外伝・ある貴族の御令嬢に転生した少女の物語~それぞれの思い~エイリックの場合ぱーと1
メイラの親友登場。ちなみに長すぎたので2つに分けました。
見慣れた道なりを歩き、見慣れた扉の前で止まった。
目の前には美しくも儚さを思わせるサシャという花のモチーフが刻まれた扉がある。
サシャはサーリア様が降り立った場所に咲いたと言われる縁起物の花。
それをモチーフにしたものはこの国のシンボルとして描かれている。
それが彫られた扉というものは王家の住まう場所でも一部にしか存在しない。
そう。
ここはアレクト国王族の私室。
そうそう踏み入れて良い場所ではなかった。
だが男は気にした風も無くノックもせずに部屋へと侵入した。
窓が開いているのか部屋を通り過ぎる風が心地いい。
さらさら
さらさら
男の紫かかった髪が揺れる。
その髪の下から現れたのは端正な顔立ち。
上品に優しく微笑み柔和な雰囲気を漂わせるその姿はまるで絵本に登場する理想の王子様そのもの。
ストレシアという国がある。
アレクト国のほぼ西に存在するこの国は水の女神『アクア』によって守護されている。
水の恩恵を受ける為、国民の大半が紫、もしくは青に近い色素を持ち、比較的温厚な性格というのがストレシア国民の特徴である。
そして、エイリック・ストレシア・・・ストレシア国第二王子である彼はアレクト王族の血も引いていた。
ストレシア国王先代・・・父がアレクト国王族の姫君を娶ったためだ(ちなみに一夫多妻せいなので血が半分しか繋がっていない兄妹は数人いる)
それゆえに、エイリックはストレシア国の王位継承権第二位を持ちながらもアレクト国の王位継承権も持つ非常に地位の高い特殊な王族であった。
ゆえに、サシャのシンボルが描かれた扉にも一部例外があろうともアポなしでの入室が許可されているのだ。
さてと。
邪魔な風を送る窓を閉めるとエイリックはゆっくりと辺りを見回した。
そして呆気にとられる。
かつては趣味の良かった家具はローズピンクやオフホワイトで統一されてしまっていた。
その究極体と言えるのは大きなツインベッドだ。
愛らしいクマのぬいぐるみが2つ用意されているそれはとっても乙女チックなピンクの色で統一されている。
しかも真っ白いフリル付き。
どう見たって、女の子が好きそうな色合い。
・・・・・・・・ここで寝てるの、あいつ。
その場面を想像したとたんエイリックは派手に噴出した。
膝を地面に、手短なテーブルをバンバン叩いて声を抑える。
(マジウケル!!)
あの!!あのクールなスカシ野郎がピンクのベッドでお昼寝・・・!!
げらげらげら!!!
ぐへぐへぐへ!!!
ごほごほごほ!!!・・・あ、むせた。のど痛ぇ!!半端なく痛ぇ!!
・・・先ほどまでの上品で柔和な雰囲気はどこに消え去ったのか。
エイリックはさらに笑い続けた。
部屋中を調べれば調べるほど現れる【あいつ】には似合わないモノ。
乙女チックな鏡。乙女チックな洋服。
さらには女物の下着。しかもロリィ系とセクシー系。
もう笑いは止まらない。
ひたすら爆笑。
呼吸がうまく出来ずひぃひぃ言う。目にも薄っすら浮かぶ涙。
だがその笑い声も止まった。
寝台の膨らみが動いたのだ。
「・・・・・・・・・・・おや?」
誰も居ないと確証していたエイリックは驚いたが直ぐに冷静になりそっと掛けられていたシーツを剥ぐ。
現れたのは小さな小さな女の子だった。
可愛らしいネグリジェに身を包み、小さく丸くなって『すぅすぅ』と寝息を立てて眠っている。
見る者を幸せな気持ちにするような愛らしい寝顔で。
・・・これが【例】の天使?
にしては小さすぎないかいこれ。まだ子供だよ。5,6歳でしょ。
・・・・・・・あぁ(ポンと手を叩いて)あいつロリコンだったのか。うん。納得した。
「でも、幼すぎるような気が・・・」
悪戯心を出してほっぺたを突っついてみた。
すると女の子はイヤイヤをするようにさらに丸くなり眉を歪ませて唸りだした。
悪い夢を見ているのか『こっちくんな変態』やら『ロリータ野郎』とか。
エイリックはシーツを丁寧に掛けてあげるとクスクス笑い出す。
・・・うん。面白いね、君。
それに、可愛いよ。すっごく可愛い。
そして
苛めたい
「これ、一日借りちゃダメかな?」
「もちろん、ダメですわ」
シュンと空気を切る音がした。
とっさに床を蹴り左方向へと避けると自分のいた場所に突き刺さるのは護衛の扱う鋭利に尖ったロング・ソード。
ではなくこの部屋の持ち主に仕える『番犬』が好んで使うスティレットという武器。
この武器は少々特殊で、十字架のような形状をしており先端が鋭い代わりに両側に刃は付いていない。
貫く事に特化しており、メインの武器としてではなく【とどめを刺す】事を目的に使われている武器である。
それが床に刺さっている。
しかも、多分毒付きで。
「・・・危ないですね、アイリーン」
エイリックが【番犬】の名を出せばどこからか現れたのはお団子頭の少女。
いつもの侍女としての服装で、感情を表に出さずに立っている。
その手には今しがた投げた武器と同様の物がある。しかもその矛先はエイリックを狙っている。
だがエイリックは焦ることなく『降参』のポーズを取り一歩二歩と少女、イリスの傍から離れて行く。
十分な距離が取れてからやっとアイリーンは武器を下ろした。
例え相手がエイリックだとしてもアイリーンは気を許す気などはなかった。
だって、主はそのような命令を下していなかったのだから。
主が下した命令は『全てのモノからイリスを守れ』
その対象は血縁者にも及んでいるのだ。
例外はない。
例え主であるメイラ様の従兄といえど、イリスに触れる事は許さない。
アイリーンは無言でそう圧した。
「随分と大切に扱っているのですね」
「当たり前です。イリス様はメイラ様の奥方となるお方ですよ」
「それで本音は?」
「あんたみたいなチャラ男に触られたらわたしのかぁいらしいイリス様が汚れてしまいます」
「・・・・・・・アイリーンさん、アイリーンさん。俺、一応王子様」
「今は侵入者です。侵入者は処分します」
シャキンとスティレットが構えられる。
命の危機。アイリーンは本気だった。
「・・・話し合いません?」
「無理です」
「でもここで俺をやっちゃうと面倒な事になるよ。ほら」
ペラリと差し出された一枚の紙。
その紙に書かれる文字を目で追うとアイリーンは舌打ちをして武器をしまう。
いかにもしぶしぶとした様子だ。
それに反応したエイリックはスクスクと笑う。
「あ、俺の部屋はここでも構いませんよ。毎日面白いものが見れそうですから」
「・・・イリス様の麗しい寝顔を覗き見する気ですか死になさい」
「・・・アイリーン、あなたまだ幼児趣味治ってなかったんですか」
「わたしはかぁいらしいモノが好きなだけですわ。幼児趣味なんて失礼にも程があります」
「・・・・・・・ちなみに、この今人気の可愛いぬいぐるみとこの写真の双子の姉妹(推定10歳)どっちが欲しいですか」
「双子の写真を寄こしなさい。あなたには勿体ないです」
「・・・・・・・・立派なロリコンじゃないですか」
「かぁいいモノが好きなだけですぅ」
ぷぅっと頬を膨らませたアイリーンは愛らしく、黙っていれば完璧な美少女だった。
長い睫毛に縁取られた青い澄んだ瞳は微かに潤みそれだけで男を誘っていた。
髪は赤みかかった朱色。それを綺麗に頭の上で纏めている。
普段はツインテールにしているが今はお団子が1つ。
シャラシャラ音を鳴らす簪のようなものがアクセントとして付けられている。
そして、なにより目を奪うのは雪のような白い肌と華奢な体だった。
大きすぎず、小さすぎない2つの果実は体を強調するメイド服によって綺麗に現れている。
そこからスッと描かれる曲線美。
出るとこ出て、締まる所は締まる。
まさに女性の憧れのスタイル。
言うなればボン・キュ・ボンである。
芸術品のような完璧な美しさを持つ『薔薇』
美しさに惑わされて近づけば刺さる『薔薇』
そう。
例えるならば『赤薔薇』
それがアイリーンに持つイメージであった。
『薔薇』で『暗殺者』で『幼児趣味』の美少女。
「・・・・・・・・・あぁ、勿体ない」
そう思わず呟けば今度はべぇと舌を出される。
「いい加減、まともな男性に目を向けたらどうですか?・・・・・そう。たとえば、俺とか」
流し眼に、溢れだす色気。
辺りを漂う官能的な雰囲気。
顎に添えられた手に、抱き寄せる腕。
まともな女性ならその雰囲気に負けしまうだろう。
全てに身を委ねる。
そうなるほどのモノがそこにはあった。
しかし、アイリーンは普通ではない。
慌てず、騒がず、
「後10歳若返ってから来ていただけますかぁ?」
腰に当てられた手をアイリーンは叩き落とす。
そしてそのまま後は力を込めて足を踏む。
履いているのはハイヒールだ。さらに痛いだろう。
最後はエイリックが痛みに屈んだ隙をついて一本背負い。
決まった。
見事に決まった。
ガシャンという豪快な音と共に、エイリックは窓の下。
外は湖になっているから死ぬ事はないだろう。
最悪、骨折のみだ。死んだら死んだ時ね。
その行動に思わずパチパチと拍手を送る者が1人いた。
この部屋の住人で今まで寝ていたはずの人物だ。
「アイリーン凄いね」
「嫌ですわ。見てしまいましたの?」
「というか、アイリーンが襲われてたから悲鳴上げようと・・・」
―――うわぁぁああぁ!!エイリック様!!エイリック様無事ですか!?!?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・助けなくて良いの?」
「あれは不死身なみの生命力ですから放っておいて平気ですわ」
イリスからは見えないように、グッとアイリーンはこぶしを握る。
ヤロォ、イリス様に心配されやがって×××切り取ってすり潰して豚の餌にすっぞ
その思考を悟られないよう完璧な笑顔を作りイリスに微笑みかける。
脳内では軽く見積もっても10通りの殺害方法が考えられていた。
刺殺
絞殺
毒殺
撲殺
射殺
焼殺
溺殺
窒息殺
生埋殺
放置殺
・・・放置殺は難しいですわね・・・やっぱり、刺殺かしら。
「・・・ねぇ、アイリーン」
「なんですかぁイリス様」
クテッと首を傾げるイリスはこのうえなく愛らしい。
しかもネグリジェ着用。
アイリーンとメイラの共同開発で作られたその服はフリルたっぷりで少しだけ大きめに作られている。
その為、微かに見える首元やうなじが酷く色っぽさを醸し出していた。
押し倒したい
その欲求に耐えるかのようにアイリーンはゴクリと唾を飲む。
やがて、イリスは困ったように口を開いた。
「・・・・・・・・・あの人、また部屋に入ってきたよ」
「死に晒せぇ!!」
咄嗟に掴んだのは大きな壺。
それを投げてからアイリーンは気がついた。
スティレットを投げつければ良かったと・・・
「あなた、なにしに来たんですか?」
「・・・・・・・・・親族で幼馴染で親友な俺に初めにかける言葉はそれですか?」
「水浸しででっかいタンコブ作って僕の部屋の前でなにしていますかてめぇは」
「・・・・・・・・・・・・・もうこの国嫌です」
ちなみにエイリックの設定は残念なイケメン。そしてアイリーンに恋してるけど相手にされないというもの。
・・・・・・・・・・一生かかっても落とせそうにないね!!