剣士と英雄と計画と王女
「さて、行こうか」
俺達は宿屋の前にいた。俺達は一日休んだので、柱の下にいた困っていた人というのに会いに行く事にしたのだ。
「ええ」
「はい!」
ユアとマアが言うと、俺達は一つの柱に向かう。
「疲れはとれた?」
ユアの問いかけ。
「いや、全然」
正直、疲れなど微塵もとれてはいなかった。昨日の戦闘で体の節々が痛む。歩くだけでも相当辛い。だが、俺だけが休んでもなぁ、とも思う。
「大丈夫ですか~?」
マアが心配そうに言う。
「わかんね。ユアは?」
俺は言葉を濁してユアに話題をふった。全然大丈夫では無いからだ。
「私もあんまり……かな」
ユアも元気! という訳では無いようだ。
「そっか。まぁ、そうだよな。マアは?」
微妙に安心する。ただ、皆元気じゃないんなら、今日は柱の人に会いに行くだけで良いかもな。さすがに今日、王女に会うのはしんどいかも知れない。
「私はバッチリです!」
そんな時、マアは言った。
「「すごい!」」
俺とユアの声が被る。驚きの為の偶然だろう。
「わぁ、声がピッタリです!」
マアはびっくりしていた。が、マアが元気な方がびっくりだけど。精神力を使う魔法を、杖に魔力も溜めずに使い続けていたのだ。それに、ボスの注意をひきつける役もしていたんだし。
「あ、ああ」
「あははは」
ユアが笑う。
そんな会話をして、俺達は柱の見える所まで来た。すると、柱の下には男の人が一人いた。
「あ、あの人か?」
ユアに聞いてみる。俺は会った事ないから分かんないけど、柱の下に居るのが一人だけで、しかもおじさん、めっちゃ落ち込んでる。
「うん、そうね。じゃあ、報告しましょうか」
「ああ」
俺はそのおじさんに話しかける。
「すみません」
俺が話しかけると、おじさんの目線は俺ではなく、ユアとマアに言った。そりゃあ、俺は知り合いじゃないし、当たり前か。
「おお、あの時のお譲さん達じゃないか。無事だったんだな。良かった。立派な彼氏さんまで連れて」
おじさんはいきなり衝撃発言をした。おい、どっちの彼氏だよ。
「か、彼氏!? ち、違いますよ」
ユアが言い、
「そ、そうですよ!」
マアの言う。
なんか、一瞬で二人にふられたんだけど。何コレ、ショック。
「あれ? そうだったか?」
おじさんはとぼける。
こいつ、確実に反応を見て楽しんでたな。
「それはともかく、あの洞窟にいた化け物は退治しました。もう通れますよ」
俺は言う。
「え、冗談だろ?」
驚く。
まぁ、そりゃ、そうだろう。あんなに大変だったんだから。にしても、この人相手だと話が全然進まねえ。
「嘘は吐きませんよ」
俺は嘘では無い事を説明する為、腰に付けてあった袋とって、袋の中にある金貨を見せる。
「な、何枚あるんだ?」
男は驚愕した。
俺は袋を閉じて、言う。
「これだけある理由。それは化け物退治です」
ただの大金持ちとも見えるが。
「な、なるほど」
証拠にはならないな。
「まぁ、無理に信用しろとは言いませんが……」
この人が信じなくても問題は無いけど。
「いや、信じよう。一度、洞窟に行ってみるよ」
「ありがとうございます」
こんなに早く信じてくれるとは、予想外だ。
「それはこちらのセリフだよ」
「ははっ、そうですね。では」
俺は男の人に背を向ける。
「ああ、気を付けるんだよ」
「はい!」
マアが答え。
「ありがとねー、おじさんー!」
ユアが言った。
「ああ」
男の声を聞くと、マア、ユアも前を向く。
「良い人でしたね」
マアが言った。
「そうだな」
「でも、金貨を見せるのは危なかったんじゃない?」
ユアの疑問も尤もだ。
「まぁ、そうだな。でも、俺達はこれから王女と会う訳だし、襲われはしないだろう」
これも確証の無い話だが。
「そうね。おじさんも良い人だし」
「そうですね!」
だが、二人は納得してくれたようだ。
「じゃあ、行こうか」
「ここまで来てまだ入れないとかになったら許さないわよ、あの門番」
ユアが言う。
「それは無いと思うぜ? それに門番の所為って訳でも無いだろう」
「まぁ……そう……かも」
ユアの反省したように声を小さくして言った。
「会えるといいですね! 王女様に」
マアが言う。
「ああ、そうだな。会えたらこの世界から帰る方法も見つかるかも知れない」
それがユアとマアの為になる筈だから。
「……うん、そうね」
ユアは淡々と言った。
なんだ? 帰りたくないのか? いや、実感が湧かないだけだよな。帰りたくないなんて事は……無い筈だから。
俺達は城の前に着く。
「た、倒した? 洞窟の化け物を? 本当か?」
俺達が化け物を倒した事を告げると、門番は開口一番にそう言った。
「ああ、確認しに行ってくれ」
今のところ証拠は無いし、金貨なんかを見せて信じる相手でも無い。
「…………わかった。ただ、忙しいからいつ行けるかはわからんぞ」
「大丈夫だ。もしかしたら、皆が先に気付くかも知れないからな」
あのおじさんが皆にひろめてくれればいいが……。
「……恩にきる」
門番は言った。
結局、この男も感謝しているのだ。
「ああ」
「じゃあ、一回帰る?」
ユアの提案。
「そうだな。一度帰るか」
俺はそれにのった。
門番は剣士の修練場――修練をつむ場所――に来ていた。
ここには一通りの剣士がいるからだ。
門番は修練場に着くと、辺りを見回した。すると、守護剣士を見かける。この剣士の中で一番権限の持っている剣士だ。
門番は守護剣士に近付く。
「どうした? 何かあったのか?」
守護剣士は門番に行った。その守護剣士の声や風格に門番は圧倒される。
そこにいるだけで、もの凄い存在感だ。
「北の洞窟の化け物を退治したという旅人が現れました」
その言葉に守護剣士は驚きもしない。
「この前、退治する代わりに王女に会わせろと言った者か?」
前に蓮斗が門番に洞窟の化け物を退治する代わりに王女に会わせろと言った時、まず守護剣士に報告し、守護剣士が王女に報告し、王女が承諾した。
つまり、その事も守護剣士が知らない筈も無いのだ。
「はい」
門番は問いに肯定する。
「ふむ、王女には許可をとってあるしな。確認しておこうか。おい、お前、北の洞窟へ行け」
守護剣士は近くにいた剣士に言った。
「守護剣士殿。本当に信じておられるので? あそこは我々が諦めた所です。もし、今の話が本当なら、旅人は守護剣士殿より強い事になりますが?」
近くにいた剣士が言う。
それはここでは珍しい、ただの剣士が守護剣士に意見をするという光景だった。
「黙れ、いいから行け」
だが、守護剣士の放つ空気は少しの反感も許さないというようなものだった。
「し、失礼しました」
その威圧を恐れ、剣士は逃げるように修練場を出ていった。
いつも、この修練場で守護剣士に意見する者はああいった結果になる。だが、理解のある者ならその光景を見ても危惧しない。守護剣士の判断はいつも正しい。そして、守護剣士にくる意見は――いつもはほとんどこないが――難癖つけた変な意見ばかりだからだ。だから、こういった結果を見ても、恐怖で従えてるとは微塵も思わない。実際、今回も旅人が守護剣士より強い可能性など、関係無い話なのだし。
「では、私は王女様に話してくる」
守護剣士も王女に報告する為、修練場を出ていく。
門番も修練場をでていった。
すると、修練をしていた剣士達は話し始める。
「どうするのだ。計画に邪魔な旅人を招きいれるのか?」
剣士が言う。
「うーむ。ただ、我々の権限ではどうにもならんだろう。さっきの話が本当ならその旅人は英雄扱いされるに決まっている」
「ああ、結局は王女に会う事となる」
「結局? なら、計画の時期を早めろ」
「いや、計画は今まで通りだ。守護剣士を甘く見るな」
「大丈夫だ。旅人がいくら強くとも、我々の計画には気付くまい」
「ああ、旅人が帰ったら始めればいい」
「そうだな」
大勢の剣士の会話が終わる。
すると、また剣士達は修練をはじめた。
宿屋の俺の部屋。
「ねえ? いくらなの? この金貨」
ユアは金貨の入った袋を見て行った。
「さあな。ただ、金には困らないだろうな」
袋は膨れていて、これ以上は入らない程だった。
「そうですね」
「じゃあ、明日、もう一度城に行ってみよう」
「ええ」
俺達は街を歩く。城に行く道だ。
「あんた達、洞窟の化け物を倒してくれたんだろう? ありがとうな!」
知らない人に話しかけられた。
「な、なんだ?」
「皆、知ってるみたいですね」
「まぁ、行きましょう」
「ああ」
城の前に着く。
「おう、よく来たな。王女様と会いたいんだって? いいぞ。許可がでた。というか、王女様がお前達に会いたいんだと。門から入ってまっすぐに階段がある。上って二階の正面に王女様はいるぞ」
門番は言い終わると、門をノックした。
すると、門が開く。門の後ろで誰かが引っ張っているんだろう。
「じゃあ、行こうぜ」
「え、ええ。案外すんなり行けたわね」
「お前達はそれだけすごい事をしたのだ」
ユアの言葉に門番が言った。
「そうなんだ」
俺達は城に入る。
城の中は白が基調となっており、神聖な雰囲気を醸し出していた。解放感に溢れた玄関を歩く。よく見れば、壁には変な模様があるし、周りに何体か像がある。
趣味悪いな。
「へえ、すごいですね」
マアが言う。
「ああ」
俺達はそのまま二階に行く。
すると、正面に王女様だと思われる人が立っていた。王女の横には剣士が立っていた。
俺達はそのまま前に歩いて行く。
「こ、こんにちわ。私はヨーラ・エストゥディオです」
すると、王女の緊張したような声が聞こえる。
「こんにちわ。私はユアよ」
「……」
「私はマアです」
この人……。
「蓮斗?」
ユアに言われて、考え事を中断する。
「あ、ああ。俺は京極蓮斗っていいます」
俺は慌てて自己紹介した。
「はい、よろしくお願いします。北の洞窟の化け物退治、ありがとうございます」
王女は言う。
「いえ」
「で、何か報酬をあげたいのですが……何がいいんでしょう?」
王女は横にいる剣士の方を向いて、聞く。
「化け物退治ができるのですから、お金には困って無いでしょうね」
「そうですよねぇ」
マイペースな人達だな。
「あ、あの、魔法の構造とか教えて欲しいんだ」
俺は言った。
「え、あ、はい。わかりました」
「後ろの二人に教えて欲しいんだが」
俺はユアとマアの少し前に立っていたので、後ろの二人で通じる、と思う。
「はい!」
王女は元気よく快諾してくれた。
「私は王女を守る仕事を与えられている、ロス・クエという者だ。とは言っても、城内で王女様が襲われる事は無い。一応、武器は回収させてもらうが、安心して魔法の勉学に励んでくれ」
ロスという剣士が言う。
すると、マアとユアに近付く。ユアとマアが杖を渡すとロスが受け取った。
「王女様。旅人は城に泊まるんですか?」
「ああ、そうですね。泊まっていってください」
「ええ!? 悪いですよ」
王女の突然の発言にユアは遠慮する。
「大丈夫です。じゃあ、ロス、二人の使う部屋にその武器を運んでおいて下さい」
「はい」
「蓮斗さんはどうします?」
マアが言う。
「蓮斗殿。北の洞窟の化け物は強かっただろう?」
突然、俺はロスに話しかけられた。
「ああ」
「それを倒せるのだ。剣士にならないか?」
剣士か。とはいってもいつかはこの世界から出る訳で、いつまでもやれる訳じゃない。
「一時的にならいいが……」
「うむ、本来ならずっと剣士で居て欲しいが、貴重な戦力だ。一時的でも良いだろう」
俺の曖昧な答えにロスは毅然と答えた。
「セグンド」
ロスが名前呼ぶと、
「はっ」
俺達の上ってきた階段とは違う位置にある階段に控えていた剣士が言う。
「蓮斗殿に修練場を案内しろ」
「了解しました」
すると、セグンドという剣士は俺に近付いてくる。
「こんにちは、セグンドです」
丁寧な口調で自己紹介してくるセグンドという者は優しそうな男の人だった。俺と同い年くらいだろうか?
「京極蓮斗です」
「蓮斗殿。セグンドはその若さで二番目の強さまで上り詰めた剣士ですぞ」
ロス言うと、何処かへ行った。おそらく、杖を部屋まで運びに行ったんだろう。
「へえ」
すごいな。
「そんな事無いですよ」
セグンドは謙遜する。
「じゃあ、一番強いのは誰なんだ?」
「一番強いのはロスさんです」
やっぱり、あの人か。
「じゃあ、修練場に行きましょう。あの階段を下りてすぐです」
あの階段というのはセグンドが控えていた位置の近くの階段だ。
「ああ、何か聞きたい事はありますか?」
セグンドが聞いてくる。
「じゃあ、ここに来てからずっと気になっていた事があるんだが……」
こういうのは言わない方がいいのだろうか?
「なんでしょう?」
「えっと、この前杖屋さんに王女に会いたいって聞いたら、止めといた方が良いって言われたんだ。でも、王女さんは優しくて、なんで止めといた方がいいって言ったんだろうって」
いや、こんな事この人に聞いても意味無いか。
「それは、前の王、つまりヨーラ王女の親が厳しい納税を定めて、皆大変だったんですよ。だから、嫌われてて、それで街に顔を出さないヨーラ王女にもその印象が……。ただ、今の税金は少ないのですが」
ふ、深い話だった。
「すみません、そんなこと聞いて」
「いえ、では行きましょうか」
「はい」
俺とセグンドさんは階段を下りた。
物語は進み、蓮斗達は城に辿り着きました。
ユアとマアは魔法の構造を解析して、帰る方法を探り、暇を持て余した蓮斗は剣士に。
おい、蓮斗! 暇を持て余すなよ、主人公だろう!?
という今回はどうだったでしょうか?
新キャラは3人ですね。
キャラも多くなったものです。ただ、他作品と比べると、全然少ない気もします。
これでキャラは6人+蓮斗の父親ですね。
では次回!(も見てくれると嬉しいです)