洞窟探索②
昔、俺には友達がいなかった。
そんな俺に話しかけてきた奴がいた。
「なあ、遊ぼうぜ?」
そんな言葉だった。別に特別じゃない。
でも、俺にとってはとても特別だった。
「ああ!」
そうして俺はそいつと仲良くなったんだ。とっても嬉しかった。
「ねえ、蓮斗!」
もう一人、女子だけど、俺に遊ぼうって言ってくれた奴との友達で俺と仲良くなった奴がいた。
「なんだ?」
それも、とっても嬉しかった。
なんで、友達がいなかったんだっけ?
俺がおかしかったから?
それも、間違っては無い。
でも、もっと何かあった気がする。
ああ、そうだ。
友達なんて、作ったって辛いだけだ。何時か別れるんだから、そう思ったからだ。
でも。
俺はこことは違う世界を求めていた。
けど。
「行こうよ!」
「行こうぜ?」
二人は俺に呼びかけてくれた。
ああ、俺はいつまでもあの世界にはいれないんだな。
いつまでもそこにいたら、こいつらが心配しちゃうかも知れない。
昔、俺は生意気にもそう思ったんだ。
俺は気が付くと俺の部屋に居た。
「夢? なんかこの世界に来てからよく昔の夢を見るなぁ」
俺はあまり良い気分にならずに起きる。
「じゃあ、行くか」
俺は気合を入れて立った。
俺は宿屋の一階にいた。
待ち合わせ時間まではあと30分もある。
「3部屋、今日も借りるから先に払っといていいか? 帰りが遅くなるかも知れないんだ」
俺は店員に言った。
なんせ、行くだけでも相当な時間がかかるんだ。そこの化け物を殺そうって言うんだぜ?
「はい、わかりました。300ケインになります」
「おう」
俺は金を払うと、宿屋を出た。
「お、来たわね」
宿屋を出ると、すぐにユアの声が聞こえた。
「ユア、マア。早いな」
マアはともかく、ユアは意外だった。
「まーねー、昨日は蓮斗の方が早かったし?」
筋金入りの負けず嫌いだな。
「ああ、じゃあ、行くか」
「ええ!」
元気の良い声と共に洞窟へ向かった。
俺達は洞窟の前に着いた。
「やっぱり、着くのには結構な時間がかかるわねえ」
ユアが疲労を滲ませて言う。
「ええ、今は1時くらいでしょうか?」
マアも言う。
まあ、いつもよりは時間が掛かって無いだろう。
今回は森の化け物を全部無視してきたし。多分、無視しなかったら更に三時間くらいかかってたかもしれない。
いや、そんなことはどうでもいい。
思考が脇道にそれそうになったのを引きもどす。
「じゃ、行こうぜ。杖、エルセンデル」
俺はミューテイトを杖にして光を灯すと、洞窟の中に入る。
「うん、エルセンデル」
「エルセンデル」
ユアとマアも光を灯し、洞窟の中へと入る。
俺達は洞窟を進んで行く。
「おっと、さっそくか」
俺の目の前にオーク。
「今回は出し惜しみなんて無しよ? 杖に魔力を溜めてるんだから」
「オーケー、二重使用、剣!」
俺は杖から剣を引きぬく。
最初から本気だせって事だな。
そのまま軽い剣をオークにめがけて振ると同時に、
「フレアテメント!」
魔法を詠唱した。
速度をのせた剣は重くなる事によって威力を増す。
そうしてオークの固い皮膚を切り裂いた。バシュンという音と共にオークは金貨となる。
そして、上からキーという音。
これはコウモリ型の化け物の鳴き声だ。
俺は冷静に声のする方を見て、回避する。
コウモリにももう慣れてきたな。
「フエゴ・リアルス!」
そのコウモリにユアは魔法を唱える。
火の柱はコウモリを焼きつくし、金貨に変えた。
相変わらず、見事な魔法と、命中精度だな。俺だったら、魔法も使えねえし、当たりもしないだろう。それに毎回、ユアはコウモリの行く方向に火の柱を置く事で焼き払っている。勿論、俺には当たらない。
「サンキュー」
俺はユアにお礼を言う。
「ええ、じゃあ先を急ぎましょう」
「ああ、にしてもこいつらを倒すだけでも結構……」
消耗するんだが……。
「そうですね。弱いのは無視しましょう。その方が効率的です」
マアが言う。
「え? こいつらを全部倒すのが目的じゃなかった?」
「いや、ここの洞窟を通れるようにする事だろ。だからこいつらをしきってる奴を倒せれば解決ってわけ」
って、城の前に立ってる奴が言ってたな。
「ふーん、じゃあ、そうしましょうか」
俺達はこれから方針を決めて、洞窟を進む。
「して、こうなるのね」
ユアは呆れ気味に言った。
うん、これはしょうがない。
俺達の周りには何匹ものオーク、コウモリがいた。
「まさか、囲まれるとはな」
俺達は化け物を無視して進んだ。結果、後ろからオークが追いかけてくる形となった。
しかし、前に何匹ものオークがでてきて、そう簡単には通れない状態となった。そこで後ろにいたオークが俺達に追いつき、こうなった。
「しかも、仲間を呼ぶことも出来るようです。早く仕留めないと」
「エンドレスで闘い続ける事になるな」
化け物達は今も鳴き声で仲間を呼んでいる。
「うー、ちゃっちゃとやっちゃいましょう。結構進んだし。そろそろボスなんじゃない?」
「そうだな」
返事をすると俺が走り出す。
敵が大勢だと油断は禁物だな、実際、前はオーク2匹とコウモリ5匹で凄い苦戦したし。
オークが近付いてくるが囲まれないように攻撃をかわす。
あの戦いでは、オークを死角にいれたから、苦戦した。全ての動きを把握する事ができれば、そこまで苦戦はしない筈だ。
「フレアテメント!」
剣を重くしてまず、1匹。
あとは、冷静に1匹ずつ倒していく事だな。
「フエゴ・リアルス」
上から襲いかかるコウモリはユアが焼き払う。空中に居た為、地面に金貨が落ちる音が聞こえるが、今は気にしない。というか、気にしてたら死ぬ。
俺はオークの攻撃をはじき、回避する。
さすがに一人だとやばいかもな。
「サクレード・ランザー」
マアの声が聞こえたと同時に白い槍が俺の横のオークを貫く。
どうやら、マアの杖から出ているらしい。
白い槍は結構大きく、威力は高そうだ。その大きさ故か、容易くオークを貫く。よく見ると白い槍は杖と繋がっており、杖を振る、という行為が槍を振るという行為になるようだ。
「援護はお任せ下さい!」
「おう」
有難い、これでオークを死角に入れてもマアがなんとかしてくれる、と思う。多分。
俺は慎重にオークの攻撃をかわす。
「フレアテメント!」
また、剣を重くして切る。これで2匹。
これをあと何回続ければいいんだよ。
「まったく、一々重くしてたら魔力切れちゃうでしょうが。フエゴ・エンビューバ!」
ユアがそう言うと、ユアが出した火の玉が俺に近付いてくる。
「おい、嘘だろ?」
俺に当たると思われたそれは俺の剣に纏わりついた。剣を振っても火が離れる事は無い。
かっけえ。
ミューテイトは形状記憶変化物質だが、引火はしない。原理は知らないが、これは結構精神力を使うだろう。
「それで、フレアテメントは使わなくていいわ。多分」
「サンキュー」
正直、毎回フレアテメントを使ってたら魔力切れになる。
俺はオーク2匹の同時攻撃をかわして、2匹を切る。すると2匹は金貨になった。なんて、切れ味。剣の表面温度でもあげてるのだろうか?
ただ、
「すげえ、けど、手が熱い」
もう、ホントマジで熱い。すぐに剣を離したいレベル。
「文句言わない!」
スパルタ過ぎる。
熱さに耐えてオークに近付く。
俺は更にオークを切って、切って、倒しまくった。俺の周りには結構な金貨が落ちてる程に。
「蓮斗さん!」
マアの心配そうな声が聞こえる。
「やばっ」
周りを見渡すと、どうやら俺だけオークに囲まれたようだ。
逃げ道は、無い。
これ、オークに殺されるんじゃ……。
「フエゴ・エンビューバ・リアルス」
洞窟にユアの声が響き渡る。
「ユア、それはっ」
俺の剣に纏わりついていた火は刃の方向に炎の柱へと姿を変えた。
なんだ、これ?
この際、熱さは我慢する。
「はぁああああああ」
俺は円を描くように振り回す。
周りにいたオークから次々にバシュンという音を立てて金貨へと姿を変えていった。
円が描き終わると、炎の柱は消えていた。
「はぁ、はぁ、よし、倒した」
もの凄い疲労感があるが、まだ、全て倒し終わった訳じゃない。
俺の周りのオークがいなくなると、オークがあと3匹、コウモリがあと5匹程度だった。
「ユア、それは魔力の消耗が激しいんじゃ」
確かに、あの威力なら魔力の消耗は激しそうだ。
「大丈夫よ。杖の魔力は全部消えたけど、精神力はちゃんと残ってるから」
俺も一先ず化け物は無視して、ユアに近付く。
「大丈夫か?」
「ええ」
大丈夫そうだ。
まぁ、念の為、これ以上は闘わない方がよさそうだけど。
ユアの始終の杖の水晶は透明に戻っていた。残り魔力は0か。
「サクレード・ランサー」
白い槍が顕現し、3匹のオークを貫いた。
すごいな。槍というのは凄い長さだから、動かなくてもオークを貫ける。実際、マアはさっきまでオークに攻撃されない位置からオークを貫く、援護に徹していた。
「ナイス、セレス」
ユアが言う。
「うん!」
「フエゴ・リアルス」
今度はユアが火の柱でコウモリ5匹を焼き払う。この火の柱はユアの精神力を用いて出したのだろう。一つで5匹焼き払うのは見事だな。
「これで、最後ね」
「ああ」
まさに疲労困憊だな。
俺も、ユアも、マアも、またすぐに洞窟探索に戻る事は難しそうだ。
一度、どこかで休まなきゃ。
俺はどこか休める所を探す。
ドシン。
震動を感じる。足音、だろうか?
まさか……。
俺が振り返るとそこには化け物がいた。
身長3メートル程で、人間のような姿をしている。顔は牛のような感じだ。体つきは太く、剣を持っている、ミステリアスな風貌だ。武器、しかも剣を持っているのは脅威だが、3メートルの姿だけで挫けそうになる。牛の目から放たれる威圧は恐ろしい恐怖を思い起こさせる。こんな状態で、俺達はこんな化け物に勝てるのかよ?
そんな化け物の威圧に圧倒されたかのように後ろにはオークが3匹ほど控えている。
こいつは明らかにボスだ。確かめるまでも無い。こいつがオークを引き連れて洞窟を使えなくさせているんだ。
そりゃ、そうだな。こんな奴いたら、誰も通らねえよ。
死ぬって、こんなん相手にしたら。
いや、もしかしら勝てたかもしれない。でも、このタイミングで来るかよ。
「嘘だろ……」
俺の頼りない声が絶望を色濃く表していた。
ついに、ボス登場です。
今回は沢山闘いました。
では次回!(も見てくれると嬉しいです)