおうか。

 昨日寝てない為、いきなりそう思った。ここまで来るのにも、ロスさんに報告しなければという義務感があったからで、本当ならすぐに寝たかったのだ。

「蓮斗」

 考え事をしていると、ユアに話しかけられる。

 おそらく、ヨーラの部屋で魔法の構造の研究をするので来たら、俺が居たという所だろう。

「ユアか」

「その、犯人を捕まえるのさ、一人でやったんだよね?」

「ああ」

 珍しく控えめなユアの言葉に肯定する。

「なんで私も連れていってくれなかったの?」

「え?」

 責め立てるような言い方では無かった。ただ単純に理由を知りたいというような、そんな言い方に俺は聞き返してしまう。なんというか、ユアらしくない。

「蓮斗一人じゃ危ないでしょ? 私に頼ってくれたら……」

 返す言葉も無い。俺はユア、マアには頼ろうとも考えたが、1つは確証が無い事、そしてもう1つは危険な事に巻き込みたくないとそう思ったからだ。

 でも、俺がそう思うように、ユアも俺を心配してくれたんだろう。

「ごめん」

 謝る以外に何もできない。

「いや、うん。じゃあ、次からはちゃんと頼って。心配したんだから」

「え?」

 最後の方の言葉に信じられず、またもや聞き返してしまった。

 その俺の言葉にユアは、

「え?」

 と言った。

 なんか、当たり前のこと言っただけでなんで驚いてるの? という顔をしている。

「いや、なんでもない。じゃあな」

 俺はユアに言うと、階段の方へ向かった。

 ユアはヨーラの部屋に入った。

 階段の方に着くと、すぐ下にマアがいた。

「あ、蓮斗さん。大丈夫ですか?」

「え? ああ」

 いきなり心配されて、驚きながらも、答える。

「怪我とかは?」

「無い」

「そうですか。良かったぁ。心配したんですよぉ?」

「わるいな」

 ユアとの会話を思い出して、反射的に言う。

「なんで謝るんです? 私が勝手に心配しただけですよ。じゃあ、何かあったら言って下さい。ユアとヨーラさんの部屋で魔法の解析をしてますんで」

「ありがとう」

 なんでだろう、理由は分からないけど、ありがとうと言っていた。

「いえ! では」

「ああ」

 元気だなと思い、睡魔に襲われる前に、と部屋へ急いだ。


 俺は朝起きると、昨日の眠気は嘘のように消えていた。

 そして、訓練が始まる前に、ヨーラの部屋に来ていた。

 昨日もそうだったが、ヨーラはこの時間、廊下にいるようだ。

「ヨーラ」

 俺は窓の外を眺めるヨーラに話しかける。

「蓮斗」

 呼び捨ても慣れてきたのか、自然と俺の名前を呼んだ。

「この時間は、廊下にいるんだな」

「はい、外を見てるんです」

「そっか」

 俺は脇道に逸れた話題を本題に移行させる。

「なぁ、最近、何か不安なこととかあるか?」

 前にも言ったようなセリフ。

「それを聞くって事はまだ、事件が?」

 ヨーラは覚えていた。冷静に(見える)俺に聞く。

「いや、ただ心配なんだ」

 それを、俺は否定した。

 まだ、事件がある可能性があるなどと、言って何になる?

 嘘はダメ、と言われても、俺はここはゆずらない。

「そうですか。その、なんでそんな優しくしてくれるんです?」

 単純に、不安な事があるか聞いているからだろう、ヨーラは俺に言った。

「なんか分かんないけど、放っておけないんだよ」

 考えもせずにそんな言葉が出た。いや、考えもしなかったからこそ、俺が本当に思っている事なのかもしれない。

「え? なんです、それ」

「分かんない」

「ふふっ、そうですか。不安な事……無いです」

 少し笑い、ヨーラは言う。

「そっか。なんでも相談してくれ。信用してくれていいからさ」

「あのっ、蓮斗さ……」

 蓮斗さんと言いかけて止める。

「なんだ?」

「不安な事、なんですけど」

 言いにくく、でも言いたげにヨーラは言った。

「うん」

「なんでも、いいんですか?」

「ああ、もちろん」

 その言葉を聞くと、ヨーラは俺の目を見て話しだした。

「私、その、信用できる人が、いなくて。その、剣士に悪い人がいて、もしかしたら、もっと居るんじゃないかって思って、ロスも疑っちゃったりして……。本当は、信じたいのに」

 でも、どう返せばいい?

 これはきっと、どうしようも無いのだ。

「俺を、信じてくれて良いよ。裏切らないから」

 かっこつけたセリフ。

 でも、それは話を逸らしただけで、解決になんてなってない。

「……」

 少し黙って、その後、ヨーラは俺に近付いて、俺を抱きしめた。

「不安なら、不安じゃ無くなるまで居るよ」

 自然と、そんな言葉がでて、俺はヨーラの背中に手を添えた。

「もう少し、このまま」

 鼓動の聞こえる距離、ヨーラの小さな言葉が聞こえる。

「ああ」

 俺は小さく言った。


 ユアは出していた顔をひっこめる。これで壁に隠れるからだ。

 ユアはヨーラの部屋に行く途中、抱き合っている蓮斗とヨーラを見たからだ。

(今のってどういう事なんだろう。付き合ってる、みたいな?)

 顔を下に向けて考え出す。

(ないない、違うよね。抱き合ってた……だけで……)

 焦って否定し、否定しきれない。

(そうなのかな?)

「ユア?」

 階段下から、マアの声がユアの耳にとどいた。

「ひゃっ、セレスか。どうしたの?」

「いえ、行きましょうか」

 マアは言いながら階段を上って来る。

「え? ええ。さすがに早いんじゃないかしら? 迷惑になるから、もうちょっと経ってからにしましょう」

 蓮斗等の気を使ってか、ユアはそんな事を言った。

「いつもこれくらいに行ってますよ?」

「うーん」

 どう時間を稼ごう、とユアが考えていると、

「お、ユア」

 後ろから蓮斗に声をかけられる。

「れ、蓮斗」

 自分でもなんでこんなに動揺してるんだろう、と思いながらユアは言った。

「おはようございます」

「おはよう」

 マアと蓮斗はいつも通り挨拶する。

 蓮斗はユアの顔を見て、見られてたかな? と思った。


 蓮斗は修練場に着く。

 多分、今日、訓練に出なくても怒られはしないだろうが、剣士に何か不審な所が無いか確認するのに手っ取り早いのが、訓練に参加する事だから、参加する事にしたのだ。

 遅刻はしていない。

 今、修練場にはセグンドさんとセイル、俺、がいる。

 セイルは俺が修練場に入ったのを気付くと、意に介さずに木刀を振る事を再開するのに対し、セグンドさんはいつも通りの笑顔で近付いてくる。

「蓮斗くん。あの件はありがとう」

「いえ」

 あの件は言われなくても分かる。

「剣士から裏切り者が出た事がにわかには信じがたいですが、事実なんですよね。認めなければいけないな。それで、警備が手薄という事になり、城内を24時間、3人の剣士が巡回する事になっているので、あまり、夜遅くは出歩かないで欲しいのですが」

「はい、わかりました。でも、3人?」

 多すぎないか、という疑問がよぎり、訊く。

「ロスさんが巡回する剣士の中に裏切り者がいる可能性があるから、3人にするとおっしゃっていました」

 セグンドさんの言葉を聞いて納得する。

「へえ、良いアイデアですね」

 そういえば、俺はロスさんに剣士の中にまだ裏切り者がいると言ったんだしな。

「はい、私もすごいと思いました」

 セグンドさんは素直に関心しているようだ。

「で、ロスさんは?」

 話題がロスさんだったという事もあり、ロスさんがいない事が気になる。

「ロスさんはすぐに来ると思います。確か、今日で最後の訓練ですから」

 最後?

「! まさか、辞めるんですか?」

 俺は少し声を大きくして言う。

「違いますよ。ヨーラ王女の警護に専念するんです。今回の事もありますし」

 セグンドさんは落ち着いて答えた。

「あ、ああ。なるほど」

 いや、そりゃ、そうだよな。

 すると、ロスさんが修練場に入る。

「噂をすれば影、ですね」

 セグンドさんが言った。

 ロスさんはまっすぐにこちらに来る。

「蓮斗殿。いいか?」

「なんでしょう?」

 妙に真剣な顔に緊張してしまう。

 いや、でもそこまで重要な事じゃあ無いだろう。

「闘って欲しいんだ」

「え?」

 俺は予想外の言葉にそう呟いた。

今回は人間関係が進んだ半面、物語にそこまでの進展がありませんでした。すみません。

できれば、並行して進ませたいのですが、なかなか難しく。

読んでいただき、本当にありがとうございます。

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