プロローグ
3月1日午前7時30分
居間でいつものように妻と朝食をとる。別に何か不満があるわけではない。だが、このところ何か違和感を感じるのは事実だ。それがどういったものであるか、自分でもうまくは言えないのだが…
午前8時10分
「今日は遅くなると思う。」
そう妻に告げ、私はすぐに家を出た。
午前9時43分
研究所に着いた。私がこの小さな研究所で働き始めたのは今から3年前。とある有力企業の施設であるこの研究所は、小さいが設備はしっかりとしており、これまでにも数々の成果を残してきた。私は今では今ではここの所長だ。
午前9時45分
「所長、おはようございます。」
「おはようございます。」
「うむ。おはよう。」
研究室にはすでに滝本副所長と研究員の井上が来ていた。
「所長。いきなりですが、実験室の利用許可をいただけませんか?是非確認したいことがありまして。」
「ああ、分かった。」
午前9時50分
井上を実験室に入れ、私は研究室でデータ整理を始めた。研究室と言っても人数分のデスクにパソコン、関連書類、以前功績を認められ、本社から貰った賞状とトロフィー、そして暇つぶしにテレビが置いてある程度のものだ。
午前11時1分
突然妻がやってきた。
「あなた。お弁当忘れてたわよ。」
「おお、そうか。すまないな。」
「いつもの愛妻弁当ですか。いいですね。私もちょっと早いですが、昼に行ってきます。」
滝本が出ていき、部屋には妻と二人きり。辺りをうろうろと見て回っている妻を見て、私はまた何か違和感を感じた。弁当を届けにきただけにしては服装が少々派手に思える。
「それじゃあ、頑張ってくださいね。」
妻は笑顔で部屋を後にした。
12時10分
テレビが何やら騒がしい。ニュースの内容からすると、どうやら酷い事故があったらしい。
その時、不意に頭に強い衝撃を受け、私は床に倒れ込んだ。辺り一面に机の上の書類が舞散った。振り向き見上げると、見慣れた人物がトロフィーを握りしめて立っている。奴は再び私の頭を殴りつける。私は動けなかった。奴が部屋から出ていく足音がする。足音を認識しているのだから、まだ死んではいないのだろう。私は目の前に転がっていたボールペンを持ち、書類にひたすら書き付けた。
そして、目の前が真っ暗になった。