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第4話

美味しそうな果物や色とりどりの飴、肉や野菜を串に刺して焼いたもの、よく煮込んだシチュー。

意匠を凝らした柄を織り込んだスカーフ、帽子、アクセサリー。

市場でも特ににぎわっているこの通りに建ち並んだ屋台を見ながら、フェリシアはうれしそうに歩いていた。瞳はきらきらと輝いて、誰が見ても心底祭を楽しんでいるのがよくわかる。


街がにぎやかに活気づいていることで、この国を守護している精霊たちも喜んでいる。


精霊は、フェリシアから見ればちょうど小さな光のような存在だ。白く淡く輝く光。大きさで言えば、手のひらにふわりと乗るくらい。そんな精霊が実は数多くこの国を舞っている。最も、フェリシア以外には見えていないようだが。

その精霊たちのうれしそうな感情が伝わってきて、フェリシアはますますうれしくなってしまった。うきうきとステップを踏むように歩く姿は、道行く人々の目を思わず釘付けにしてしまう。老若男女問わず目を引いてしまう愛らしさなのだ。



建物と建物の間、といった風情の細い路地がフェリシアの目に入った。

路地を抜けた先に小さな公園があって、噴水が見える。


(さすがに疲れた・・・ちょっと休憩しようかしら)


フェリシアは細い路地に足を踏み入れた。





そのとき、精霊の呼ぶ声が聞こえた。


(え?この道を入るなって?)


そう聞こえてふと足を止めたときだった。

路地に面した建物の入り口が開いていて、男がふたり立っていた。酔っているのか、顔が赤くなっている。フェリシアをじろじろと品定めするように眺め倒すと、片方の男がフェリシアの前に立ちふさがった。


「お嬢ちゃん、どこにいくんだい」

「はい、そこの公園に。噴水が見えたので」

「んなもん珍しくもなんともないだろうが」

「ええ、でもちょっと疲れたのでひと休みしようかと」


男たちはにやにや笑いながらふたりでフェリシアの前後を挟み込んだ。フェリシアはいやな予感がして男たちを避けようとするが、男たちが邪魔して進むことができなかった。


「疲れたならさ、ほら、中へ入りなよ。ゆっくり休んでくといいさ」

「そうだよ、ほら、喉だって渇いただろ。何だったら、ベッドでゆっくり寝ていってもかまわないんだぜ」


本心で言っているなら無碍にしたら悪いかとも思うが、どうもいやな感じだ。そう思ってふと目を上げると、集まってきた精霊たちが「だめだ」と伝えてきているのに気がついた。


「わ、私、兄が心配するのでもう帰らなきゃいけないんです。ご親切にありがとうございました」


逃げようとするフェリシアの腕を、片方の男がつかんだ。


「人の親切、断るもんじゃねえよ!ほら、来な」

「きゃっ!」


そのときだった。

日の光を反射した冷たい切っ先が、フェリシアの腕をつかんだ男の顔の横にすっと出てきたのは。



「その娘はいやがっているようだが?」

「んだと、このやろ・・・」


男がすごんで見せようとしたが、剣の持ち主の服装を見て息をのんだ。

左肩から裾に向かって銀のラインが入った真っ赤なチュニック。黒のパンツにブーツ。

それは、王城の近衛兵の制服だ。


「な、なんで近衛兵がこんなところに」

「とにかくその腕を放せ。今ならまだ酔っ払った勢いということで見逃してやる。これ以上つきまとうようなら・・・」


がちゃっと剣を構え直し、鍔が鳴る。瞬間、刃が日の光を反射してぎらりと輝く。

それで十分だった。


男たちはフェリシアの腕を放すと、建物の中に駆け込んで入り口をばたんと勢いよく閉めた。


「けがはない?」


近衛兵は剣を鞘に収めるとフェリシアににっこりと笑いかけた。

柔らかく癖のある、磨き込まれた銅のような色の髪。瞳はマホガニーのような濃い茶色。整った顔立ちに、たまらなく優しそうな目。

そしてなにより、フェリシアをとろけさせる、声。


(まさか・・・アルヴェーン卿!)


トルドだった。

フェリシアは想わず口元に手を当てて目を見開いて、トルドの顔に見入ってしまった。

なにしろ、彼の素顔を見るのは初めてだったから。それでも、彼女がトルドを間違えるわけはない。

想像していたとおり、いや、想像していた以上にかっこいい。

どきどきしてトルドから目が離せない。


「お嬢さん?どこか怪我でも?」


問われてはっと我に返った。


「あ、大丈夫です・・・助けていただき、ありがとうございました。あの・・・お名前を・・・」


すると今度はトルドが一瞬変な顔をした・・・ように見えた。


「僕はベルンハルド。王城の近衛兵です」


ベルンハルド?

違う名前だが、この人はトルドだ。間違えるわけがない。

なにかトルドだと名乗れない理由があるのだろうか。


「ありがとうございました、ベルンハルド様。私はフェ」


フェリシア、と名乗りそうになってあわてて口をつぐむ。


「フェ・・・フェイルの街から来ました。エレンです」


エレンは侍女のひとりの名前だ。とっさにそう名乗った。


「・・・ではエレン殿、どこかまでお送りしましょう。このあたりの細い路地はちょっと治安が悪くてね。祭の間は今みたいに酔っ払いも多いことだし。フェイルの街から、ということはどこかの宿をとってる?」

「あ、い・・・いえ、そう、親戚の家にやっかいになっております」


嘘ではない。


「では、そちらまで」

「え、ええと、大丈夫です!ほらまだこんなに日も高いですし、夕食の前には戻ると家の者にも言ってまいりましたから。もうちょっとお祭を見ていきたいですし」

「・・・それじゃ、僕も一緒に行きましょう」

「え!お仕事では」

「ちょうど、夜勤明けで帰るところだったんですよ。僕も祭を見ながら帰ろうと思ってたから、もしエレン殿がいやじゃないならご一緒させてもらえませんか?」


もちろん、フェリシアが断れるわけがない。








読んでいただいてありがとうございます。


やっとトルド出てきた…

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