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知らない世界にとばされた。  作者: 茶碗蒸し
13/21

期待と疑惑

 蓮斗が階段を下りて、修練場に着いた頃。

「さて、私達も行きましょうか」

 ヨーラは言った。

「え、ええ」

 ユアは返事をする。

(なんというか、蓮斗って人と馴染むの早いわね。思いつきで剣士とかやっちゃうし)

 ユアは子供の頃から魔法の研究に没頭していた為、人とはあまり係わらなかった。だから、すぐに人と仲良くなる蓮斗を見ると、羨ましく思ってしまう。

 実際は蓮斗はすぐには仲良くならないタイプだし、ユアは性格上、すぐに仲良くなるタイプなのだが。

「あ、ユアさん、マアさん、私には敬語を使わなくていいですよ」

 思いついたかのようにヨーラは言った。王女という立場だと、敬語を使われる事が自然である為だろう。

「わかったわ。でも、あなたも私達に使ってるじゃない。敬語」

 ユアは了承と指摘をした。暗にあなたも敬語をやめてと言っているのだ。

「ああ、これは癖で。すみません」

「いや、いいわ」

 ユアは焦って言う。

(敬語は苦手だし、助かるわ)

「マアさんも敬語を使わなくてもいいですよ」

 ヨーラは言う。

「私も実は敬語が癖で」

 マアが言った。

「そうなのよ、何回やめろって言ってもやめないのよね」

 ユアが呆れ気味に言う。

 敬語が癖なんて、そうある事じゃないが、親が偉い仕事に就いているマアや、自分自身が王女であるヨーラが例外過ぎるのだろう。

「そうなんですか。じゃあ、私の部屋に行きましょう。魔法の構造、でしたよね?」

 ヨーラはさして驚きもせずに話を戻す。

「ええ」

 その言葉にユアが答えると、3人は部屋に向かった。


「ここが修練場」

 俺とセグンドさんは修練場に辿り着いていた。とはいっても、階段を下りただけだが。

「ここでは基本、訓練をしているんですが、蓮斗さんは剣士と闘ってみてはどうでしょう?」

 突然の提案。

 いや、いくらなんでも、いきなり過ぎるだろう。

「俺は訓練をしなくてもいいんですか?」

 俺は当然の疑問を口にした。

「北の洞窟の化け物を倒せるんですから、訓練は要らないでしょう」

 また、これか。

 俺は出そうになるため息を意識して、止める。

 さっきの提案は過剰な期待からか。

 俺は軽く納得しながら話しだす。

「いや、実はそれ、あの二人のおかげなんですよ。俺は別に何もしてなくて……」

 俺なんて、役に立ったのは最後、しかも二人に魔法の補助をかけてもらってやっとだ。これ以上、俺を持ち上げるような考え方は即急に止めてもらいたい。

「そうなんですか? でも、あなたのおかげで皆、今の生活が出来てます。何もしてないなんて事は無いですよ」

 だが、セグンドさんは俺の言葉よりも、俺の気持ちを気遣ってくれた。

「セグンドさん……」

「では、闘ってみますか」

「え?」

 結局闘うの?

 セグンドさんはまだ俺が強いと思っているようだ。俺が謙遜したとでも思っているのだろうか?

「セイル。闘ってみてくれ」

「え? 俺ですか?」

「ああ」

 セイルと呼ばれた者が俺を見る、というより睨むという感じだろうか。

 やはり、集団に新しい一人が増えると、歓迎はされないか。まぁ、予想していた事だ。それでも、このあと、戦闘があった時に足手まといにならないよう、ここに来たのだ。

 俺の目は自然と細く、鋭くなる。意識してやった訳ではなく、相手に睨まれたので反射的にだ。

 だが、俺が睨んだ所為か、

「はぁ、わかりました」

 と、セイルという者が了承し、俺の前に立つ。

 セイルという者は剣士が着ている鎧を着ていて、剣は木刀だ。背丈こそ高いが、放たれる威圧からはそこまでの恐怖は連想できない。

 って、俺は何で闘えばいいんだ?

 ミューテイトの剣は鋭いし。

「お願いします」

 と、とりあえず俺が言うと、

「お願いします」

 セイルも返した。

「蓮斗さん。木刀をお貸しします」

 セグンドさんは壁に立てかけてあった木刀を手に取り、投げた。

「ありがとうございます」

 俺は受け取る。

 木刀……ミューテイトの剣のような切れ味は無く、ミューテイトの剣より重い。

 となると、力では無く、テクニックで勝たなければならないか。

「いくぞ?」

 セイルが聞いてくる。

「はい」


 ヨーラの部屋。

「でも、ヨーラって忙しいんじゃないの?」

 ユアが言う。

 王女というのは忙しいというイメージがあったし、実際、忙しいのだ。

「いえ、今はお爺様が政治を行っているんです。だから、案外暇でして……」

 だが、ヨーラの場合、王女は形だけあり、まだ若いヨーラに政治は任せられないというのが、本音だ。

「へえ、意外ですね」

 マアが言う。

「そうなの? じゃあ、この魔法の解析を手伝ってくれないかしら?」

 ユアは言いながら、空間移動魔法の作りが書いてある紙を見せる。

 さっき会ったばかりの王女にこういう事が言えるのは、ユアの良い所だろう。

「これ……」

 ヨーラはその紙を凝視する。

「どこか間違ってると思うのよ」

(この世界の魔法を用いれば完成すると思うのよね)

「はい、では始めましょう」

 ヨーラは言うと、紙をユアに返した。

「ええ」

(にしても、王女らしくないって感じがするわよね)

 ユアの指摘は正しく、ヨーラの髪の色と目の色は黒だし、ドレスを着てはいるが、綺麗というより、美しいという感じだ。

 ユアが王女らしく無いと思った理由は、ただ単にユアの世界では髪が黒で目も黒などが珍しく、王女にはそぐわなそうに見えたからだが。

(まぁ、こういう王女もいるか……)

 ユアは一人で納得した。

「ん? どうかしましたか?」 

 ユアがヨーラの顔をずっと見ていた為、ヨーラが聞いてくる。

「いえ、なんでもないわ」

(蓮斗と同じ髪の色、か)

 ユアは自分の髪を触ってみた。鮮やかに赤い髪を。


 セイルは俺に近付き、木刀を振る。

 速い速度だ、俺ではここまで振れないだろうな。

 俺はセイルの木刀を木刀で受け止め、そのまま前にでる。

 別に速く振らなくても勝てる。ルールを逆手にとればいいんだ。

「なっ」

 セイルは驚き、後ろに下がるが、そこに俺は追撃した。セイルはかろうじて木刀で防ぐが、俺はすぐに木刀でもう一度当てにいく。

 別に、一撃、一撃に大した威力は無い。

 俺の木刀がセイルの首元に近付くと、止めた。

「そこまでっ」

 修練場にセグンドさんの声が響く。

 そう、これで勝ちなんだ。実戦じゃないんだから。

 にしても、ここまで勝ちにいく必要も無かったかもな。ただ、洞窟では負け=死だったし、手加減というのは慣れてないので本気をだしてしまった。

「やはり強いですね、蓮斗さん」

 セグンドさんは近付いて言う。

 はぁ、やっぱりか。

「そんなことないですよ」

 俺が言う。

 俺は壁の方に歩きだすと、2人の剣士が俺に近付いてくる。

 なんだ?

「あずかろう」

「ああ」

 剣士が言うので、俺は木刀を渡す。

 確かに俺は木刀を置く為に壁に向かっていたが、何故2人も動く?

 俺は目の前にいる剣士の奥、壁の上から下まである壁に貼ってある布、それに書いてある剣を模した形を見た。

 まぁ、気の所為か。

 ただ、セグンドさんの過剰すぎる期待はどうにかして欲しいな。

 他の人も俺が勝った事に驚いて、ざわついている。

 階段からロスさんが下りてくる。

「何かあったのか?」

 皆が話していたからだろうか? ロスさんが言う。

「ロスさん。今、蓮斗さんとセイルを闘わせてみたんです」

 ロスさんの問いにセグンドが答えた。

「で?」

「蓮斗さんが勝ちました」

「ほう? 分かった、続けてくれ。私にはする事があるのでな」

 ロスさんは俺に品定めするような目線を向けて、その後、階段を上って行った。

「はい」

 まぁ、あの人は過剰な期待はしないだろう。そんな気がする。

「することって何なんです?」

 俺は興味本意でセグンドさんに聞いてみる。

「さぁ、わかりませんが、きっと重要な事なんでしょう」

「へえ」

 重要な事、訓練よりも重要な事があるんだな。

「じゃあ、一休みさせてもらいます」

「あ、ああ」

 俺は階段を上がりながら思った。

 部下に教えない重要な用事って、何なんだ?


 階段を上がる。

 王女に会った部屋だ。

 誰もいない。

 それはそうだ。ユアとマアが王女様に魔法の構造を教えてもらってるんだから。

 しかし、どうしようか。

 少し休むというが、本気で休むなら宿屋に戻らなければならないし、そこまで休むのはダメだろう。

「やっぱり、訓練に参加しに行くか」

 俺は声に出すと、階段の方へ向く。

「えと、すみません」

 後ろから声をかけられる。

 振り返ると、王女様がいた。

「お、王女様?」

「はい」

 こんな所で何をしてるんだろう。

「えと、俺は京極蓮斗っていいます」

「え、あ、ヨーラ・エストゥディオです」

 うん、知ってるんだが。

「こんな所でどうしたんですか?」

 とりあえず、聞いておく。本来ならユア達と魔法の構造の研究をしている筈なんだが。

「あの、あなたにだけお礼をしてないと思いまして、声をかけさせていただきました」

 几帳面だな~。

「そうですか。でも、お礼なんて大丈夫ですよ」

 目的はあくまでも王女に会い、魔法の構造を知り、この世界を出る方法を見つける事であり、報酬などは目的でもなんでもない。

「でも、何か……」

 王女は申し訳なさそうにうつむく。

 そうだなぁ、こんな顔されると、何かの報酬を貰わねばという気にすらなってくる。

「じゃあ、泊めていただけませんか? ユアやマアと離れ離れというのも……」

 泊めてもらえば、金の節約にもなる。

 まぁ、剣士になった時点で泊めてもらえそうなものだが。

「はい! そうですね。じゃあ、泊まっていってください」

 王女様は元気いっぱいに言った。

 嬉しそうで、良かった。

「ありがとうございます」

 俺はお礼を言う。

 すると、

「はい、えと、敬語、使わなくてもいいですよ?」

 とモジモジしながら王女様は言った。

「いえ、王女ですし……」

 当たり前だが、王女には敬語を使うものだ。

「違うんです。あなた達だけでも普通の人として扱って欲しいんです」

 昔から王女として扱われていると、そういう気にもなってくるもんなのだろうか? よく分からない。ただ、言える事は、王女様は敬語を使って欲しくないという事だ。

「ああ、分かった。よろしくな、ヨーラ」

 意を決して言う。

「え? あ、はい!」

 ヨーラは一瞬、戸惑い、そして元気よく返事をした。

 なんというか、ヨーラと話していると、心があったかくなる気がする。

「じゃあ、俺の事も蓮斗って呼んでくれ」

 交換条件として、名前で呼んでもらえるように言う。ヨーラと仲良くなって悪い事は無いだろうから。

「はい、蓮斗さんですね」

 違う。

「いや、蓮斗だ。蓮斗」

 さんなんて許さない。呼び捨てにしてもらおう。その些細な違いが意外と重要だったりするのだから。

「えと……れん、と?」

 戸惑い、恥ずかしがりながらもヨーラは俺の事を呼び捨てで呼ぶ。

「オッケー。じゃあ、よろしくな、ヨーラ」

「はい!」

 俺はヨーラとの会話を終えると、修練場に戻った。


 ヨーラは部屋に戻る。

「戻ってきたわね。って、どうしたの? 顔、赤いけど」

 ユアが言う。

 ヨーラの顔は蓮斗が修練場に続く階段を下りて行ったあたりで、蓮斗を呼び捨てで呼んだ事に対する恥じらいで、周りの人が心配するくらいに紅潮した。

 そして、それは今もおさまらない。

「だっ、いじょうぶ。です」

 ヨーラはぎりぎり、想いを言葉にする事に成功した。

「そう……?」

 それを聞いてユアは納得? した。

「じゃあ、続けましょう?」

 マアが言うと、

「ええ、そうね」

「はい!」

 ユアとヨーラが続けて言った。

さて、蓮斗は活躍してましたね。作者として嬉しいです。

ヨーラも出番があり、セグンド、ロスも出番があり。

私としては結構、好きな話だったかもしれません。

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